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4 凱旋

私が立ち上がった瞬間、イナヅマが戻ってきて私の手を舐めました。リサンドス様が私にうなずき、馬に乗って騎兵たちを指揮し、周囲に残っているワーグがいないか捜索を開始しました。しばらくしてアネモス兄さんが数名の軽騎兵を率いてやってきました。

「初めての戦闘はなかなか上手くやったじゃないか。大怪我もせず、ワーグを一頭倒したって?」とアネモス兄さんが言いました。

「腕当てがワーグの歯を防いでくれたから、でなければ手が切断されていただろう。」

「リサンドスから聞いたんだ、弩でワーグを倒したのか?」

「そうだ、でも弩はもう壊れてしまった。」私はワーグに押しつぶされた草地を指しました。さき役に立った弩は、ワーグが襲いかかってきたときに下敷きになり、完全に壊れてしまいました。鋼製の弓の部分は曲がり、機械部分も折れ、上弦機構も見るも無惨な状態です。もう復旧出来なく、完全に作り直す必要があります。

「鋼で作った弓の力は牛の腱と角でできた複合弓よりもずっと強い。この小さな弩がワーグの頭蓋骨を一発で射抜くとは驚きだ。我々の領地の兵士が皆この弩を持てれば、魔物の侵入も恐れることはないだろう。」アネモス兄さんはワーグの頭骨を見て感嘆しました。

「でも作るのが大変なんです。この弩を作るのに一か月以上かかりました。結局実戦では一発撃っただけで壊れてしまった。アネモス兄さん、父親に頼んで、城の近くの小さな谷に水力発電所を作るように説得してくれないか?あれがあれば、この弩を量産できるんだ!」

そうだ!前世と今で最も違う点は確かにテクノロジーだろう。ここには石炭も石油もないが、アチリス男爵領は山に囲まれており、水力資源だけが豊富だ。現在も領地内には水車や水磨が至る所にある。これからさらに進めて、小型の水力発電所を作りたい。そうすれば電動工具が使えるようになり、鍛冶がもっと便利になるのだ!

もちろん、私はこの時代を変えるつもりがない。山での生活をもっと快適にしたいだけだ。ついでにお金が稼げればもっと良い。

「それも領地の産業になるかもしれない。今年も皇帝と伯爵からの税収の要求が増えたので、父親も頭を悩ませている。」兄さんはため息をつきました。

「領地が売る穀物も増えるで、商隊がその機会に買い付けの値段を下げるだろう。でも、南方で今年水害があったと聞いた。穀物の値段が上がるだろうから、領地の小麦も良い値段で売れるかも。兄さんが学院に行ったら、首都で儲かる産業を探してくれるか?」

帝国全域にでは、秋は収穫の季節であり、税収の季節でもある。皇帝陛下は直轄領に税務官を派遣して直接税を徴収し、封臣たちにも税を納めるよう要求する。カラティス伯爵は皇帝陛下の封臣であり、税を納める義務がある一方、アチリス男爵から税を徴収する権利もある。しかし、カラティス伯爵領周辺の特産品はほとんど同じで、収穫の季節には家畜や穀物が大量に出荷するため、商隊は常に秋の買い付け値段を下げるのだ。

「そう願いたいな。我々の領地に適した作物を見つけて、隣接する領地とは違うものを育てる。何かアイデアはあるか?」

「我々の伯爵領の農耕条件はほぼ同じだから、儲かるものは他の領地でも育てられるし、最終的にはまた商隊に値を下げられるだろうな。」現実はいつも厳しい。

「他の領地が育て始める前に、我々が先に育て始めればいい。数年後に他の領地が育て始める頃、我々は数年の利益を得ている。わずか数年間だけど、領地の財政も豊かになる。」

「そうなら、カラティス城の図書館で本を読んでいるときに、訪ねた錬金術師と話したんだが、世の中には砂糖を精製できる大根があるらしい。帝都に手がかりがあるかも。」もちろん錬金術師というのは嘘で、前世の「ビート」のことだ。

「砂糖は確かに高級品だ。記録しておこう。帝都に行ったら探してみる。」アネモス兄さんは持っていたメモ帳と鉛筆を取り出し、書き留めました。

遠くから「おい!」という声が聞こえてきました。エヴァンデル様たちがやってきたのです。エレニも彼の部隊にいました。アネモス兄さんは彼らに手を振り、エヴァンデル様が馬を走らせて駆けつけました。

「エヴァンデル、お疲れ。俺たちはさっきワーグの群れと戦って、八匹を倒した。そっちはワーグに遭遇したか?」とアネモス兄さんが尋ねました。

「俺たちは二匹の斥候らしいワーグに遭遇した。もう片付けた。俺たちの部隊は無傷だ。山からここまでの足跡を調べたが、今回は十匹しかいなかったようだ。全部片付けたみたい。」エヴァンデル様が言いました。私はこのとき初めてエヴァンデル様の槍の先に血がついているのに気づきました。エレニの皮甲にも血と黒い毛がついていました。

「分かった。念のため、君は部隊を率いて、周囲に残りのワーグを捜索してくれ。二刻後にここで集合しよう。」アネモス兄さんはエヴァンデル様に命じました。

「承知!」エヴァンデル様は振り返って部隊に命令を出した。私はその隙にエレニに手を振りました。エレニは私の左手の甲の破れた穴と、地面に横たわるワーグの頭の破れた穴を見て目を見開きましたが、そのままエヴァンデル様について行きました。

アネモス兄さんは私とその場にいた軽騎兵にワーグの死体を片付けるように命じました。私はワーグの毛皮を剥ぐようになりました。ワーグの皮が嫌いです。その硬い毛が手に刺さるし、恐ろしい歯を思い出させるからです。しかし、大きな皮はテントやカーペットに使えるし、毛はブラシに使えます。辺境での生活にとては貴重な資源です。

私たちは集合までずっと忙しくしていました。その間、パトロールを終えた仲間が次々と手伝いに来て、集合前にようやく終わりました。ワーグの皮を巻いて束ね、駄馬の背に乗せました。ウルフライダーたちも次々と戻ってきて、フェンリルたちは解放されると喜んでワーグを夕食としてかじり始めました。

周辺でパトロールする部隊が他のワーグを見つけることはなく、私たちは砦への帰路に就きました。私は壊れた手弩の残骸を慎重に袋に入れました。ワーグの死体は草原にそのまま残され、やがて狼や熊に食べられることでしょう。

私たちは日が暮れる前に砦に戻り、そこで一晩過ごしました。翌日、砦を出発して城に向かいました。エヴァンダー様と騎士領の兵士たちはまだ砦に勤務を続き、エレニだけは城に戻る私たちと一緒に行きました。彼女は元々城から強引に同行してきたのです。

帰り道ではワーグを討伐する必要がなかったので、行軍の速度も遅くなりました。事前に伝令を送り城に知らせ、正午を過ぎて森を抜けました。途中、森の中でいくつかの無人のキャンプに出会いました。それは伐木や猟師と豚飼いのキャンプです。そこで樹を伐採し、木材を小川に投げ込んで下流に運びます。しかし、最近は収穫の時期で、人々は穀物の収穫を手伝うために帰っており、キャンプは春まで再び賑わうことはありません。

森は領地にとって重要な資源です。昔からずっと、私たちは森を大切に守ってきました。領地には多くの規則があります。例えば、春には狩猟に入らない、そして森を伐採した後に木を植えること。伐採は区域ごとに順番に行い、完全に伐採されない場所も多くあります。私たちは今も森の恩恵を受けており、もし森がなければ木材もなく、鍛冶工房も鉄を作ることができず、冬には暖炉の薪もなく、生きていけないでしょう。

森を抜けると緩やかな谷に入りました。谷の中央には森から流れる小川があり、時折水車を見ることができます。小川の両側は緩やかな斜面で、現在は金色の大麦や小麦が植えられており、村人たちは収穫に忙しいです。もっと高い場所にはトウモロコシが見えますが、収穫期はまだ一週間あるので、今は人気がない。村は谷の斜面に建てられ、外側には家畜の冬の小屋があり、普通の家より低いですが、とても長いです。中央には石の壁があり、村人の小屋はその内側に建てられています。石壁の一側には大体四階建ての方形の石造りの見張り塔があり、塔の頂に警告用の烽火台があります。

ここは北の辺境で、冬の気候は厳しいです。そのため、農作物は主に小麦と大麦で、他にキャノーラ、大豆、ヒマワリ、トウモロコシなどもあります。そのおかげで、領地内にビールはまるで水のように豊富です。農民たちはまた、散在する土地で野菜や果物を育て、水を引きにくい急斜面では高粱などの雑穀を育てます。

農業の他に、牧畜業も重要です。アチリス男爵領はほとんど山地で、谷でしか穀物を育てることができません。森では豚を放牧し、高山の草原では牛、羊、馬を放牧し、休耕地にはクローバーや豆類を植えて家畜の飼料としています。そのため、羊毛、肉製品と乳製品も領地の大きな収入源となっています。

今は収穫の季節であり、畑の穀物の収穫、余った家畜のと殺、冬用の薪や家畜の干し草も蓄える必要があり、どこも忙しいです。そのため、私たちは道中の村にはあまり立ち寄らず、村長に挨拶だけして出発しました。黄昏時にようやくナオサ村に到着しました。ここは城に近いで、ここで一晩過ごすことにしました。村長は塩を加えたミルクティーを出してくれました。

アチリス領地周辺のミルクティーは粗茶で作られた茶砖を使い、ここに豊富な牛乳や羊乳を加え、バターを入れて煮込みます。煮る直前に山で採れた岩塩を加え、飲むときに炒った穀物を添えます。一口飲むと凍えた体が温まり、穀物がミルクティーに多様な食感を加えます。このミルクティーの原料は茶葉以外がすべてアチリス男爵領で生産され、ここでの郷土料理と見られます。

私たちはミルクティーを飲みながら持参した乾パンを食べていると、村の娘が今日作ったばかりのソーセージを持ってきてくれました。村長は今年の収穫についてアネモス兄さんと話し、私はエレニに手弩について聞かれました。

「普通の弩や私たちが使う短弓は、木片、牛角、牛筋で作られた複合弓です。この弩とその弓の違いは主に弓の部分にあります。複合弓の代わりに鋼片を使っています。馬上で弦を張るためにレバー構造を作り、安全のために用心金を追加しましたが、これはなくても大抵構いません。」私はミルクティーに炒り米を加えながら説明しました。

「だからこの弩の威力が大きいのは、木鋼を使っているからですか?うちの騎士領の鍛冶工房にも作らせるよね。」エレニは弩の大まかな構造を聞いてミルクティーを飲みながらそう言いました。

「難しいのは原材料ではありません。弓の鋼材は炭素含有量を厳密に管理する必要があるので、何度も鍛える必要があります。弓の部分はこんなに短いですが、この鋼材を鍛えるのに一ヶ月かかりました。」アチリス男爵領では質の良い磁鉄鉱が採れ、木炭も森を伐採して得ることができますが、この世界の製鉄技術はまだ発達しておらず、弓の要求を満たすには何度も鍛え直す必要があります。

しかし、電気があれば話は別です。送風機を使って人力での送風を代替し、転炉で安価な鋼材を生産し、電炉で速やかに生鉄を溶かし、電動工具で鋼を作ることができ、手で鍛える必要がなくなります。電灯も作れます。オイルランプよりも明るいです。電気時代万歳!

「よく分からないけど、クリューしか作れないってこと?」エレニは少し不満そうに尋ねました。

「理論的にはエレニうちの鍛冶工房でもできますが、彼が一ヶ月間この仕事だけをすることができますか?農具の修理や、他の武器を作る必要もあるだろう。」

「ふむ、どうすればいいの?」

「カラティス城で訪問した錬金術師と話したとき、彼は鋼を速く精錬する方法があると言っていましたが、多くの準備が必要だそうです。」もちろんこれは嘘ですが、錬金術師はとても便利です!

「では、私も父親にも助けを頼みます!」エレニは嬉しそうでした。

「うん、本当に助かります!今年の冬から準備を始めるつもりです。」私も嬉しくなり、大人たちが酒を飲むようにミルクティーの碗を互いに当てました。カンパイ!

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