表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

16 錬金術師を訪ねる

まるで夕食をもっと美味しくする最も簡単な方法が1時間おいてから食べることのように、数日間の疲れた旅路と久しぶりの浴室が私をとても幸福な眠りへと導きました。私は夢を見ました。夢の中で自分がサヴォニアの第一鍛冶師になる未来がぼんやりと浮かび、嬉しい気持ちになりました。母親は私のためにお菓子を作ってくれました。発酵させた生地を使い、複雑な技術で薄く伸ばしました。そしてチーズ、新鮮なハーブ、ソーセージをのせ、最後にオリーブオイルをかけて高温のオーブンで焼き上げるものでした。これは前世の食べ物だったはずですが、夢の中では名前を思い出せませんでした。しかし、最初の一口をかじったところで目が覚めました。

今はちょうど夜明けの鐘と午前の鐘の間くらいですが、父親とチャリトン様はすでに部屋から出ました。昨夜食事をしたテーブルの上に朝食が残されていました。パン、牛乳、チーズ、野菜サラダで、全く新鮮味がありません。隣にはチャリトン様が書いたメモがあり、父親と一緒に伯爵領の重要人物たちに挨拶に行ったと書かれていました。ニストルは城の訓練場に行き、今日は自由に過ごしていいとのことでした。

やった!私はすぐに朝食を食べ終え、リヴァン様にお願いして城の図書館に行く許可をもらいました。前世の記憶を覚醒してから、この世界について特に知りたいと思っており、カルラティス城に来るたびにリヴァン様に図書館で本を読む許可をもらっていました。ここ数年でカルラティス城の図書館をほぼ回り終えました。

「うん、これが今年の新しい本だ。」図書館は大きくないので、図書館員のカタログを参考にして新しい本をすぐに見つけ出し、ノートを取り出して重要な点を記録し始めました。

最初の本は帝都の神学者が編纂した論文集で、古典語で書かれていました。興味がないので、目次をざっと見て置きました。二冊目は帝国の軍隊が西部の少数民族を平定する記録です。この反乱は20年以上前、先皇の時代に起こりました。父親と伯爵様もこの反乱の平定に参加していたので、戦争の経過は父親からよく聞かされていました。しかし、この本は従軍の神父が書いたもので、私の知らない詳細がたくさん記録されているようでした。

「クリューセースじゃないか、ペトロス様に従って領主会議に来たのですか?」図書館では静かにしてください!

私は顔を上げました。やはりアデリナさんでした。彼女は伯爵の娘です。今年15歳で、新年が明けるとこの学院に入学する予定です。アデリナさんは私より少し背が高く、茶色の少し巻き毛の髪をしています。彼女は家庭用のドレスを着ていますが、厚手の狐の毛皮の外套を羽織っていて、とても暖かそうでした。

「おはようございます、アデリナお嬢様。一人で何をしているんですか。」私は尋ねました。

「学院がもうすぐ開学するので、教授が私にノートを整理するよう頼んだわ。この本、借りてもいいかしら?」彼女は私が読んでいた本を指差しました。私のことをよく知ってるので、アデリナさんはずっと前から古典語で会話をしませんから。

「駄目です、もう読み始めていますから。」

「なんてこと!」アデリナは私に怒鳴りつけましたが、突然ひらめいたようで、ノートとペンを私に差し出しました。「でわ、ノートを整理するのを手伝って貰いますわ。」

私の目的はもともと本を読むことだったので、他のことはどうでもよかったです。そこでノートを受け取りました。アデリナさんは嬉しそうに部屋を出て行きました。

私はおよそ15分ほどでノートを整理し終え、他の本も少し読みましたが、もうすぐ昼食の時間になりました。城の食堂で食事ができましたが、まだ行きたい場所がありました。

城の西門を抜けて、城下町へ向かいました。カルラティス城の城下町はアチリス城のものよりずっと大きく、東西南北の四つの門を結ぶ十字状の道路を境に、城下町は高級住宅区、商業区、一般住宅区、工匠区の四つに整然と分かれており、それぞれ独特の雰囲気を呈しています。

一般住宅区の小さなビストロに入りました。この店は夜になると酒場になります。まだ食事の時間ではないので、注文する人は少なかったです。吟遊詩人がすでに歌い始めていて、今日は北方の若い貴族が皇帝の命を受けて南方に出征し、上司の愚かな命令で敗北しましたが、逃亡の途中で現地の女性と恋に落ちるという話でした。私は焼肉串を十数本とバターたっぷりの炒り卵を注文しました。麦酒の樽とパンを一つ手に持ち、大量の食べ物を抱えて近くの路地に入りました。こんなにたくさんの食べ物を持って進むのはかなりの技術が必要ですが、私はすでに慣れていました。

やっと花壇でいっぱいの門の前に着きました。この家はたくさんの菊の花を育てていて、今ちょうど見頃です。家主は高い剪定と栽培の技術で奇妙な形の菊を作り出していますが、私はあまりその技術に詳しくないでも、「これがすごい!」のもわかります。木造の家は石灰で白く塗られており、木色の隣の家と対照的です。

私は足で門を軽く蹴り、「フロリン師匠、いらっしゃいますか!」と大声で叫びました。

「来たのじゃ!」奥の方から老いた声が聞こえ、だんだん近づくスリッパの音がしました。私は少し後ろに下がり、白い門が外に向かって勢いよく開くと、痩せた老人が門の後ろに現れました。これがフロリン師匠です。彼はカルラティス城に隠居している錬金術師であり、ドリアン師匠がカルラティス城で学んでいた頃の古い知り合いです。私がドリアン師匠の弟子になってから、ドリアン師匠はフロリン師匠を私に紹介してくれました。カラティス城に行くと常に教えてくれて、私にとっても半ば師匠のような存在です。

「フロリン師匠、少し食べ物を持ってきました。」私は言いました。

「かたじけない。入ってくれ。」フロリン師匠は下駄箱からふわふわの羊皮制のスリッパを取り出して門の後ろに置きました。私はまず食べ物を玄関のテーブルに置き、靴を脱いでスリッパに履き替えて室内に入りました。

最後に会ったのは去年の秋だったでしょうか。フロリン師匠は年を取ってほとんど白髪ですが、まだ元気です。彼は白い羊の皮の上着とウールズボンを着ていて、まるで直立して歩く羊のようです。

フロリン師匠について食卓に入りました。師匠は食べ物をテーブルに置きました。フロリン師匠は規則正しい生活をしていますか、一般人とは違います。昼近くに起きて、ビストロが一番混んでいる時間を避けて食事に行きます。研究をして夜遅くまで続け、ビストロが閉まる前にもう一度食べ物を買いに行き、その後また研究をして深夜まで過ごし、このサイクルを繰り返しています。ちょうど彼がビストロに行く時間だったので、訪ねるのはこのタイミングしかありません。

「とてもいいのじゃ。」フロリン師匠は座ってパンを切り、炒り卵を大きく挟んで一口食べました。炒り卵はバターの他にちょうど良い塩加減があり、まだ湯気が立ち上っています。私はパンを切って、焼き串と一緒に食べ始めました。麦酒は夜まで取っておきたかったので、テーブルの下に置かれました。

「今年鍛冶屋として一人前になったら、学院に行く準備をして、卒業後は伯爵に仕えるのじゃろう。」フロリン師匠が尋ねました。

「学院に行くつもりですか、伯爵様に仕えるつもりはありません。私たちは新しい商会を設立しました。ヤグルマギク商会といいます。父親はドリアン師匠の鍛冶工房と領地の制陶工房を商会に組み入れ、私に商会を任せることにしました。」と私は言いました。

「ほう、それで何をするつもり。」

「現在の主な商品は新しい陶器です。残念ながら持ってこれませんでした。他には鍛冶工房を改造する予定で、来年には完成予定です。完成すれば鋼を速く精錬できるようになります。」

「面白そうじゃ。春になったら君の領地を訪ねてみるかもしれないな。」

「歓迎します。ところで、陶器についてお聞きしたいのですが、釉薬として使える鉱石をご存知ですか?今回は比較的低い温度で色が出る釉薬が必要なのです。」私は尋ねました。ボーンチャイナの制作過程は覚えていましたが、釉薬についてはどうにもなりませんでした。パナギ師匠が以前、いくつか試験を行いましたが、ボーンチャイナの焼き温度が普通の磁器より低いので、低温釉薬が必需です。錬金術師なら高温下での鉱物の変色に詳しいでしょう。この世界の既存の知識をできるだけ活用したいと思っていました。

「あるにはあるが、ちょっと待ってくれ。」フロリン師匠はパンを置いて作業場に走り、しばらくして古びたノートと小さな木箱を持ってきました。

「探してみるのじゃ。」フロリン師匠はノートを開き、「ほら、ここにあるのじゃ。若い頃にカルラティス城の陶芸工会を手伝ったことがあるんだが、彼らは陶磁器を作れなかったので、これらの資料は何十年も使われていないのじゃ。」

フロリン師匠のノートには、さまざまな釉薬の発色に必要な時間と温度が詳しく記されていましたが、温度は「バターの色」、「ヒナゲシの色」といった具合に記されていて、具体的に復元するのは難しそうでした。唯一理解できるのは、ヒナゲシの色のほうがバターの色より温度が低いかもしれないということだけでした。

「フロリン師匠、私たちの商会にいらっしゃいませんか?」私は尋ねました。

「この言い方はやめるのじゃ。もうあちこち走り回る年齢は過ぎた。それに、これらは何十年前の記録で、今では具体的な焼き方も覚えていない。」フロリン師匠はまたパンを手に取りました。このおじさん、ちゃんと実験記録を取ってくださいよ!

「では、この資料を私たちに売っていただけませんか?」私は尋ねました。具体的な温度が分からなくても、焼成時間や釉薬の温度の相対的な高低が分かれば、ハルトに試してもらえます。

「何十年前の古い資料だからな、当時の陶芸工会もお金を払ったし、欲しければ持って行ってくれ。わしの所に置いておいても使い道がないのじゃ。ただし、自分で写してくれ。このノートはまだ使うのじゃ。」フロリン師匠は言いました。

「もちろんです。でも、今は商会の責任者なので、商会のこととして、お金を払うほうがいいでしょう。」私は羽ペンと自分のノートを取り出し、フロリン師匠のインクを使って契約書を書き始めました。釉薬に関するフロリン師匠の研究成果を20枚の銀リネで購入する契約です。こんな金額なら私自分も契約できます。契約は二部作成し、双方が署名した後、私は自分の分を大事に保管しました。領地に戻ったらフィスに支払いを依頼します。

「最近、他の錬金術師が師匠を訪ねてきましたか?」契約を終え、私はフロリン師匠のノートを書き写し始めました。ノートはあまり多くなく、すぐに写し終えました。

「それを言おうと思っていたんだが、夏に巡回していた錬金術師が奇妙な鉱石を持ってきたのじゃ。今年は大陸の錬金術の成果は大したことがなかったのじゃ。これを見てくれ。」フロリン師匠は木箱を開け、その中から木皿と銀色の金属片を取り出しました。木皿には白い粉末が少量入っていました。

「彼らが持ってきた鉱石からこの金属を精錬したのじゃ。見たところ鉛のようだが、鉛よりも軽い。この粉末にすると燃えるのじゃ。こうして白い粉末ができる。」フロリン師匠は得意げに言いました。

鉛のようで鉛より軽く、燃焼後に白い粉末ができるというのは、亜鉛ではないか。私は内心の興奮を抑え、「フロリン師匠、この金属を私に売っていただけませんか?どんな用途があるか調査したいのです。」と尋ねました。

「持って行けばいいのじゃ。ずっと研究しても用途が分からなかった。あと研究成果を見せろう。」フロリン師匠は興味なさそうに言い、またパンをかじり始めました。正統な錬金術師として、フロリン師匠は賢者の石にしか興味がありません。幼い頃、前世の知識を使ってフロリン師匠に賢者の石が存在しないと説得しようとしたこともありましたが、逆に一緒に賢者の石の研究をしようと説得されそうになりました。

「新しい金属かもしれません。重大な発見かも。金でなくても他の用途があるでしょう。」私は言いました。

「研究したら教えてくれ。」フロリン師匠も焼き串を手に取り、麦酒の樽に目を固定しました。この樽の麦酒は夜までもたないでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ