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44 コパン先生再び

「『ファイヤーボール』は『ヘルファイヤー(業火)』とは違うので、よほどの事がない限りは森が火事になるような事態にはなりません。狙ったものに当たってしまえば他に燃え移るような事はありませんから、狙って打ち込めば脅しにも、攻撃にもなります。思い切ってやってみましょう!」


 そう言って、コパンは森の中をまっすぐに走ってくるワイルドボアを振り返った。

 うん。確かに実戦練習は大事だって言ったよ、言ったけど、一日おきに魔物と遭遇するってどうなのかな。


「アラタ様! しっかりしてください!」


 コパン先生は結構スパルタだ。

 それはもちろん俺に怪我をさせないようにする為だって分かっている。そして今まではこっちに行ったら何か出そうだな~って感じたらきっとそれを避けてくれていたんだろう。

 だけど俺が強くなりたいって思ったから、戦う事に慣れさせる方向に切り替えたんだよね。

 分かっている。分かっているんだけど……


「『ファイヤーボール!』」


 今までよりは大きくてスピードもある火の玉が、以前ホーンラビットに追いかけられていた野生のイノシシよりも一回り以上大きなイノシシ型の魔物、ワイルドボアに向かって飛んで行った。

 イノシシはとにかく真っ直ぐに向かってくるから、狙いさえきちんと定めれば当たりやすい。それは普通の獣であっても、魔物であっても同じだ。違いはその力と魔法を使うという事だろうか。


 火の玉を当てられてものすごく怒ったワイルドボアは鼻息を荒くして体勢を立て直す。けれどその前に俺はもう一つ、更にもう一つ火の玉を飛ばしてから、先日取得した『ウィンドカッター』を投げつけた。


 大きな体が「ブギャァァァァァ!」というような方向を上げて地面の上に転がって、止まった。


「お見事です! やっぱりアラタ様はすごいです! 魔力は大丈夫ですか? 大丈夫なら《血抜き》からの《解体》までしてしまいましょう。《精肉》は後でもいいですよ」


 ニコニコと笑ってコパンはひっくり返っているワイルドボアの所に行った。うちの『お助け妖精』は本当に有能だよ。

 俺はちょっとヨレヨレしながら《血抜き》と《解体》、そして出来れば《精肉》をするためにコパンの後に続いた。



 ◆◆◆



 【アイテム】での《解体》とごり押しで取得した《精肉》を終えると、ホーンラビットより大きい魔石と牙が残った。毛皮はどうやら売れないらしく、ホーンラビットの時のようには残らなかった。

 【アイテム】の良いところは不要な部分は残らないところだ。よく分からないけれど、骨付きの肉以外の骨とか、内臓とか、本の中に食べられないとか、残らないように取るとか書かれていると、《血抜き》した血液等と共に消えてしまうのでとても助かっている。

 そのまま今日のキャンプ地へ戻って「ホォッ……」と息をつくとコパンがジュースを持ってやってきた。


「アラタ様、お疲れ様です。だいぶ火属性の魔法は安定してきたみたいなので、今度は水の方を少し強化していくか、もしくはもう一段強い魔法を覚えておくようにしたいと思います」

「もう一段強い魔法?」


 俺が尋ねるとコパンはコクリと頷いて言葉を続けた。


「今使っているのは基本の火魔法です。これを応用して、例えば『ファイヤージェイル』という火の檻のようなものを作って相手を捕らえたり、『フレイム』というもっと強い火を相手に足元から出現させる魔法もあります」

「……すごいな」

「でも、何度も言うように魔法は基本的には想像力ですからね。もっと面白い魔法だって出来るかもしれませんよ?」


 フヨフヨと俺の周りを飛びながら楽しそうにそう言うコパンを眺めつつ、もっとバトルのあるノベルも読んでおけば良かったのかななんて思ってしまった。


「うん。先に進むには強い魔法も手に入れないといけないのは分かっているよ。でももう少し基本を増やしておこうかな。火が効かない魔物もいるだろうし」

「そうですね。では水や土を強化していきましょう。それからまた考えていけばいいですね」

「うん。よろしくね、コパン先生」

「おまかせあれ~! ではこの周辺を少し見回りしてきます」

「うん。じゃあ俺はその間にテントとかまどを出しておくよ」

「よろしくお願いします」


 コパンはフヨフヨとこの原っぱの奥にある森の方へ飛んで行った。

 俺はインベントリからテントとかまど兼焚火を出して、弱めのファイヤーで火をつける。もうこの作業もすっかり慣れてきた。

 山の中のような所でハイウルフに出会ってから今日で一週間。この世界に来て約三週間ほどが過ぎた。

 この森を出てどこかの国の街へ行くには一か月以上って事だったから、ひたすら前へ前へ進んでいれば『神気(低)』の辺りに入っていたかもしれない。いや、その前に魔物に追われて大変な事になっていた可能性もある。

 この森がこの世界のチュートリアルだとしたら、のんびりスローライフをおくるには結構ハードな世界だよね。コパンがいなかったら俺は一生この森を出られなかったかもしれない。 

 でも自分で一度は出るって決めたんだから、頑張ろう。

 一生懸命教えてくれるコパンの為にも、自分自身の為にも頑張ろう。


『お兄ちゃんはさ、ほんとは何でも出来る男なんだからね! 自分を信じてあげなかったら自分が可哀想だよ』


 ふとあの日の環の声が聞こえた。

 

「そうだよな。でもさ、まさか就活が魔法の練習に変わるとは思わなかったよ」


 ポツリと呟いて俺は例のライトノベルをパラパラと開いた。

 特殊スキルの四冊はすでに付箋だらけになるほど見ているけど、買ったばかりのこれを読んでいるような時間はほとんどなかった。


「そう言えばこの主人公も森の中に落とされるんだよな。もしかしてそれを真似られたのかな。魔法がある世界の話なんだからなんか使えそうな魔法が載っていないかな」


 そんな事を考えているとコパンの声が聞こえてきた。


「アラタ様~! 周囲は特に問題ないですよ。虫もいません」


 うん。いつもありがとう、コパン。


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ご覧いただきありがとうございます。

0時・12時・18時の3回更新です。


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