59 あの後の事、これからの事
俺たちは遅い朝食、というか、昼食も過ぎたような時間に食事をとりながら色々な事を伝えあった。
道でテントに頭を突っ込んだまま意識を失っている俺を見つけたコパンは、とりあえず、風魔法を使いながらテントに入れて、テントごとマッピング転移をして昨日までの拠点に戻ってきたそうだ。
俺はやっぱり小さな傷を色々と作っていたらしくて、コパンが治してくれたそうだ。
ちなみに、その後あの場所を確認しに行ったというので驚いてしまったんだけど、それは女神に言われたからなんだって。
まだ神気がそれほど弱くなっているわけではないエリアで十数体の『オーク』とその上位種の『オークメイジ』や『オークアーチャー』、更に本来であればこのエリアに入る事は出来ない高位の『オークジェネラル』が仲間を統率していたのはありえない事だったそうで、その遺体がアンデッド化しないように女神の介入があったという。
「また『不幸な事故』か……」
俺がそう言うと、コパンは何も言わずにやんわりと笑って「エリアの点検をするとおっしゃっていました」と言った。
「え? 言葉だけ受けたわけじゃなく、女神に直接会ったの? 」
「会ったというか、も、戻るのを、早めていただきました。本当は光の粒になると、もう少し時間がかかるのです」
コパンの言葉に一瞬呆然として、俺は小さく「ごめん」と口にした。
「アラタ様?」
「そのまま通り過ぎていればこんな事にはならなかった。俺の判断ミスだ」
「違います! 二人で一緒に決めました。それにアラタ様が謝るなら私だってちゃんとアラタ様の事を守れなかったって謝らないといけません!」
ああ、そうだ。そういうやり取りになっちゃうよね。でも伝えたいのはそれじゃない。話をするのは謝るためではないんだ。
「うん。それはもう、堂々巡りみたいになるからやめよう。ええっと、とにかく想定外の奴らが出てきたから、女神はこの森の状況をきちんと把握しようって思った」
「はい。そうですね。外周に行くほど強いものが出てきますが、それを抑えるような高位種もいるとおっしゃっていました。無法地帯のようにはなっていないと。それに外周には神気が強い所や、抑えの力がかかっている場所もあるようで、冒険者と呼ばれるような者が出入りをしているとも」
だいぶ具体的な情報が出てきたな。
「一応今回の事は『想定外の出来事』という事で、私は『お見舞い』という形でこの世界の国々の事をもう少し詳しく教えていただきました。少しずつアラタ様にもお話をしていきますね」
「うん。分かった。とにかく、これからもよろしくね、コパン」
「はい! おまかせあれ~!」
いつもの言葉が出て、俺たちは顔を見合わせて笑った。こうして笑う事が出来て良かった。
「私の方は身体の戻しの早めと、今お話をしたような情報でしたが、アラタ様にも女神様が何か『お詫び』のものを入れておくとおっしゃっていましたよ。後で確認をしてみてくださいね」
にっこりと笑ってコパンはトウモロコシのパンにかじりついた。トウモロコシの粉で焼いたパンではなく、トウモロコシの粒を練り込んだパンだ。昔食べたなって思って口にしたら食べたいと言われて作ってみた。
まぁ、ほとんど【アイテム】まかせだけどね。でもこれは本には載っていなかったのでレシピとして登録された。
そのうちに石窯を作ってみようかな。
絵は載っているんだ。ちゃんと煉瓦で組まれている石窯の絵。
一度作れたら、次からはすぐに出来るようになるかな。それともかまどやテントみたいにそのまま出し入れが出来るかな。そうしたらフライパンのパン焼き職人じゃなくてパン焼き職人になるかもしれない。
うん、やっぱりあんな風に戦うよりも、俺はこんな風にやりたい事を思いついて形にしていく方がいいな。目指すのはスローライフだからね。
「じゃあ、まずは『お詫び』を見てみようかな」
俺はスマホを取り出してステータス画面を眺めた。
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谷河内 新
十五歳 転生者
総合Lv5
職業 冒険者見習い
魔法 Lv6
生活魔法 『クリーン』『ウォーター』
『ファイヤー』『プットバック』
属性魔法 火 『ファイヤーボール』『フレイム』
水 『ウォーターカッター』『ウォーターアロー』
『アイスバレット』『アイスアロー』
土 『アースウォール』『フォール』
『ストーンバレット』
風 『ウィンドシールド』
生存能力 50
称号 芋掘り名人 タケノコ採り名人
鉱石採取見習い
フライパンのパン焼き職人 料理人
特殊スキル
サバイバル Lv5 自給自足 Lv5
キャンプ Lv4 鑑定 Lv4(複数条件抽出可)
体力Lv4 補充Lv3 模倣Lv3 レシピ登録
空間収納(インベントリ付き)
【特殊アイテム】 Lv5(※多少無理がきく)
『初めてのキャンプ。ソロもファミリーもこれでおまかせ!』
『サバイバル読本 これであなたも生き残る』
『自給自足生活をはじめよう』
『美味しいキャンプ飯』
『料理初心者男子必見! これなら出来る男飯』
他・テント作製 ・焚火、かまど作製
・収穫 ・製粉 ・製麺
・酵母作り ・解体 ・精肉 ・燻製
・麹作り ・醤油・味噌作り
・調理(煮る・揚げる・焼くなど)
・射撃
言語理解
女神の贈り物 キャンプセット
贈答品 男飯調味料他セット
ご褒美シークレットボックス
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「うん?」
「どうされましたか?」
「【アイテム】の本が増えている。あと、贈答品で調味料他セットって」
俺は慌ててインベントリを確かめた。
「!! これって一人暮らしする時に買った本だ!」
そう。一人暮らしでコンビニ飯ばかりだと結構かかるなって思って、あの本屋で買ったんだけど、結局ほとんど作らなかったんだ。
俺は懐かしいような、昔の失敗を見せられているような気持ちで『料理初心者男子必見! これなら出来る男飯』をパラパラとめくった。そして見開きで載っている調味料のページを見て固まった。
まさか…………
インベントリには見知らぬ箱が入っている。表示は先程ステータス画面で見た『贈答品 男飯調味料他セット』だ。
「期待しすぎるな、谷河内 新」
「アラタ様?」
俺の呟きにコパンが不思議そうな声を出す。
そっと取り出した箱。
そしてその中に収められていた調味料に俺は声を上げそうになった。
真っ白な塩と真っ白な砂糖に加えて、コショウ、マヨネーズ、サラダ油、ごま油、酢、ラー油、だし入り味噌、焼き肉のたれ、料理酒、中濃ソース、ウスターソース、コンソメ、液体濃縮つゆの素、チューブのからし・にんにく・しょうが・わさび、粉チーズ、そしてシチューの固形ルーとカレーの固形ルー、更にバター、牛乳…………
「め、女神様、ありがとう~~~~!!」
俺は空に向かって叫んでいた。
「コパン、前に言っていたコーンスープが作れるよ。あと新しい【アイテム】をもらったから美味しいものを作って、食べて、気を抜かずに前に進んでいこう!」
「わわわわわわ! はい! 頑張りましょう!」
俺は旅人から冒険者見習いになったらしい。そんなつもりもないけれど、お互いがお互いをちゃんと守れるようになるなら肩書なんてどうでもいいんだ。
昨日みたいなことが二度と起こらないようにする為に、明日からしっかりと気を引き締めて、まずはこの『神気(中)』のエリアを抜けられるように頑張ろう。
「じゃあ、手始めにパンを焼く窯を作ろうかな」
「窯ですか?」
「そう、きっともっと美味しいパンが焼けるよ」
「楽しみです!」
「コパンにも石集めを手伝ってもらわなきゃな」
「おまかせあれ~~~~~!」
嬉しそうに飛びついてきた小さな身体を受け止めて、俺は改めてこの世界を楽しもうって思った。
もちろん、コパンと一緒にね。
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ご覧いただきありがとうございます。
この後、アラタの視点ではない行間の話を一話付け加えて二章を終了したいと思います。
コパンが帰ってくるまでの話。
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第二章が終わるまでは0時・12時・18時の3回更新でいきます!
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