第九話 夕食いびり
いびり いびりって何だ!と言われそうなキュアリィのノマールいびり。
振り向かない事ではないと思います。
今回はノマールの夕食会の経験に目をつけました。
果たしてどんないびりが現出するのか……。
どうぞお楽しみください。
学園が終わる夕方。
キュアリィはヴィリアンヌの部屋を訪れました。
「失礼いたしますヴィリアンヌ様」
「キュアリィ。今日はどんな風にあの平民をいびったのか、報告なさい」
「はいっ」
ヴィリアンヌの言葉に、キュアリィは元気よく答えます。
「今日は貴族の夕食を食べた事がないと言うので、友人と共に我が家に招待しました」
「ほう……」
ヴィリアンヌは満足げに頷きました。
(貴族の夕食とはしきたりの多いもの……。ただでさえ恥をかきやすいところに友人まで招いて晒し者にするなんて……。未だにこの娘の底が見えないわ……)
「よくやりました。これからもその調子でどんどんいびりなさい」
「かしこまりました」
キュアリィは一礼をして、部屋を出て行きました。
時間は進んでその日の夜。
「あの、お招きに預かりまして、あ、ありがとうございます……」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですわ。お父様もお母様も、ノマールさんと会うのを楽しみにしてらっしゃいますもの」
キュアリィの言葉に、伯爵と夫人がノマールに微笑みかけます。
「キュアリィの父です。娘がいつもお世話になっております」
「は、初めまして伯爵様! こ、こちらこそいつもキュアリィ様には良くしていただいております!」
「ふふっ、キュアリィの言う通り、真面目でしっかりしたお嬢さんね。どうぞ今日は寛いでいらしてね」
「は、はい伯爵夫人! ありがとうございます!」
緊張の面持ちが崩れないノマールを見て、伯爵はキュアリィに提案しました。
「やはりいきなり大人と食事というのは、ノマールさんも気が張るだろう。席を分けて、お友達とのんびり食べるといい」
「わかりましたわお父様。ノマールさん、今日はウォミーさん、ソフィティアさんもお招きしているので、四人で食べましょう」
「え、あの、でもそれでは伯爵様に失礼では……」
「でしたら食後のお茶を、お父様お母様とご一緒するのはいかがかしら?」
「お、お心遣い、ありがとうございます!」
「では支度に入ってくれ」
「かしこまりました」
伯爵の指示で、食堂のテーブルがてきぱきと組み替えられていきます。
整えられた四人がけの席に、キュアリィ、ノマール、そして後からやって来たウォミー、ソフィティアが座りました。
「今日は牛肉の良いところが入ったそうですのよ。楽しみですわね」
「そ、そんな高級品を……!? わ、私、お作法がよくわからないのですが……!」
「ウォミーさんを見ながら真似をすれば大丈夫ですわ。お作法の先生から、『もう教える事はない』と褒めていただいておりますから」
「よろしくお願いいたします!」
運ばれて来た前菜やスープを見様見真似で味わいながら、メインの牛肉のステーキに感動するノマールを眺めて、キュアリィは深い満足に包まれました。
(こうしていびりを続けていけば、ノマールさんも緊張が取れて楽しく過ごせるようになるはずですわ。あぁ、もっともっといびらなくては!)
読了ありがとうございます。
この親にしてこのキュアリィ。
お茶の時間もさぞやほんわかな事でしょう。
なお、このままでは終わりません。
更なるいびりがノマールを優しく包む!
次話もよろしくお願いいたします。