5 城に到着
今夜は久しぶりに鎧を脱いで眠ることができたので、翌朝は日が昇ってから起きて出発しました。朝食は塩味のミルクティーとパンでした。朝食を終え、二刻ほど進むとアチリス城に到着しました。
アチリス領は繁茂した大木のようなもので、幹はアキスオポリス川の下流の広い谷地です。上に行くほど谷地は狭くなり、最終的には山中に四つの谷地が枝のように伸びています。谷地の間には高山で、森林と草原が広がっています。谷地には畑や牧場が点在し、川沿いから森林の縁まであちこちあります。人々は谷地の小さな村や城に住んでいます。アチリス城は枝と幹が結ぶところ付近に建てられており、その城下町は領内で最大の都市です。
アチリス城は領内最大の城で、二つの川が交わる小丘に建っています。城全体は灰色の石灰岩で築かれ、まるで高い石山のようです。城には五階建ての三つの円塔があり、塔の間はおよそ二階建ての石壁でつながっています。城壁内には食堂、倉庫、兵士の宿舎と小さな教会などの建物があります。城の東西には二つの大門があり、西門の外には城下町があります。城下町は高さ約三メートルの石壁に囲まれ、多くの木製の矢倉が建っています。城下町の西側はアキスオポリス川、東側には生活用水と灌漑用水路を兼ねた堀があります。その外側には金色の麦畑が広がっています。
城下町の南門の外にはアキスオポリス川の桟橋があります。アキスオポリス川を南に下ると、二日ほどでカラティス城に到達し、さらに下ると帝国の首都キラニに行けます。桟橋には数隻の木製貨物船が停泊しており、ワーグ討伐に出発している間に商隊が到着したようです。
塔の兵士が手を振ってきたので、こちらも手を振り返しました。城の東門が開き、赤いドレスを着て三つ編みを二つした小さな女の子が駆け寄ってきました。これは我が可愛い妹のイリアスです。
私は馬から降り、イリアスは「クリュー兄さん!」と叫びながら飛びついてきました。私は彼女を抱き上げて二回転し、彼女の頭を撫でました。イリアスは今年四歳で、私の腰までしか届かない可愛い盛りです。アネモス兄さんも馬から降り、リサンドス様が兵士を率いて城に入るよう指示しました。イリアスがアネモスとエレニに抱きついた後、私たちは塔にある小さい食堂に向かいました。
この食堂は領主の一族専用です。食堂に入ると、母親であるアリスティスが大鍋をテーブルに置くところでした。母親が微笑して、まずアネモス兄さんと抱き合いました。「お疲れ様、あなたが素晴らしい仕事をしたことを聞いたわ!」と言いました。そして私と抱き合い、「クリューがワーグに襲われたと聞いたけれど、無事で本当によかった!」と言いました。本当に、城を出てから数日しか経っていないのに、まるで長い時間が過ぎたように感じました。母親とイリアスに再会できて本当に嬉しいです。
母親は鍋の蓋を開け、香ばしい蒸気が立ち上がり、中には鶏の煮込みがありました。この料理は、まず鶏の骨を取り出し、玉ねぎ、セロリ、人参を加えてスープを作ります。そして胡椒と塩で味付けした鶏肉に小麦粉をまぶしてバターで炒め、鶏肉を炒めた油でさらにキノコと人参を炒め、ワインとトマトを加えて煮込み、最後にスープと鶏肉と香料を加えて煮込んだものです。手間がかかるので、普段は祝日にしか食べられません。
「父さんは客人と食事するので、始めましょう!」とイリアスが待ちきれない様子でした。
「そうね、早く座って。」と母親は促しました。
私たちは順番に座り、母親は農耕と食物の神に食前の祈りを捧げました。侍女が鶏の煮込みを私たちの木の碗に盛り、パンのスライスを皿に置き、銅のポットにミルクティーを注ぎました。アネモス兄さんだけにはビールが一杯出されました。そうだ、彼はもう15歳で、酒を飲める年齢になったんだ!
「いただきます!」祈りが終わると、私はすぐにフォークで鶏肉を口に運びました。ああ、この豊かな香料の味!バターと鶏肉の香り!初めての討伐の終わりの記憶としてはぴったりです!
「これは今朝村から送られた松鶏ですよ。養鶏じゃないですよ。」とイリアスが特に「松鶏」という言葉を強調します。新しい言葉を覚えたことを自慢しているようでした。
「わあ、今日の煮込は特別美味しいと思ったら、松鶏を使っているんだ!」とエレニも目を大きく開いて感嘆しました。
「ゆっくり食べましょう。夜には祝宴もあるんだから。」と母親が笑顔で言いました。
アネモス兄さんは討伐での自分の勇ましいを母に熱心に話し、私が一匹のワーグを倒したことも話しました。実際は私が旗を上げると命じたのに、今ではこの機会を特別に私に譲ったと言っています。母親は微笑みながら話を聞き、時折頷いてアネモス兄さんを励ましました。
「クリューセース、初めての遠征の感想はどう?」と母親が突然私に尋ねました。
「疲れたけれど、とても面白いです。兵士や騎士さんと話した後、武器がそのようで作られる理由がより理解できました。今後の仕事に役立ちます。」と私は答えました。
「クリューセース、君は男爵の息子で、他の貴族に仕える文官や軍官になることもできるのに、将来はずっと鍛冶師として働きたい?」とアネモス兄さんが尋ねました。
「鍛冶師も悪くないと思うよ。鍛冶の仕事が好きだし。それに貴族の交流の仕方は私には難しすぎる。」と私は鶏肉をフォークでつまみながら答えました。貴族同士の挨拶は主に古典語。そして前世の記憶のせいか、私は貴族の礼儀や交際に不器用です。その反対で、手工芸には長けています。前世でも複雑な人間関係を理解するのが苦手でした。
「母親の元で数年間学べばできる。それに何もできないと領地の恥になる。」とアネモス兄さんが言いました。母親は前代カラティス伯爵の妹と領地の文官の娘で、カラティス城で育ちました。彼女は城で最も優雅な女性と言われます。
「私は領地を継ぐつもりはないし、貴族と接するにはどうでもいいでわないですか。」と私は言いました。アネモス兄さんはいつも私に貴族らしい振る舞いを求めますが、私は将来貴族になるつもりはありません。もし私は本当に跡継ぎになりたいなら、アネモス兄さんに迷惑をかけるじゃないかと思うのです。
「お前はずっと領地にとどまるわけにはいかない。数年後、カラティス城の学院に通わなければなりません。もし他の領地は君を舐めるなら、領地も困る。」とアネモス兄さんは譲りません。
「伯爵も私のことをよく知っています。きっと学院にも伝えてくれるでしょう。」口に出すのが辛いですが、私は社交場には向いていないし、会話に入り込めなかったり、伯爵に質問されたときにどう答えればいいのかわからなかったりしますが、一対一の会話ならそれなりにできます。ここ数年間、読書のために伯爵の城に行き、城の図書室に夢中になりました。その結果、伯爵とも親しくなりました。鍛冶工房での修行のことも伯爵が父親を説得しました。
この地域の人々は基本的になんにもこだわることはしません、ただのんびり生きるのは十分です。飯を食って、もし酒を飲めるなら更に満足しています。兵士や騎士たちは名誉を求めていますが、母親の求めは父親です。アネモス兄さんだけが理想の貴族を目指しています。そして彼は自分に厳しく要求するだけでなく、周囲の人々にもよく説教します。最近私もその犠牲者の一つになってしまいそうだ。
「母親もクリューセースを説得しませんか。」とアネモス兄さんは母上に助けを求めました。
「それも悪くはないわ。わたくしはただあなたたちが幸せに生きられることを願っています。クリューセースも自分の選択を後悔しないように。でむ領地の訓練を逃すのはいけない。それは領主の息子としての義務だからね。」と母上は言いました。
食事はすぐに終えました。私は最後にパンでボウルをきれいに拭いてやりました。その後、エレニが眠いと言い出したので、母上とイリアスが彼女を城の客室に連れて行きました。私はドリアン師匠のところに行って修行完成の儀式を行おうと思いましたが、ロビーを通り過ぎるときに父親に呼ばれました。
ロビーには既に四人がいました。父親の隣は領地の侍従長であるチャリトン様です。もし私が家が王室ならば、彼の地位は首相に相当します。チャリトン様もリサンドス様と同じ、アチリス領地の名誉騎士です。テーブルの上には通常のミルクティーではなく、今年出荷ばかりの紅茶があり、砂糖缶も置かれていました。ビスケットと領地特産のメープルシロップもあり、バターの匂いが漂っていました。
「クリューセース、よく戻ってきました。こちらはニキタス商会の方々です。こちらはキノン様で、今年からうちの領地の業務を担当することになります。キノン様もカラティス伯爵に仕える名誉騎士です。隣の方はフィスで、彼の副官です。」父親が紹介しました。
去年まで私たちの領地を担当していたニキタス商会の幹部は別の人だったことを覚えています。キノンは父親よりも少し年上のように見えます。白髪が黒髪よりやや多い、ひげも丁寧に手入れるように見えます。彼は派手な赤い毛羽織を着ています。フィスはキノン様より一層若いそうです。茶色の巻き毛の中には白髪は一本もなく、キノン様のような派手な服ではなく、比較的地味な服を着ています。商人にとって、華麗な外見は騎士の武器と同じくらい重要だと聞いたことがあります。従ってキノン様たちは優秀の商人ですね。
「キノン様、フィスさん。初めまして、アチリス公爵の次男、クリューセースと申します。どうぞよろしくお願いします。」と私は左手で胸を叩き、彼らにお辞儀をしました。相手が本物の貴族様ではないので、強い緊張感が感じない。よし。
「初めまして、キノンです。今年からニキタス商会アチリス支店の担当者として、ここの業務を努めます。この方は私の副官のフィスです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」とキノンも私に一礼しました。フィスも後で自己紹介をしました。
挨拶も無事完了、私はこれで失礼してもいいでしょうか。でも父親は私にソファに座ると命じた。
「ニキタス商会は普通の商会ではありません、カラティス伯爵の代理人である。伯爵が直接関わりたくないことは何でもニキタス商会に依頼します。君が鍛冶師として生きるなら、これから彼らとの交渉も学ばなければなりません。」と父親が説明しました。
帝国では、辺境の貴族は主の命令を従う、そして領民を守ることです。他の事務、特にお金が絡む場合は一般的に貴族のイメージを損なうものと見なされます。そのため、大貴族は自分たちの商会を設立します。そのような商会の支店は領主の窓口としても機能し、支店の責任者は領主の代表としての性質も兼ねています。
私は以前チャリトン様から聞いたことがあります。大領主の商会は一般的に領内の物産を買収することについてあまりこだわらないとのことです。封臣や直属領地の農民から低価で買収するなら、徴税も難しくなる。その時領主も困ります。そのため、父親のような領主にとって、ニキタス商会はカラティス伯爵の連絡経路であり、商会を通じて遠くの情報の収集、領地物産の買収、領地外に行っても支援を得ることができ、色々な機能があります。
チャリトン様とキノン様は今年の穀物価格について話し合っています。キノン様によると、南部では今年大規模な洪水に見舞われ、水田に大きな損傷が起こるそうだ。しかし、皇帝陛下がまだ新しい城の建設を止めないことであり、今年も辺境の貴族たちに増税するようだ。
領民は通常領主に食糧や家畜を税金として納めていますが、領主は皇帝に税金を納めるために物産を通貨に交換しなければなりません。今年帝国北部では豊作ですが、税金を支払うために、各地の貴族は秋で穀物と家畜を市場で売らなければなりません。だから秋は一年中穀物の値段が一番低い時期です。豊作の年は更に低くなります。でも今年南方は凶作ので、今年の穀物価格は昨年とほぼ同じだと思われます。
「したがって、収穫祭の後、我が商会は小麦を1ブールあたり20銅リネで、大麦は1ブールあたり15銅リネで購入する予定です。」とキノン様は言いました。
「ありがとう存じます。これを知ることで、他の商会との交渉がより安心できます。」とチャリトン様は茶杯を持ち上げ、一口飲みました。彼は「やっと安心したな!」という表情をしました。
「ただし、あまり多くの穀物を売らないほうがいいでしょう。秋には穀物価格が一年で最も低くなります。アチリス領地が多く売ってしまうと、逆に価格がさらに下がってしまいます。倉庫があるなら、来年まで貯蔵するほうが良いでしょう。食糧不足は冗談ではありません。もし売れないし、食べきれない場合は、酒の原料としても使えます。」とキノン様が補足しました。
「もちろんです。現在城や村の倉庫はもういっぱいです。領地の食糧は二年分あります。毎年秋には、新しい穀物で倉庫の古い穀物を置き換え、交換された穀物は酒造りに使います。毎年穀物の価格が変化しますので、穀物を熟す前に売ることができれば、毎年秋に価格の問題について悩まされることもあります。」とチャリトン様はお茶を飲むながらそう言いました。
会話はまもなく終わりました。父親と私はキノンたちを城門まで見送りました。私は父親から潜んで城下町にあるドリアン師匠の工房に向かいました。アルトロとファビオラもそこにいました。彼らもドリアン師匠の弟子で、今年はそれぞれ9歳と10歳です。アルトロは赤い短い髪の毛を持っていますが、ファビオラはオレンジ色の長い髪の毛をしています。彼らは作業着を着ており、エプロンを身に着けています。
「クリューセース、よく戻ってきた。剣と弩はどうだった?手応えはどう?あなたの鎧も。」とドリアン師匠が尋ねました。
「剣については、アネモス兄さんはあまりにも華やかすぎると言って、今回は使わなかったそうだ。鎧と弩のおかげで生き延びました。」私は言いながら、弩の残骸と腕当てを作業台の上に置きました。エレニの左腕当てのことを忘れてしまった。後は回収しないと。
「腕当ては修理できると思うが、弩は完全に壊れそうた。」とドリアン師匠が言いました。
私はワーグとの戦いを大まかに話しました。弩の矢がワーグの頭蓋骨を貫いたと言ったとき、ドリアン師匠と弟子たちは目を見開きました。ワーグに噛まれた腕当ての話をすると、彼らは再び私の右手に目をやりました。
「あの剣を卒業作としてはもう一人前と言えますが、その弩はより優秀な作だ。もう何も教えることはありません。次は修行終了の儀式を行おう。」とドリアン師匠は言いました。
通常、見習いはこのように早く修了することはできません。幼いころから師匠に従事し、数年間は雑用をすることになります。したがって、通常若い見習いは少なくとも20歳以上になるまで修了しません。
しかし、私は領主の一族でもあります。昔父親がドリアン師匠をカラティス城に修行させ、この鍛冶工房も父親が投資したものです。だからここに他の地域では見られないほど多くの設備があります。だから私は父親を説得して、これらの年月でドリアン師匠に指導してもらいました。もちろん私もドリアン師匠にとても尊敬しています。
「では、これは鍛冶師組合の徽章です。これを身につけ、鍛冶の神に祈ろう。」とドリアン師匠が言いました。
私はドリアン師匠から徽章を受け取り、衣の襟に留めます。そしてドリアン師匠に続いて工房の角にある鍛冶の神々の像の前に行きました。アルトロとファビオラも後ろに続きました。ドリアン師匠は右手を拳にして胸に当て、鍛冶師の礼をしました。「鍛冶の神よ、今日、わが鍛冶師に新しい人物が加わりました。彼に丈夫な腕と発達した頭脳を与えてくれ。」と祈りました。
「私は鍛冶の神の前で誓います。鍛冶師組合に加わり、誓いを守り、農民のために農具を作り、貴族のために武器を作ります。あなたの祝福が永遠に私と共にありますように。」と私もドリアン師匠に続いて礼をしながらそう言いました。
その後、ドリアン師匠は私を立たせ、小さなハンマーを手渡しました。これは鍛冶師の慣習であり、師匠が修行の最後に弟子に与えるものです。私はドリアン師匠に抱きつきました。いや、泣き出しそうです。
「カラティスの鍛冶師組合に手紙を書きました。君の免許状はこれらの数日で届くはず。これからも順風満帆でありますように。前に言ったように、以前ここで錬金術師から聞いた鋼の製造法を試したいと言ったが、いつから始めるか?」とドリアン師匠は言いました。
「今夜は祝勝会があるので、明日から設計図を描き始め、事業費を見積もります。そして父おなから予算を申請するつもりです。そうだ、設計図を描くために、アルトロとファビオラを少し借りられますか?」




