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出会いと別れは突然に

 「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 リリアが横から大きく振りかぶって男に斬りかかる。


 大剣を両手で受け止める。

 その瞬間にやっと身動きが取れるようになった。


 (今の金縛りになったかのようなのはなんだ……魔法か?)

 (魔法ではないと思う。とくに魔力が発生している感じもなかったよ)

 「クソが! なんなんだよ一体」


 「主様! 大丈夫ですか!?」

 「ああ! 助かったぞリリア」


 リリアの腕力によって飛ばされた相手は、手をぶら〜ん、ぶら〜んとさせて首を回すと、ボクサーのように構えた。

 

 今までテキトーだった雰囲気から一気にピリピリした空気に変わる。

 その空気を察してか、リリアが大剣を握り直す。


 「なんだよめんどくせぇな。こっちは酒飲んで気持ちよくなって、ただ気持ちよく寝たいだけだってのによぉー! 邪魔してくれやがってよぉ! めんどくせぇーめんどくせぇー!」

 男が消えた。


 右頬に痛みと衝撃が走る。次は左脇腹、顎、左肩。

 突然目の前に現れた相手が、俺に攻撃を繰り出す。


 今までの攻撃より遥かに速く、そして重い。何よりも隙がない。

 俺は攻撃を食らい、防御したりするが、反撃は一切出来なかった。

 途中でリリアが斬りかかるが、男は簡単に片手で大剣を弾き返す。


 連撃に連撃を重ねた攻撃に考える暇すら与えてくれない……。

 何度も意識が飛びそうになるが、どうにか保っている状態だった。


 口の中が血の味しかしない。

 徐々に視界が狭くなっていく。


 何故か俺の頭に浮かんでいたのは、レベッタ先生と訓練をしていた頃の事だった。

 「なあ先生、先生より強い化け物と出会った時ってどうすりゃあいいんだ?」

 「そんなの決まってんだろ? 全速力で逃げろ。脅し、ハッタリ、魔法、何でも使って逃げろ!」


 「絶対に逃げられない状況だったら?」

 「何で逃げられない状況なのかによるなそれは。ただこれだけは言っておいてやる! 誰かの為に逃げられない状況なら死んでもそいつを殺せ!」


 「死んだらそいつ殺せないじゃん!」

 「そういう意味じゃねえよ――」


 薄れゆく意識の中で、そんなやり取りを思い出していた。

 何故逃げ出さないのか?


 そうだ逃げ出しちまえばいい!

 全速力で逃げればきっとこいつも追ってこないだろう。

 俺もジャンもこんな所で死んでられない。死ねない。


 いや、そうじゃないだろ?

 逃げたらリリア達が全滅する。

 

 あれ?

 いつから俺は、他人なんか気にするようになっちまったんだ……。


 顎を下からはねられ、歯が飛ぶ。

 俺は男の攻撃を両手で受け止め、お腹を蹴り飛ばした。


 般若のお面を取り、投げ捨てる。

 「クックック。俺もいつの間にか変わっていってるって事だな。俺の名前はジャン・アウル! ジャンなんだ! 行くぞ」

 距離を詰める為に前に飛び込む。

 両手に持つダガーを全力で男に投げつける。


 ダガーを弾いた右腕に俺はしがみついた。

 そして腕の内側、二の腕辺りに噛みつき、肉を噛みちぎった。


 「いってぇーー!! この野郎!!」

 何度も何度も左腕で殴られ、膝を入れられるが、絶対に離したりしない。

 距離を取ると負けるから死んでも離さない。


 そして俺は歯が抜ける程強く腕に噛み付いた。

 「クソ野郎が!!」

 俺を抱えたまま、男は急に壁に向かって走り出す。

 

 そしてその勢いのまま、壁に強く叩きつけられた。

 「グハッ」

 「離せ! 離せ!」

 「ぜってぇー離さねぇ!」


 「うおおおおおおお!!」

 男は叫びながら右の拳を振り上げる。

 そのまま地面に拳を叩きつけた。


 ニュルと身体の位置を変え、叩きつけられずに済んだ。

 地面はクレーター程の窪みができ、抉れていた。


 「リリアーー! チャンスがあったらたたっ斬れ! 俺の体もろともでもいい!」

 その声を聞いたリリアが大剣を構えた。


 「あ〜分ったよ! しっかり掴まれよ! 離すなよ!」

 

 男がそう言うと一瞬目の前が暗くなる。気付くと天井がすぐそこ目の前に。

 二人で落下していく。空中で俺は頭と体を押さえつけられ、このままだと頭から地面に激突してしまう。


 「このまま死んでくれ」

 どうにかして抜け出そうと試みるが、全く身動きが取れない。


 頭を抑えられていた手が離れるのを感じ、俺は身体を捻って脱出する。

 俺は地面に着地すると、一目散に自分のダガーを取りに行った。

 二本のダガーを手に取るとすぐに男を探す。


 しかし、姿が見えない……。

 「主様!! 後ろ!!」

 後ろを向くと、男は手刀で俺の首元を斬るかのように手を動かす。

 ぎりぎりの所でダガーで受ける。


 「ハァハァハァハァ、ハァハァハァハァ」

 満身創痍だった。


 体中のあちこちが痛かった。

 ドクンッ! ドクンッ!

 心臓の音までも聴こえている……。


 男が再び姿を消した。

 目の前に現れ、俺の顔を殴ろうとしている。

 

 さっきまで目で追うことも出来なかったはずなのに、何故か全て視えていた。

 ああ……右手で殴ってくる……。


 俺は拳を避ける。

 次は蹴りが飛んでくる。


 左足だ。俺の右の脇腹を狙っているな。

 思考と視界が驚くほど働いている。


 右手で蹴りを受け止めると、そのまま右足を脇に挟む。

 その状態を利用され、右足で顔面を狙われた。


 俺は左手に持つダガーの握りを替えると、刃がある方を向けた。

 途中で男は蹴りの軌道を変えるが、左腕で俺は止める。

 止めた瞬間、右の拳で男の顔面を殴った。


 「おいおいなんだよ急に……実力を隠していたのか? いや、それはないな。極限に追い込んで俺が覚醒させちまったか……」

 何かぶつぶつ言っていた。


 俺は唄い始める。

 「も〜もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」

 「や〜りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」

 「い〜きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」

 「そ〜りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」

 「お〜もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」

 「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」


 気付くと俺は唄を口ずさみながら戦っていた。

 唄い終わると目の前には、両手と両足をなくした男が横たわっていた。


 「グハッ! お前……俺との戦いの中で成長するなよ」

 「いや、たまたまだよ。もう一度やれって言われても出来るかと言われたら出来ないね」


 「ハハハ……あぁ……また酒が飲みたいなぁ」

 「お前名前は?」

 「シャオ……」


 「シャオか。お前また酒が飲みたいか?」

 「飲みたいね」


 「シャオ……一つ提案がある。俺の部下になるなら助けてやる。お前の好きな酒もまた飲めるようになるぜ。それが嫌ならここで死んでくれ」


 「……分かった。従おう。酒が飲めるならなんだってやるさ」

 「お前、よくそんなんであそこまで強くなれたな」

 (ユウタ本気!? この男を仲間に引き入れるの!?)

 (だってめちゃくちゃ強いぜこいつ。殺すのもったいないだろ!)

 (だからって簡単に……治したら襲ってくるかもしれないんだよ)

 (大丈夫だと思うけどなぁ)


 まずは自分の怪我を治す。

 そして、手遅れになる前にシャオの傷と手足を治していく。

 魔力をかなりシャオに吸われていくが、みるみるうちに治っていき、手足が元に戻っていく。


 「おお! おお! 元に戻りやがった」

 シャオは立ち上がるが、フラッとよろけた。


 「血まで回復する訳じゃないから」

 「そういう訳かい。命は助かったんだそれだけでいいよ! ありがとな旦那」


 「旦那って……俺まだ十五歳なんだけど!」

 「まあ細かい事は気にすんなって! ガッハッハ!」

 シャオは大きな声で笑う。


 「主様!! 一体何をしているんですか!? その男を治したんですか?」

 「おお! さっきの女騎士じゃねえか! 今日から仲間になったからよろしくな!」

 

 「え!? ちょ! こいつの言っている事は本当なんですか主様!!」

 「いやぁ〜まあそうだね……死ぬならいっそ仲間に引き入れてやろうと思って」

 「そんな勝手な……危険ですよ!?」

 

 「大丈夫だと思うよ。なあシャオ?」

 「え!? あ〜大丈夫大丈夫」

 ちょっと目を離した隙に近くにあった木箱をシャオは漁っていた。


 「あった、あった!」

 シャオはそう言うと、木箱から酒瓶を取り出して掲げた。


 「どうせ食料庫を燃やしにきたんだろ? この位いいだろ?」

 「いいけど体は平気なのかよ」

 「大丈夫大丈夫!」

 シャオは抱えるだけ酒を抱えていた。


 「それじゃあ元々の目的だった食料を破棄するよ」

 「「「はっ!」」」


 目の前にある大量の食料に火をつけて全て燃やしていく。


 「それじゃあ戻ろうか」

 俺達はその場を後にし、本陣へと戻る。


 どうやら俺達が一番遅く戻ってきたようだった。

 ジェイドとエルガルド、そしてテディが入口で待っていた。


 「ジャン様! 心配しました!」

 「悪かったなジェイド、かなり手こずったんだ」


 「敵が大勢居たんですか?」

 「そういう訳ではないんだけどね……」


 「それよりもジャン様……背中にいる男は誰ですか?」

 シャオは本陣に行くまでの道中で酒を飲み干して泥酔し、いびきをかきながらジャンの背中で寝ていた。


 「え〜と新しい仲間?」


 「「えっ!?!?」」

 「ドジョーーー!」

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