1 お祈りメールの嵐
「よぉ~し、一気にいくぞ」
俺はそう言って目印を付けた四本の木を見た。
「準備はいい? コパン」
「大丈夫だよ、アラタ」
「じゃあ魔力を練って……『開墾』!」
その瞬間、目印の中にあった木が一気に抜けて空を飛ぶ。
「コパン! 空間に入れておいてくれ」
「おまかせあれ~!」
宙に浮いた何本もの木はあっという間に消えて、俺たちの目の前には綺麗な畝が出来ている畑が広がっていた。
「成功! さて、ジャガイモを植えるか」
「アラタ、トウモロコシと果物も欲しい」
「う~ん、半分はトウモロコシとイチゴにするか!」
「やったー」
言葉にすると何もなかったそこにイチゴとトウモロコシの苗、そしてジャガイモが植えられていた。
組み合わせを考えずに植えられるのはありがたいなって思う。
そんな俺の目の前でコパンが出来立ての畑に雨を降らせて、小さな虹が見えた。
「では今日の仕事は終了! 湖で魚でも獲ろうかな」
「ムニエルがいい。ムニエル!」
「おまかせあれ~!」
そう言って俺たちは弾けるように笑った―――……
◆ ◆ ◆
202×年 日本 某都市
「あ~、またお祈りメールかぁ……」
部屋に戻ってきたのを見ていたかのように知らせが入ったスマートフォン。開いたメール画面を見ながら、俺、谷河内 新はがっくりと肩を落とした。
もうすぐGWだけど、俺の心は真っ暗だった。
なぜかというと、ただいま就活の真っ最中。大学四年生のこの時期に俺は未だに一つの内定も取れていないんだ。
友人達の大半は三年生の間に内々定をもらっている。去年のインターンシップで早々に内々定を手にしている奴もいた。
もちろん俺だってインターンシップはしっかり参加をしたさ。だけど早期内定の実は結ぶ事なく、三年生の三月には各企業からの公式情報も出て、荒波に巻き込まれているうちに海岸に打ち上げられてしまった感じなんだよね。
「はぁ~~~~」
思わず落ちた大きなため息。
某連合会が定めている選考開始は6月なのに、就活サイトの統計によるとその時期には九十パーセント以上の学生が一社以上の内定をもらっているとか。
「一社以上ってなんだよ」
掛け持ちで会社に行くわけじゃないんだから、早く一社に絞ってその椅子を他に回してほしい。
気づいたらブラックな会社しか残っていませんでしたっていうのも辛いじゃないか。
「もっともブラック企業の見分け方なんて、正直入ってみないと分からないもんなぁ」
運良く会社に入れたとしても、帰りが毎日サービス残業なんて事になったら目も当てられない。
景気は上向いてきているっていう人もいるけれど、正直そんな感覚はない。バイト代は上がらないし、物は値上がりしたまま下がらない。
「…………次の面接、考えなきゃなぁ」
そしてバイトもしなければならない。受けている会社が通ったら、また引っ越しだ。
「はぁぁぁ」
重ねられたエントリーシートを眺めて俺は再びため息をついた。
別に大企業を狙っているわけじゃないんだ。でも堅実に働いて給料をもらってちゃんと暮らしていけるようであってほしい。一応これでもコミュニケーション能力はそれなりにある筈なんだよ。
それに昔からなぜか年配の人には可愛がられた。だから面白いアイデアを出すよりも、その面白いアイデアを売り込む方が性にあっていると思うんだ。そしてそれを必要としている人のところに届けられたら嬉しいなって思う。
「……大丈夫、どこかに俺に合う会社がある筈だ」
友人が聞いたら鼻で笑いそうな言葉を口にして、俺はギュッと唇を噛み締めた。甘いとか理想を追いているとか、夢を見ているなんて言われてしまうかもしれない。だけどそう考えなければこんな事続けていかれないだろう?
だから大丈夫。必ず見つかるって信じている。信じるから次のエントリーシートを送って、他の会社も調べて……
ああ、GWものんびりは出来そうにないなぁ。
大好きな異世界物のライトノベルを読む時間も取れそうにない。
そんな事を考えた途端、インターフォンが鳴った。
「うん? なんか注文したかな?」
そう呟いた途端、ものすごい勢いでインターフォンが鳴り始めた。こんな事をするのは一人しか思いつかない。
「こら! やめろ環!」
そのまま確かめもせずにドアを開けると。
「何よ。いるならさっさと出なさいよ」
そう言って当たり前のような顔をして入ってこようとしているのは、妹の環だった。
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