第二十話 本貸しいびり
いびれ そなたは美しい、と言ってあげたくなるキュアリィのノマールいびり。
今回はノマールの日ごろ読んでいる本に目を付けました。
果たしてどんないびり物語が始まるのか……。
どうぞお楽しみください。
学園が終わる夕方。
キュアリィはヴィリアンヌの部屋を訪れました。
「失礼いたしますヴィリアンヌ様」
「キュアリィ。今日はどんな風にあの平民をいびったのか、報告なさい」
「はいっ」
ヴィリアンヌの言葉に、キュアリィは元気よく答えます。
「今日はノマールさんが教科書ばかり読んでいると言うので、友人と本を勧めましたわ」
「ほう……」
ヴィリアンヌは少し考えました。
(どんな本を勧めたのかしら……。難解な本を渡して感想を強要? それとも恐怖を煽る本で眠れなくさせたり……? 長編娯楽小説で勉強の妨害というのもありそうね……)
考えるうちに、ヴィリアンヌの口角が自然と上がります。
「よくやりました。これからもその調子でどんどんいびりなさい」
「かしこまりました」
キュアリィは一礼をして、部屋を出て行きました。
時間は遡ってその日の昼。
「皆さん、最近はどんな本を読んでいらっしゃるの?」
そう聞いたキュアリィが、まずウォミーに水を向けました。
「ウォミーさん、いかがかしら?」
「私は最近お料理が出てくるお話をよく読みますわ。美味しそうな描写が素晴らしいんですの」
「いいですわね! 字で見ているだけでも食べたくなりますもの! ソフィティアさんはいかが?」
「私は恋物語がお気に入りですわ。好き合っているはずなのにすれ違う感じがたまらなくて……」
「わかりますわ! そのすれ違いが解けた時を思うとわくわくしますものね! ノマールさんはいかが?」
「えっと……」
問われてノマールは言葉に詰まりました。
しかし、意を決して口を開きます。
「……教科書、です……」
「……教科書」
「はい、本は高価で買えませんし、図書館の貸出も万が一汚したり紛失したりと思うと……」
「!」
恥ずかしそうに言うノマールに、まず動いたのはウォミーでした。
「まぁ! でしたらこれをお貸ししますわ! 気に入ったので二冊買ってますの!」
「え、あ、ありがとう、ございます……」
「これは有名料理店の主人が仕事の後、飢えた女の子に食べ物を食べさせるお話なのですが、料理とそれを食べる描写がとても官能的なのです!」
「まぁ! 楽しみに読みます!」
「ならば私も!」
ソフィティアも本を差し出します。
「これは売っているお店は把握していますので、私が何度も読んだもので申し訳ないのですが、よろしければ差し上げますわ!」
「え、よろしいのですか?」
「えぇ! 恋に破れ、傷心の男を慰める女……。男の立ち直りに手を貸すうちに芽生える愛……。きっと何度も読み返したくなりますもの!」
「ありがとうございます!」
「私はこれをお勧めしますわ!」
キュアリィも持ち物の中から本を出しました。
「囚われの竜の姫君と、それを救い出した騎士との恋愛喜劇! 少し長いですが、ノマールさんならきっとすぐ読めてしまいますわ!」
「ありがとうございます! じっくり読ませていただきます!」
本を抱えて嬉しそうに微笑むノマールを見て、キュアリィも嬉しくなりました。
(教科書だけでは息が詰まってしまいますものね。そうですわ! 今度図書館に行って、ノマールさんが遠慮せず借りられるよういびりましょう! 楽しみが広がりますわ!)
読了ありがとうございます。
三人のお勧めした本のあらすじに見覚えがある?
気のせいじゃないですかねぇ……(震え声)。
さて、そろそろこの物語も幕を引こうと思います。
予定ではあと五話、11月3日に完結できればと思っております。
最後までどうかお付き合いください。




