魔法と魔法
「いい天気だなぁ〜。ジェイドもそう思わないか?」
「確かにいい天気ですけど……ジャン様余裕ですね――」
「主様は常に余裕なのだ!」
「ジャン様、今回は俺の出番残しておいて下さいよ?」
「ドクター見て見て! 玉袋ってこんなにブニブニしててこんなに伸びるんだよ!」
「今日の献立は肉料理がいいっすかね?」
「――全員やかましい! せっかくいい天気で穏やかな気持だったのに台無しだよ」
(皆やけに元気だね)
(やっと戦えると思ってテンション高いんじゃね?)
作戦通り、カナリーン城の西門に軍を構えた。
カナリーン城はかなり高い壁に囲まれていた。
ちょっとやそっとの事で簡単に登れる高さではない……。
気がかりが一つ。城の四つ角に監視塔なものがあるが、その場所には大きな大きな玉が設置されていた。何の為にあるのか、俺達は分かってはいない。
「ジェイド、いつでも突撃出来るような準備はしといて」
「はい! いつでもいけます」
(あ〜あ、ジャン的には俺達って出番ないんでしょ?)
(まあ今のところは……)
つまらないなぁ〜と俺は感じであくびをしている時だった。
空から急に大きな炎の塊が、雨のようにカナリーン城に降り注いだ。
「すっげー! あれがロベルタの炎魔法?」
(僕も初めて見るけど、炎の魔法だろうからロベルタだと思うよ)
初めて見るゲームのような魔法攻撃に俺はテンションが上がった。
しかしその魔法は、カナリーン城を囲んでいる側面の壁には当たっている様子はあるが、最も重要な城内には効いている様子はない。
いや、見えないバリアのようなものに弾かれている……防御魔法だった。
「あっりゃー! 見事なまでに防御魔法に弾かれてるぞあの魔法」
(やっぱり……防御魔法……あったね)
「あんな威力がありそうな魔法を止められたってのに、なんだかジャン余裕そうだな」
(ん〜……なんかどこかでこうなるんじゃないかと思ってただけだよ)
「あれだけの魔法が効いてないんじゃ、攻略するの無理じゃない?」
(普通に正面から、正攻法で破るなら難しいね)
「逆に正攻法じゃない方法ならいけるって事だな――」
「ジャン様!! 魔法が通用してなさそうなんですが、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫なんじゃない!? 大丈夫って言ってるから!」
「えっ!? 誰がですか!?」
「あ! そこは……気にしなくていいよジェイド――」
そんな話している時に、辺りが急に暗くなった。
今度は巨大な氷塊が空から降ってきたのだ。
「お〜〜! すげ〜〜な!」
(あれはきっとレオンの魔法かな……氷魔法が得意な家だからね)
城自体を潰してしまうほどの大きさだったが、防御魔法に阻まれ粉々になり、城から離れて待機している俺達の方にまで氷が降り注いだ。
「また魔法が効かなかったぞ……任せろとか自信満々にロベルタ言ってなかったか?」
(多分まさかと思っているんじゃないかな?)
「へぇ〜なんかそいつは面白いな。落ち込んでる姿でも見に行く?」
(それは趣味が悪いよユウタ……それにまだ何かあるんじゃないのかなぁ?)
「ジャン様! 伝令が来ました! 今日は一旦引き上げるとの事です」
「え〜マジかよ! なんにもしてねぇ〜じゃんか! 仕方ない分かったよ」
その日はそれで全軍が引き上げた。
兵士を休ませ食事をしている最中に呼び出しがあり、ルイス殿下のテントへと向かう。
「はぁ〜い! 皆さんご機嫌いかがですかぁ〜? あれ?」
テンション高く入ったはいいが、誰一人こっちを見ておらず黙って沈んだ空気だった。
(ユウタのせいで空気が最悪だよ?)
(いや絶対に俺のせいじゃないだろ……)
「ルイス! 明日また私に攻撃させて! 今度は絶対に破ってみせるから」
ロベルタはルイス殿下に食って掛かる勢いで声を荒げていた。
「ロベルタの中でも最上位の魔法を放ったんだろう? 明日はどうするんだ?」
「もっと強く魔力を込めるわ! 威力を上げればきっと防御魔法を破壊出来ると思う」
「出来なかったら?」
「出来る出来ないじゃないのよルイス! やるしかないのよ!」
「レオンはどうなんだ?」
「明日また同じようにやらせて下さい」
「おいおいおいおい! 同じように明日も攻めるのかよ! 全く通用してなかったのに?」
「ジャンは黙ってなさいよ! 防御魔法だってあれほどの魔法を食らってただじゃ済まないはず。ダメージの蓄積はあるはずだから、破壊出来るはずなのよ!」
「クックック! マジかよデカ美! はず、はずって全部憶測じゃねえかよ! もし全く効いてなかったらどうすんだよ――」
「流石にそれはないと思います。ダメージがぜロって事はありません!」
「まあ最終的に判断するのはルイス殿下なんだろ? ルイス殿下はどう思ってるの?」
「防御魔法があったとしても、まさか二人の魔法を阻むとは想定外だった。二人が言う通り、もう一度やったら破壊出来るかも知れない……でも破壊出来ないかも知れない」
「やってやるわよ! ホーク家の名にかけて」
「そんな簡単に名をかけてもいいのかお前?」
「黙りなさいジャン・アウル男爵」
「へぇ〜……ロベルタって実力主義で身分とか関係ないって感じかと思ってたけど、お前ってこんな所で身分とか出してくるんだな。お前ダサいな!」
「なっ――」
「それじゃあジャンは、この状況を打破してさらにカナリーン城を落とせる作戦があると?」
「あるに決まってんだろ!! お前らと違ってな!!」
「……」
(それでジャン、そんな作戦あんの?)
(えっ!? ユウタが何か思いついてたんじゃないの?)
(俺が作戦なんか考える訳ないじゃんか! ジャンが最高の作戦思いついていると思ってるから言っただけだよ)
(いやいやいやいや、本当にユウタは勝手なんだから)
「ハッハッハそうかジャン……よし決めた。後二日やるからロベルタとレオンは好きにやってみてくれ! 二日かけて攻略出来そうにないならジャンに任せる。ジャンいいな?」
「おう! 任せろ!」
「ジャンだけ少し残ってくれるか? ロベルタとレオンはご苦労だった。明日に備えてくれ」
「分かったわ」
「分かりました」
ロベルタとレオンはテントを後にする。
「ジャンと二人にしてくれないか?」
ルイス殿下がそう発すると隣にいる騎士がテントを出た。
「今は二人だけだ。本音で話そうジャン」
いつもの王子様という雰囲気ではなく、どことなく漢ルイスを感じた。
「私の夢と野望の話をしただろ?」
「大陸を統一したいって話だろ?」
「そうだ。その為に君達三人の力がいると! でもその中でもジャン――君の力が一番必要だと私は思っている」
「殿下はそんな風に思ってんだ。なんでだ?」
「あの二人は頭も良いし実力もある。貴族としての誇りも矜持もある。だけど大陸統一するにはそれだけじゃあ駄目だ……ジャンだったら少しは分かってくれるだろ?」
「まあ、言いたいことは分かるよ」
「何が何でも相手を倒してやるという、野犬のようなずる賢さと泥臭さが、必要だと思っているんだ。それはジャン・アウルにしか出来ないと私は確信している! ダル公国との一戦もそうなんだが、盗賊を部隊に引き入れてるそうじゃないか」
「ルールなんてない。なんでもありの戦だと盗賊ってのも役に立つんだよ」
「そういう所だよジャン。君のそういう普通の貴族には考えない発想と行動が、必ず必要になってくる……きっとあの二人ではまだ、カナリーン城の防御魔法は破れないと私は思っている。その時はジャンに期待して任せてもいいだろうか?」
一国の王子が俺に頭を下げた。
(おい、王子がこんな事していいのかよ!)
(駄目に決まってるだろ? それほどルイス殿下が本気だって事でしょ)
「ルイス殿下頭を上げて下さい……男爵にそんな事をしてはいけませんよ」
「いや二人だけなんだ。身分は関係ない!」
「それでも……いや、分かったよルイス! 僕に任せて。二人が駄目だった場合、僕がカナリーン城を必ず陥落させるよ! ルイスは楽に、大船に乗ったつもりでいなよ」
「ハハハハハハ! ジャンにそう言われると、何故か大丈夫だと安心するよ。頼んだぞ」
「お任せ下さいルイス殿下」
二人の会話は終わり、テントを後にしたジャンは、自分のテントへ戻り就寝した。
翌日になって昨日よりも激しく魔法が繰り出されていたが、全く効いている様子はなかった。
魔力を使いすぎてロベルタとレオンはぶっ倒れたという報告が入る。
それでも二人は、また次の日に魔法を放った。
しかし、カナリーン城に対して致命的になるようなダメージを与える事が出来なかった。
(って事はとうとう俺達の出番だなジャン)
「そうだけど、上手く行くかな〜? ユウタのせいで失敗しづらくなったじゃん!」
(なんだよ? 自信ないのか?)
「はぁ〜……自信はあるよ。後はユウタが上手くやってくれるかどうかだね!」
(言うねぇ〜! 任せろよ!)
ジャンはその夜、二人だけで会いたいと伝え、ルイス殿下の元へと赴いた。
「ルイス殿下、明日からカナリーン城の攻略は私達に任せてくれるという事で間違いないですよね?」
「勿論だ。ジャンに任せるよ」
「何があっても四日間は止めないと約束してくれますか?」
「……分かった約束しよう」
「ロベルタ様とレオン様が私達の事を止めようとしてもルイス殿下が止めて下さい」
「分かった。それでジャンはどうやってカナリーン城を攻め落とすつもりなんだ」
(確かに俺も気になってたけど、どうするつもりなんだ?)
「では作戦を伝えます。私達が明日から――しますから殿下達は――きっと相手は――その時に――攻略出来るかと」
「なるほど……そんなやり方もあるのか……」
(へぇ〜。楽しそうな事になってきたな!)
(ユウタだから出来る作戦だよ。僕じゃあ絶対に出来ない)
(クックック……久しぶりに滾ってきたぜ)
「では明日からよろしくお願いします」
テントから出ようとした瞬間、ルイス殿下から声をかけられた。
「ジャン! 作戦のせいでロベルタとレオンから軽蔑されるかもしれない……それでもいいのか?」
「何が何でも、何をしてでも勝つ野犬のような男ですからね私は。殿下の初陣を敗北にはさせませんよ!!」
ジャンは力強く殿下に発言し、テントを後にする。
そして翌日、俺達アウル軍によるカナリーン城攻略が始まった。




