2 妹はいつも強い
「お兄ちゃんが週一の生存報告を怠ったから、私が派遣されました!」
そう言うと環はズカズカと部屋に上がり込み、勝手知ったるという感じで冷蔵庫を開けた。
「はぁ⁉ 何これ、こんなひどい冷蔵庫見た事ないよ。ねぇ、どういう事?」
「…………ちょ、ちょっと忙しくて買い物をしている余裕がなくて。で、でもちゃんと食べていたから!」
おずおず口を開くと環は短く「何食?」と言った。
「え?」
「一日何食、何を食べていたの? ゴミもない感じだよね」
部屋に入って冷蔵庫を開けただけなのに、どうしてそこまでチェック出来るんだろう。
「お兄ちゃん」
「はい」
「フラフラして顔色が悪い人を会社は採用しないと思う」
「ははは、そうですよね」
「まずは最低限の礼儀として、きちんとした格好で、体調も整えて挑まないとね」
「……はい」
そう言うと環は「まったく」と言いながら、持ってきたバッグの中からいくつものタッパーを冷蔵庫に入れ始めた。
「重いから嫌だって言うのに、お母さん全然話聞かないし、来てみれば栄養失調みたいな兄がいるし」
「すみません」
「反省しているならちゃんと食べて。それと、GWは一度帰ってきなさいよね」
「え!」
想定外の言葉に俺は俯きかけていた顔をものすごい勢いで上げた。
「それは、無理。だって、色々と調べなきゃならないし、エントリーシートも送らないといけないし」
「送ればいいでしょう。どっちにしても企業だってGW中は連休だよ。調べて登録するだけなら家でも出来るよね。ノート持ってくればいいんだから。大丈夫。うち充電出来るから」
「いや、だって……」
「スーツもさ、冬用ってわけにはいかないよね。これからの季節の、まだうちにあるんじゃない? ってお母さんが言ってたよ」
「…………」
「地元の会社を受けなさいって言っているわけじゃないからって。お母さん、お兄ちゃんに甘いから。とにかく、一度どういう状況なのかだけは話してみれば? GW明けに切羽詰まった顔で面接っていうんじゃ採用担当の心は掴めないよ。多分」
「うん……」
「とりあえず、冷凍してあるジップロックのは冷凍庫に入れとくね。タッパーのは明後日くらいまでかな。レンチンしてね」
「うん。ありがとう」
ああ、情けないなって思った。
大学に通うのに3時間近くかかるからって、こっちでアパートを借りたんだ。一人暮らしだって、何とかなるって思っていた。だけどちょっと忙しくて余裕がなくなるとこのざまだ。
それに仕送りは三万。もちろん家賃も賄えないからバイトは必須だ。でも学費は払ってもらっている。
その代わり週に一度は生存報告という事でLINEを送る事になっていた。それすら出来なかった。
うん。確かに余裕なさすぎだよな。
そのまま黙り込んでしまった俺を怒る事もなく、環はさっさとテーブルを綺麗にして、持ってきたおかずとご飯を並べた。
「ほら、まずは食べて。食べるところもちゃんと見てきてって言われているんだからね。小学生かよって思ったけど、お母さんの言う通りだったわ」
テーブルの上に並んでたのは炊き込みご飯とハンバーグ、それに煮物とまさかの味噌汁だ。
タッパーとは別に温かいものや汁物を持ち運び出来るものを買ったらしい。
「お母さんてば、いつの間にこんな味噌汁まで運べるようなジャーポットを買っちゃって。お父さんが見たらショック受けそうだよ。お兄ちゃん、ほんと愛されているよ」
まだ温かい炊き込みご飯とハンバーグ。そして味噌汁。
有難く食べながら俺は環と母さんに感謝をすると共に、情けないなと落ち込んだ。
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ファ、ファンタジーまでもう少し!
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