64 新しい服
結局なんだかんだとアルクタランチュラを四体、シルクタランチュラを五体倒した俺たちは、拠点に戻り、コパンに解体と収納を全て任せるという暴挙に、俺はちょっと自己嫌悪をして落ち込んだ。
「アラタ様、この糸を布にする事は出来ますか?」
解体を終えて収納も終えたコパンが糸だけを持って俺の所に来た。さすがにさ、糸だけになったものまで嫌がるのも大人げなくて、俺は「ごめん、何も手伝えなくて」と頭を下げてから【アイテム】の本たちをパラパラとめくった。何となくだけど機織りをどこかで見たような気がしたんだ。
「あった……」
『自給自足生活をはじめよう』に載っていたのは蚕の糸からの機織りだ。すごいな自給自足。
蜘蛛、もとい、二種の魔物たちから取れた糸は繭ではなく糸玉になっている。
「あのさ、コパン。この世界の人は皆、蜘蛛魔物の糸で服を作っているの?」
「いえ、そうではないと思います。そこまでアルクタランチュラもシルクタランチュラも数が多いわけではないですし。ですから希少品の高級服になるんですよ。アルクの方はシルクに比べて光沢はないですが、耐久性があって、騎士達や、高ランクの冒険者たちに使われる事が多いようです。一方シルクの方は柔らかく光沢もあって、主に貴族たちの服に使われる事が多いみたいですね。勿論その他にアラタ様が言っていた綿とかその他の植物を使って布を作っている方が多いと思いますし、羊の毛やその他動物や魔物の毛皮も使われているようです」
ああ、その辺りは前の世界とあんまり変わらないのか。その中に魔物の素材が入ってくるっていう感じなんだな。
「まだ気持ちが落ち着かず、【アイテム】が使えないようでしたらこの糸はこのまましばらく収納をしておきますね」
コパンはそう言って抱えられずに浮かせていた真っ白な糸玉を収納に戻そうとした。
「待って! 一つだけ挑戦してみるよ。せっかく獲れた貴重な糸だから」
「はい! きっと綺麗な布になりますよ」
そうだ、コパンは今日の『予見』を良い事とそうではない事というように最初から言っていたものね。俺が虫が嫌いな事を知っていたからそういう『予見』になったんだ。
それに魔物を倒して得たものは、やっぱり無駄にしたらいけない。せっかくの糸、出来るならば布にして活用する方がいいに決まっている。
「蚕の糸用だけど、何とかなるかな。【アイテム】『織布』」
自給自足の本がピカッと光った。そしてコパンの持っていた糸がその光に包まれる。
どんな風になっているのかは分からないけれど、『クリーン』をしても少しくたびれてきた感じのこの服の代わりの服が作れたらいいな。魔物の姿の事を考えるのはやめよう。うん。糸。いい糸からいい布を作る。それだけだ。
「わぁ!」
大きな魔物だったから糸玉も大きかった。だから一体分でも結構大きな布が出来上がる。
俺は汚さないように慌ててその布を抱えた。とても肌触りの良い布だった。
確か綿麻の糸って言っていたもんね。
「すごいです! 綺麗な布ですね」
「うん。随分大きい布になった。ふふふ、魔物の見た目に怖がって、いい素材を逃すところだったね」
「大丈夫です。その時は私が今日みたいにアラタ様が出来るところだけお手伝いしていただきますから。私はアラタ様の『お助け妖精』ですからね」
「うん。そうだね。ええっとじゃあ、【模倣】で服が出来るか試してみようかな。ちょっとテントで服を脱いでやってみるね」
「分かりました!」
欲しいのはさ、洋服だけでなく、下着も欲しいんだよ。俺は布を抱えたままテントに入った。
「まったく現金だな。布になったら今度は服がほしくなるし」
コパンに感謝だ。
そう思いつつ布の隣に脱いだ服を並べた。どうか同じようなものが出来ますように。
「【模倣】、新しい服と新しい下着」
俺は祈るような気持ちでそう言った。
◆ ◆ ◆
「コパン! 出来たよ!」
俺は新しい服を着てテントを出た。
真っ白な布は白いシャツと白い下着、そしてなぜか着ていたものと同じようなグレー系のズボンになった。『模倣』のレベルも上がっているのかもしれない。
「わぁ! 良かったです! すごいです! アルクタランチュラの糸から出来ているので、強いし、多少の防御力も付与されていると思いますよ」
「そ、そうなんだ。ありがとう、コパン。えっと、それで、とりあえず、布はまだあるからね。コパンの分も作ってみたんだ。どうかな」
出したのは今、コパンが着ている服と同じような形で、少しだけブルーがかったようなものだった。なんとなくコパンの瞳のパステルブルーが頭の中にあって、その色になったのかもしれない。
「私にですか?」
「うん。妖精が着替えるのかどうかは分からないけど。同じ布でお揃いだ」
「! ありがとうございます! アラタ様!」
コパンはそう言ってクルリと身体を回転させた。すると俺の手から服が消えて、コパンの服が作ったばかりのそれに変わっている。
「ふふふふ、気持ちいいです」
「うん。良く似合っているね」
そのうちにキャンプではありえないけどパジャマも作ってみようかな。シルクのパジャマなんて贅沢過ぎかな。
そんな事を考えながら俺たちは夕食の準備を始めたのだった。
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