61 少しは進歩したかな
オークの事件があってから三週間くらい経った。
俺達は慎重に、でも確実に『神気(中)』のエリアを進んでいた。
コパンから聞いた通り、まだ『神気(中)』に入って間もないような所でオークの上位種やそれらを率いる高位種のオークジェネラルが出る事は想定外だったんだなっていうのは、進んでいく中でよく分かった。
もちろんこのエリアでも『神気(低)』に向かって進んでいけば、それなりに群れを作るような魔物が出てきたり、『神気(高)』みたいな場所でも出てきた<はぐれ>のような魔物にも遭遇したりしたけれど、明らかに規格外っていうのはあれ以外は見られない。
だからこそ女神が介入をしてきたんだろうなって納得出来たよ。
だけど、あれがあったからこそ、一時的にでもコパンを失ったり、倒れたら死ぬっていうようなギリギリの戦いをしたりする事がないようにしなければって真剣に考えるようになったのも事実だ。
これから先に想定外の事があっても、俺は絶対にそれを回避出来るようになりたい。
もっともそれはいつの間にか職業になってしまった『冒険者』として、ものすごく強くなりたいっていうんじゃなくて、あくまでも危険を回避する手段の一つとして強くなりたいのであって、やりたいのはやっぱり『スローライフ』なんだ。
生き残るか死ぬかみたいなサバイバルなんてごめんだよ。
せっかく色々な素材も手に入れたし、【アイテム】のお陰で料理も出来るようになったし、パン焼き用の石窯も出来たし、お陰でピザも焼けるし、さらに麺類のレパートリーも増えたしさ!
「アラタ様、この先にセーフティーゾーンがありそうです」
フヨフヨと飛びながら振り返ったコパンに俺はにっこりと笑って口を開いた。
「じゃあ確認をして大丈夫そうだったら、今日はそこを拠点にしよう」
「はい!」
一度光の粒みたいになってしまったコパンは、しばらくの間全然レベルが上がらなかったんだけど、昨日俺と一緒に挟み撃ちをしてコボルトの小さな群れを倒した後、久しぶりのレベルアップをした。
そして今は三十センチくらいの背丈になっている。うん。存在感が出てきたね。
『予見』も以前よりはっきりと分かるようになったって嬉しそうに言っていたし、飛ぶスピードも上がったみたいだよ。
三十センチなんて生まれたばかりの赤ん坊よりも小さいけれど、初めて出会った時がハムスターサイズだったからさ、大きくなったなぁって感動してしまったよ。
ちなみに俺はもう少し前にLv6になって、職業の”見習い”が取れたんだけどね。
「あそこです!」
そう言って指さしてから、コパンは俺の肩に戻ってきた。これはあの日以降俺たちが決めた事なんだけど、新しい場所に入る時は絶対に一緒に入る。そして必ず肩の上か、腕に抱えられている。
もちろん戦いが始まれば連携をとって離れる事もあるけれど、出入りする時は絶対に一緒にいる。そうすれば一緒に逃げる事が可能になるからさ。
俺もレベルが上がって短い転移なら出来るようになったんだ。でもそれだけでも逃げられる可能性は高くなるもんね。
ちなみに肩の上に三十センチのコパンが乗っていても重さはないから全く問題はない。まぁ慣れもあるしさ。
「うん。大丈夫そうだ。中を確認しよう」
「はい」
俺たちは一緒に中に入って周囲を確認して今日の拠点にする事を決めた。
「今回は案外早く見つかったね。どうしようか、ここをマッピングしてもらって、もう少し先に進む? それとも昨日は魔物に遭遇しているから、今日はゆっくりこの辺りを散策してみようか。特に大物が出そうな『予見』はないんだろう?」
「そうですね。この辺りには何も感じられません」
「じゃあ、何か面白いものがないか探検をして、夕食はコパンのリクエストに応えよう。レベルアップのお祝いをちゃんとしていなかったからね」
「わぁ! 嬉しいです! えへへへへ、何にしようかなぁ」
俺たちはキャンプに適している原っぱの中に早々とテントを立てて、かまどを用意した。
「探索の前に軽く昼食をとっていこう」
「はい。あ、アラタ様お昼はスパゲッティがいいです。赤いの」
「ああ、ナポリタンね。うん。レシピ登録してあるからすぐに出来るよ」
「よろしくお願いします! 冷たいレモネードはおまかせあれ~~~!」
こうして俺たちはのんびりとキャンプを楽しみ始めた。
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第三章開始です!
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