54 夏野菜の草原
森の中に入って進んだら、草原でした。
ああ、なんだかあの日の事を思い出すね。たけのこの里から続いていた草原では小麦を見つけたんだ。
今度は何があるのかな。何かいいものがあるといいな。少し現実逃避気味にそんな事を考えながら草原の中を進む。
ちなみに、コパンにお願いをして身体の周りに結界をかけてもらっているんだ。ほら、草むらって結構細かい虫がいるからさ。
俺も少しは耐性が出来てきてね、直接触れなければ、小さい虫なら叫び出さないようになったんだよ。まぁここにあのでかい蜂やキラーマンティスが出てきたら多分叫んじゃうと思うけど。
あ、芋虫系は小さくても駄目なんだけどね。
なので、草原の中の鑑定は食べられる物と、希少なもの、そして危険以外の虫はポップアップしないっていう抽出条件で進んでいるんだ。
「う~ん、この前見かけた雑穀も無いなー。残念」
草原にはいい思い出と悪い思い出がある。いい思い出は小麦を見つけた事。
悪い思い出は初めて獣と魔物に出会って、魔力切れを起こした事。
まぁ、あの時よりは俺も少しは強くなっていると思うけど、油断は禁物だ。そんな事を考えつつ草原の中を進んでいくと…………
「え? トマトだ!」
草原の中に自生している大きなトマトを発見!
小学校の夏休み、祖父母の住む田舎に行った時にスーパーで売られている以外の野菜を初めて見た。庭の端に作られた小さな畑で育てられていた真っ赤なトマト。あの頃は苦手だった野菜も今はただただ懐かしくて、有難いって思う。
だってトマトがあればきっと料理の幅が広がるもん。もちろん沢山のレシピを登録出来るほど料理に長けているわけではないけれど、うまくいけばケチャップだって出来るかもしれないし、母さんが作っていたトマトベースのスープも作れるかもしれない。
俺が赤いトマトを採っていると、周囲の見回りから戻ってきたコパンが「これは食べられるのですね?」って一緒に赤いトマトを収穫し始めた。
しかもその先にはきゅうり、更にその隣にはナスが見つかった。夏野菜のエリアだったのかな? とりあえず食材が増えるのは大歓迎だよ。
ある程度の数を収穫して、戻ろうか、もう少し探索を続けようか迷っていると、今度は斜め前方にトウモロコシを発見して走り出していた。
完全に夏野菜のエリアだな。俺は嬉々としてトウモロコシを収穫し始めた。コパンはまだ後ろでナスを取っている。俺がナスの味噌田楽も美味しいって言ったからだよね。
けれどそんな楽しい時間は唐突に終わった。
「アラタ様、逃げます!」
後ろからコパンの声がする。
食べ物を収穫する事に夢中になって危険のポップアップを見逃していたのかと、慌てて周囲を見回すと「見てはいけません!」と声がかかる。
どういう事なのか、分からないまま持っていたトウモロコシをインベントリに突っ込んで、俺はやってきた方へ向かって走り出した。すると後ろからザザッザザザッと確かに何かが近づいてくるような音が聞こえてきた。
「絶対に後ろを見ないで下さい」
コパンは飛んで俺の方にやってきているようだった。いつものように近くで同じものを収穫していればよかった。結構あちこちに食材が分かれて自生していたのもまずかった。
「他にもいたのか。アラタ様、とりあえず森の入口まで転移して、倒せるなら倒しましょう。ダメならマッピングで逃げます」
「分かった」
答えた瞬間視界が変わり、俺たちは草原に入る手前の森を出たところにいた。
「これくらい離れていれば大丈夫かな。コカトリスです。身体は大きな鳥ですが、やつのしっぽはヘビの頭で、目が合うと石にされます」
は…………?
なんて? 鳥でヘビ? 石? いやいやいやいや、すぐに! 今すぐマッピングで逃げようよ、コパン! 倒している場合じゃないし!! 石だよ、石! 彫刻にされちゃうなんて御免だよ!
「コカトリスは美味しいらしいです。さぁ来ましたよ! アラタ様、頑張りましょう!」
俺は目がお肉マークになっているような『お助け妖精』に呆然してから、「ケェェェェェェ!」という聞いたこともないような声を上げて近づいてくる、動物園で見たダチョウよりも大きな雄鶏もどきを見た。
凶悪だ。でも美味しいのか! どうやら俺はコパンの食欲の魔法にかけられてるみたいだ。美味しいは正義! 俺は先手必勝とばかりに『ウォーターカッター』を放った。
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