21 コパン先生の魔法教室
「ええっと、慣れと想像力?」
俺がそう繰り返すと、コパンは大きく頷いて「そうです」と言った。
「コパン、俺はあっちの世界では一度も魔法を使った事はないし、魔力を持っている人間もいなかった。もう少し、こう……魔力の事を教えてくれないかな」
「分かりました。魔力とは、自分の中に存在している力の一つです。魔力を感じて、思いを込める事で力が魔法という形になって発現します。どんな風になりたいのか、どんな風にしたいのか、アラタ様のあの【アイテム】にはそれがしっかりと書かれています。だから魔法として力が出せるのだと思います。魔力自体はアラタ様の中にあります。【アイテム】の事を思い出しながら具体的に考えて発動してみてください」
にっこり笑ってそう言うコパンに俺は顔を引きつらせた。
そんな風に言われても俺は今まで魔力なんて感じた事もないし、もちろんそれを魔法として形にした事なんてないんだ。【アイテム】だって、ページを開いてこれをしたいって思っただけで、魔力を感じたり使ったりしたつもりはない。大体日本人って言うのは想像力っていうのが苦手な人が多いって言われているんだ。
だけどそんな俺の気持ちがコパンに伝わる事はなく、コパンはニコニコと笑って口を開いた。
「さぁ、アラタ様。まずは想像しやすい『ウォーター』からいきましょう。水は飲んでいますし、触った事もありますよね。それが手の平から出てくる感じです。どんな風に出ても構いませんよ。ビューッと出るのか、ちょろちょろと出るのか。何に使いたいのかを想像してもいいです。長い詠唱はかえって想像する妨げになるので『ウォーター』だけでいいですよ。大丈夫、アラタ様なら出来ます」
もしかしたらコパンは結構スパルタなのかもしれない。
「…………」
俺は手を渋々と前に出して、水が滲み出して溢れ出すようなイメージをしながら「ウォーター」と言った。
「………………」
けれど手はじんわりと汗は滲むが水は出ない。
「ごめ……」
「アラタ様! 魔法は想像力です! 慣れです! 失敗しても恥ずかしくなんてないです。私も出来るまで何度もやりました。私が見ているのが嫌なら私は見ないようにしますので、繰り返しやってみてください。先程言ったように、具体的に想像をするといいかもしれません」
「具体的に……」
「はい。例えば目の前で火が上がって消さなければならないとか」
「………………な、なかなかハードな設定だね」
俺は思わず顔をひきつらせた。けれどコパンは真剣な顔で言葉を続ける。
「お気に召しませんか? ではむかつく人にちょっと仕返ししてやりたいとかはどうでしょう」
「………………コパン?」
「ストーンバレットでなく水ですよ? 仕返しとしては優しいですよね!」
「そ、そう、かな」
「駄目ですか? う~ん、あとはそうですね。あ、ものすごく暑くて水浴びでもしたいとかはどうでしょうか?」
「……い、いや、洋服の替えがないから……濡れると困るし」
「…………アラタ様、想像です。どうしたい、どうなるのか、考えて実行する。それだけですよ? じゃあ、後はぁ……」
無邪気な笑顔で次々に提案をしてくるちっちゃい幼児を見て、俺は「『クリーン』からでもいいかな」と言ってみた。
『クリーン』の魔法は5回目で取得して、スキルボードにも記載された。
だけどさ、コパン。『クリーン』のイメージがものすごく嫌なものなっちゃったよ?
だって……
「あ、アラタ様! そこにさっき虫がくっついていました!」
「ひぃぃぃ! 『クリーン!!!!』」
これはないと思うんだ。
恨みがましくそう言うと、コパンは「使っているうちに忘れますよ」って無邪気に笑った。
うん。俺の『お助け妖精』は結構いい性格をしているのかもしれないな。
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