46 水の音
「この奥の方から、かすかに水の流れるような音が聞こえてきました。もしかしたら川のようなものがあるかもしれません。明日はこの奥に行ってみませんか?」
コパンがそう言ったのは、この世界にきてあと少しで一か月になるという頃だった。
魔法の練習と実戦練習を繰り返しながら、俺たちは未だに神気の強いエリアにいた。時々あのキラーマンティスのようにはぐれたのかっていう少しランクの高めの魔物も現れたけど、ハイウルフみたいに群れで来る事はなかったのでコパンのマッピングを使って逃げるような事にはならなかった。
ランクが少し高めのものが群れで来るとやはり脅威だ。ホーンラビット位の魔物だと『アースウォール(土壁)』や『フォール(大穴)』でどうにかなるけれど、ランクが高くなればそれではふせげない事もあるだろうし。
ちなみに土魔法はもう取得をしているので、あの時のように魔力がごそっと持っていかれてしまうような事はないみたいだ。だからコパンは初級で構わないから取れる属性魔法は取っておきたいみたいなんだよね。
でもそんなに沢山の属性って取得出来るものなのかな。
よく普通は一つとか二つとかで、全属性なんてものすごくチートみたいだけど、この世界は違うのかな。コパンが良く言っているように魔法は想像力だから、この世界では皆が色々な属性を使う事が出来るんだろうか。
「アラタ様、嫌ですか?」
「え? ああ、ごめんごめん。ちょっと別の事を考えちゃった。ええっと川だよね。いいんじゃないかな。まだ神気も高いエリアだし」
「はい。なので大丈夫かなって」
うん? コパン? 何が大丈夫なのかな? まさか川魚ゲットプラス魔物とバトルとか?
「……もしかして『予見』がありそうなの?」
俺がそう尋ねるとコパンは少しだけ困ったような顔をしながら口を開いた。
「う~ん、よく分からないです。ちょっとそわそわする感じかなぁ。でも大丈夫ですよ。危険な感じはないので、出たとしても困った事にはならないと思います。前に食べたアラタ様のお母様が作られたお魚のお料理がとても美味しかったから、どうかなぁって」
「ああ、そうだね。本に魚の煮つけがあったかなぁ。でも普通に塩焼きをしてもきっと美味しいよ」
魚と聞いて俺は一気にやる気が出た。仕方ないよね、だってタンパク質はどうしても肉がメインだからさ。
味噌と醤油つくりの後のランクアップで開いたご褒美ボックスは<麻婆ナス>で、俺としては久しぶりの中華でテンションが上がったけれど、コパンにはいまいちだったらしい。
でもあれはやっぱりご飯が欲しくなるよね。いつか米が見つかるといいなぁ。
「よし、じゃあ今日は魚を取って夕食は魚料理を目指そう!」
「はい! 頑張りましょう!」
こうして俺たちはこの場所をマッピングしてから、水音が聞こえるという森の中に入っていった。
◆◆◆
森の中は鬱蒼とした感じではなく、日の光が零れて優しい雰囲気だ。最初の頃に入った、果物を沢山見つけた所に似ている。【補充】が出来るけど、バナナはとパイナップルが沢山生っていたので採ってみた。あとメロンを見つけたのでそれもゲット。ふむふむなかなかいい感じだな。
「やはり水音がします。こちらの方です」
俺には聞こえないけれど、コパンには聞こえているようで、肩の上には乗らずにフヨフヨと飛んでいくコパンについていくとやがて確かにサァサァと水が流れているような音が聞こえてきた。
「近くなってきましたね」
「うん。そうだね。俺にもはっきり聞こえるようになったよ。小川みたいなものじゃなくて、渓流みたいな感じなのかもしれないな」
頭の中に元の世界の東北地方にあった有名な渓流地が浮かんだ。もっともあれほど大きな感じではないだろうな。そんな事を思いつつ更に進む事十数分。
「おお!」
そこには苔のある石が流れを作っているような川があり、キラキラと日の光を反射させて輝いていた。
「アラタ様! 魚です! 魚が見えます!」
「やったね、コパン! 釣りはやった事がないし、竿もないけど獲れるかな」
「風魔法を使います。おまかせあれ~~」
そう言って嬉しそうに川の傍に来た途端。
「ギギギ!」
「……ぎぎ?」
聞きなれない鳴き声に俺は油の切れたロボットみたいな動きで声の方を向いた。
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