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反則ばかりする極悪高校に取材に行ったら、「危険球を投げまくる野球部」「手を使いまくるサッカー部」「トラベリングしてそのまま旅行に行くバスケ部」とヤバイ部活だらけだった

 俺はとある雑誌の記者。どんな雑誌かというと、巷の噂話の真相とか、変わった人や物だとかの記事を載せるバラエティ色の強い雑誌だ。

 今日は、ある高校に取材に来ていた。

 その特徴がすごい。なんと学校でスポーツ競技などでの反則を奨励しており、公式戦でも反則やラフプレーを連発し、「反則高校」と名高い高校なのである。

 本当だとしたらとんでもない極悪高校なのは間違いない。

 俺は緊張の面持ちで、敷地内に足を踏み入れた。


 さっそく俺は野球部キャプテンの元を訪れた。

 名前は八神やがみ君といい、野球帽を被り、ユニフォームを着たその姿は、なんとも健全な高校球児に見えた。

 取材が始まる。


「この高校は反則ばかりする学校として有名らしいけど、当然野球部も反則をするの?」


「ええ、しますよ」


 八神君は悪びれず答える。


「例えばどんな?」


「僕はピッチャーなんですけど、相手に危険球を投げるのは日常茶飯事ですね」


「危険球……!」


「もちろん狙うのはバッターの頭です」


 いきなりとんでもない反則が飛び出た。高校野球界から永久追放になってもおかしくない危険行為だ。


「頭を狙うって……本当に危ないね」


「ただし、狙ってもそこに飛んでいくとは限らないのがピッチングの難しいところでして」


「?」


「なぜか、僕のボールはストライクゾーンに行ってしまって、毎度毎度絶好球になって打たれまくりですよ。アッハッハ」


 何が面白いのか分からないが、八神君は笑っている。

 反則したいという心意気はあるのだが、上手くいってないようだ。


「他には、投げる時に砂埃を巻き上げることもしますね。そうすると、バッターには僕がいつボールを投げるか分からない」


「完全な反則だ……!」


「ただし、僕の方もキャッチャーが見えなくなるのでひどいボールになりますけどね」


 全く意味のない反則だった。しかし、本人はとても楽しそうだ。


「バッティングの時も反則はするの?」


「もちろんします。バッターはバッターボックスから出ちゃいけない決まりになってますよね」


「そうだね。片足でも出てたらダメだ」


「その点、僕たちはどんどん出ていくスタイルです」


「えええ……」


「一度バットを持ってホームベースに立っていたら、相手ピッチャーが容赦なくボールを投げてきて思い切りお腹にボールを喰らいました」


「投げる相手もすごいねそれ」


 こんな調子では、野球部は毎回地区予選一回戦負け。相手チームに怪我をさせたことはないが、部員はみんな怪我が絶えないという。

 しかし、八神君の顔に反則行為に対する後ろめたさや後悔は一切なく、誇らしげだった。



……



 野球部の取材を終え、続いてはサッカー部。

 サッカー部キャプテンは桜井さくらい君という、これまた爽やかな好青年だった。とても反則するようには見えない。

 俺はほとんど前置きをせず、いきなり尋ねる。


「サッカー部もやはり反則を?」


「もちろんです。サッカーといえば、体のどこを使う競技ですか?」


 いきなり問い返され、俺は反射的に答える。


「そりゃ足だよね」


「我々にとって、サッカーとは手を使う競技なんです」


「は……?」


「もうガンガン使いまくります」


 手を使いまくるサッカーをなんとなく想像する。それはもうバスケとかハンドボールではなかろうか。


「だけど、そんなに手を使ってたら……カードを出されるんじゃ? イエローカードとかレッドカードとか」


「その通りです。しかし、大丈夫なんです」


「どうして?」


「審判にカードを出される瞬間、そのカードを白い絵の具で塗るんです」


「どういうこと……?」


「そうすると、カードが白くなってホワイトカードになる。いくらでも反則できるというわけです」


「なるほど……」


 思わず“なるほど”と言ったが、全然なるほどとは思ってない。


「さらに我々は極めつけの反則を行っています」


「え」


「サッカーといえば何人でやるスポーツですか?」


 引っかけ問題でなければ小学生でも分かる常識である。


「11人……だよね」


「しかし、我々は12人で試合をしています」


「えええ……」


 12人で試合をしてバレないものだろうか。だけどテレビでサッカーの試合を見ていると、選手がせわしなく動き回っていてとても全員は追い切れない。一人増えていても案外バレないものなのかもしれない。


「素人考えだけど、やっぱり増やすのは守備をするディフェンダーや、攻めるフォワード?」


「いえ、ゴールキーパーを二人にします」


「なんでバレねえんだよ!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 とにかく、キーパーが二人いればだいぶ有利になるのは間違いない。


「そうやって試合に勝ち続けてるわけか」


「いえいえ、我々はつい先日の試合も負けましたよ。0-10で」


「負けるのかよ! キーパー二人いるのに……」


「我がチームのキーパーは手を使わないことを徹底してますから」


 呆れて何も言えない。ここまでくると、反則というかただの天邪鬼な気がしてきた。

 反則しまくってボロ負けしまくっているという散々な桜井君だが、やはりなぜか誇らしげだった。



……



 バスケ部の取材に訪れる。取材を受けてくれるのはキャプテンの馬場ばば君。バスケット選手らしく、身長は俺よりずっと高い。


 馬場君はこれまでの生徒同様、自身の反則を得意げに語る。


「俺たちにとってダブルドリブルなんて反則は基本中の基本ですね」


「だろうね」


「それどころか、トリプルドリブル、それ以上のドリブルにも果敢に挑戦しています」


 果敢に挑戦ときた。反則を難度の高い技かなにかだと認識しているのだろうか。


「さらに、トラベリングという反則がありますよね」


 ボールを持ったまま三歩以上歩いてはいけないという反則だ。

 ここで俺は先回りしてみることにした。


「君たちなら、いっそのこと30歩ぐらい歩きそうだよね」


 馬場君の言葉が止まる。もしかして当たったのだろうか。だとするとちょっと気持ちいい。


「俺たちは30歩なんてチャチな事は言いませんよ」


「え」


「30歩どころか、歩き続けてそのまま旅行に行きました。沖縄までね」


「は!?」


 沖縄に行くには空港に行かなきゃならないよな。試合場から何歩ぐらいなんだろう。


「もちろん、沖縄土産を買って、対戦相手と審判に配りました」


「それはいいことだね」


 試合中に沖縄に行く奴はもちろんおかしいが、ちゃんと受け取った対戦相手と審判もなかなか変な奴らだなと思った。


 この他にも俺は、ネットにぶら下がるバレー部、ラケットでところてんを作るテニス部、卓球台で麻雀する卓球部、クロールやバタフライの練習ばかりする陸上部、カバディと言わないカバディ部など、数々の部活を取材した。


 共通していたのはどの部活も試合では全く結果を残せていなかった。

 弱いから反則しているのか、反則に熱中しているせいで勝てないのか、どっちなのかはよく分からなかった。


 予想以上にイカれた高校だと分かり、俺は満足する。

 彼らのしていることは多分悪いことだし、スポーツマンシップになんか全然のっとってないが、俺からすれば関係ない。面白い記事が書ければいいのだから。


 そこに一人の男子生徒が現れた。


「あなたはさっきから体育系の部活ばかり取材しているようですね」


「うん、そうだけど……」


「ですが、反則があるのはスポーツだけではありませんよ」


 この生徒、どうやら取材してもらいたいらしい。


「君はいったい……?」


「写真部部長のしゃくと申します」


「釈君ね」


 なにしろ反則高校なのだから、文化系の部活も反則をやるのは当然だった。いったいどんな反則を見せてくれるのだろうか。興味が湧いた俺は、予定を変更して取材させてもらうことにした。



……



 写真部の部室を訪れる。

 俺はさっそく釈君に尋ねる。


「えーと、写真部の君はどんな反則を?」


 釈君は今までの生徒たちと同じように、得意げな顔で写真を持ってきた。


「これは……!」


 写真に写っていたのは、なんと空飛ぶUFOや不気味な女の幽霊だった。

 といっても、UFOはいかにも手作り感丸出しで、幽霊も生きてる人間がコスプレしてるようにしか見えない。いわゆるインチキ写真というやつだ。

 なるほど、こういう反則もあるのか。


「こういった写真を数々のコンクールに出してるの?」


「ええ、ですが入選したことは一度もありませんね」


 俺が見た写真はインチキ写真としても三流といえるものだった。

 仮に『超常現象捏造写真コンクール』なるものがあったとしても、これらの写真では入選はできないだろう。

 俺は一通り写真を見させてもらって、部室を出ようとする。

 すると――


「ああ、そうそう。今見てもらった全ての写真ですが、一切インチキはしてませんよ、全部本物です」


「え!?」


 そのオチは反則だ、と俺は思った。



……



 続いて演劇部にお邪魔する。

 演劇部の部長は遠藤えんどう君という男子生徒だった。

 俺は一目で彼がどんな反則をしてるのか分かった。


「体じゅうに……文字が書いてあるね」


「ええ、カンペです」


 全身に台本のカンペが書かれている。しかも油性マジックで。

 あまりにもびっしり書かれてるので、俺は「耳なし芳一」を連想してしまう。


「こうしておけば、台詞を暗記する必要なんてないわけです」


「なるほどね……」


 台本を全身に転記する手間と、台詞を暗記する手間は、どっちが大変だろうと俺は思った。

 一応、疑問は口にしておく。


「顔や背中にもカンペがあるけど、それ自分で読めるの?」


「読めませんね」


 さっきまでの俺なら「読めないのかよ!」とでも言ってただろうが、反則高校にもすっかり慣れてきた俺は、「だろうね」というだけにとどめた。



……



 吹奏楽部では今日初めてとなる女子生徒の水前寺すいぜんじさんが取材に応じてくれた。


「あまり楽器には詳しくないけど……君の担当楽器は?」


「トランペットです」


 音楽素人の俺でも知ってるようなメジャーな楽器である。


「せっかくだし、ちょっと演奏してもらってもいい?」


「いいですよ」


 いいですよ、と言いつつ水前寺さんはトランペットを用意しない。


「あの……楽器は?」


「私たちは楽器を用いないんです」


「え!?」


 水前寺さんはそのまま両手で口を押さえると、なにやら音色を出した。ちゃんとトランペットの音になってるのが恐ろしい。

 演奏が終わった後、俺は思わず拍手してしまった。吹奏楽というより大道芸の類だろうが、これで食っていけそうな気もする。

 水前寺さんはやはり満足そうな笑みを浮かべていた。



……



 それからも色んな部活を取材し、俺は校舎内のベンチで悩んでいた。


「どの部活を表紙とトップ記事にすべきか……。なかなか決まらないな……」


 反則高校の特集記事は巻頭でやるので、どれかの部活をトップに持ってこなければならない。

 しかしどの部活も反則まみれで、甲乙つけがたい。トップ記事をどうするか、いくら考えても決まらない。


 すると、悩める俺に男子生徒が話しかけてきた。


「あなたはさっきから我が校の部活を取材しているようですね。いかがでした?」


「いやぁ、聞きしに勝る反則高校だったよ。最初はふざけてるのかと思ったけど、ここまで徹底してると、ある種の尊敬すら抱いちゃうね」


「では僕のことも是非取材してみて下さい」


「かまわないけど……」


 これまで数々の部活を取材して、俺も反則に耐性ができてしまった。あまり期待はせずに取材を開始する。


「君はどんな反則をしてるの?」


「実は僕、部活には入ってないんです」


 入ってないんかい。いきなり拍子抜けしてしまう。

 いや、待てよ。部活に入っていないということはつまり――


「僕、帰宅部なんです。北野きたのって言います」


 俺は驚愕した。


「北野君! ま、まさか……! 君はまさか!?」


 北野君はゆっくりと答えた。


「はい、僕は入学以来ずっと学校で暮らしていて、家に帰ったことがないんです」


「君に決めた!!!」






何かありましたら感想等頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルネタで終わるのかと思いきや、写真部が出て来たところから流れが変わりましたね。 次はどんな反則が繰り出されるのかワクワクしながら読んでました。 帰宅部の反則は、まさに反則でした笑 い…
[良い点]  いつも楽しいお話ありがとうございます!  このところ、気分が落ち込みがちだったのが、楽になりました。ブックマークして、また繰り返し読まさせていただきます!
[良い点] めちゃくちゃ笑えました。とてもおもしろかったです。 [一言] 作者様の別作品も読んでみたくなりました
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