65 何でもない贅沢な一日
「おはようございます。アラタ様、今日は特に『予見』はありません。新しい拠点になる所を探して前に進みますか?」
「ああ、そうだね」
「では魔力を巡らせる練習をして、朝ご飯を食べたら出発しましょう!」
「了解!」
俺はそう答えて、『クリーン』をかけるとテントを出た。
タランチュラ達との遭遇から一週間。要するに『神気(中)』に入って一か月半以上経っていた。
俺たちは未だに次のセーフティーゾーンを見つけられずにいた。
「それにしても新しいセーフティーゾーンが見つからないねぇ」
「そうですね。まぁ進んだところをマッピングして戻っているので全然進んでいないわけではないのですが、やっぱり拠点が変わると進んだなって実感が出ますからね」
「確かにね」
『神気(中)』のエリアもだいぶ進んできた。もっとも後どれくらいそのエリアなのかはまだ分からない。
神気が少し弱まってきたなと感じたら多分、神気(低)のエリアに入り始めたんじゃないかなという、なんとも大雑把な区切りなんだよね。
もっともシールドのようなものがあって、厳密に分けられているわけではないのだから仕方がない。
『神気(高)』から『神気(中)』に移る時も、方角によって神気が異なっている感じだったからな。
でも最近はセーフティーゾーンの間隔が一定ではなくなってきて、二、三日で次のセーフティソーンに辿り着く事もあれば今回のように一週間経っても辿り着かない事もある。
『神気(高)』の時は多少の差はあっても、こんなに次が見つからないなんてなかったからなぁ。
「やっぱり『神気(中)』のエリアが終わりに近づいてきているのかもしれないね」
「う~ん、それが今一つ分からないのです。前の時はここからはって、何となく感じたんですけど。<はぐれ>もポツポツ出てきましたし」
ああ、そうだった。
「うん。いきなり切り替わるわけじゃなくて、徐々にそうなっているって言っていたしね。でもこのエリアも一か月過ぎたしね。そろそろ神気が低くなり始めているって思って準備をしておかないといけないのかな」
「そうですね。そう思いながら進んでいきましょう。多分そのエリアに入ったらはっきりと分かるでしょうし」
「魔物も強くなってくる可能性があるしね」
「はい。でも大丈夫です。私も、アラタ様も最初の頃よりは強くなってきましたよ」
コパンはニコニコと笑いながらそう言った。
薄いブルーの服が良く似合っている。
「ねぇ、コパン。気分転換がてら少し道を逸れてみようか」
「そうですねぇ。左右どちらからも何も感じないので、大きな事は起こらないかもしれませんが、アラタ様の言う通り気分転換にはなるかもしれませんね」
俺たちは相談をして、現在地をマッピングしてから左の森へと入った。
特に変わった事はなくサクサクと中に入っていくと果物が目に付くようになってきた。どうやら果物が多い場所だったようだ。今までの旅で果物は色々と見つけているが何か珍しいものがあるだろうか。
「あ、前にも見た事があるマンゴーがありますよ。こちらの方が大きいですね。少し取って行きましょうか」
以前見たマンゴーよりも大きくて赤みのあるマンゴーが実っていた。
「そうだね。【補充】があるからそんなに沢山はいらないけど、氷魔法でそのまま凍らせてシャーベットみたいにして食べてみようか」
言っていて贅沢だなぁと思う。
「わぁぁぁ! 食べてみたいです!」
だけどコパンが嬉しそうだから、ぜひ試してみよう。
その後もマスカットやグレープフルーツ、イチジクなどを見つけて、それぞれに採って収納した。
そして……
「コパン! スイカだ!」
森の中にゴロンと転がるように実る緑と黒の見覚えのある縞々模様。
「おいしいですか?」
「おいしいよ! 冷やして食べるんだ」
「沢山採りましょう!」
大きなスイカにしがみつくような妖精はとてもとても可愛かった。
こうして何もないような日に沢山の果物をゲットして俺たちは元の道に戻り、もう少しだけ前に進んで終わりにした。今日も拠点は見つからなかったけれど、元の拠点に戻って、マンゴーを凍らせて夕食のデザートにした。
パンと鴨のロースト、そして生野菜とポテトサラダ。コンソメスープにはキノコを入れた。本当に食事が豪華になったと思う。
「いただきます」
大きな事はなかったけれど、小さな幸せは沢山あった。
明日はそろそろ次の拠点が見つかるといいな。
そう思いながら食べた、マンゴーシャーベットは絶品で、「美味しいです!!」っていうコパンの声を聞きながら俺は改めて、贅沢だなぁって嬉しくなった。
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