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エピソードを添えて ~ビーフの魔物~

 一番初めに行った国は二つのダンジョンを持つセヴォーロ。

 冒険者の町の方が紛れ込みやすいと思ったけれど、それはやっぱり難しくて、しっかりした後ろ盾を持って、そのまま秘密は秘密として、余計な設定も付きながら俺達は冒険者として暮らし始めた。


 そうして一カ月半が過ぎた頃、俺とコパンは保護者付きではあるもの、セヴォーロのダンジョンの中間層にいた。


「いた! いましたよ、アラタ様! あれがビーフの魔物のミノタウロスです!」


 うん。鑑定にもそう出ているよ。


「…………ビーフの魔物ってなんだ?」

「さぁ、分からないけど、とにかくミノタウロスが出る十階層に行きたかったっていう目標が達成出来たんじゃない?」


 『フォルトゥーナ』のリーダー、カーティスさん(カーク)と元神官のジェシカさん(ジェシー)がこそこそ話しているけど、俺達の事は何度か一緒にダンジョンに入って頭を抱えている事があったからある程度は諦めているっていうか、遠い目で見守るっていうかそう言う気持ちになっているんじゃないかな。一緒に来た他の四人も似たような表情をしている気がする。


「コパン、肉が出るまで頑張ろう!」

「分かっています、アラタ様。そのまま残ればいいのに素材や魔石だけドロップするというのが未だに納得いかないのですが、これもダンジョンの仕様と思って受け入れます!」


 そうなんだ。ラノベでダンジョンが出てくる話も読んだことはあったけど、俺はどちらかと言えばダンジョン系の話よりもスローライフ系の話が好きだったからあんまり詳しくはなかったんだよね。

 だから魔物を倒して得られるものが、森の中のようにそのままの状態ではなくてドロップ品っていうものになるのをここで初めて知ったんだ。

 例えば低層でゴブリンを倒したとして、森だったら倒した状態のままのゴブリンが残っているけれど、ダンジョンはゴブリンが持っていた粗末なこん棒に変わっていたり、魔石だけが落ちていたり、低層だと何もなく消えてしまう事もあった。これにはさすがに驚いたけど、それがダンジョンの仕様らしい。

 外にいる魔物と違ってここにいる魔物はダンジョン自体が生みだしたものだからドロップ品というゲームのご褒美みたいなものだけを残して消えてしまうと聞いてすごく驚いたんだ。もっとも『ドロップ』という言葉には、なんとなく覚えがあったから「ああそういえば、読んだような気がするかも」と思った。


 とにかく三階層くらいまではほとんどまともなものはドロップしなかったから、コパンともこんな事なら森で魔物を倒した方が効率的なんじゃないかって話していたんだけど、四階層からは必ず何かまともなものがドロップするようになって、その他にも宝物箱や隠し部屋なんていうものまである時もあるし、五階層以上にはランダムにボス部屋と呼ばれるものが存在して、これもまたなかなか珍しいものがドロップする。

 そして何よりも興味深かったのは一定の時間が経つと倒した筈の魔物が『リポップ』といって再び現れるのだ。


 というわけで最初の一カ月はどうしても二人だけではダンジョン行きを許可できないと言われて、『フォルトゥーナ』の誰か二人以上が同行。低層のドロップ品のひどさに早く中層へ進みたい俺達を抑えつつ、森での依頼に同行をさせてくれた事もあった。

 そうして今日は元々来たいと思っていたミノタウロスが出る十階層にやってきた。ちなみにここはボス部屋もあるという。


「こちらに来ました! 先制します。<ウィンドアロー>」


 コパンの風魔法が矢になって通路の向こうから突進してくるミノタウロスの身体を貫いた。コパンの魔法のレベルも上がってかなり強くなったんだよ。俺も負けていられないって思う。

 ミノタウロスは確かに牛に似ていたけれど、もっと恐ろしくて大きくて、しかも二本足歩行をする魔物だった。だけどコパンの風の矢はその身体を難なく貫いて煙のように消してしまった。そしてそこには魔物の頭にあった大きな角が残った。


「やったな、角だ! ラッキー……」

「あああ! 角でした! はずれです! ううう、次です次に期待です」


 カークの言葉を遮るようにコパンががっくりと肩を落とした。


「い、いや、ミノタウロスの角は高額のアイテム……」

「お肉でなければ意味がないんです!」

「…………ああ、そう」


 可哀想な子を見るような眼差しを向けられてもコパンはめげる事なく次のミノタウロスに向かった。通路がそれほど広くないからやってきても二体なんだよね。フィールドタイプの階層だとワーってくるから一気にどーんとやっつけられるんだけどさ。

 ちなみにダンジョンでは土がないから土魔法は使えない。土に見えてもダンジョンだから土に擬態をしているダンジョンの素材っていう事らしいので、いつものように穴をあけて水攻めっていうのは使えなかった。でも買取出来る素材や肉の状態を気にすることなく戦えるのは慣れてくればとても楽だ。だってどんな感じで倒しても関係なく『ドロップ品』が出てくるからね。


「あ、反対側からも来た。挟み撃ちをするつもりなのか。コパン、俺はこっちから攻める」

「分かりましたでは、頑張りましょう!」

「おう!」


 カークとジェシーはもうやりたいようにやらせておこうっていう顔をしていた。すみません。牛に似ているっていうミノタウロスの肉は俺達にとってどうしても欲しいアイテムなんです。


「<ウォーターチェイン>からの<ウォーターカッター>。ああ、結構硬いな。それなら突き立てた方が早いか。<アイスランス>」

「まとめてきました! よし、<トルネード>!」

「っわ! コパン、こっちに押し出されてきたよ!」

「すみません! 回廊なのか。じゃあごり押しではなくて単体で仕留めていく方がいいのですね。それにしても出るのは毛皮と角と魔石ばかりです」

「う~ん、こっちも同じだなぁ。もしかしてこの階は肉が出ないのかなぁ」

「ええ⁉ ボス部屋ではアラタ様が言っていらした『クロゲワギュー』っていうのが出ると思って楽しみにしているのに! あ、トルネードで壁が崩れて隠し部屋が分かりました!」

「わ~それはラッキーだね。あ、コパン肉が出たよ。倒す時に『肉』って言ったら出た」

「それは大発見です! では魔法名の詠唱は無視して『肉!』って言いますね!」

「うん。やってみて」

「おまかせあれ~~~~~! 『肉! 肉! 肉!』

「あはははは! 三回言っても一体からは一つだけだよ、コパン」


 前後に分かれて戦いながら大きな声で会話をしつつ魔物を倒す。


「出た! 出ましたよ~~~! アラタ様!」

「うん。こっちもまた出たよ。この階には俺達しかいないよね?」

「はい。そうですね。人は私達だけです」

「じゃあ、とりあえず、全狩する感じでボス部屋に。それでいいですよね。カークさん、ジェシーさん」


 俺が尋ねると二人は「好きにしなさい」とだけ答えた。



 ◆ ◆ ◆



「……もう滅茶苦茶だな。詠唱もなく『肉』かよ。しかも『クロゲワギュー』ってなんだ?」

「あたしに聞かないで。ここのボス部屋は確かブラックヒュージミノタウロスよ。クロゲワギューなんて聞いた事ないわ」

「…………そうだな。というか、まったく俺達の出番がないな」

「今日に限ってじゃないわよ。それでも私は二十階層からはまた同行するわよ」

「ああ、勿論だ」


 ここから先は本格的な中階層。けれど、二十階層からは高層と呼ばれるエリアになり魔物たちのレベルも上がるし人数もそれなりに必要になる事もある。念のため十一階層は同行するが、それ以降十九階層までは二人だけでも大丈夫だろう。外への転移は出来ないがダンジョン内の転移は出来る。二人が転移出来る事を『フォルトゥーナ』のメンバーは理解をしていた。もちろんそれを言いふらすような事はなかったが。


 最年少踏破記録が塗り替えられそうだとカークは思った。


 



 そしてその日、大量の肉と本来であれば当たりと呼ばれる角や皮、そして大小の魔石と隠し部屋の宝箱、ボス戦でマジックバッグとブラックヒュージミノタウロスの肉と皮と角をゲットした。


 ミノタウロスの肉で作ったビーフシチューは絶品で、ブラックヒュージミノタウロスのステーキは最高だった。

 沢山あったので、『フォルトゥーナ』のメンバーにもご馳走して、勿論女神へのお供えもした。

 あ、お肉はもちろん【補充】したよ。これでいつでも牛肉料理が食べられるからね。コパンは早速メニューといういう名の俺の本をチェックしていた。

 


 そして、その後セヴォーロの中ではちょっとしたミノタウロスの肉ブームが起こったのである。



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ありがとうございました。

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