好きこそものの上手なれ
何だこれは?
距離を取って再び斬りかかる。
アダムスが持つ杖が反応し、自動的に魔法のバリアが張られ、アダムスを守っている。
「馬鹿な人。今まで何人の暗殺者が私を狙ってきたと思っているの? それでも全員が私を殺す事が出来なかった! この聖女の杖がある限り私への物理、魔法攻撃は効かないわ」
杖の先が光り出して、俺に向かって光線が放たれた。
俺はギリギリで避ける。
光線は床を一瞬で溶かし、マンホール程の穴が出来上がった。
喰らったら一発でゲームオーバーだな……。
だが、避けられない訳じゃない。
「この攻撃を避けるなんて、中々やるわね! これはどうかしら?」
アダムスが杖を掲げると、杖の周りに眩い光が何十個と現れ、鉄砲玉のように俺に向かって発射された。
俺は自分の感覚に従ってギリギリで避けていく。
一つの光が、脇腹を擦る。
服と表面の皮が溶けた。
「これも避けきるなんて、大したものよ。褒めてあげる!」
肉をムシャムシャと食べながら、ギリギリ人間の形をしたアダムスが喋る。
壁に飾られた剣を手に取り、アダムスに投げつけた。
ガキン!
やはり阻まれる。
「そんな事をしても無駄よ。私が杖を持っている限り攻撃を当てる事は出来ないわ」
(ユウタどうするんだ? 思ったよりも厄介な相手だよ? それに攻撃も油断出来ない……)
(一つ分かった事がある)
(なに?)
(あの魔法、バリアが張られるまで僅かだけど時間がある。どういう条件で張られるのか分からないけど、常に張られている訳じゃない。今は張られてないだろ?)
(それがどうしたって言うのさ)
(つまり、杖が反応して魔法が張られる前に攻撃を届かせりゃあ良いって事)
(そんな、むちゃくちゃな!)
「脳筋上等ーー!!」
俺は、さっきよりも力を入れて斬りかかった。
攻撃は阻まれる。
しかし、やっぱりタイムラグがある。本当に一瞬だが!
暗殺で殺すつもりだったから、時間をかけていられない。
いくら周りの兵士達を倒したと言っても、これだけ派手に暴れたのだから、もう少ししたらきっと街に居る警備兵などが集まるに違いない。
ワンチャンスといったところか……。
中々どうして楽しい。緊張感とヒリつく感じがたまらない!
「ふぅー。スゥーッ」
俺は深く息を吐き、息を吸った。
アダムスが放つ魔法を、俺は避けていく。
見てから避けるのでは遅い。
あえて攻撃出来るタイミングを与え、それを予測して俺は避けていた。
部屋を時計回りに周りながら、壁まで使って。
このままだとジリ貧だな。俺は覚悟を決めた。
俺は進む! アダムスに向かって!
的を絞らせない為に、ジグザグに動きながら。
避けきれない攻撃は、ギリギリで擦めさせる。
深い傷は、強引に回復魔法で回復させながら突っ込む。
俺の間合いまで距離を詰めた。
そして俺は、その場でしゃがみ、天井に向かって真上に全力で跳んだ。
「こっちだ!!」
声に反応したアダムスは、天井を見上げる。
ボールを強くドリブルした時、手に引っ付いている時間が長いように、天井に足が付いている時間が一瞬長い。
天井がぶっ壊れる程強く、アダムスに向かって俺は再び跳んだ!
その瞬間、右手に持っているダガーをアダムスの顔、目を狙って投げつけた。
同時に空中で高速前宙し、ダガーの柄頭にかかと落としをブチ込み、ダガーの勢いをさらに加速させた。
これ以上加速させた攻撃は、俺の手札にはない!
「ビギョエァァァァァ」
人間の悲鳴とは思えない、怪物の断末魔のような叫び声を上げ、アダムスは杖を床に落とした。
手から離れた瞬間、さっきまで感じていた魔力の気配が無くなる。
バリアに阻まれる事なくアダムスの身体に着地する事が出来た。
胸よりも出ている腹を足場にし、胸ぐらを右手で掴み、左手に持っているダガーを、もう一方の目に差し込んだ。
「バギャァァァァァァァァァァァ」
アダムスは、ヨダレを撒き散らしながら叫ぶ。
俺は刺さった二本のダガーを抜き取り一言。
「残念ながらお前は、この世界ではここで退場だ!」
そして首を斬り落とした。
スプリンクラーのように噴き出すはずの血が、アダムスの血はドロドロと溢れ出てきた。
一つも美味しそうに感じない。
聖女と呼ばれるような人間だから俺は期待していた。
極上の女をこの手で殺せるのではないかと……。
現実はこんなものか。
外が何やら騒がしくなってきた。
(ユウタ早く逃げよう)
「ああ、分かってる」
その場からすぐに撤収し、聖都を後にした。
二日かけて自軍の陣地まで戻った。
「失礼します!」
「ジャンですか? 入って下さい」
「事情は聞きました。仕事は上手くいったんですか?」
「滞りなく……終わらせてきました」
「後はテレジア様待ちという事ですか?」
「全てが順調に上手くいけば、無血でミリア聖国を手に入れる事が出来るでしょう」
「お手柄ですジャン! 後はゆっくり休んで下さい!」
それから五日後。
ミリア聖国の新しい代表者テレジアによって、正式に国をロア王国に明け渡した。
この時をもって、ミリア聖国という国は無くなった。




