26 モンスターベーア
「それは何だ！」エレニは口を押さえて驚きます。
「モンスターベーアだ。しかし普通のモンスターベーアよりも大きい。それはもはやディザスターベーアだ。」アルマが言いました。規格外の魔物は災害と呼ばれ、洪水や地震と同じように領地を破壊するディザスターです。
「こんなに大きいのを対処できるのか！」私は言います。
「これはアチリス男爵領が対処できる魔物ではない。伯爵様の援軍を待つべきだ。しかしモンスターベーアを放置すると、近くの村に大きな損害を与える。ペトロス様は戦わずにはいられないでしょう。」とアルマが言いました。
この時、部隊の中央から再び「止まれ」と「集合」の号令がかかりました。私たちは父親の方に近寄ると、彼はすでにヘルメットを外し、剣を抜いていました。
モンスターベーアの群れはまだボグダン様が率いる騎兵を追いかけており、私たちに近づいてきます。父親は私たちに向かって叫びました。「アチリス領地の勇士たち、我々の味方がモンスターベーアに追われている。我々の村はモンスターベーアに蹂躙されるところだ。ここで退くことができるか！」
「できません！」兵士たちが一斉に叫びました。
「我々はアチリス領地での肉を食べ、領地の酒を飲み、領地の若者たちと共に成長した。今こそ領地のために命を捧げる時だ。誰か未練があるか！」
「ありません！」
「よし。クリューセース、エレニ、お前たちはすぐに城に戻れ。ここでの状況を城に伝え、伯爵様に援軍を派遣するように頼んでくれ。沿道の村にも避難の知らせを！」
「父親、アネモス兄さんが領地を継ぐことができます。ソミオスさんとフィスはヤグルマギク商会を運営することもできる。城と村の知らせはエレニに任せてください。どうか私を父親と共に栄光の道に連れて行ってください！」私も大声で答えました。前世から数えると、私はすでに一度死んでいます。前世の最後の瞬間に、ただ生き続けることよりも、死も受け入れられる選択だと感じましたが、今世では自分の死の意味を選びたいと思います。
「素晴らしい。我々の勇姿をしっかり目に焼き付けてくれ！エレニ、お前は行け！」父親は言いました。
「でもイヴァイロも騎士領を継ぐことができます。私もクリューと一緒にいたいです！」エレニは叫びました。この時にペトロス様と一緒にいると言うべきでしょう、馬鹿者。
「これは命令だ。報告に行く者が必要。早く行け！」父親は強く言いました。
エレニは何か言おうとしましたが、私と父親を交互に見て、しばらく沈黙してから言いました。「わかりました。城でまた会いましょう。必ず生きて帰ってきてください。」そして馬を走らせて城に向かいました。エレニが残らないようにしたかったですが、彼女が本当に遠くへ行ってしまうのを見ると、寂しく感じます。これでは彼女が私のモンスターベーアとの戦いを見られないじゃないか。
「我々はボグダンたちを救い、村の避難の時間を稼ぐ必要がある。向こうには大きな一匹と小さな14匹がいます。できるだけ多くの小さいのを倒し、大きいのを妨害して自由に動けないようにする。三つのグループに分かれて、俺は大きいのを引き受け、アルマとニストルが小さいのを倒す。リサンドスとクリューセースは俺と一緒に来い。」父親は命じました。
モンスターベーアの群れがますます近づいてきます。私はあの巨大なディザスターベーアの血に染まった牙をはっきりと見えながら、弩の弦を張って準備しました。リサンドス様は冷静に、私たちの部隊を三つの小隊に分けました。ボグダン様がもうすぐ近くにいます。彼の左肩は血まみれで、全身が血だらけです。鎖帷子は半分破れ、右手の騎槍も折れています。
「モンスターベーアの毛皮はとても厚い。弓や投げ槍では倒すことができぬ。騎槍が必要だ。小さなモンスターベーアには数人で一組となり、注意を引きつけながら背後や側面から騎槍で攻撃する。盾では防げないので、彼らの攻撃をうまく避ける必要がある。」リサンドス様は強調しました。「小さなモンスターベーア」という表現はとても面白そう。小さいならもうモンスターベーアではないでしょう。でもそのディザスターベーアと比べると、マイクロバスくらいの大きさの熊は赤ん坊に見えるでしょう。
突撃の号令が鳴りました。父親は先頭に立って剣を掲げ、前方に向かって走り出しました。私たちも一緒に戦吼を上げながらついていきました。アルマとニストルは隊を左右に分けて突撃しました。ウルフライダーたちも戻ってきて、三つの小隊の側に自動的に配置され、共に突撃しました。
私たちはボグダン様と彼が率いる騎兵の前を通り過ぎ、父親は後ろに向かってボグダン様に手を振りました。ボグダン様はうなずき、彼の騎兵たちと共に城に向かって走り出しました。私はボグダン様以外にも残りの10人以上の騎兵が少なからず傷を負っていることに気付きました。各騎士は砦で勤務する際、少なくとも20人の兵士を連れて行くことが要求されますが、どうやら10人ぐらいの兵士がこの森を出ることができなかったようです。サモサタ騎士領は今回は大きな損失を被ったようだ。
モンスターベーアの群れはますます近づいてきました。ディザスターベーアを中心に、モンスターベーアたちはそれぞれ散開して私たちに向かってきます。アチリス領の周辺では、熊は森の覇者ですが、平地では馬の速度には敵いません。騎兵の速度と機動性を活かせば、致命傷を与えなくても、彼らの進行をなんどか妨害することは可能だと思い。
アルマとニストルはそれぞれの騎兵隊を率いて側面からモンスターベーアの群れを攻撃し、私たちがディザスターベーアに近づくチャンスを作ります。矢の雨と投げ槍が飛び交った後、二つの隊はモンスターベーアの群れに正面から突撃せず、森の方向に走り去りました。数匹のモンスターベーアが怒り、彼らを追いかけていきました。
ディザスターベーアの前にはまだ五頭のモンスターベーアが四つ足で私たちに向かって突進してきます。モンスターベーアたちにますます近づき、私たちは槍を掲げました。モンスターベーアの毛皮を貫くことはできませんが、その動きを妨害することはできます。
最も前方のモンスターベーアまで十数歩の距離があり、父親は剣を前方に向けて叫びました。「今だ！」リサンドス様を先頭に、騎兵たちは次々と短槍を投げました。私は馬の動きに合わせて、最前方のモンスターベーアの首を狙って弩の矢放ちました。矢は槍よりも速いですが、槍と同様に毛皮を貫通することはできませんでした。
私たちはすぐに騎槍に持ち替え、父親の指揮に従って数人ずつのグループに分かれました。私は父親の後ろについて、片手で槍を持ち突撃の準備をしました。先頭のモンスターベーアが騎兵の一人に飛びかかりました。隣の騎手が騎槍を突き出しましたが、モンスターベーアは馬を倒し、騎兵の頭を打ちました。モンスターベーアの背中を刺した槍も毛皮を貫通しませんでした。
「これらの小さいのに手こずらせるな！」父親は叫び、私たちは前方に突進し続けました。私は機会を見て弩に矢を再び装填しました。ディザスターベーアが目の前に迫っています。それは四つ足で這う姿勢に戻り、車のような大きな頭が私たちに向かっていました。爪を振り上げ、父親に向かって打ちかかろうとしています。
ディザスターベーアは父親に狙いを定めていました。おそらく魔物も誰がこの騎兵隊のリーダーかを知っていたのでしょう。私は弩の矢を構え、ディザスターベーアの目を狙って時間が遅くなったように感じました。私は戦争の神の加護を祈りながら、引き金を引きました。モンスターベーアは何かが近づいていることを感じるよう、頭を避けようとし、振り上げた爪を引っ込めようとしました。でも矢の速度が予想より早い。矢は「ぷっ」と音を立てて目に突き刺さりました。
ディザスターベーアは猛然と立ち上がり、狂ったように吠え、前足で地面を激しく打ちました。私たちは素早く森の方向に避難しました。父親は森の近くて部隊を集めましたが、4人の騎兵が到達できませんでした。
「クリューセース、よくやった。あの大きいのが山の上に戻れる。」父親は言いました。
そうするならよかった。ディザスターベーアはすぐに立ち上がり、吠え声を上げてモンスターベーアたちを引き連れて山を下って行きました。父親は私たちを率いてベーアを追いかけました。今回はベーアたちも警戒しており、私たちを近づけさせませんでした。
モンスターベーアの群れに動いている最中に目を射ることはほぼ不可能です。私たちは側面から群れに接近し、騎槍で攻撃を試みましたが、モンスターベーアの皮膚は非常に厚く、槍では表皮を傷つけるだけでした。アルマとニストルに引き寄せられたモンスターベーアも山下に向かって走りました。
馬を見守る騎兵たちはモンスターベーアが近づくのを見て、馬を山下に向けて駆け出しました。しかし、前方には村があり、村人たちはまだ避難を終えていません。父親は私たちに向かって叫びました。「村人の避難の時間を稼ぐ！クリューセース、もし俺に何かあったら、次はお前が指揮を執る！」そう言って馬を駆けてモンスターベーアの群れの前方に突進しました。
父親は騎兵から受け取った普通の騎槍を両手で掲げ、ディザスターベーアに向かって突撃しました。リサンドス様と私は急いで馬を駆けて父親に追いつきましたが、振り返ると三、四人の騎兵しかついてきていませんでした。他の者たちはモンスターベーアに阻まれていました。
一匹のモンスターベーアがディザスターベーアの前に出て、後脚で立ち上がり、父親に飛びかかろうとしました。距離が近づき、私は手弩で一矢を放ちました。矢はモンスターベーアの首に命中し、血が噴水のように噴き出しました。父親も騎槍を首に突き刺し、素早く引き抜きました。首の傷口から血がさらに噴き出しました。モンスターベーアは手で首を掻きながら倒れました。
ディザスターベーアは私たちが一匹のモンスターベーアを倒したのを見て、すぐに後脚で立ち上がり、私たちに向かって飛びかかってきました。父親は拍車で馬の腹を蹴り、さらに速くディザスターベーアに突進し、叫びながらディザスターベーアの腹に突き刺しました。
父親は攻撃後の脱出方法を考えていなかったのかもしれません。彼は全身の力で馬鐙を蹴り、騎槍をディザスターベーアの腹に突き刺しました。幸いにも彼が使っていたのは騎兵の普通の長槍でした。貴族用の長槍は槍頭と槍柄の接続部分が細く作られており、突き刺すと槍頭が折れるように設計されています。
父親は突進の反動で馬鞍から落ちました。馬は側に走って行き、モンスターベーアに首を噛まれました。父親が立ち上がった瞬間、ディザスターベーアの一撃で遠くに飛ばされました。
私は急いで馬を駆けて父親に向かいました。リサンドス様も後ろについてきた。振り返ると、ついてきた騎兵たちはモンスターベーアに囲まれておりました。私は無理やり前を向き、父親の方へ向かいました。
一匹のモンスターベーアも父親の方に向かって走ってきました。私は側面から接近しました。騎槍や弩が通用しなかったら、騎兵刀を試すしかありません。
私は鞘から騎兵刀を抜きました。騎兵刀は片手で扱える武器で、攻撃距離は長槍よりも短いです。通常は礼儀的な武器として扱われるか、召集された民兵に一時的に配られます。通常、刀身は曲がっており、主に斬撃に使われます。しかし、この騎兵刀はソミオスさんとエレニの新年の贈り物と一緒に作られたものです。直線的な刀身を持ち、背がやや厚く、軽量化と排血のために二つの溝があり、刺突の能力が強化されています。私が結構好きので、数日前に念入りに磨いておきました。
結局、モンスターベーアの出現は予想外のことでした。本来は水の砦に行ってパトロール隊の行方を探すつもりでしたが、モンスターベーアの群れに不意を突かれました。マントと帽子は用がないようだ。
私はモンスターベーアの方向に手を伸ばし、騎兵刀がまるで私の腕のように真っ直ぐ前を向きました。そして馬の背に伏せ、モンスターベーアに向かって突進しました。
「リサンドス様、援護をお願いします！」私は振り返らずに大声で言い、拍車で馬の腹を蹴りました。馬は勢いよく跳ね、最大速度でモンスターベーアに向かって突進しました。モンスターベーアは方向を変えず、斜めに接近する瞬間、騎兵刀の先端がモンスターベーアの側腹部に突き刺さりました。
騎兵刀は一気に突き刺さり、鍔まで達しました。私はモンスターベーアを通り過ぎる瞬間、剣柄を引いて馬の力を借りて剣を引き抜きました。モンスターベーアは「ウーッ」と叫び、傷口から血が噴き出しました。これで致命傷を負ったでしょう。モンスターベーアは私をターゲットにし、私は側に逃げましたが、視界の片隅でニストルが父親のもとに到着しているのが見えました。
私はディザスターベーアの状態を再確認しました。父親の一撃で毛皮は貫通しましたが、脂肪層を突き破って致命傷を与えることはできませんでした。私は父親が無事であることを祈りながら、瀕死のモンスターベーアを誘導し、痛みの叫び声を上げて倒れるまで見届けました。
私は急いでディザスターベーアとリサンドス様たちを追いかけました。父親は倒れており、残った部隊はリサンドス様の指揮の下、戦いながら後退していました。
「ペトロス様は重傷を負いた。幸いにも君の鎧のおかげで、一命を取り留められる。アルマたちはモンスターベーアを二匹倒した。ペトロス様と君が倒した分を含めると、まだ一匹のディザスターベーアと十匹のモンスターベーアが残っている。」リサンドス様が言いました。
「近くの村は避難し終えましたか？」私は尋ねました。
「ほぼ終わった。我々が来る途中で馬を一部村人に渡した。彼ら全員はすでに避難完了だ。」リサンドス様が言いました。
「我々の損失はどのくらいですか？」
「ペトロス様を除いて、十五名の騎兵がついて来られなかった。」
「それでは、我々も城に戻りましょう。私が援護を務めます。」私は言いました。ついて来られなかった騎兵たちはおそらくすでに倒れるでしょう。
「それはできぬ。ペトロス様が倒れられた今、アネモス様も帝都におられます。今、君が領地の軍隊の責任者だ。それに俺はアチリス男爵に仕える武官であり、主君が重傷を負った中で無傷でいるわけにはいかぬ。これは俺と領地の名誉に関わることだ。」リサンドス様は言い終えると、モンスターベーアの方向に突撃しました。
「ダメです、リサンドス様。あなたは城の防衛戦を指揮する必要があります！」私は後を追いかけました。アルマは近くにいて、数名の騎兵と共に私たちについてきました。
リサンドス様は槍を構え、正面のモンスターベーアに突進しました。彼の騎槍はすでに折れており、兵士用の普通の騎槍を使っていました。私は弩で先頭のモンスターベーアを射抜きました。今回は鼻に命中し、モンスターベーアは痛みによって少し減速しました。リサンドス様の騎槍は目に突き刺さり、深く入ってモンスターベーアは倒れました。
しかし、後ろの二匹の熊が迫ってきました。一匹のモンスターベーアはリサンドス様の馬の頭を叩き、もう一匹はリサンドス様に飛びかかりました。リサンドス様は槍を引き抜く間もなく、剣を抜いてモンスターベーアの口に刺しました。
剣は深く熊の喉に突き刺さりましたが、リサンドス様の手も噛まれてしまいました。リサンドス様は苦しんで叫び、馬も倒れました。危険です！私は急いで弩の第二発を放ちました。それは馬を襲った熊の目に命中し、熊は叫びながら逃げました。アルマが数名のウルフライダーとともに駆けつけましたが、後ろのモンスターベーアがすでに近づいており、アルマはウルフライダーにリサンドス様の腕を切り落として抱え、逃げるように命じました。
私はディザスターベーアの方向を見つめ、再び馬を蹴ってアルマと共にアキスオポリス川の下流に向かって走りました。モンスターベーアの群れはしばらく追いかけましたが、やがて止まり、三々五々に集まり、地面の死体を食べ始めました。私は振り返りながら、父親とリサンドス様の無事を祈り、今日の犠牲者たちに黙祷を捧げました。
