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1 砦の朝

寒い風と食べ物の香りで覚めたが、まだ目を開けたくない。まだ完全に明るくなっておらず、目を閉じていると真っ暗だ。かすかにチーズを焼く香りが漂い、腹が少し減ったと感じた。やはり鎖帷子を着たまま野宿するのにはまだ慣れないな。そして夜中に一刻での見張りをさせたせいで昨晩はよく眠れなかった。周囲には雑多な足音が聞こえ、そのうちの一つが私の傍で止まった。

「クリュー、目覚めたでしょう?目覚めたら早く手伝って。もうすぐ出発するよ!」

もう少し寝ていたかったのに。無理やり目を開けると、やっぱりエレニだった。彼女は暗褐色の革製の軽装甲と騎兵用の皮製パンツを着て、鉄製のヘルメットを手に持っている。耳に覆う白い耳当はウサギの毛皮で作ります。赤い髪を三つ編みにして胸に垂らし、頭からはうっすらと蒸気が立ち上っていた。彼女の足元近くには、もう消えた焚き火があった。遠くには別の焚き火の周りに集まる人々がいて、お湯を沸かしながら簡単な朝食を作っていた。

私は返事をしながら起き上がった。エレニの隣には彼女のフェンリル、コラクスがいた。フェンリルは大きな狼で、この地域ではウルフライダーを乗せるとか、猟犬とか、色々な役に立つ。コラクスは舌を出して大きく息をしており、エレニは腰のポーチから干し肉を取り出してそれを餌にしていた。

エレニはウルフライダーで、騎士ニカンドロス家の長女であり、私と同い年で学校の同級生でもある。数日前、砦から出る遊騎兵がワーグの足跡を発見した。ワーグの侵入が秋の収穫に影響を与えるのを防ぐため、私の父アチリス男爵ペトロスが討伐隊を派遣し、村が危険にさらされる前にワーグを排除することにした。

エレニの父である騎士は今この砦で勤務をしています。そして城の学校がちょうど休みに入ったため、エレニはまだ騎士領に帰っておらず、今回も一緒に参加することになった。昨日一緒に城を出発し、昨夜はこの砦で野宿したのだ。

「すぐ起きるよ。昨夜私は前半の見張り当番だった。やっぱり野宿には慣れない、鎖帷子も脱げない。もう朝の巡回終わったの?」

私はコラクスの頭を撫でると、彼は長い鼻を伸ばして私の手に押し付けてきた。フェンリルだけど、基本的には大きな犬みたいなものだ。

「そうだね。ウルフライダーは偵察が仕事だからね。大変だけど、騎士みたいに簡単に戦功を上げられるわけじゃないし。」

エレニは少し不満そうに言った。しかし、戦功なんて私たちにとってはまだ遠い話だ。まだ12歳で、今回が初めての軍事行動なのだ。このサヴォニア大陸では、14歳で軍隊に入ることができる大人とみなされ、12歳は半大人とされ、ある程度の仕事が許されている。

エレニは討伐隊の中で唯一の同い年で、幼馴染でもある。今回私は討伐隊の長官であるアネモス兄さんの副官兼旗手として、エレニはウルフライダーとして偵察の任務を担当している。

「でも狼に乗るのは本当にかっこいい。残念ながらフェンリルは馬ほどの荷物を運べないから、金属製の鎧を着たままでは狼に乗れないんだ。」

ウルフライダーはカラティス伯爵領とその周辺の領地に特有の兵種で、一般的には女性が担当する。アチリス男爵はカラティス伯爵の臣下で、カラティス伯爵領は帝国の北部辺境に位置する。アチリス男爵領はカラティス伯爵領の北側にあり、いくつかの谷地から成り立っている。城はアキオポリス川沿いにあり、領地の北側に位置している。

アチリス男爵領の城から北へ進むと、山々が連なり、まずは茂った森林、次に高山草原が広がる。さらに北へ行くと連なる雪山と高原があり、人間の禁域となっているが、魔物や野獣としては楽園となっている。城は領地の北部に位置している理由も、魔物の侵入があるときには、警備部隊が迅速に対応できるようだ。

城から南へ進むと、アキオポリス川の谷地に男爵の命に従う12の騎士領が点在している。エレニが所属するニカンドロス騎士領もその一つだ。城から北へ進むと、辺境沿いにいくつかの砦があり、普段は各騎士が交代で駐留し、定期的に雪山までパトロールしている。今回のような討伐があるときも、臨時の拠点として利用される。

私は井戸へ行き、水を汲んで顔を洗った。秋の冷たい水で完全に目が覚めた。討伐隊はおよそ40人で、多くの人がまだ眠っている。井戸のそばには焚き火があり、数人の兵士がその火でラクレットチーズを焼いていた。さっき感じたチーズの香りは彼らが出していたものだ。アネモス兄さんはその焚き火のそばに立ち、肉入りパンをかじっていた。彼は白いシャツと暗青色のジャケットを着て、下半身には馬術用のズボンを履いていた。シャツとズボンの上に全身に鎖帷子を着ており、ヘルメットは傍らの木の杭にかけてあった。私が近づいてくると、彼は手を振って呼び寄せた。

「これが初めての討伐だろう。昨晩はよく眠れたか?今日はワーグの群れに遭遇する予定だ。しっかり休息をとること、それは生き残る鍵だ。」アネモス兄さんは言いながら、籠からパンを私に渡した。

「うまく眠れなかったよ。やはり鎖帷子を着て寝るのに慣れていないから。」私はナイフでパンに切れ目を入れ、焚き火の隣で焼いているラクレットチーズの溶けた部分を削ってパンに塗り、数枚の燻製牛肉を挟んで食べ始めた。チーズの香りが口いっぱいに広がり、至福を感じている!アネモス兄さんの親衛兵がピクルスを一本渡してくれて、私はパンとピクルスを交互にかじり始めた。

「それは早く慣れなければならない。図書室や工房にこもってはいかない。俺はすぐに家を出ることになるから、今後のこのような任務は君が引き継ぐんだ。」アネモス兄さんは私をじっくり見ながらそう言った。

アネモス兄さんは私より三歳年上だ。この帝国にで、貴族と裕福な平民の子供が8歳から領地の学校に通うのは一般的だ。そこでな知識を学び、15歳になると学院に進学し、将来の職場に関する知識を学びます。男爵家の跡継ぎとして、アネモス兄さんは帝都の学院で軍事を学びに行く予定で、無事に行けば五年後に卒業して男爵領に戻ってくるだろう。もちろん、彼が領地を離れている間は、領主家の誰かが軍事行動に参加しなければならないため、多くの場合は私が参加することになるだろう。

私たちのような下級貴族にとって、跡継ぎを帝都の学院に送るのは皇帝陛下の恩恵であり、果たすべき義務でもあるのだ。本来、帝都の学院は皇帝の臣下のためだけに開かれており、貴族の臣下は領主の城の学院で学ぶのは普通だ。例えば、私は以後カラティス城の学院で進学予定です。しかし約200年前、皇帝の全国支配を示すために、全ての男爵以上の貴族の跡継ぎが帝都の学院で通うと命じます。歴史によると、あの時はいくつの争いも招きました。

現在では、帝都の学院から卒業することが領地を継ぐ条件とされている。学院は貴族の跡継ぎに奨学金を与え、学費や生活費の心配はありません。貴族の跡継ぎも学院にで帝国将来の大人物と知り合う機会がある、他の兄弟にも明白に優位するんだ。もちろん、私は跡継ぎではないから、これは関係のないことだ。ちなみに、これらは家やカラティス城の図書館で読んだ知識だ。

学校と学院の学期は秋に終わるのが普通で、学院は新年後に始まり、学校は春後に始まることが多い。したがって、私とアネモス兄さんは休暇中で、討伐に参加しても学業には支障はない。もちろん、緊急事態が発生した場合、学校を休まざるを得ない。

「私もよく狩りに行くから、そのうち慣れるでしょう。心配しないでください。それより、先日渡した剣はどうだった?兄さんは帝都に行っても恥ずかしくないよう、一生懸命作ったんだ。」私はパンをかじりながら答えた。

アネモス兄はそばに置いてあった剣をぱっと抜いた。これはダダマスカス鋼でできた片手剣で、半包護手がついている。これは私がドリアン師匠の元で作った卒業の作品だ。完成させたとき、ドリアン師匠も「なんて美しい!どうやって作ったのか教えてくれ!」と驚嘆していた。

「一見では素晴らしい。でも俺たちのような辺境の貴族にはちょっと華やかすぎるを思う。」

「そんなことないよ。兄さんは万能で、ぴったりだと思うよ!」

そう、私は転生者だ。正確には、約7歳の時に前世の記憶に目覚めた。前世の私は、小さな町で生まれ育ち、科学者になる夢を抱いて大都市に進学し、働いていた。しかし、会社の雰囲気は悪くで、毎日残業が続き、人間関係も得意ではなく、ある夜残業後にタクシーにぶつかって死んでしまった。

新しい人生には、前世のような発達な都市は存在しない。ここはただ辺境の小さな町で、一歩進むと魔物の楽園であり、人間の禁域だ。男爵家に生まれたが、爵位を継げるのは一人だけだ。私はアネモス兄さんと競争して跡継ぎになる気は全くないので、8歳になる少し前に父を説得して鍛冶を学ばせてもらった。

本来、私のような貴族出身で跡継ぎになれない子供は、軍人や神官、そして領主や皇帝の文官と商会の幹部になるのが普通だが、どの道を選んでも残業の地獄が待っていると思います。ドリアン師匠には跡継ぎも子供もおらず、領地も未来の鍛冶師を探していた。さらに、私は前世の冶金学の知識を活かすことができる(もちろん、これは錬金術師から教わったと説明した)。こうして、父を一生懸命説得して、ドリアン師匠の元で鍛冶を学ばせてもらうことになったのだ。

このダマスカス剣も、兄のために特別に作ったものだ。制作中も楽しんで作ることができたのは、私が跡継ぎではなく、家族の義務を負わなくても良いからだ。私は今世で「自分の心に従い、思いのままに生きる」ことを信条にしようと決めた。

朝食を終えると、我が家の軍事長官であるリサンドス様がアネモス兄さんの前に来て、私に軽く頭を下げた後、兄さんと行軍の計画について話し始めた。リサンドス様は斑白の短髪で精悍な印象を与え、肌も長い軍歴のせいで健康的な小麦色になる。彼も暗青色のコートと全身の鎖帷子を着ており、鎖帷子の下には小牛の皮製のジャケットを着て、左手には鉄製のヘルメットを持っていた。もし我が家がもっと大きくなると、彼の役職は将軍と呼ばれていただろう。

リサンドス様は我が家の名誉騎士でもあり、このような儀礼的な爵位は封地がなく、領地収入もない。これは領主に仕える平民のためのもので、前世の会社の職級のようなもので、貴族との交流を便利にするために授与される。我が家には二人の名誉騎士がいる。リサンドスの他に、もう一人は領地の侍従長のチャリトンさまだ。

私は礼を返してから厩舎に行き、馬に餌を与えて荷物を整理し始めた。私の馬の名前はイナヅマで、小柄なポニーだ。何しろ私は皆より背が低いし、私にぴったり。

「クリュー、怖くて足が震えてるんじゃない?だって、君は生きたワーグを見たことがないでしょ!」エレニがやって来て話しかけてきた。

「そんなことない!アネモス兄さんが行ってしまったら、今後の討伐隊は私が率いるんだ!君こそ、怖くてコラクスから落ちないように注意しなさい!」私は負けじと反論した。

「ワーグが私のコラクスに勝てると思う?ところで、君がアネモス兄さんにあげた剣、私にも作ってくれる?あれは君が作ったんでしょ。鍛冶の勉強がちょっと役に立つなんて驚きだよ!」

「わかった、わかった。帰ったら考えるよ。」でも、父のための鎧を作り終えた後の話だ、と心の中で思った。

「ありがとう!それじゃあ、姉さんが戦闘前の祈りを教えてあげるね!」

「エレニはたった8日早く生まれただけじゃないか。お姉さんぶる必要はない!」確かにエレニは今は私より背が高いけど、ちょっと悔しいな。

仕方なく手を止め、目を閉じて手を合わせ、エレニの祈りの言葉に耳を傾けた。「守護の神と戦争の神よ、私たちはここに誠実な祈りを捧げます。どうか私たちに力を与え、無事を守ってください。」

エレニが祈り終わると、しばらくの間私たちは黙っていた。沈黙を破ったのは私の方だった。

「エレニこそ、死なないでね。アネモス兄さんが言ってたけど、今回も偵察に参加するんだ。危険を冒すな」

「クリューこそ、イナヅマから落ちないように。」

「ちょっと、コラクスには悪いけど、これをつけてみて。」私は荷物の中から腕当てを取り出した。これは元々私が自分の体を参考にして作った試作品で、板金鎧の一部だが、私とほぼ同じ背丈のエレニにも着けられるはずだ。でも、これでコラクスの荷重が増えることになる。でもコラクスは領地の中でも優れたフェンリルで、成年のウルフライダーも背負えるんだから、腕当てくらい大丈夫だろう。

「ちょっと、君は腕当てを一つしか持ってないの?それじゃあ、君自身は何をつけるの?」エレニは腕当てを受け取り、突然何かに気づいたように言った。

「大丈夫だよ、もう一つあるんだ。その時、この腕当てをつけた手でワーグを餌付けするよ、ははは!」

パカンと頭が叩かれた。痛い、頭を叩かないで。これから兜をかぶるんだから!

砦に号角が鳴り響いた。集合の時間が来た。

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