48 『神気(中)』
サハギンを倒した翌日、俺たちは神気が少しだけ弱まってくるエリアに入った。
俺が勝手に『神気(中)』と呼んでいる場所だ。
体感的にはあまり良く分からなかったけれど、はぐれで出てきたキラーマンティスやサハギン、そして群れ出てきたハイウルフの事を考えるとやはり違いはあるんだろうなって思う。
でもいつまでも神気の高い所にいたら、当たり前だけど街には行かれない。魔法も少しずつレベルを上げてきたし、銛も手に入れた。ここはもう挑戦するしかないなって二人で決めたんだ。
でももちろんマッピングはしておくよ。
はじめの頃のタケノコの里や小麦の草原にいきなり飛ぶのは難しくなるかもしれないらしいけど、『神気(中)』に入っても、『神気(高)』のエリアに戻れないわけではない。
どうしても危なくなったら、あのハイウルフの時のように逃げ出してしまえばいいのだ。撤退をしても誰に馬鹿にされるわけでもないし、『戦略的撤退』っていう言葉もあるしね。
せっかく生まれ変わった命だ、俺はそれを大事にしたい。
やりたい事をやるんだ。そう、サバイバルではなくて、あくまでもスローライフを目指して、まずはこの世界の街を見てみる。
そんな風に意気込んで前に進んでもう昼近く……
「う~ん、やっぱり特に変わった感じはないな。神気が弱くなったら魔物がものすごく襲ってくるのかもしれないって思っていたんだけど」
「神気は徐々に弱まってくるから、いきなり魔物が増えるような事はないですよ。でも少しずつ強いランクのものが出てくると思います。だから油断は禁物ですよ」
「了解、コパン先生。頼りにしているよ」
「うふふふ、おまかせあれ~」
いつものように肩の上に乗るコパンとそんなやり取りをしながら、俺たちは今夜の拠点になる場所をマッピングしてから昼食をとり、もう少しだけ前に進んで、この辺りはどういうものがあるのか確認をしてみようと道を逸れて森の中に入った。
「この辺りは普通に森の中のままみたいですね。この先が草原になっていたり、花畑になっているような事もなさそうです」
「そうか。じゃあ、道に戻って反対側を見てみる?」
「…………う~~~ん、あちら側はなんとなくそわそわするから今日はやめておきましょう」
「あ~~~、それじゃあこの辺りで何か役に立ちそうなものがないか、【鑑定】をしてなさそうなら今日は無理をせずに拠点に戻ろう」
「そうですね。それがいいかもしれません」
【鑑定】ではいくつかの石が出てきた。わずかだけれど、金や銀を含んでいるものがあった。そして水晶も多く見つかったので、それも採ってみた。あとは収納にある食べ物だけだったので採るのはやめた。
「まだ魚も沢山あるし、イノシシもホーンラビットも【補充】しているしね。贅沢を言うなら鶏肉があるといいかもね。醤油も油もあるから唐揚げも美味しそうだ」
そうそう。オリーブと菜の花で油も取れたんだよね。ああ、卵はないけど、タケノコや山菜の天ぷらとかもありかな。載っていたかな。写真はあったような気がするな。
「特にこれといったものはなさそうだから今日はもう戻ろう。本も確認しておきたいし、まだ取得出来ていない風魔法の練習をしてもいいかもしれない」
「はい。ではマッピングで戻りましょう」
コパンはそう言って、今日の拠点に決めた場所へと転移した。
けれど戻った途端、先程とは違う雰囲気を感じる。
「え? なんだ?」
よく分からないけれど、何かが違う。昼食を食べた時は何も感じなかったのに、今はなんだろう。何か言葉には出来ないけれど雰囲気が違うんだ。それはもちろんコパンも感じているようで、俺の肩の上で周囲をうかがっているような感じがした。
「コパン」
「あちらの奥です。どうやらここで食事をした事で、引き寄せたみたいですね。来ます」
何がとは聞かなくても原っぱの奥にある木々の中からそれらは現れた。
「キキキ!」
「ギギッ!」
「ギャ、ギャ、ギャッ!」
初めて見る筈なのに、それらはとても見覚えがある姿をしていた。
危険鑑定のポップアップがいくつも浮かぶ。
<ゴブリン><ゴブリン><ゴブリン>…………
『神気(中)』のスタート記念みたいだ。
ここからはやっぱり一段階注意をしていかなければならないと言われているような気がした。
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