49 目指しているのは……
「統率をする強いランクのものはいないようですが、少し数が多いです。ゴブリンのあのランクは魔法が使えないので、物理攻撃だけ気を付けてください」
「分かった。この初日の洗礼みたいなものを早めに終えて、今日の寝場所をもう一度探しなおそう。手っ取り早く『フォール』で数を減らすから落ちた奴のとどめをよろしくね」
「おまかせあれ~!」
俺は一斉にこちらに向かって走ってくるゴブリンたちの前に大きな穴を空けた。その穴に向けてコパンが容赦なく『ウィンドカッター』を乱打する。
穴を回避したものは、一瞬だけひるんだけれど、怒りをあらわにこちらへ向かってきた。
銛はあるけれど、俺は武器を使って戦う事には慣れていない。ましてや一対一でなく複数いる相手に使うのは無理だと判断して、今度はファイヤーボールを連打した。
「グギャ! ギャ! ギャ!」
正直に言えばゴブリンとはいえ、この前のサハギンよりも人型に近い者を攻撃するというのはあまり気持ちの良いものではない。けれど、ここはそういう世界なんだ。
スローライフをしたいけれど、それをするためにはやっぱりどこかでサバイバルというか、戦闘というか、なんていうか、こんな事になっちゃうんだよなぁ。
「アラタ様! ボーッとしないでください!」
「分かっているよ。ええっと、じゃあ、実践練習って事で……『ストーンバレット!』
その途端、石の礫がゴブリンたちに向けて飛んで行った。土魔法の基本の一つ『ストーンバレット』は、このエリアに入る前に取得したものだ。
穴に落ちず残っていた十五体ほどのゴブリンたちは全て倒れた。それを見てコパンが振り返った。
「ゴブリンの魔石は回収しません。そのまま、あの穴に埋めてしまいます」
そう言うとコパンは倒れていたゴブリンたちを風魔法で俺が開けた穴に落とし、再び口を開く。
「アラタ様、土壁であの穴に蓋をしてください。アンデッド化されると困るので。あ、魔力はまだ大丈夫ですか?」
「大丈夫」
短く答えて穴の上に土壁を載せるようすると、コパンはそれを細かく砕き、水をかけ、最後に風の魔法できれいにならしてしまった。すごいな。
「他にも出てくると面倒です。とりあえずさっきの森へ入る前の道はマッピングしてあるので、そこに移って前に進みながら探しましょう。大丈夫ですよ。神気が多少弱まってもここは女神様の森です。魔物を寄せない場所はありますから」
コパンはそう言ってマッピング転移をした。
俺たちが納得をして、ここなら大丈夫と思える場所を見つけたのは、それから3時間近くすぎ、辺りが夕焼け色に染まってからの事だった。
◆◆◆
「お疲れさまでした。神気が少しだけ弱まった初日からこんな風に魔物が出るのは私にとっても想定外でした」
夕食の後でコパンはそう言ってぺこりと頭を下げた。
「別に魔物が出たのはコパンのせいじゃないよ。とりあえず対応出来て良かった。もっともこんな風に魔物が出てくるのが続くようならちょっと困るけどね」
そう。毎日毎日魔物の出現にびくびくしながら過ごすというのは中々ストレスだ。でも俺を追いかけてこの世界に下りてきたというコパンが分からない事を責めても仕方がない。
「どれくらいの頻度でどれくらいのレベルの魔物が出てくるのか、進みながら把握をしていこう。あまりにも頻繁に出るようならどうしたらいいのかを考えよう。街に行きたいと言ったのは俺だ。行きたいならどんな対策が必要なのか考えていかないと駄目だ。それだけの事だよ」
「アラタ様……」
「幸いまとまって出てこられなければ今のところは何とかなる。最悪コパンのマッピングで逃げる事も出来るしね」
「はい」
「まだ初日だもん。とにかく俺ももう少し攻撃の魔法を練習するよ。これに慣れるまでは急いで先に進むような事はやめよう」
「そうしましょう」
作戦会議のようなものをして今後の対策を練った。とりあえずゴブリンくらいならば三十体くらいが出てきてもどうにかなりそうだ。だけど森の中でハイウルフが十頭以上出てきたらまずい。そして、キラーマンティスやサハギンは単体ならば問題はない。
「スローライフを目指しているんだけどなぁ……」
ぽつりと呟いた俺をコパンが不思議そうな顔で見つめていた。
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