14 秋の訓練
次の窯のアチリス磁器はすぐに焼き上がりました。私は城下町でフィスさんを見つけ、彼が商品を検品した後、船を手配して陶器をカラティス城まで運びました。そして約束通り代金を支払ってくれました。今回はハルトと交代で窯の火を見守ったので、前回よりも楽でした。
キノン様に依頼した水力発電所の材料も届いました。材料を城下町のドリアン師匠の工房に届けてもらい、鍛冶工房の改造がようやく着工でくました。
現在、ヤグルマギク商会の資金はとても充実でした。ニキタス商会の投資金はまだたくさん残っており、アチリス磁器事業もすでに利益を上げています。前世の言葉によると、だた三ヶ月で黒字を得ました。今年アチリス磁器が帝都で販路を開拓できれば、来年は楽にお金を稼げるでしょう。楽しみです!
私はフィスさんから受け取った代金のうち、10枚の銀リネを取り出し、特別ボーナスとしてソミオスさんにみんなに配るように頼みました。そして残りのお金をフィスさんに預けました。フィスさんは私たちの商会の出納係だからだ。城下町や領地では治安の心配はありませんが、万が一お金を失うと大変です。
私はエレニと一緒に城下町を散歩しました。今年の仕事も一区切りつき、次はカラティス領の会議に出席するだけです。その後はドリアン師匠の工房で鍛冶工房の改造に専念できます。商会の一年一度の大買収も終了し、先日まで賑わっていた市場も今は閑散としています。町民たちも冬の準備を終え、初雪の日に酒を飲みながら雪を楽しむ準備ができているのでしょう。
私たちは飴を売っている屋台の前に立ち寄り、二本買ってエレニに一本渡しました。飴は発芽した麦から作るので、蔗糖ほど甘くありませんが、小麦の産地なので価格が安いのです。店主は私たちに、二本の小さな棒に粘着した飴をくれました。これを食べながら棒で様々な形に練ることができるので、美味しくて楽しいです。
北から吹いてくる風はすでに冷たくなっていました。エレニが飴を麻紐のようにねじっているのを見て、彼女がニカンドロス家の姫として、陶器工房に通い詰めることが適切かどうか考えました。貴族にとって手工業はまともな仕事ではないからだ。そして、「ずっと工房に出入りして、エヴァンデル様が怒らないのか?」と彼女に尋ねました。
エレニは驚いたように大きな目で私を見て、「なぜ彼が怒るの?」と反問しました。
「貴族は手工業を正式な仕事と見なさないから。ニカンドロス家はエレニの弟のイヴァイロが継ぐのでしょう?エレニは貴族でなくなるし、手工業に従事することは結婚相手を見つけるのが難しくなるのではないかと思って。」私は答えました。
エレニはまるで獲物を捕まえた狐のように言いました。「それなら、クリューが責任を取って私と結婚してね!」
「いやいや、コラクスは食べ過ぎるから。」
「そうね。私と結婚する人はコラクスもちゃんと世話しなきゃいけないわ。」エレニは姫様らしい口調で言いました。
「クリューセースさん、ここで何をしているのですか?ペトロス様が商売を終わったら河原で会うように言いました。」パロマが数枚の巻物を抱えて、城下町の東門から城に向かっていました。
「忘れてた、秋の訓練が始まってる!」エレニが突然叫んで私を引っ張り、城外へ走り出しました。
私もすっかり忘れていました。収穫祭の後、領主は短い期間を利用して領地の騎士、兵士と将校を集めて訓練を行い、最後にパレードをします。これが秋の訓練と呼びます。私は今年12歳になり、伝統に従ってこの秋の訓練に参加しなければなりません。
アチリス男爵領と他の辺境の男爵領と同様に、軍隊は男爵の直轄部隊と騎士の部隊で構成されています。アチリス男爵直轄の部隊は城を拠点とし、主に重騎兵と軽騎兵で構成されており、ウルフライダーなどの補助部隊も含めて300人以上がいます。12人の騎士もそれぞれ20人以上の軽騎兵やウルフライダーを持っています。さらに、教会の従軍神官も領地には属していませんが、必要に応じて領主の命令に従います。これが領主がいつも集める可能の最大兵力です。
必要に応じて、領主は農民や牧民を動員することもできます。彼らは装備や訓練では兵士に劣りますが、防衛戦にも役に立ちます。
我が領地の兵力は強くはないため、兵士は騎術だけでなく、歩兵の技術も練習しなければなりません。兵力が少ないため、魔物も年数回侵入し、領地の収入は毎年税金を差し引いて城と軍隊の維持費を賄うのが精一杯です。したがって、この領地は奪う価値もないでしょう。
私とエレニは収穫祭が行われた河原に着くと、訓練はすでに始まっていました。兵士と騎士たちはいくつかのグループに分かれて異なる訓練を行っており、弓術、騎術、剣術の練習をしていました。父親はリサンドス様とともに馬に乗って訓練場を行き来していました。
突然、人混みの中から一匹のフェンリルがエレニに飛びかかってきました。私は一瞬身構えましたが、それがコラクスだと気づきました。コラクスの尻尾は嵐中の風見鶏のように揺れ、エレニも喜んでコラクスを抱きしめました。確かに、彼女もコラクスに会うのは久しぶりでした。彼女をアチリス磁器の製作に参加させたのは私のせいです。
「クリューセース、エレニ、来たのか。」父親が馬に乗って近づいてきて、私たちに訓練に参加するよう命じました。
最初の場所は射場で、伝統の複合弓を使って50メートル先の藁束を射撃しなければなりません。私は5本続けて外しました。エレニはそれを見て頭を振り、特訓が必要だと言いました。
次に私は剣術の練習場に連れて行かれ、エレニもついてきました。凶悪な顔をした男が私の前に現れ、「クリュー坊や、俺の対戦相手になろう。」と言いました。
彼は我が領地の百卒長のニストルです。最初からこんなに難しい相手はやめてください!
「私が審判を務める。」そばにいた背の高い筋肉質の女性が言いました。彼女はアルマで、我が領地の百卒長でもあります。
私は防具を着け、石灰を塗った練習用の木製騎兵刀を受け取りました。ニストルとともに戦争の神と守護の神に祈り、加護の力が全身に行き渡るのを感じました。そしてニストルに向かって構えを取り、練習が始まりました。
ここで簡単に倒されると領主の名誉に傷がつくので、敗れても狼狽えないようにしよう。私たちは互いに円を描いて探り合い、突然ニストルが身を沈め、地面を蹴って前進し、木製の騎兵刀を突き出してきました。
祈りの効果で感覚が鋭くなり、私はすぐに横に飛んでニストルの突きを避け、次に彼の首に向かって刀を振り下ろしました。ニストルは口元を上げ、突然もう一方の足で地面を蹴り、突きを斬りに変え、刀を私に向かって振り下ろしました。
まずい!さき避けた後、両足がまだ空中にあり、地面を蹴ることができません。ニストルの刀が私に近づいてきました。私は急いで刀を下げて、この一撃を受け止めようとしました。
「パシッ!」と木製の刀がぶつかり合い、私は反動で地面を蹴り、ニストルと力を競いましたが、最初に折れたのは私の刀でした。まずい!
私はそのまま横に倒れ込み、手で地面を支えて立ち上がりました。アルマが「はい終了!」とタイミングよく声をかけ、この試合を終了させました。
ニストルと握手を交わした後、目を閉じて深呼吸し、加護を解放しました。ニストルは最初に口を開き、「クリュー坊や、すごし成長しました。」と言いました。
「ええ、リサンドス様の訓練のおかげです。」正直に言うと、リサンドス様の訓練がもう少し優しくなることを願っています。
「最近、陶器工房での重労働も影響していると思います。筋肉がより均等に発達しています。」エレニが補足しました。
コラクスも大きな鼻で私の腰をつついてきたので、私はその首に体を預け、フェンリルの毛の感触を楽しみました。普通の羊毛よりも硬くてかゆいですが、それもまた面白いです。
「そんなに興味があるなら、乗ってみますか?」エレニが隣で微笑んで言いました。
「本当にいいの?」私は少し残念そうに言いました。幼い頃からフェンリルに乗れるウルフライダーを羨ましがっていたのですが、今は重騎兵として訓練を受けています。
「もちろん、ただし鎧を着ません。あ、武器は木剣だけですよ。」エレニは私を見定め、小さな子供を見るような口調で言いました。
「ふん、子供扱いされても、乗ってみたい!」私は鎧を脱ぎ、エレニはコラクスを引き寄せました。
「コラクスは大人しいけれど、私も一緒に行きます。」エレニは言い、続いて「ボグダンおじさん、そちらに余っているフェンリルはありますか?」と叫びました。
「あるぞ、これはどうだ?」たくましい男性が指差しました。彼はうちの騎士ボグダンで、身長は2メートル近くあり、筋骨隆々の体格で、全体的に熊のような印象を与えます。彼は鎧を着ずに短パンと開いた革のベストを着ており、きれいな丸刈りになりました。
「良さそうですね。おとなしいので乗せてもらう。」エレニはそのフェンリルの首を撫で、フェンリルは巨大な頭をエレニに寄り添わせました。そしてエレニはフェンリルに乗り、装具を試し、信号を送ってフェンリルは前に飛び出しました。
エレニは一周して戻ってきました。そして私もコラクスに乗るように指導し、フェンリルの合図を教えてくれました。馬に比べて複雑で、フェンリルに伏せるように指示することもできます。
コラクスは一般のフェンリルよりも一回り大きいで、私を乗せても問題なさそうです。エレニの指示で、二匹のフェンリルは一緒に走り出し、訓練場を駆け巡ります。
「どう感じる?」エレニが言いました。
「馬に乗るよりもすばらしい!」私は上半身をコラクスに伏せながら大声で答えました。フェンリルに乗るのは馬よりも揺れが激しく、私は落ちそうな気分でした。
「これだけ?」エレニは大笑いし、口笛を吹いて二匹のフェンリルを訓練場から収穫後の田んぼ、そして森へと連れて行きました。さらに速まり、時折木を避けて左右に急旋回します。私は言葉も発せず、ただコラクスにしがみつくしかありませんでした。
しかし、この感覚は本当に奇妙です。フェンリルが跳びはねるたびに、私は雲の上を舞うように木々の間を駆け抜け、馬に乗っているときには感じられない浮遊感を味わいました。ブナの森の葉はすでに落ちており、地面に絨毯のように積もっていました。フェンリルの足がそれを踏むと「サラサラ」と音がしました。木々が次々と後ろに倒れていくのを見ながら、ただ風の音だけが聞こえました。まるで前世のジェットコースターのようで、好きな人は本当に好きだと思いますが、私は少し敬遠します。
どれくらい経ったかわかりませんが、コラクスは小さな湖のそばで止まりました。私はフェンリルから降りて、突然めまいがして地面に倒れました。
「エレニ、なぜ私は動いていないのに、天地が回転しているのを感じるんだ?」私は起き上がらず、左手でブナの木を掴みました。
「これがウルフライダーの初学者がよく経験する、狼酔いよ!」エレニは笑い転げ、次に水筒を湖の水で満たして私に差し出しました。「少し飲んで、気分が良くなる。」
「ありがとう。」私は言い、右手で水筒を受け取りました。吐き気がするけれど吐けない感じで、本当に辛いです。二匹のフェンリルは湖に飛び込み、舌を出して息をして、まるで大きな犬のようでした。
私はしばらく休んでから起き上がりました。二匹のフェンリルは湖から上がってきて、私のそばで「サラサラ」と水を振り払いました。全身がびしょ濡れだ!
「ハハハ!」先に避難したエレニは幸せそうに笑い、「服を脱いでフェンリルに乗って帰る?」と言いました。
「いや、私は変態ではない。」私は怒って言いました。賢明な領主のもとで、私も領主夫人ではないので、そうする理由はありません。
エレニは笑い終わると、落ち葉と薪を集め、湖のそばで火を起こしてくれました。自称森で育った彼女は本当に手際が良く、すぐに火をつけました。次にエレニは水筒を取り出し、私に渡しました。
「これは麦酒よ。」彼女は言いました。
「ありがとう。でも私はまだ飲めない。」私は水筒を受け取り、地面に置きました。
「ハハ、冗談よ。これは未発酵の麦汁だ。」エレニはまた笑いました。そんなに面白いことがあるのでしょうか。彼女は次に腰のポーチから干し肉を取り出し、二匹のフェンリルに渡しました。私もコラクスの大きなお腹を撫でると、尻尾が風車のように「パタパタ」と私に当たりました。
二匹のフェンリルは火のそばに伏せました。私たちはそれぞれフェンリルに寄り添い、火を囲んで麦汁を飲みました。葉がすべて落ちたため、温かくない太陽が空に浮かんでいるのが見えました。この時に釣り竿があれば良かったのに。こんなにゆったりとした時間に釣りをしないのはもったいないです。
「クリューは訓練に興味がないのに、なぜ武道を学ぶの?」エレニは突然質問して、私の釣りの空想を打ち破りました。
「そうだね、なぜだろう。私もよくわからない。たぶん父親の期待に応えるためかな。アネモス兄さんが帝都に行った後の空白を埋めるためだと思う。アネモス兄さんは優秀で、理想の貴族になりたいと思っているから、帝都で禁衛軍として働き続けるでしょう。その時、父親一人では忙しいだろうから、私も手伝わなければならない。」私は言いました。私たちがまだ小さい時は、討伐は父親一人で行っていましたが、アネモス兄さんが昨年正式に一人で任務を遂行できるようになってからは少し楽になりました。
「おや、珍しく真剣な理由を言うのね。」エレニは何か面白いことを見逃したように言いました。
「ではエレニ、あなたは将来何をしたい?ニカンドロス騎士領を継ぐの?それとも父親や伯爵のもとで軍官になるの?」私は反問し、コラクスの腹を撫でました。
「なぜ文官になるかを聞かないの?」エレニは言いました。
「エレニは9歳でアルファベットを覚えたけど、私は学校に入る前に覚えた。」鍛冶の仕事を除いて、読み書きに関しては私がエレニに勝てる唯一の分野です。
「それが普通の速度で、クリューが早すぎたのよ!」エレニは抗議しました。「でも私はやっぱり軍官になりたい。でもヤグルマギク商会で働くのも悪くない。稼ぎが良いし、将来商会には護衛部門が必要になるでしょう。それをこのエレニに任せてちょうだい。」
「エレニの理想がこんなに普通なのは珍しい。」私は思わず口に出しました。
「どういう意味?普段の私の考えがそんなにおかしい?」エレニが反問しました。
「でも、本当にありがとう。訓練から逃げさせてくれて、飲み物まで用意してくれて。」私は言いました。
「私にたっぷり感謝しなさい。」エレニはいつもの調子に戻りました。
しばらく座って休んでから、湖の水でしっかりと火を消し、訓練場に戻ることにしました。私はクラクスに乗りゆっくりと進み、エレニもフェンリルに乗りました。その時、なぜウルフライダーが皮のズボンを履いているのかを理解しました。皮のズボンは水を通さないので、このような時に濡れません。走らなければ、フェンリルに乗るのは快適で、毛皮のふわふわした感触がとても心地よいです。
「はは、お前もさっき狼酔っただろう。」エレニがフェンリルに戻ったとき、ボグダンが私に言いました。「フェンリルに乗るのは大変だ。馬よりずっと難しい。早く諦めたほうがいい。」
「ボグダンさんもフェンリルに乗ったことがあるんですか?」私は好奇心を持って尋ねました。
「もちろんだ。でもそれは子供の頃のことだ。今は俺を乗せられるボグダンは見つからない。」ボグダンは残念そうに言いました。
その日の訓練はまもなく終了しました。次の日、私はもう一人の百卒長レナトに捕まって槍術の訓練を受けました。また弓術と騎術も練習し、父の顔に泥を塗ることなく訓練を終えました。エレニは途中でウルフライダーの訓練に参加しました。狼酔いは恥ずかしいけれど、フェンリルに乗るのは楽しかったです。
曇り空の日、私たちはパレードを行いました。辺境の砦にいる4人の騎士を除き、残りの8人の騎士と3人の百卒長が隊を率い、馬の隊列が台の前を通り抜けました。私は重騎兵の隊列に混じり、父と領地の紋章に敬意を表しました。




