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32 泣き虫な『お助け妖精』

 誰かが泣いている声が聞こえた。

 子供だ……小さな子供が泣いているんだ。

 どうしたのかな。何がそんなに悲しいのかな。迷子になってしまったんだろうか。

 せめて親が見つかるまで、一緒にいてやる事は出来ないかな。だって、この声はあまりにも悲しくて……

 それにこの声は……この声は……


「……さま」


 ポタリと水滴が顔に落ちた感覚で、意識が上昇する。


「……タ様」


 またしても落ちてくる雫。雨が降っているのかな。それなら泣いていた子供は……


「アラタ様! アラタ様! 気づかれましたか! アラタ様!」


 その瞬間、顔に何かが縋りついてきた。


「うっぷ!」

「アラタ様~~~~~! すみ、すみませんでした! ご無理をさせてしまいました! 『お助け妖精』なのに! 名前までいただいたのに! もう、もうしわけございません~~~~~! うっうっうっうわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 ああ、あの雫は雨ではなくて涙だったのかと思った。そうしてゆっくりと思い出す。そうだ。俺はあちらの世界で死んで、異世界に転生をしたんだ。そして……


「……コパン、泣くなよ。心配かけてごめん」

「う、う、すみません、でした。今朝のアラタ様の魔法が素晴らしかったので、ちょっと舞い上がっていました。だい、大丈夫っておも、思って、無理をさせてしまいました。多分、ま、魔力切れを起こしたのだと思います」

「魔力切れ? あたたたた……」


 起き上がろうとして、思わず頭を抱える。ひどい頭痛と眩暈がした。


「だめです! まだ起きたらいけません。テントを出せたら良かったんですけど」

「テント……? ああ、今朝の場所に転移をしたのか?」

「はい。さすがに草原でそのままは、その……お嫌かと思って」


 コパンが何を言いたいのか、なんとなく分かるような気がして、俺は小さく苦笑した。


「うん。ありがとう。助かったよ。そうだね。テントを出そうか」

「だめ! 駄目です。まだ魔力を使わないでください。申し訳ないのですが、今朝の場所の一画に妖精の結界を作りました。今はその中にいます。ここなら虫もきませんから、お腹がすきましたか? パンの残りなら出せます。ジュースも作れます。でも今日は、もう、魔力を使わないでください。ごめんなさい。ごめんなさい。倒れるまで魔法を使わせるなんて、あってはならない事です」


 そう言って再び泣き出した小さな『お助け妖精』に俺はそっと手を差し出した。


「コパン、大丈夫だよ。俺もびっくりしてせっかくコパンがアドバイスをくれたのに、きちんと見もしないで『ウォーターカッター』を出し続けていたのが悪いんだ。それに使った事のない『アースウォール』や『フォール』がまさか本当に出来るなんて思ってもいなかったしね。コパンには心配をかけてしまったけど、もう大丈夫だから。今度があるならちゃんとコパンの言う事を聞くよ」

「はい。よろ、よろしくお願いします。私も無理をさせるような事は言いません」


 差し出した手の指にしがみついた小さな手。


「結局今日も前には進めなかったけど、こんな風にゆっくり行けばいいね。幸い食べ物の心配はなくなってきたし、コパンの言う通りに森の外側に強い魔物が出るなら、俺ももう少し【アイテム】だけに頼らずに色々な魔法を使えるようにならないといけないのかもしれない。まぁ、元の世界で何かと物理的に戦うような事はなかったから、まずは逃げる感じになるかもしれないけど。でも、これからもよろしくね、コパン」

「はい、お、おまかせあれ~」


 泣き笑いのような顔でいつもの言葉を口にしたコパンに俺はもう一度笑った。


 ◆ ◆ ◆

 

 それからしばらくうとうとした後、俺は今度こそゆっくりと起き上がった。そして不思議な空間の中でこれまたゆっくりとパンを食べてリンゴのジュースを飲んで、クリーンをかけてもらってまた横になった。


「そういえば、コパン」

「はい、なんですか? アラタ様」

「この辺りは弱い動物や弱い魔物しかいなくて、それらは滅多に姿を現さないって言っていたと思うのに、どうしてあんな風に出てきたんだろう」

「そうですねぇ。多分、イノシシがホーンラビットの縄張りにうっかり入り込んでしまったのではないでしょうか。弱いといっても魔物ですからね。自分の縄張りで食料を食い荒らされたら、追い出そうとするんじゃないかなって思うんです。イノシシは山芋とか、タケノコも好物のようです。地面を掘り返して色々探すと【鑑定】が出ました。それでホーンラビットたちが怒ったのかなって」

「なるほど……」


 だからイノシシを追いかけるウサギっていう事態になったのか。


「それで、イノシシたちとあの穴は」

「ああ、はい。ちゃんと回収しましたよ。穴も塞いでおきましたからご安心ください」

「は? 回収?」


 何か、おかしな事を聞いた気がする。え? 回収? 何を? 安心って?


「イノシシも、ホーンラビットも穴の中で絶命していましたから、ちゃんと収納出来ましたよ。明日魔力が戻ったら、【アイテム】にあった《解体》をお願い出来たらって思っています。【鑑定】には両方とも食用可で、美味しいって出ていました。楽しみですね! あ、でも無理は駄目ですよ。収納の中は時間経過がないので腐ったりしませんから!」


 ……うん。俺の『お助け妖精』は可愛くて、優しくて、だけど結構…………


「結構?」


 ああ、伝わっちゃったのか。


「アラタ様?」

「強くてカッコイイ」

「! あり、ありがとうございます! 明日もよろしくお願いします。しっかり休んでくださいね」


 こうして異世界五日目が終わって、俺がご褒美ボックスの母さんの手料理が食べられなかったなって気づいたのは翌朝になってからだった。


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