3 ワーグとの戦い
アネモス兄さんは先頭に砦から出発しました。私たちの部隊は谷間の森を登り始め、ウルフライダーは偵察兵として散開し、警戒に当たった。フェンリルは遠くの匂いも嗅ぎ分けることができ、森林や山岳地帯でも自在に歩めるので、ウルフライダーはこの北の山地の斥候としては完璧だ。
南の平原地方の斥候は、グリフィンやペガサスのような飛行生物に乗っている。そのうちグリフィンは禁衛軍専用だ。グリフィンやペガサスは南部の平原や丘陵地帯で非常に役立つが、アチリス領付近は基本的に森に覆われており、空から森の中の軍隊を見つけるのが難しい。また山や谷が多く、霧も頻繁に見られるため、飛行ライダーにとっては非常に危険だ。したがって、このあたりでは、禁衛軍のグリフィンやペガサスを羨む人はいない。なぜなら、私たちは大陸で最も強力で美しいウルフライダーを持っているからだ。
太陽は昇っているが、朝の光が谷には届かず、森の下はますます陰気になった。私とアネモス兄さんは前後に並んで、雑談をしながら進んだ。
「もしワーグがここに来たら解決が難しい。この地形は馬には向いていない。ウルフライダーだけが素早く通過できる。だから俺たちはここで砦を建築し、その先の草地までパトロール隊を派遣、襲撃してくる魔物を早く発見する。草地は騎兵を活かす場所だ、あそこで要撃できる。クリュー、アチリス領主一族の責任を果たすために、領地の魔物の特徴を覚えておけ。」とアネモス兄貴は馬に乗りながら私に言った。
「わかりました。領地の歴史を見たことがありますが、ワーグが数年ごとに侵入するようです。ワーグはどのような生物ですか?」私は旗を掲げ、アネモス兄貴に近づいた。
「ワーグは一般的な魔物で、ここではよく見える。一見はフェンリルに似ているが、頭は猿のようだ。通常、数匹が家族を構成、一緒に活動する。互いに協力で、リーダの指示に従うこともある。彼らは通常、秋に領地に侵入する。それは家畜が最も太っている時期だから。先祖はこの地に来たとき、かなり被害を受けたが、徐々にパトロールと要撃の体制を構築、今ではワーグを撃退することは狩りとほとんど変わらん。ただし、狩りといっても一般的には成人のみが参加する。だから安全には気を付けてくれ。」と彼は言った。
すぐに安全第一の話題になる。今生の初めての戦いを楽しみにしていたのに。
「ちなみに、アネモス兄さんはすぐに帝都の学院に行く予定ですが、領地はどうするつもりですか?アネモス兄さんがいなければ、父親と母親はこのような多くの公務を処理できないでしょう。」私はそう言った。辺境の小さな領地でも、何万もの住民がいます。農作物や家畜の育成、教会の行事へ、カラティス伯爵の召集、税金の徴収や伯爵への納税、商隊との交渉、近隣領地との交流、城の維持、そして辺境の砦のパトロールなど、色々の仕事があります。アネモス兄さんはまだ未成年ですが、跡継ぎとして数年前から両親の負担を分担しています。今彼が領地を離れることになったら、私に彼の仕事をすべて引き継がせるのは難しいと思います。
「父親と母親が大丈夫だ。それに、有能な家臣もいるし。でも、クリュー、君も手伝わなければならない。君は跡継ぎではないが、父親も俺も、君が将来アチリス領地の管理を手伝ってほしいと思っている。」とアネモス兄さんが言いました。
「父親とアネモス兄さんがそこまで言うなら、領地に残ります。アチリスに大きな鉄工所を建てて、領地の兵士たちが禁衛軍よりも優れた装備を持てるようにしたいな。未来の男爵様、どうかご許可を!」基本的に私は将来に強いこだわりはない。今の生活は前世ほど便利ではないけれど、家族がいて、職場環境もはるかに良いからだ。
「そのためには、詳細な計画書を書かないと。」と兄上も笑いました。
「ところで、アネモス兄さん、帝都の学院ってどんなところですか?伯爵領の学院とはどこが違うんですか?」
「初代皇帝陛下の名で設立された学院だから、もちろん規模も大きく、壮麗だ。学生は皇帝陛下と主教聖堂の図書館を自由に利用できるし、教師も帝国の各界で有名な人たちだ。例えば、軍事学の実技教師は帝国の将軍だ。でも、帝都の学院には待遇の差もあるらしい。皇室、皇族、大貴族、貴族の封臣、平民、みんな同じ学院で学ぶけど、学院での地位や将来の進路には大きな違いがあるんだ。」
どうやら帝都も奥が深いなあ。帝都の学院に行かなくて本当によかった。
「アネモス兄さんならきっと大丈夫です。学院で学問を学ぶ、そして恋もすることを祈っています!」
僕たちはそんなふうにぽつぽつと話しながら進んでいました。馬は速歩で進み、一刻ほどで森の端に着きました。目の前には緩やかな丘が遠くまで繋がる。草地が広がり、木はほとんどありません。草は私の腿くらいの高さで、少し枯れかけていました。夏ではここは牧草地と一変し、牧民と動物で賑わっています。騎士たちはこの草地の奥にいる、麓のがれ場近くの臨時砦を拠点として勤務するのが、今牧民たちは冬支度のために山を下りていて、誰もいませんでした。
小川で水筒に水を補充し、あまり休まずにそのまま進みました。馬の背中で朝支給されたサンドイッチを昼食として食べました。天気は晴れていて視界も良好です。遠くには鹿や野ヤギが時折走り、熊や野狼も見かけました。
サンドイッチを食べ終えるとすぐに、前方からグググと音が聞こえてきました。アネモス兄上が右手を挙げると、全員が立ち止まりました。兄上とリサンドスが目を合わせてうなずき、次に皆に視線を向けました。隊全体が一気に静まり返り、空気が突然重くなったように感じました。
「どうやらウルフライダーたちがワーグの群れを発見したようだ。戦闘準備だ。」
アネモス兄さんの指示に従い、隣の軽騎兵たちがホイッスルを取り出して吹き始めた。「グーグー」という音が響き、遠くからも「グーグー」という応答があった。従軍神官がアネモス兄上の隣に歩み寄り、皆が彼らの周りに並んだ。従軍神官も剣を抜き、戦の神と守護の神に祈りを捧げ始めた。その瞬間、全身に力がみなぎり、感覚が鋭くなったように感じた。
皆が最後の準備を始めた。重騎兵は背中に背負っていた騎槍を手に取り、軽騎兵は短槍を取り出し、弓と矢を確認した。続いてアネモス兄さんが手を振ると、騎兵たちは彼とリサンドス様を中心に一列に広がり、再び速歩で前進し始めた。
「お前はリサンドスの後ろにいろ。」とアネモス兄さんが馬を進めながら言った。
そうして前進していると、視界の端の丘の上に一匹の黒い大きな狼が現れた。成人馬よりも一回り大きい。初めて生きているワーグを見たが、すぐにそれがワーグであると理解した。
「あれはワーグの斥候だろう。」とリサンドス殿が忙しい中でも私(新兵として)の教育を忘れなかった。
部隊はアネモス兄さんの指揮で全速力で進み始めた。私の心臓が早鐘のように打ち始め、喉が渇いた。私は唾を飲み込み、水袋を取り出して一口飲み、手弩を取り出して弦を張り、用心金を掛けて鎖帷子の胸の位置に掛けた。
ワーグが立ち上がった。すると突然、数本の矢がワーグに飛びかかり、頭と後脚に当たったが、頭を撃ち抜いた矢は弾かれ、頭蓋骨に当たっただけで外傷を負わせただけだった。数匹のフェンリルが近くの丘の陰から飛び出してきた。彼らは味方のウルフライダーだった。
ワーグは痛みの声を上げながら足を引きずって逃げようとした。ウルフライダーの一人が剣を持ってまっすぐにワーグに向かって突進し、ワーグが斜めに走ろうとすると、ワーグの背後の丘から別のウルフライダーが現れ、片手剣でワーグの首に刺した。ワーグは二度ほど身をよじらせ、そのまま地面に倒れた。
その時には、我々は既にこのワーグの近くに到着していた。部隊は小丘でいくつかの小隊に分かれ、ワーグが現れた丘を回り込んで前進を続けた。私はまだ痙攣しているワーグを一瞥し、その体が黒く染まり、不吉な気配を放っているのを見た。ウルフライダーたちも我々の隊に加わった。
前方の丘を越えると、遠くに七頭のワーグがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。先頭の一頭は先ほど倒されたワーグよりも一回り大きい、リーダーだと思います。斥候の声を聞いて援軍に来たのだろう。
アネモス兄上が手を振ると、ウルフライダーと軽騎兵は彼に従って側方へと移動した。彼の隣の騎手が小さな銅の号角を取り出して「ウーウー」と吹き始めた。これはエヴァンデル様との連絡の信号だった。リサンドス殿は「お前はここに留まれ」と言いながら、残った重騎兵に槍を構えるよう指示し、左手で盾を握り、肩を並べるような密集陣形でワーグ群に突進していった。
騎槍の威力を恐れたのか、ワーグ群は散開し、軽騎兵を包囲しようとしているように見えた。軽騎兵の速度は重騎兵よりもはるかに速く、この時点で既にワーグ群に近づいていた。すると軽騎兵は急に方向を変え、重騎兵に向かって進んだ。アネモス兄上が投げ槍を持ち上げ、軽騎兵たちは背中から短弓を取り出し、先頭のワーグとの距離が約20グになると射撃を始めた。
アネモス兄上が投げた槍は先頭のワーグに避けられたが、その体にはいくつかの矢が刺さり、速度が落ちた。その時、重騎兵も到着し、両翼のワーグ二頭が騎槍で腹を貫かれ、地面に倒れた。重騎兵は止まることなく、ワーグに刺さった槍を優雅に抜き取って遠ざかっていった。
残りのワーグは五頭で、そのうちの一頭は既に足を引きずっていた。二頭が軽騎兵を追いかけ、二頭がリーダーのワーグの周りで困惑していた。リーダーのワーグは軽騎兵を追いながら、ウーウーと叫び、周囲の二頭のワーグは速度を上げて軽騎兵を追い始め、追いかけながら後ろを振り返っていた。
リサンドス様が率いる重騎兵隊も戻ってきました。リーダーのワーグが孤立しているのを見ると、彼らはためらうことなく突撃を開始しました。リーダーのワーグは身を伏せていましたが、まるで動けないかのようでした。しかし、槍が体にもうすぐ届く瞬間に、ワーグは突然跳び上がり、槍を越えてリサンドス様に向かって飛び掛かりました。
リサンドス様はほとんど反射的に槍を捨て、左手で盾を持ち上げ、右手で剣を引き抜きました。隣の騎士も同じ方向に盾を構えました。リーダーのワーグは「オー」という声を上げ、リサンドス様の盾に飛び掛かりました。
リサンドス様は馬から突き飛ばされ、私は無意識に旗竿を草地に突き立て、左手で盾を、右手で剣を引き抜き、馬を駆けてリサンドス様の元へ向かいました。リサンドス様は馬鐙から足を引き抜き、衝撃の瞬間に剣をリーダーのワーグの肩に突き刺し、背中で地面に転がりました。
リーダーのワーグは重傷を負いながらもリサンドス様に向かって襲い掛かりました。リサンドス様は素早く横に避け、その敏捷さは人間の限界を超えていました。これが祈祷の力であり、従軍神官が神に祈り求める祝福が戦士に超人的な力を与えるのです。
重騎兵たちも引き返してきました。先頭の数人の騎兵がリーダーのワーグに槍を突き刺し、ワーグは再び「オー」と叫びながら地面に倒れました。危なかった!幸い味方は誰も傷つけはしませんでした。私は馬を引き、剣を鞘に納めて旗の方へ戻りました。遠くでアネモス兄さんが向かった方向からワーグの悲鳴が断続的に聞こえてきました。リーダーを失ったワーグは、個別に軽騎兵と戦うことになり、完全に対抗できないようです。
突然、視界の右前方の丘の草が不自然に揺れているのが目に入りました。その直後、一匹のやや小さなワーグがそこから現れました。目が合った瞬間、私は頭が真っ白になりました。なぜここにワーグがいるのか。
一瞬の間に、右手は反射的に手弩に伸び、左手は盾を放り出して弩矢の袋に手を伸ばしていました。ワーグもこちらに向かって走ってきて、口を大きく開けて白い歯と赤い舌を露わにしました。ワーグの頭に狙いを定め、私は冷静さを保ちつつ、手弩に弩矢をセットしました。ワーグはもう私から10グも離れていませんでした。ワーグが飛び掛かる瞬間を見計らい、私は用心金を解除くし、両手で手弩を持ち、ワーグの頭と弩矢の照準が重なる瞬間に引き金を引きました。
「シュッ!」と弩矢が発射され、私は反動でわずかに仰けました。弩矢が飛び出す様子を見つめる中、ワーグが飛び掛かってきました。時間が遅く流れるように感じ、ワーグの開いた口が迫ってきました。左手を高く上げましたが、盾は既に放り出していました。次回は盾を手に固定しておくべきです。
弩矢はついにワーグの額に命中し貫通しましたが、ワーグは止まらず、私に飛び掛かってきました。私の左腕はワーグに噛まれ、体当たれました。幸いリサンドス様のように馬鐙から足を引き抜き、イナヅマに輪拍で信号を送りました。イナヅマが前に突進し、私はワーグに突き飛ばされて地面に倒れました。左手に何かが折れる音がします。骨折したかもしれません。守護神よ、私の折れた手が治りますように!
私はリサンドス様のようにうまく受身できず、背中から草地に叩きつけられました。痛みが走り、守護神の加護がなければ背骨が折れていたかもしれません。ワーグは動かなくなりましたが、まだ私の左手を噛んでいました。頭から白い液体と赤い液体が出ていて、気持ち悪い!
「クリュー坊や!」リサンドス様の声が聞こえました。手はまだワーグに噛まれていて、全身が痛み、すぐには応答できませんでした。馬蹄の音が近づき、「シュ」と騎槍が柔らかいものに突き刺さる音がいくつしました。誰かが馬を降り、リサンドス様の声が響きました。
「クリュー坊や、ご無事ですか!」
「左腕の骨が折れる音が聞こえましたが、あまり痛みを感じません。おそらく折れています。」
リサンドス様は騎兵たちに周囲を警戒させ、馬を降りた騎兵と一緒にワーグを持ち上げました。リサンドス様の笑い声が聞こえた気がしました。その後、小刀でワーグの上下顎の筋を切り、私の左手を解放しました。
「いいえ、クリュー坊や、鎧があなたを守ってくれました。鎧にはワーグの歯が刺さった痕がありますが、あなたの手には傷がなく、骨折もしていません。」
「そうですか、でもやはり痛いです。」板鎧は効果的でした。父親と兄さんにも完全な板鎧を早く作ろう。
「グ」は長さの単位で、1グは1メートルに近いです。




