27 小麦畑
うまくいけばパンが作れるかもしれない。
それだけで草原の中を走れる自分に驚きながら俺は走った。
コパンは振り落とされないようにシャツの襟にしがみついている。
「…………本当に小麦だ。しかももう収穫できる」
環がダイエットをしていた時に、パンを食べると太るとか、米を食べると太るとか、何だか色々言っていたのを思い出した。そうしてその時に言っていたんだ「小麦ってさ炭水化物のイメージが強いんだけど、タンパク質も含んでいるんだって。だから膨らんだりするって聞いてちょっとびっくりしたんだよね」って。
「そう、タンパク質だ……」
とりあえず、少量だけどうまくいけば植物性のタンパク質がとれる。
俺は四冊の本を取り出してパラパラとめくった。
フライパンでのパン作りは『美味しいキャンプ飯』に、そして『自給自足生活をはじめよう』には自家製小麦からパン作るという大まかな過程が書かれていて、更にパン焼き窯について記載されているページもあった。自給自足ってすごいな。しかも果物による天然酵母パンについても載っていたんだよ。
さすがにここまで確認して購入したわけではなかったけれど、この本を買って良かったって心から思ったよ。過去の俺、えらい。
「コパン! パンだよ! パンが出来そうだ!」
「わぁぁぁぁ!」
俺は肩の上にいたコパンを抱えてくるくると回ってしまった。
タケノコも感動したけれど、パンが出来るかもしれないっていうのは、食生活にとってかなり大きい。
「アラタ様、目が、目が回りますよ~~~~」
「あははははは! とりあえず、あれを収穫しよう」
「わか、わかりました~~」
小麦を収穫する具体的ページはなかったけれど、農作物の収穫というページがあったので試してみた。念のため、「小麦の収穫」と声に出して言ってみた。
すると例によって例のごとく本が光って目の前の小麦が群生していたところからそれに該当したものがさあーっと刈られて、あっという間に積み重ねられた。【アイテム】万歳!
「コパン、どうやらこれを乾燥させるらしいんだ」
「! おまかせあれ~」
本来ならば干して乾燥をするのだろうけれど、ここは魔法のある世界だ。コパンが風魔法で乾燥させて、そのまま麦の穂だけを別にしてしまう。麦わらは何かに使えるかもしれないから、束にしてしまっておこうって思ってインベントリに入れてみた。
「アラタ様、この小さな実だけにするのも出来ます。吹き飛ばして分ければいいんです」
「なるほど! じゃあよろしく頼むよ」
「おまかせあれ~~~~!」
こうして草原の一画にあった麦はあっという間に実の部分だけになった。とりあえずはこれを収納して、本に書かれている事が【アイテム】として発動するか泊まった場所に戻って検証をしてみよう。
石うすで挽くイラストが載っていたから、コパンに頼んでこんな感じで使えそうな石をいくつ見つけて収納してもらった。
今日は前に進む事が出来ないけれど、それでも本当にこれが出来るのか出来ないのかを知りたいって思った。
「ここはマッピングしますか?」
「うん。そうだな。草原地帯は初めてだから他にも探せば何かあるかもしれないし。登録の件数はまだ大丈夫?」
「はい。まだ大丈夫です。ではここはええっと」
「パンにしよう。パンの実」
「では『パンの実』と名付けて登録しますね」
「うん。よろしく。それにしても草原の中に麦畑か。そうなると後は何が見つかるかドキドキするな」
「そうですね。アラタ様が以前言っていた岩塩も見つかるといいのですが」
「ああ、そうだね。塩が見つかると出来る事が広がってくる」
そうして俺たちはまだ日が高いうちに昨日の宿泊場所へと戻った。
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