103 新たな顧客
「早々に取引相手が現れたから今日はもう進むだけかな」
「そうですね。では安心して前にどんどん進みましょう!」
コパンの言葉に笑って頷きながら俺は前に前にどんどん進んだ。道は真っ直ぐだし、森に入っても何かが見つかりそうな『予見』もない。
これが根菜や、コパンが欲しがっているビーフの魔物(どんな魔物だよ)やサンダーシープという雷を落とすという羊がいるというのであれば森に入ろうかって思うけどね。
「今日は距離を稼ぐ日になりそうだ。時間経過のない空間魔法の収納だけど、せっかくだから今日の卵も【補充】はして、もらったものは何か料理をしよう」
「! いいと思います! わぁ、何がいいかな」
「プリンは外せないかなぁ」
「そうですね! プリンはあった方がいいと思います。あとは……あ、あれはどうでしょう。アラタ様が前に言っていた『なんちゃって親子丼』」
ああ、コッコの卵とコカトリスの肉で作った親子丼か。そういえばそんないいかげんな名前をつけていたなと思い出した。うん。でも白飯に合うし、レシピ登録もしてあるし」
「よし、じゃあ、なんちゃって親子丼とポテトサラダも美味しそうだな。あとは味噌汁も作って。食後にデカプリン」
「いいと思います! アラタ様は天才です!」
「じゃあ決まりだね。日が傾き始めるまではガンガン進もう」
「はい!」
昼は用意をしてきたおにぎりを歩きながら頬張って終了。そのまま前へと歩き続ける予定が、なぜかコッコ以外の取引相手が現れた。
リスの魔物であるラタトスクだ。単体では弱いが数が集まると厄介で、この魔物がいると近くに高ランクの魔物がいるとも言われているというのは、レベルが上がった俺の鑑定が教えてくれた。
『ほんとだ―。人間なのに神気があるー』
『土と水の精霊の祝福もある―』
『変だけど、取り換えてほしいー』
いや、一体なんで?
「どうして取引の事を知ったの?」
道端にしゃがみこむようにして俺は小さなリスの魔物に声をかけた。もう、土精霊の祝福の事は考えない事にしよう。きっと取引に関しては自然に発動する仕様になっているんだな。多分。
『魔石とも交換出来るって見てたー』
『コッコと知り合いー』
『仲間が教えてくれたー』
ああ、そうなんだ。
「それで何と何を取り替えたいの?」
『うんと、これー。この前掘っていたら見つけたー』
『古い金貨ー。人には価値があるってー』
『あと魔石もー』
どうやら群れの代表者らしい三匹のラタトクス達は、少し間延びをするような口調で説明しながら魔石と金貨を出した。
鑑定すると魔石は『サイクロプス』という一つ目の巨人のもので、ラタトクス達が倒したらしい。五つもあった。というかこの森にはそんな魔物がいるのかって少し怖くなったよ。
表面がうっすらと金色に光っているような不思議な魔石だった。
そして金貨はそのサイクロプスが守っていたものらしい。その辺りを掘り返していたら出てきたから持ち帰ったという。どうやらこの中の一匹が収納持ちらしく、古い袋のまま見せてくれた。
今は滅んでしまった国の金貨なので、骨董みたいな価値がつくかもしれないし、金としての価値しかないかもしれない。さすがに鑑定ではそこまでは分からなかった。それでも金は金だ。最低その価値はあるだろう。
「これ、結構あるけど。何がほしいの?」
『果物とか木の実とかー』
『神気の高いところのがいいー』
『美味しいのー』
俺とコパンはそれぞれの収納を覗き込んだ。
木の実はとにかく食べられるものという勢いで最初の頃によく集めていた。
果物もだ。
「ええっとね、俺達が持っているのはこんなものだよ。気に入ったのがあればいくつくらい欲しいのか言ってくれ」
クリ、マテバシイ、ムカゴ、キノコ各種、グミ、コケモモ、アケビ、サルナシ、マルベリー、クサイチゴ、ブドウ、メロン、スイカ、バナナ、オレンジ、リンゴ、ブルーベリー、マスカット、パイナップル、マンゴーを並べるとラタトクス達の目が輝き始めた。
『全部! 全部食べてみたい!』
『これ! これがいっぱいがいい!』
『こっち、こっちも多めがいい!』
という事で、全て十個ずつ。ただし、クリとマテバシイ、キノコ各種、ブドウ、リンゴ、雑穀類は沢山欲しいとなり、俺は【補充】をしながらそれらを用意した。良かったよ。アルクタランチュラの綿麻の糸で袋を作っておいて。何かに役立つかなって時間がある時に作っておいたんだ。魔法で。だって巾着みたいな袋が本に載っていたからさ。
『良い取引が出来たー』
『また機会があったらお願いしたいー』
『クルミも欲しかったー』
うん。三者三様だね。そして小さなガラスの玉みたいなものを渡されたよ。
『これは縁を繋ぐものー』
『目印と協力の証ー』
『困った事があったら助けるー』
「ありがとう」
なんだか商人の真似事をしているみたいだなって思った。でもこんな関りは嫌じゃない。
騒がしかった森との境が一気にシンとなった。
「今日はなんだか面白い日になりましたね」
「うん。なんだかさ、こっちに来てからコパンとだけしか関わる事がなかったけれど、これからどこかの国の街に行くために練習をしているみたいな感じだったよ。まぁ魔物たちは皆個性的だけどね」
「ふふふ、そうかもしれませんね。アラタ様は冒険者も商人もきっと出来ますよ」
「ははは、そうだね。色々試して一番いいと思うものを目指していこう。一緒にね」
「はい!」
その後は魔物に話しかけられる事はなく、俺たちは予定通り日が傾き始めたばかりのまだ明るいうちに拠点に戻った。そして俺はコーヒーを、コパンは久しぶりにバナナとブルーベリーのスムージーを飲みながら、夕食の準備を始める前に少しだけ東の国の話をしてもらう事にした。
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リス、書いていて楽しかったーwww




