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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

逢魔が時の交差点

作者: 夏月七葉

 神隠しに遭いたくば、交差点へ来られたし。


 そう書かれた、変な張り紙を見た。たったの一文が白い紙の真ん中にあり、左下に手描きらしい簡易的な地図が載っている。地図が示すその交差点は、私の通う学校の近くにあるもののようだ。

 普段なら、そんなものは信じないで無視していただろう。だが、その時の私は普段通りではなかった。

 数刻前、私は担任教師に呼び出された。理由は、進路希望のプリントだ。私は、それを白紙のまま提出したのだ。当然のことながら、教師には半ば叱られるように諭された。

 提出した時点で覚悟はしていたのだが、いざそれを受けると嫌な気持ちになるものである。

 だからその日の下校時、私は件の交差点に立ち寄ることにした。

 日暮れ時の交差点は、とても静かだった。元々人も車も少ない住宅街のど真ん中にあるのだが、それにしても静かだ。いつもなら犬の散歩の一組も見かけるのに、今日は人っ子一人見当たらない。

 橙色だった周囲が、少しずつ暗んでくる。数分もすると街灯が点き始め、間近に夜が迫る。

 私は暫くそこに突っ立っていたが、特に何が起こるでもない。やはりあれはただの悪戯だったかと、踵を返そうとした。

『――神隠しを望む者か』

 不意にそんな声が耳元でしたかと思うと、視界が一転した。

 闇の迫った交差点が掻き消え、突如として目の前に大きな鳥居が現れる。辺りは深く木々が覆って、眩しいくらいの満月が鳥居の上にぽっかりと浮いている。

 その満月の中、鳥居の上から見下ろす一つの影があった。

 風が通り抜ける。木々の葉が擦れ合い、ノイズが耳を塞いだ。

『汝の望みは、神隠しで間違いないか』

 ノイズに消されることなく、それどころかその声しか聞こえないかと思うほどにはっきりと耳に響く。

 私は肩にかけた通学鞄の持ち手を握り締め、喉を鳴らす。そして、ゆっくりと頷いてみせた。

 未来に希望がないのなら、いっそ――。

 影が立ち上がる。頭に獣の耳が生えた〝それ〟は、纏う和服を風にはためかせ、ニヤリと笑ったように見えた。

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