第十七話 夏休みのいびり報告 後編
ノマールはいびる!! 褒める!! 遊ばす!! もてなす!! すなわち夏を総取り!!!と叫びたくなるキュアリィのノマールいびり。
この二人の間に等価交換の必要なし!!!!!(他人行儀だから)
夏休みの報告も最終日のイベントにまで至りました。
どうぞお楽しみください。
「引き続き報告をなさい。他にはどのような事をしたのかしら?」
「はいっ」
我に返ったヴィリアンヌの言葉に、キュアリィは元気に答えます。
「翌日からはいびりらしいいびりはせず、のんびり過ごしました。学園の課題に取り組みながら、集中できなくなったらお水をかけたり」
「水!?」
ヴィリアンヌは驚きましたが、すぐに平静さを取り戻しました。
(平民は眠気覚ましのお茶を買うお金もなく、水をかぶったりすると聞くわ……。それを再現してみじめさを強調したのね……。それがいびりですらないとは……)
(暑くてお勉強が手につかない時は、湖に出て皆さんで水かけ遊び……。涼しくて楽しかったですわ……!)
二人は真逆の感想から、同時にふふふと笑います。
「でもその間、料理はずっと平民がしていたのよね?」
「勿論です」
キュアリィの答えに、ヴィリアンヌの笑みが深まります。
(同級生から使用人のように扱われて、さぞや屈辱だった事でしょう……。疲れ切った様子が目に浮かぶようだわ! ……会った事はありませんけど)
(ノマールさんのお料理、どれも美味しかったですわぁ……。その分お掃除や後片付けを私達や使用人がしたら、『こんなに楽していいんですか?』だなんて……)
またも二人は同時に、ふふふと笑います。
「あ、そうですわ! 最後の日の夜、大きな焚き火で最後のいびりをしましたわ」
「焚き火で、いびりを……?」
「はい、私の背より高く木を組み上げて、そこに火をつけると昼のように明るくなって……」
「……そう……」
ふとヴィリアンヌの脳裏に、恐ろしい想像が浮かびました。
子どもの頃に読んだ絵本で、最後に悪い魔女が焚き火に焼かれる場面。
『焚き火』と『いびり』の組み合わせが、ヴィリアンヌにそんな光景を思い出させたのでした。
「……まさか、まさかとは思いますけど、そこに平民を突き飛ばしたりは……」
「まぁ! そんな危ない事はいたしませんわ」
「そ、そうですわね。危ないですものね」
キュアリィの答えに、ほっと胸を撫で下ろしました。
(人が焼かれる姿なんて想像したくもないですし、それで火傷の跡など残ったら、流石に言い逃れできませんものね……)
「火傷をしないぎりぎりまで行くのが楽しいんですもの!」
「!?」
ヴィリアンヌにはキュアリィのその笑みが、魔女のように見えました。
固まるヴィリアンヌをよそにキュアリィは、夏の締めくくりに相応しい最高の思い出に浸りました。
時は遡って夏休み半ば頃。
定例となったベッドに横になっての会話。
それはウォミーの問いかけから始まりました。
「ノマールさん、何か夏の思い出のようなものはありますの?」
「そうですね……。私の故郷では。夏のお祭りの時に大きな焚き火を広場でやって、子ども達が度胸試しをするんです。どこまで火に近づけるか、と」
その話に、三人は驚きました。
「まぁ! 危なくはないのかしら?」
「大人が水を持って側にいますので。そうやって火の怖さとありがたさを学ぶのです」
「成程、学びの場という側面もありますのね」
「その祭りを体験すると、子ども達はかまどなど家の中の火を扱う事を許されるのです」
「通過儀礼でもありますのね……。興味深いですわ」
「あの大きな焚き火を見ると、夏の終わりを感じられるのですが、今年は少し残念です……」
寂しそうに笑うノマールに、キュアリィが声を上げます。
「まぁ! 焚き火なら使用人に言えば用意できますわ! 最後の日の夜に用意させましょう!」
「そんな! キュアリィ様! 申し訳ないです!」
「あら、まだそんな事を仰るのですね」
「ノマールさんと夏の思い出を楽しみたいのです。遠慮なんて無用ですわ」
「ウォミー様……! ソフィティア様……!」
三人の暖かさに泣きそうになるのを堪え、ノマールはにっこり笑いました。
「では、焚き火の木の組み方を使用人の方にお伝えします!」
「! えぇ! お願いしますわ!」
「他に何かお祭りならではのものはありますの?」
「鶏肉を串に刺して、甘辛いタレでいただく料理が定番です!」
「美味しそうですわね!」
「はい! ソフィティア様にも是非召し上がっていただきたいです!」
「甘辛いタレ……。そうしたら炭酸水に柑橘の汁を絞ったものが合いそうですわね」
「! ウォミー様! それは絶対美味しいと思います!」
「そうですわ! 料理や飲み物を事前に用意して、お父様お母様や使用人達も一緒に参加する、お祭りにしてしまいましょう!」
「わぁ! 最高ですキュアリィ様!」
広がる祭りの企画に笑顔で答えるノマールを見て、キュアリィは少し涙ぐんでいました。
(最初は遠慮ばかりだったノマールさんが、こんなにも生き生きと……! このお祭りを成功させて、ノマールさんの隔たりを壊す、最高のいびりにしてみせますわ!)
「ふふっ、ふふふ……」
そこから当日の料理や飲み物の美味しさ、焚き火の熱さと両親まで加わった度胸試しの盛り上がり、そしてノマールの弾けるような笑顔を思い出し、頬を抑えて笑うキュアリィ。
それをヴィリアンヌは、青ざめながら見つめる事しかできませんでした。
(カルキュリシア! 早く来て……!)
読了ありがとうございます。
キャンプファイヤーを『火炙り!?』ってヴィリアンヌに思わせたかっただけだったのですが、まさかこんな大掛かりな祭りになるなんて……。
いびりってすごい。改めてそう思った。
また次話からいつもの流れに戻ります。
……ヴィリアンヌはカルキュリシアが慰めて、いつも通りになると思います。
次話もよろしくお願いいたします。