42 寄り道のハプニングと成果
道はやっぱり緩やかに上っているみたいだった。
そして一度開けた景色は元の森の中に戻り、周囲は見られなくなった。
どういう場所にいるのか全く分からない。時折<鉄鉱石>とか、<銅鉱石>とか、あとはポツポツと聞いた事がある石の名前が出てきてとりあえずコパンと一緒に収納した。どうやら俺のインベントリ付きの収納も容量は大きいようで、今のところ埋まってしまう気配はない。これには感謝だ。
「アラタ様、多分[ラピスラズリ]という石は結構高く売れると思います。染料や絵の具にもなる石です」
「へぇ、そうなんだ。あ、これは聞いた事がある。[オパール]。宝石には見えないけど……」
「磨くのです。こういうのも磨いて売るのもありかもしれません」
「なるほど……」
まぁ、街に行けば確かにお金はかかるから色々な方法でお金を手に入れる方法を見つけておくのはいいかもしれないな。
「こちらの方は希少な石とかがあるのかもしれないな」
俺がそう言うとコパンはコクリと頷いた。
「そうですね。出来ればお塩が欲しかったですね」
「そうだなぁ。あ、コパンこの先でまた森を抜けるみたいだよ。さっきと逆側に出たのかな」
「そうかもしれません。では今日はあそこまでにしましょう。明日の事はまた戻ってから相談をして」
「うん。そうしよう。さすがに疲れてきたよ」
【体力】というスキルがなかったらこの山登りはかなり厳しかったと思う。
コパンと俺はそう決めて森を抜ける場所を目指した。また高台のような感じなんだろうか。四方は見えるのかな。それともまた道の片側の視界が開けているだけなのかな?
考えながら歩き、森の中とは違う明るさに目を眇めた次の瞬間、俺は思わず「わぁ……」と声を上げていた。
そこは先程の場所とは違う風景を見せていた。
切り立った岩壁のように見えていたそれは、森の中に大きな岩の剣を突き立てた、山と呼ぶにはいささか小さく、何かの遺跡と言われればそうかもしれないと思えるようなものだった。上の方は岩がむき出しで、下の方は森と一体化している。あそこに行くつもりはないけれど、もしも行くとしたらどうやって行くのだろう。ふとそんな事を考えて、首を振る。
マッピングがあるとしても、進んでいた道を随分と逸れた。
これ以上の寄り道はやめて戻ろう。
「先程と同じような感じですね。珍しい鉱石はいくつかありますが……」
さっそく鑑定をしたらしいコパンがそう言って俺を見た。
「うん、そうだな。同じものは【補充】が出来ると思うから、なかったものだけ採って戻ろうか」
「はい」
道はさらに続いているけれど、寄り道探索はここで終了だ。そう考えた途端、視界の端に何かが浮かんだ。
「え?」
「アラタ様?」
「コパン、あそこ。ゴツゴツしているところ。洞窟? あそこに[岩塩]って見えるんだけど」
「え! お塩ですか⁉ ちょっと見てきます!」
コパンは声を上げて、すぐにそちらへ移動した。見えるところなら短い転移が可能になってきたらしい。
「アラタ様! 確かに洞窟です。でも中がどうなっているのかは分かりません。それと[岩塩]っていうのは私にはよくか分からないのですが」
ああ、そう言えば以前にも俺の【鑑定】と違うように表示をされているものがあった。もしかすると[岩塩]というのは元々はこの世界にはないのかもしれないな。
そんな事を考えながら俺はコパンが移動した洞窟の方へ向かおうとして。
「逃げます!」
「え?」
「アラタ様、急いで逃げてください!」
コパンの声の後に俺の視界に『危険』のポップアップが浮かぶ。
「な、なんだ?」
「ハイウルフです! オオカミの魔物です!」
「オオカミ⁉」
コパンが俺の肩に戻ってくるのと同時に「ウゥゥゥゥ」という唸り声が聞こえてくる。
そして洞窟の方から出てきた、大きな犬のような何か。
「ガルルルルルル!」
その瞬間、俺は踵を返して走り出した。それを見てコパンが「ハイウルフ」と言った魔物たちが一斉に走り始めた。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! ハイウルフがどういう魔物なのかは分からないけれど、オオカミの魔物だというならすぐに追いつかれるだろう。この前のキラーマンティスのように正面を見て攻撃をするにはちょっとリスクが高いように思える。
それに追ってくるのは単体ではなく何頭もいるように見えた。そして森の中で走っている魔物たちに向かって脅しになるだろう火の攻撃魔法を撃つのは難しい。
「コパン!」
「このままマッピング移動します! この場であの魔物たちと戦うのは不利です。肩から落ちないように私を両手で掴んでください」
「分かった!」
言われた通りに肩の上のコパンを両手で掴んで抱きかかえる。その途端、俺の背中を目掛けて先頭を走っていたハイウルフが大きく跳んだ。
「ヒッ!」
短く上がった声。
背中からオオカミに襲われたら、死んじゃうかもしれないなって思った瞬間、視界が変わった。
「え…………」
「アラタ様、ちょっと苦しいです~~~」
「……あ」
腕の中から、コパンの声が聞こえてきて、俺はぎゅうぎゅうと抱き締めていた小さな身体を慌てて離した。
「ご、ごめん。コパン」
「大丈夫です。ふぅ、すみません。ギリギリでしたね。逃げきれて良かったです。今はあの魔物と戦うのは早いです。でも、きっともう少ししたらハイウルフなんて目じゃないですよ」
そう言ってニッコリと笑うコパンがあまりにもいつも通りで、俺は情けなくもヘナヘナと座り込んでしまった。
「アラタ様? どこか怪我をしていますか⁉」
「……大丈夫。ありがとう、コパン。助かった」
「いえ、私も[岩塩]というのに気を取られて、魔物の気配に気づくのが遅れてすみませんでした」
情けなくも俺の足はまだガクガクと震えていた。神気が少し弱まるだけであんな生き物が出てくるなんて思ってもいなかった。
「もっと、強くならないといけないな」
「アラタ様?」
今のままではとても森を出る事など出来ない。
「森の中でも使える魔法を増やしていこう。それにコパンのような『転移』も出来るようになれるといいな。あとは」
俺がそう言うと、コパンは少し驚いたような顔をして、それから座り込んだままの俺の足の上にちょこんと載った。
「大丈夫ですよ。これからまた一緒に練習をしていきましょう。アラタ様ならきっとすぐに出来るようになります。神気は少しずつ弱まってきますが、なくなってしまうわけではないので。それにここはまだ神気の強い場所ですからね。あ、それとこれ」
コパンはそう言って俺の前にコロンと赤みのある小さな石を出した。
「私の鑑定ではよく分からなかったのですが、あそこにあった石をいくつか収納しました。アラタ様の鑑定で見てください」
「………………っ……すごいね、コパン。[岩塩]だ。塩だよ。これを綺麗にして小さく砕けばお塩になる」
「わぁ! 良かったです!」
「さすがコパン。俺の『お助け妖精』だね!」
「ふふふふふ、おまかせあれ~♪」
そう言って嬉しそうに胸を張る小さな妖精を、俺は感謝を込めてもう一度ギュッと抱き締めた。
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