7 とりあえず整理をしよう
どうしたらいいのか分からない俺と、どうしたらいいのか分からない小さな『お助け妖精』。
だけどこのままここでこうしているわけにもいかず、俺は「はぁぁぁぁ」と大きなため息をついた。
「ごめん。俺も何が何だか分からなくて、持っていた本を見て勝手に色々決められたって八つ当たりみたいになった。『お助け妖精』に言っても仕方ないんだよな」
「すみません……」
ニコニコと登場した時とは対照的に、どんよりとして死んだような目をしている小さな姿を見て罪悪感が湧くけれど、それでもこの状況はどうにかしないといけない。
だってさ、この本だってまだ見ていないし、俺のキャンプの思い出は小学校の林間学校で、地図を片手に近くの牧場までグループで歩いたのと、キャンプファイヤーしかないんだ。
「あのね、この本のように過ごすっていうのは俺には無理なんだ。だってまともなキャンプなんてした事ないし、ついさっきっていうか、もう昨日なのかな? それまでこんな事に興味もなかった。大体ベッド以外で寝た事ないし、サバイバルなんて論外だろう? それに虫嫌いだし! 料理だってレンチンしかした事ないし!」
「これ…………お嫌い……だったのですか?」
大きく目を見開いて尋ねてくる『お助け妖精』の疑問はもっともだ。嫌いならなぜこんなものを持っているのか。俺だって心の底からそう思うよ。
「…………あのさ、『お助け妖精』っていうんだから、女神様に連絡をしてどうにか出来ないのかな?」
せめてサバイバル仕様らしい森の中ではなくて、きちんとした街の中で、贅沢でなくていいから、普通に暮らしていかれるようにしてほしい。
「で、出来ません。女神様が一度決めた事はどうにも出来ないのです。私はこの世界でアラタ様がやりたいと思う事の手助けをしていく事しか出来ません。というか、それが私の、私の……あ、忘れていました。これもでした」
そう言うと今にも泣き出しそうだった『お助け妖精』は再び俺の目の前にポンと本を出した。
「え……これって」
「はい。さきほどの本はどちらかというと実務的な感じで、あまり心惹かれない……じゃなくて、よく分からないから、世界観としてはこちらの本だとおっしゃっていました。でも全部同じではないです。似た感じの世界です」
「これに、似た感じの世界……」
今、俺は、俺を褒めたい。
心からこの本を一緒に買っていた俺を褒めてやりたい。
そしてサバイバルに心惹かれなかった女神様とやらも褒めたいとようやく思えた。
「じゃあ、この森だけでなく、普通の街もあるんだよね? 普通に人が暮らしているんだよね?」
「はい。あります。この森の周りにはいくつもの王国があります。そして人や獣人やエルフやドワーフ。そして私たちのような妖精や精霊も存在します」
「じゃ、じゃあ……ま、魔法は? 魔法が使える世界なのかな?」
「はい、使えます」
「俺も使えるのかな?」
「えっと、えっと、練習すれば使える筈です」
「それをお手伝いして助けてくれるのか?」
「そうです。それが『お助け妖精』なのです!」
登場した時と同じように嬉しそうな笑みを浮かべて、元気よく答えた小さな『お助け妖精』が俺の中で初めての希望になった。
そうか、俺、魔法が使えるんだ。
いきなり森の中で遭難みたいになっていて、手違いで死んだとか、異世界に転生したとか、その上キャンプだの、サバイバルだの、自給自足だのと自分のキャパシティを超えて大人げなく八つ当たりをしてしまったけれど、それでも小説の世界でしかありえなかった魔法というものに出会えるのであれば、頑張ってみよう。
「環がいたらチョロ過ぎるって言われそうだな……」
あちらの世界では俺は死んだ事になっているのかな。環は大丈夫だろうか。父さんと母さんにも会いたかったな。
「ああ、母さんのご飯。沢山持ってきてもらったのにな」
ふと「そこなの⁉」っていう環の声が聞こえたような気がして、何だか不意に泣きたくなった。
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