77 トカゲは虫じゃない
二本脚のトカゲ、リザードマンは赤黒い肌をして鱗が生えていた。
そして十匹ほどいる集団の中には剣や盾を手にしている者もいる。以前見たサハギンは三又の銛を持っていたけれど、剣かぁ……。
ああ、でもあの前腕の所にある小さめの盾はちょっとカッコイイ。いや、俺はコパンが防御の結界かけてくれているから必要ないか。
あ、でもカモフラージュみたいにはなるかもしれないな。いやなんのために?
自問自答を繰り返しつつ、俺はリザードマンと睨みあっていた。
トカゲはね、虫じゃないから見ていても叫ばないんだよ。
これが二本脚の毛虫とかだったら俺はソッコー逃げ出している。
そしてふと、もしかしたらリザードマンはこのミスリルを守っているのかなって思った。
う~ん、でもミスリルスライムはミスリルを食いたい放題していたけどな。それにミスリルを守るトカゲがどういう設定なのか今一つ分からない。
俺がそんな事を考えている間にも、リザードマンたちはジリジリと間合いをうかがっている。もちろん俺だって攻撃のタイミングは考えているんだ。
だって、奴らの爪は鋭くて、歯も鋭い。やっぱり跳びかかられる前に戦闘開始をした方がいいだろうな。
「コパン、火が弱いって言うから、とりあえずファイヤーボールを当ててみるよ」
「分かりました。当てさえすれば森の中に広がる事はありませんからね。それに広がってもすぐに消しますからね。おまかせあれ~!」
口癖の「おまかせあれ~!」を聞きながら俺はいくつかの火球を先程のコパンのライトボールのように浮かべて一気に飛ばした。
「グェェェェェェ!」
なんとも言えない声と共にパッと散ったリザードマン。全部外れたかと思ったけど、何体かは当たって土の上を転がっていた。
あ、しまった。皮は高額になるって書いてあった。じゃあどうしようかな。盾も欲しいし、どうせならあれを【模倣】してミスリルの剣なんかも作ってみたいなぁって思うんだ。でも多分使わないと思うけど。
「コパン、皮は高く売れるんだって。火は今見た通り弱いみたいけど、皮が傷むよね。それと、しっぽを切ると攻撃が弱くなるらしい。ちなみにさっき言った通り、肉は硬い。あと、あの盾や剣は欲しいかも」
「分かりました! では手っ取り早く尻尾を切るか首にいきます!」
「了解! 俺も鎖で出来るだけ縛ってみるよ」
「水壁からの水球もいいかもです!」
もうなんかさ、あのオークの一件から、どうやったら効率的に狩れるのかって、まずそれを考えるようになった。それにファイヤーボールでダメージがあるならいけるかなっていう気持ちも出てきていた。
でも、油断は禁物だ!
「コパン! いくよ!」
「はい!」
俺たちは警戒をしながらも、少しだけ離れてそれぞれに戦い出した。
【鑑定】をした中に魔法を使うものや統率者のような高いランクの者はいなかった。もちろんあれが前衛で、この後に洞窟から高位種が現れたなら一気に逃げるよ。だってさ、俺達にはこれ以上戦う意味がないもの。
【鑑定】で高いって出ればそれを傷つけないようにって思うけど、狩りつくしたいとは思わない。でもこちらに危害を加えてくるのなら論外だ。
俺はあくまでもスローライフを目指していて、それは変わらないんだけど、でももう……目の前で仲間が消えてしまうような、あんな思いをするのだけはご免なんだ。
そう思いながら俺は跳びかかってくるリザードマンに『ウォーターチェイン』を発動させた。
◆ ◆ ◆
「終了です!」
コパンの声が響き、洞窟の周りにはリザードマンが倒れていた。
結局攻撃をやめずに向かってきたリザードマンを、俺たちは容赦しなかった。それに隙を見せたらこっちがやれちゃうのは今までの経験で分かっているからね。
という事でここはさくっと【解体】。もちろん硬いって言われている肉は不要……にしようかと思ったんだけどきちんと残ったからとりあえず入れておいた。収納容量の制限が今のところない感じだから。そして高額取引が期待される皮はしっかり収納して、武器も収納。剣なんて今まで見た事がないからこれをお手本にミスリルで作ってみるのもいいかもしれないな。あ、鉄鉱石から鉄を抽出して作ってみるのもいいかもしれない。鍛冶をしないで【模倣】だけで作る剣。うん。俺にはそれくらいでちょうどいいかもしれないな。
リザードマンの【解体】が終わって皮と硬い肉と魔石と、それから爪と牙も残った。まぁ何かになるから残ったんだよねって思ってそっと収納した。全てが終わった頃にあのネズミたちが戻ってきた。
「ねぇ、ミスリルは餌で、最初のボアもそうだけど、一番の狙いはあのリザードマンだったよね」
ネズミ相手に何を言っているのかって思ったけど、俺は思わずそう口にしていた。土の精霊の加護を持っているらしいネズミはぺこりと頭を下げてそっと小さな箱を差し出した。
「…………開けたら爺さんになるのはごめんだよ」
いやあれは亀だったか。
「あれが住み着いてから土の精霊が来られなくなったのだと言っています」
「でもきちんと話をせずに人を騙すようなやり方は嫌いだ」
ネズミたちはシュンとしてもう一度小さな箱を押し出した。
【鑑定】をすると『土精霊の祝福』となんとも怪しい。けれどぺこぺこと頭を下げ続けるネズミたちに根負けして俺はそれを受け取った。まぁ呪いのようなものはついてなさそうだ。
森を出る時に収納の中で余っていた木の実をバラバラと出した。
子ネズミが嬉しそうに抱えていくのが可愛かった。
「アラタ様は人が良すぎますよ」
道に出てからそう言って少しだけ怒っているようなコパンに俺は「でも武器もミスリルも手に入ったし。魔石も、ボアの肉も、硬いみたいだけどリザードマンの肉も手に入れた。とりあえずは大収穫じゃない?」
「それはそうですけど……」
肩の上のコパンはまだ少しプリプリしている。
「コパン」
「なんですか?」
「今日の晩御飯は何にしようか」
「! そうですねぇ、さっきのボアもいいですけど、あ、なんとなくお魚がいいですね」
「魚かぁ……ああ、それなら久しぶりにタケノコも焼いてみようか」
「! タケノコ! 大きいタケノコがいいです!」
「よし分かった」
前に進もうと思ったけれどほとんど進めない一日になってしまった。けれど初めての魔物の素材も採れたし、ミスリルなんていう珍しい鉱物も手に入った。
ちょっと騙されたような感じがしてもやっとするけれど、あの小さなネズミたちが土の精霊に守られて安全に暮らせるならいいよね。
「明日こそ、新しい拠点が見つかりますように」
「はい!」
「じゃあ、戻って夕ご飯にしよう!」
木々の間から見える暮れ始めた赤みを帯びた空。
それを見つめながら俺たちは元の拠点にマッピング転移をした。
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