58 魔法は想像力だから
『魔法は想像力ですよ』
ああ、分かっている。ちゃんと分かっているよ、コパン。
だから早くこんな事を終わらせて、君を探しに行こう。
だって「大丈夫」って言っていたから。ちゃんと聞こえたから。
君は俺の『お助け妖精』だから、俺をこんな所に一人にしてしまうわけがないんだ。きっとどこかに逃げている。うまく転移をしたに違いないんだ。そうして戻ってこようとしているよね。だから早く迎えに行かなくてはいけない。
俺はインベントリから鉄鉱石を取り出して、手にしていた銛を残っていた『オーク』と『ハイオーク』達に向けて投げた後【模倣】のスキルを繰り返し展開した。倍数を舐めるなよ!
主要な素材さえあれば増やす事が出来るスキルがこんな風に使えるなんて今の今まで考えた事もなかったけれど、繰り返し使えば、銛は降り注ぐ鉄の矢のようになる。
やがて地上にも俺があけた穴の中にも動くものはいなくなり、残っていたのは『オークジェネラル』だけになった。どうやら降ってくる銛を片っ端から破壊しつくしたらしい。その顔はかなりお怒りだ。
【模倣】した銛はオリジナルだけを回収した。
そろそろ魔力がヤバいような気がする。それでも……ここで倒れたらおしまいだって分かっている。
「グガァァァァァ!」
唸り声を上げる『オークジェネラル』に向かって俺は必死に考えた。
魔力切れを起こさないために、残っている魔力を効率よく使えるのは【アイテム】だ。だとしたらどうしたらいいのか。
『アラタ様!』
この世界で初めて出会った、俺に遣わされた『お助け妖精』
早く探すんだ。早く、早く、もう終わったよって迎えに行こう。もう出てきても大丈夫だからって。
そうだ、一緒にからあげを食べようって言ってみようか。フライドポテトもつけちゃうぞ!
それからあとは、あとは……
「ブギャァァァッ!!!!」
跳びかかってこようとする巨体に向けて俺は右手で指鉄砲の形を作った。
「うん。魔法は想像力、だもんな。コパン」
思い出したのはサバイバルの本に載っていた猟銃のページ。思っただけでインベントリから本が現れ、左手には鉛を含んだ石。
「乱射!」
『サバイバル読本 これであなたも生き残る』の本がピカッと光った。
その途端、俺の指から無数の弾丸が飛び出す。
「ビギャァァァァァァァァァッ!!!!」
弾丸は持っていた鉛を含む石が消えるまで出続け、弾切れと同時にハチの巣になったような巨体がドオッと音を立てて地面に倒れた。
その時になって俺は改めて周りの状態を見て、せり上がってきたものを吐いた。
酷い有様だった。こんな事を自分がやったのかと思うだけで嫌になる。
「コパン……俺、俺……」
吐き気の次は涙が止まらなくなった。
目指したものは決して「やられる前にやる」というような殺伐としたサバイバルではなかったんだ。守りたいものがあったから。だから……だけど……俺はこうした事を後悔はしない。絶対に。
「……応援がきたらまずいな…………」
ヨロヨロとしながら道へ戻った。
本当に道に魔物が現れないという保証はなかったけれど、今はそれが精一杯だ。
「道に出て、ああ、水が飲みたいかも。……いや、でも、その前に『クリーン』」
血なまぐささと埃っぽさと、汗でべたついた身体が一気にさっぱりとする。それにホォッと息をついて俺は道の中央に座り込んだ。道端では怖かったからだ。
「…………探さなきゃ……」
魔力切れを起こしている場合ではない。
「早く……夜になる前に……」
怪我をしたつもりはなかったけれど、あちこちが痛くて、一度座り込んだらうまく立ち上がれなくなった。
だけど確証が持てない以上、どこかセーフティーゾーンを見つけなければならない。
「……転移かマッピングを俺も取得しないと駄目かなぁ。ねぇ、出来るかなぁ。コパン」
『大丈夫ですよ! アラタ様ならすぐに出来るようになります』
いつもならすぐに返ってくる答えはない。
『出来るまで教えますよ。おまかせあれ~~~!』
「……っ……コパン! 返事をしろ! 一緒にいるって言っただろう!? ずっと一緒って、言ったじゃないか! 仲間だって言っただろう!? コパン! 返事を…………返事をしてくれ……コパン……」
止まっていた涙が再び溢れ出す。
大丈夫、きっと大丈夫。コパンならきっと大丈夫。だって俺の『お助け妖精』だから。
「か、からあげ一人で食べちゃうからな! フライドポテトも、トウモロコシも、食べちゃうんだからな! だから早く帰って来い、コパン!」
馬鹿みたいに声を張り上げて、俺はゴロンと道の上に転がった。
「……女神様……コパンをかえしてく……れ」
意識が遠くなる。フェイドアウトしていく。ああ、子供みたいに喚いていないで水を飲めばよかった。
いや、せめてテントを出すべきだった?
思った途端インベントリからテントが飛び出す。でも水は無理みたいだ。それならば、せめて結界が張られている筈のテントに……。
頭をつっこんだ。でもそこで俺の意識は完全に途切れた。
◆◆◆
そして、次に気付いた時はテントの中でシュラフを掛布団みたいに身体にかけていて、とにかく喉が渇いていて、俺は這うようにして外に出た。
確か道の真ん中にテントを出したんだ。ちゃんと入っていたんだなって思った途端。
「あ、おはようございます! アラタ様」
「………………コパン……?」
「はい! 気配を辿っていったら道で寝ていたからびっくりしましたよ。また魔力切れをおこさせてしまったみたですね」
「い、いや、それよりも大丈夫なのか! 本当に、だって、消えて、俺……」
「わぁぁ!」
中身は二十一歳だけど、この世界では十五歳だから許してほしい。
ぼろぼろと溢れ出した涙をそのままに俺はコパンに飛びついていた。
「ご心配おかけしました。本当はすぐに戻りたかったのですが、一度光の粒に戻ってしまったので、元に戻すのに少し時間がかかりました。それもあってうまくアラタ様の気配が探知できず、どうしようって思っていたら、からあげを一人で食べちゃうって聞こえてきたんです。フライドポテトもトウモロコシも」
「…………それで俺の居場所が分かったのか?」
「はい。一人で食べるなんてひどいです! って言おうと思ったらアラタ様がテントに頭だけ入れて道に倒れていて……」
ああ、恥ずかしい。だけど、良かった。
「助けていただいてありがとうございました。また魔力切れを起こさせてしまうなんて、『お助け妖精』としては失格です。だけど、ちゃんと、き、聞こえてきたんです。沢山、名前呼んでもらって。か、帰って来いって……ありがとうございます。アラタ様の『お助け妖精』になれて、私は幸せです」
「俺も、コパンが『お助け妖精』でいてくれて良かった」
二人でわんわん泣いて、良かったって沢山言って、そうして俺たちはこの日はどこにも行かずに色々な話をした。
また、話が出来て、かけた言葉に返ってくる言葉があって、本当に良かったと思った。
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