34 初めての解体と魔石
大きさにビビったけれど、何とか踏ん張って『自給自足生活をはじめよう』の解体のページを開いた。
この本にはシカとイノシシ、そして鶏のさばき方が図解入りで記載されている。ちなみに『サバイバル読本 これであなたも生き残る』は狩猟のページがあり、銃の説明や狩猟免許の事、そして罠の事なども記載されていて、解体については魚やカメ、ヘビ、カエルなどが載っていた。俺としてはカメやヘビやカエルは出来れば食べたくない。
というわけで、今回使うのは『自給自足生活をはじめよう』だ。
でも正直に言えば解体だけでなく、よく店で売っているような肉の形にまでしてほしい。
まぁ、イノシシの肉はあまり普通のスーパーなどでは売ってはいないけれど。
「まずは《血ぬき》と《解体》」
すると本がピカッと光って目の前のイノシシもその光に包まれた。
何度見ても不思議な光景だと思う。魔法を使えない世界から来た自分にとっては、これが自分の中にある魔力というものを使って行われているというのがどうにも不思議でならない。
それに実際には魔法がこの本のように行われているのかは分からないんだ。ビデオの早送りみたいに目に見えているわけではなく、あっという間に場面が変わっているというか、大雑把に画面が切り替わる? そんな感じかな。未だとイノシシが光に包まれてると、次の瞬間にはもう血ぬきが終わって、イノシシの形をした大きな肉の塊になっていて、次には大きな部位ごとになっている?
「う~ん。でもこれだとまだ俺には扱えないな。やっぱりもうすこし調理をしやすいようにしてほしいな」
パラパラとページをめくって肉の部位のイラストのようなものを見つけた。イノシシのものではないけれど、こんな感じで精肉が出来ないだろうか。これならなんとかそのまま調理が出来そうだ。まぁ、調理するのも多分【アイテム】任せになりそうだけど。
「石うすがイラストいけたんだ。これもなんとかなってほしい! 頼む、《精肉》!」
本が再びピカッと光った。
◆ ◆ ◆
「イノシシはおしまいです!」
コパンの声に俺は思わず「はぁぁ」と息を吐きだした。
とりあえず、【アイテム】で綺麗に《血ぬき》と《解体》をして、更に《精肉》して、何となく馴染みのある肉の形になったそれをコパンに収納してもらった。
本当はジップロックのようなものがあったらいいんだけど、もちろんそんなものはないから魔法収納におまかせだ。ご褒美ボックスから出てきた母さんの料理が入っていたジップロックは袋ごと茹でちゃうからヘロヘロになっちゃうんだよね。
それにしても、本を開いて《血ぬき》と《解体》そして《精肉》と言っただけなのに、何だかものすごく疲れてしまった。だけどここで終わりにするわけにはいかない。次は十羽?(なのかな、十匹?)のホーンラビットだ。
これも一遍にやってしまおう。というか、やってしまいたい。
ホーンラビットの《解体》など、もちろん俺が持っている本には載っていない。でも【アイテム】の良いところは一度覚えた魔法は応用が利く事だ。ごり押しとも言う。
「本当に一度に全部出してしまってよいのでしょうか? 大丈夫ですか?」
「魔力は大丈夫だと思う。それにこの作業をあと十回やるよりも一度で済んでしまった方が俺としては助かるというか、その方がいい」
「う~ん、そうですね。十回繰り返す方が魔力の消費が激しいような気がします。では出しますね」
そう言うと俺の前にウサギに似たような生き物の体がずらりと並んだ。
「あ~………」
「! 大丈夫ですか? アラタ様」
「うん。なんていうかさ、肉とか普通に食べていたけど、本当に命をいただくって事なんだなって今更だけど思ってさ。でも、食べられるなら無駄にはしないよ。じゃあ、いくね。《血ぬき》と《解体》からの《精肉》!」
本はなくてもアイテムの魔法はなぜかピカッと光る。
ウサギの肉は実は食べた事がない。でも時々ウサギ肉の○○みたいな料理は耳にした事ある。
というか、これを食べるとしたら俺は魔物の肉を初めて食べる事になるのか。う~~~~ん。まぁ、食べられるんだし、美味しくいただく方法を見つけよう。うん。そうだよね。それしかないよね。
狩ろうとして狩ったわけではない。けれどその命を奪ったのは確かに俺だ。だから、きちんと食べられるものはいただこう。
自分の中で何かを言い聞かせるようにしている間に魔法は終わっていて俺たちの前には言われなければ何の肉なのか分からない、よくあるお肉屋さんの肉というものが置かれていた。そして……
「あれ? コパン。肉の他に何かあるよ」
「え? ああ、毛皮と魔石ですね。魔物たちの中にある魔力の結晶です」
「魔力の結晶……」
ラノベの中ではよく聞く言葉だったけれど、実際に見るのは当たり前だが初めてだった。
そうか、イノシシはただの動物だけど、ホーンラビットは魔物だから魔石があるんだ。
「これも保管しておきましょう。売ればいいと思います。どこかの国の街に入ればお金も必要だと聞いています」
「! そうか! そうだよね。お金か……」
どうやら俺は当たり前の事がすっぽりと抜けている感じだ。街に出たら何かをするためにはお金がいる。
「じゃあ、街で売れるようなものも探していかないといけないんだね」
「そうですね。女神様からはアラタ様が持っていたお金はこちらのお金に換金済みだと聞いていますが、どれくらい必要になるのか分からないので、あれば嬉しいですよね」
「…………換金?」
またしても後出しの情報だ。
そう思った瞬間、コパンは少しだけ目をグルグルさせながら「す、すみません」と言った。多分コパンも後出しにしているつもりはなくて、俺が何が分かっていて、何が分かっていないのか、全部は分からないんだよね。
それに一度に言われても多分俺自身が理解出来ない事もあるだろうし。
「大丈夫だよ、コパン。俺も一度に言われても分からないと思うから、関係ありそうな事が起きた時や、重要だなって思う事があった時に教えて。よろしくね」
そう言うとコパンは小さく笑って、いつものように「おまかせあれ~」と言ったんだ。
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