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5 誰か! と叫んだら

「まずいんじゃ、ないだろうか」


 歩いても歩いても誰にも会わない。

 日は高くなってきているし、スマホは相変わらず圏外。時間を見たらお昼を過ぎていた。

 このまま誰にも会わなければ、今夜こそ自覚のある野宿だ。一晩中、獣やら虫やらに怯えて過ごさなければならない。


「うぅぅ、嫌だ、それだけは嫌だ」


 なんとしても『第一村人』に遭遇したい。

 それにどこかで水も見つけなければいけない。さすがにペットボトル半分ほどの水分では人を見つける前に脱水症になってしまう。

 幸い晴れていても気温がそれほど高くなっていないので助かっているが、気温が上がってくれば熱中症の危険も出てくるだろう。


「だけど、水場には獣が来る可能性もあるよなぁ」


 なんとなく、この道のようになっている所から逸れるのは危険だと思うんだ。だけど水を探すなら多分森の中に入らないといけないだろう。

 けれど運よく川があったとしても、それをそのまま飲んでもいいのだろうか。生水は危険だし、腹を壊したら余計に脱水症状に陥る可能性だってある筈だ。でも、飲まないわけにもいかないだろうし……

 考えれば考えるほど途方に暮れる事ばかりだ。俺ははぁと息をついてどこまでも続いているような道を見つめて口を開いた。


「いったいここはどこなんだよ。俺はどこに連れてこられちゃったんだよ……」


 声に出した途端、抑えていた不安が一気に膨れ上がる。

 身体は小さくなっているし、どうしてこんな誰もいないような森の中にいるのか。

 頭の中にあった『キャンプ』という言葉だけで、夢遊病者のようにフラフラと移動してしまったんだろうか? だけどそれならこの身体の変化が分からない。


(頼む、夢なら覚めてくれ! 俺はやらなきゃならない事が沢山あるんだ!)


 俺は胸の中で強く願った。

 そう。新たにエントリーシートを申請する会社も選ばなきゃいけないし、(たまき)にダメ出しされたシートの書き方も見直さないといけない。それにバイトだってある。

 GWの帰省する事になったから、色々と前倒ししなきゃならない事も書き出しておかないと。


「だ、誰か! 誰かいませんか!」


 森の中に俺の声が響いた。聞きなれた声ではなく少し高めの声だ。それが余計に不安を煽ったけれど俺は声を出す事を止められなくなっていた。

 一体何が起きているのか。

 これからどうしたらいいのか。

 確かに『スローライフ』に憧れていたよ。でも俺が憧れていた『スローライフ』は森の中で遭難をするようなものじゃないんだ。


「誰かいませんか! いたら返事をしてください! 誰か!」


 答えてくれた人がいても、味方になってくれるとは限らない。

 けれどこのままただ歩き続けるよりはマシなのではないか。

 同じようにここに連れてこられた人がいるのではないか。

 そうだとしたら、その人と協力をする事は出来ないだろうか。


「誰か返事を、返事をしてくれ!」


 涙声になった叫び。その途端。


「はーい!」


 聞こえてきたのは幼い声だった。


「え……こ、子供?」


 応えてほしいと思ったけれど、返事がかえってくるとそれはそれでなんだか怖い。

 それにこんな森の中で子供って……まさか、今度はいきなりホラーチェンジなのか?


「だ……誰? どこから声……」

「はーい! ここです! やっと追いつきました!」

「え……」


 声は足元の方から聞こえた。足元っていうのがまた怖い。

 足元って……なんで? どうして下から声がするんだ? 大体そんな位置に子供がいてなんで俺は気づかなかったんだ?


「………………」


 先程とは違った意味で叫び出しそうになりながら、俺は声の方に恐る恐る視線を向けた。


「ヤゴウチアラタ様ですね? はじめまして! 『お助け妖精』です!」


 ………………は?


 そこにはニコニコと笑って手を振っている、ハムスターくらいの大きさの子供がいた。


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