十月
関東圏で住んでいる私の家にはテレビがありません。
「いやもういらないかなって思って」
地デジに移行する時です。それまで使っていたブラウン管のテレビが使えなくなる、なんかアクセサリーを買ってつけたらまだ観れるとかそういう話もありましたが、まあ、観れなくなるなら観れなくなるで、もし本当に耐えられなくなったらその時考えよう。そんな感じでテレビを観なくなりました。それから今に至るまでテレビはありません。パソコンとパソコンのモニターで生活しています。あとスマホとか、タブレットとかで。
そんな訳で実家に帰省すると、テレビを物珍しく見てしまう感があります。
「今こういう感じなんだー」
ってなります。
今回の年末年始も実家に帰省してそういう感じでした。ついつい観てしまうんです。んで、実家は大体の場合NHKが標準で設定されていますのでNHKを観ます。
「秋田のセリオンの所にそばうどんの自販機があるんだけど、NHKの72時間の番組があそこに行ったらしいよ」
「へえー」
72時間って何?24みたいなやつ?ジャックバウアー?
「あれえ、72時間だって」
知らないけど。テレビないから。
あと、年末は姉なんかが、
「あ、アメトークやってんじゃねえか」
って言って、観たりしました。
それに年始になると、今度は、
「箱根駅伝だぞ」
箱根駅伝を観ます。花の二区とか、函嶺洞門とかを観るんです。大手町とか、遊行寺の坂とかです。
「うひょー遊行寺の坂あー」
遊行寺の坂は特にテンションが上がります。時宗だからです。
NHKから日本テレビにチャンネルを変えるので、当然CMも流れます。でも、CMも見てしまうんです。普段見ないからです。今こういうCMなんだーっていう感じになります。
サッポロビール大人エレベーター今年は誰だろうって思ったりします。あと吉兆ホームのCMとかも今年も変わらないでいいねえって思います。
「ほれ、観でねで、食べれや」
母親が言いました。時計を見るともう午前10時近くになっていました。朝ご飯を食べていなかったのです。テレビをつけたまま、食卓に向かいました。
「ご飯何ですか」
「五目御飯」
あらー、五目御飯かあ。好きだなあ。母親は炊き込みご飯とか五目御飯が好きです。あるいは私と姉が帰ってきているからそういうことをしてくれているのかもしれません。ジャーで簡単に出来るそうです。私も関東圏に戻ったらやってみようかなと思ったりします。
そんな感じで箱根駅伝を放送していたテレビはまた、てんてけてんてんてんてんてんてけてんてんてんてんてんてけてんてんてんてんてんてけてんてんてんてんてててえーって言ってCMに入りました。
「まごころこめて」
「ありがとう」
『♪ぬいぐるみ~の十月~♪』
何かぬいぐるみのCMが流れました。見慣れないCMでした。こういうのもあるんだなあ。そんな感じの事を思いました。
その後年末年始の帰省も終わり関東圏に戻って、日常生活に戻ってから、電車に乗ってる時にふと、窓の外を流れる車窓を眺めながら、ふと、何がキッカケかわかりませんが、ふと、
「ぬいぐるみの十月?」
ってなりました。
「なんだったあれ」
って。
そんでそのまま考えていくと、
「あ、あれ、人形の久月のリズムじゃなかったか?」
人形の久月のCMのリズムじゃなかったか?それなのになんで、ぬいぐるみの十月なんだ?
「……」
久月、九月、その次が、十月。
「っぶぶぶうぶぶぶううう」
私は、次の瞬間、電車の中で、公共の場の中で、盛大に噴き出していたのです。それはもう盛大に。名古屋の人の結婚式みたいに。コロナ蔓延の黎明期だったら、誰かが電車の非常停止ボタンを押すくらい。盛大に。