119 初めての異世界人
俺にとって初めての異世界人は、『フォルトゥーナ』というパーティーの冒険者達だった。
六人いるメンバーの一人で元神官で魔導士なのだとう女性が女神から神託を受けてこの森に入ったそうだ。
というか俺は彼女が言っていたイルクレール王国もサリヴァン様も全く知らないんだけど。そう言ったら何となくまずいような気がして呆然としていた。
そんな俺を見てパーティーのリーダーらしい男が口を開いた。
「とにかく話をしたい。君たちを傷つけたりは絶対にしない事を約束する」
真っ直ぐに向けられてくる六人の顔を見て、道がなくなったのはこの人たちについて森を出るのが正しいという事なのかなって考えると、コパンも小さく頷いた。うん。大事な事だからちゃんと伝わったね。
出口にそれぞれの国が管理をしている出入口は以前考えていたように俺達がセーフティーゾーンと呼んでいたような場所になっていて、とりあえずその近くに移動をしようっていう事になった。
まぁこのまま森の中にいたら、また魔物がきちゃうからね。
『フォルトゥーナ』のメンバーはそれぞれに自己紹介をしてくれた。
どうやらリーダーのカーティスさん(カート)と先程俺達を呼び止めた元神官のジェシカさん(ジェシー)は貴族らしい。そしてその他の人達も色々な人脈を持っているらしい。
事の始まりはジェシーが夢で神託を受け、それをカートに言って、この森に入る事が決まったんだって。
話を聞いているとどうやらラタトクスの持ってきた金貨の国が今は存在していないイルクレール王国らしい。わずか数日で消えてしまったと言われている伝説の国なんだそうだ。
もっとも金貨の国が本当にイルクレール王国なら、俺は女神から『勇者』が攻め込んで、その後細々と続いていたけど、流行り病で後継が途絶えたって聞いている。
伝承では数日で滅んだ事になっているんだな。確かサイクロプスが守っていた国って言われているんだよね。
ジェシカさんが傍系と言っていたサリヴァン家はイルクレールから出た王女が嫁いだ家で、イルクレールを再興しようとする動きもあったそうだけど叶わず、その後代々大賢者の称号を持つサリヴァン家も消えてしまったとか。
ううーん、何だかよく分からないな。
「サリヴァン家はエルフの血が入っているの。イルクレールが滅んだと言われているのは今から二百八十年前だけど、エルフは三百年以上生きる者もいる。貴方がたがどうしてこの森にいるのかは分からないけれど、大賢者であるオスカー・フォン・サリヴァン様がお亡くなりになり、彼と共にいた子供が森から出るのを助けてやってほしいという神託を受けたのよ」
いや、だから、そのオスカーさんっていうのが誰だか分からないんだよ。どうして俺達がその人と一緒にいた事になっているんだろう? それが女神の秘策なのか?
チラリとコパンを見るとコパンもまた困ったような顔をした。
「この森は普通の子供たちが生きていけるような場所ではないの。私達と一緒にここを出ましょう」
「…………お気持ちは有り難いのですが、俺達は元々ここを出てひとまず冒険者として暮らしていく予定でした」
「そう。それなら私たちは貴方がたの力になれるわ」
うん。このままでは自分達で出来るとは言えない雰囲気だね。どこまでこの人たちに俺達の事を明かしていいのかも分からないし。さて、どうしたらいいのかな。
貴族がいるとなると面倒なような気もするし、ある意味で後ろだてというか困った時に使えるような気もするんだけど……
俺が迷っていると人型のコパンが前に進み出て口を開いた。
「私たちは気づいた時にはこの森にいました。私達の覚えている記憶では、この森を出た事はありません。そして一緒にいた人が誰かも分かりません」
ええ? そんな話聞いてないよ。そういう設定なの? コパン?
「私達はここで色々な事を教わりました。そして私はその人からアラタ様を守るように言われています。なので貴方達をそのまま信じて従うわけにはいきません」
「…………なるほど」
リーダーのカートが頷いた。
「ただ、万が一困った事があればこれを見せなさいと言われているものがあります。見せて襲ってくるような者であれば容赦しなくても良いと言われました」
ちょっと待って、どういう事? もしかして女神から何か届いたのかな? でもここでそれを聞いたら駄目だよね。
「分かった。ではそれを見せてくれないか。決して君たちを害する事はないとこの剣に誓おう」
うわぁ……なんだか目の前でお芝居を見ているような気がしてきたよ。またこのカーティスさんがこういうのが似合う感じなんだよね。
「こちらです」
コパンが取り出したのはラタトクスがくれた金貨が数枚と指輪のような装飾品? だった。
金貨にばかり目がいっていたけど、そう言えば一緒になんだか細かいがらくたのような土くれもあったな。まさかその中にこんな指輪が混じっていたなんて思っていなかったけど。
「! これは……」
「イルクレールの金貨よ! こちらは……微かだけれどサリヴァン家の紋章だわ……オスカー様は貴方達にこれを託されたのね。よく、生きていてくれました。もう大丈夫よ。神託は確かに貴方がたの事です。さぁ、森を出ましょう。心配しなくていいわ。冒険者として暮らしていきたいのであればそれを叶えられるようにいたします」
感激して涙を流すジェシカさんに俺は顔を強張らせた。なんだか騙しているみたいだよ。お願いだからこういう風にするって、前もってコパンに知らせておいてくれ!
「アラタ様、行きましょう」
そう言って手を差し出したコパンに、俺は胸の中でどういう事なのか後でちゃんと説明してくれって強く、強く思った。
こうして俺達の森の旅は、よく分からない設定のまま呆気なく終わった。
森の中、一本真っ直ぐに伸びている道ではなく、人が歩いて出来た道をどれくらい歩いただろう。
「あれがセヴォーロの門だ」
見えてきたライトノベルの漫画で見るような石造りの大きな門。
「さぁ、行こう」
「はい」
こうして俺達は、これまた呆気なくセヴォーロ王国に入ったのだった。
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第四章終了です。




