111 色々な情報
「とりあえず、外に出るなら何らかの辻褄合わせや、作り話を用意しておく事ね。それと『お助け妖精』を連れていると、分かる者には一発で転生者って思われるからそれも注意した方がいいわ。影の中に入っていてもらうとか、違う種族に擬態するとか」
「…………でも俺は女神が作ってくれたタグを持っているし、ばれると面倒な情報は隠ぺいがかかっている筈なんだ。だから辻褄合わせを無理にしなくてもいいと思う。その……森を出る時だけ気を付ければ」
「……そうね。普通に出入り口から出るとどうしてこんな所にって大騒ぎになると思うから、それは気を付けた方がいいわ」
「ああ。あと、コパンは一契約をしている風の妖精という事にする予定で話をしていた」
「妖精と契約をしている人間はあまり多くはないわよ」
「そうなのか」
「ええ」
「…………」
でもコパンが一緒にいてくれないと困る。絶対に困る。
「アラタ様、その件ももう一度女神様に確認をとります。森の外にそっと出られる方法も聞いてみます」
「うん。ありがとう、コパン。アウラも色々とありがとう。あ、だけどどうして転生者って分からない方がいいのかな。前にコパンにも言われて、女神からは面倒ごとに巻き込まれないようにっていう話だったから、貴族とか王族とかそういう権力に巻き込まれるような事件があったのかなって勝手に思っていたんだけど」
俺の質問にアウラはものすごく微妙な顔をした。
「女神の転生者なら話してもいいのかしら。貴方からはおかしなものを感じないし」
「え……」
「今まで私は二度、この森に落ちた転生者に会っている。一人は聖女と呼ばれる称号を持っていて、もう一人は勇者と呼ばれる称号を持っていると聞いたわ」
「聖女と勇者」
なんだかいきなりラノベの話になった感じだ。
聖女と勇者ってまさしく黄金のパターンだよな。でもこの二人のイメージって転生よりも何となく召喚のなんだよね。まぁ読んでいたライトノベルの影響だけどさ。
「聖女と勇者は一緒に?」
「いいえ、聖女の方が早いわ。聖女の時は女神が神託をして道を開いて森の中まで迎えが来たのよ」
「……という事はその頃はまだ転生者の存在を隠すような事はなかった」
「そうね」
「勇者は?」
「…………勇者の事は口にしない方がいいわ」
「は……勇者はこの世界では悪人よ」
「……あ、悪人? ええっと正義の味方ではなく悪人? ま、魔王を倒すんじゃなくて?」
「この世界に魔王なんていないわ。だから勇者なんて必要なかった。それだけの事よ。とにかく勇者と同じ転生者なんて知られない方がいいの。どうやら私にはこれ以上の事を話す権限はないみたい。だけど」
「だけど?」
「勇者が残した傷跡は、まだ…………」
アウラはハクハクと口だけを動かして、やがて諦めたように黙り込んだ。なんだ? 一体何が起きたんだ? 権限ってなんだろう?
「とりあえず話せそうな事は多分これくらいね」
「あ、ありがとう。ええっとじゃあ改めてアウラはどうしてあんなところに?」
「分からないわ」
「え……」
「いつものように巡回をしていたの。だけどいきなり…………よく分からないけど……引きずられたというか、放り出されたというかそんな感覚に襲われて、気付いたら蜘蛛の巣にかかっていたの」
「び……病気……?」
「まさか居眠りしながら飛んでいたとか……」
俺とコパンの言葉にアウラは慌てて口を開いた。
「違うわ! あれは……」
けれど先程と同じようにハクハクと口は動くけど声が出ない。やがて諦めたように口を閉じて、一つため息を落としてからアウラは再び口を開いた。
「……何かの力が働いているような気がする。巡回をしていても感じた事よ。ありえない場所にありえないものがいる事があったから。これは一応シルフィード様には報告をしてあるの。今回の事も報告する予定よ」
「そう……なんだ」
どうやらリヴィエールのワーム事件とはまた違うみたいだ。いや、でももしかしたらどこかで繋がっているのかもしれない。ありえない場所にありえないものがいる。あるいはありえない事が起きる。
俺達が遭遇したあのオーク達もそうだ。女神は調査をすると言っていたけれど詳しい事は何も知らされていない。
「とりあえず、教えてもらった通り『転生者』とばれないようにする。俺は色々なスキルはつけてもらったけど称号は芋掘り名人やタケノコ採り名人とか少しずつ増えていって今は <食材採取名人><鉱石採掘名人><パン焼き職人>に<料理人>なんだ。だから仰々しい称号はないけれど、俺にとっては必要なものを取得させてもらったって思っている。あとはここがどんな世界なのかを見て、自分がどんな事をしたいのかを改めて考えていくよ。色々心配はあるけど、コパンと一緒に美味しいものを食べて、やりたい事をやって幸せに暮らしていきたいって思っているんだ。森からの出方は改めて女神に聞いてみる。色々教えてくれてありがとう」
俺が頭を下げるとアウラが笑った、ような気がした。
「貴方は女神様が仰る通りこの世界を楽しめばいい。それがこの世界にとって良いものを芽吹かせていくのかもしれないわ。これを受け取って?」
そう言ってアウラは真っ白な羽を差し出した。つい習慣で【鑑定】をしてしまうと、『水精霊アウラの祝福』と見えた。
「そんなに警戒しないで。何かあった時にもしかしたら力になれるかもしれない程度のお守りよ。貴方にとってこの旅が良いものでありますように。本当に助けてくれてありがとう。私、蜘蛛が大嫌いなの」
「それなら間に合ってよかった」
アウラはもう一度笑って最初の時のシマエナガのような姿になって、俺とコパンの頭の上をクルリと回るとそのまま飛んで行ってしまった。
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情報が入ってきましたよ。




