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37 いい事ってどんな事?

 以前、この森を抜けてどこかの国に入るには一ヶ月以上はかかると言われた。

 それを聞いた時は絶望しかなかったけれど、今は「まぁそのうち着くだろう」という気持ちだ。

 この森にもう半月位いるけれど、後半月ほどでどこかの国に入るのは無理だなって思っているんだ。だって、最初の一週間は食材集めで、あんまり進めなかったし、魔力切れで伸びていた事もあったしね。

 人というのは不思議なもので、慣れてくるとどうにかなるだろうって気持ちになってくるんだな。それにあと半月くらいで森の外周に行く事の方が今は恐ろしいなと思っている。


 コパンの話だとこの森はこの世界の中心にあって中心に近い今の場所は神気が高く、魔の力が強い魔物は入れないのだという。それでも少しずつ歩くうちにホーンラビットという魔物に遭遇した。ホーンラビットは魔の力が弱い魔物らしい。まぁ、野生のイノシシを追い駆けまわしていたけどね。

 俺にしてみれば「あれで弱い魔物なのか」という気持ちだった。

 だからここから先、どこかの国に向かって歩き続けていくなら、神気は徐々に弱まっていき、それに伴って魔の力の強い、いわゆる高ランクの魔物も現れるようになってくるのだろう。

 今の俺が、あと半月で高ランクの魔物と遭遇して勝てるのか。正直全く自信がない。

 かと言ってこのままこの森の不思議な力に守られて、誰にも会わずコパンと二人だけで暮らしていくというのもどうなのかなと思うんだ。


 勿論コパンは俺の大切な仲間だ。『お助け妖精』の事は見えなくなってしまう人もいるらしいけれど、俺はずっと一緒にいてほしいって思っている。

 だけどせっかく異世界に転生したのだから、生まれ変わった世界がどんな世界なのか見てみたい気持ちもあるんだよね。だって、一応あの小説に近い設定の世界らしいんだ。人の他に妖精はもちろん、エルフやドワーフや精霊もいるって聞いた気がするし。


 だから一度は森を出てみようと思う。それからどうするのか考えたって遅くないよね。だって俺、今はまだ成人したての十五歳らしいから。それにさ、街に出たら森の中では見つけられなかった調味料も手に入るかもしれないだろう? 

 結局は食べ物かよって思わなくもないけれど、憧れていたスローライフのためには美味しく食べられるというのはとても重要な事だと思うんだ。そう。俺がしたかったのは決してサバイバルではないんだから。


「あ、アラタ様、この先に何かありそうな感じです」


 コパンの声にハッとして顔を上げた。なんだかついつい考え込んでしまっていた。うん。とにかくそんな感じでやっていこうと思いながら口を開く。


「よし、コパンの新しいスキルがそう知らせてくるなら行ってみよう」

「はい! きっとこのスキルも沢山使ってレベルが上がってくれば、具体的に何があるって分かるような気がするんです」

「うん。そうだね。俺も色々なスキルを磨いていくよ」


 そう。新しいスキルの【補充】もしっかりレベルアップしていこう。あと、<少し無理がきく>っていうのも確かめていかなくては。


 コパンは俺の肩から飛んで、ふよふよと道を少し逸れて進んでいく。俺もその後を追いかけるようにして森の中に入った。するとほどなくして視界が開けた。


「え? また草原? うん? 花畑?」


 そう。そこはあの小麦があったみたいな草原だったけど、周囲にはそれほど背の高くない木が生えていて、黄色やピンクや白い花が咲いていた。


「なんだろう。この花が良いものなのかな」

 そう思って鑑定をかけると黄色の花は[菜の花]、ピンクの花は[レンゲ]、白い花は[シロツメクサ]と出た。そして周囲に生えているのは、


「[菜の花]……菜の花ってもしかして、菜種油、あ、油が採れるって事か?」


 そう思いつつ今度は日の光の加減で緑色にも銀白色にも見える葉を茂らせる中低木を鑑定する。 


「え! [オリーブ]? ああ、実が生っている。マジか…」


 菜の花もオリーブも油がとれる素材だ。俺は本の内容を思い出していた。オリーブの木は鉢植えでもいけるというページは見たような気がした。でも菜種から油を採るというのはなかったように思う。


「オリーブから油が採れたとしたら、菜種からもいけるようになるのかな。搾油とかっていうのが取得出来たらいけるような気がするな」


 とりあえず、簡単だと書かれていたオリーブオイルに挑戦をしてみよう。そう思って花畑の中に足を踏み入れた俺は「ヒッ!」と思わず短い声を上げた。


 オリーブの木は花畑の向こう。でも花があるって事はさ…………


「ははははははは蜂だ!!」


 しかもなんだかとてもでかい気がする! 見た事はないけど花と蜂の対比が変だ! でも今はそこじゃない、自慢じゃないけど俺は本当に虫全般が駄目なんだ!


「コパン! 無理! 俺は無理!」


 コパンの『予見』の力がどれほどいいものでも、エキストラバージンオリーブオイルが出来るとしても、このでかい蜂がブンブン飛び回っている花畑を歩いて行くなんて事は出来ないよ!


「アラタ様、大丈夫ですよ。これは虫じゃないです。ハニービーっていう魔物ですよ」


 もっと駄目だろう⁉


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