第十話 お泊まりいびり
けれども拙者はキュアリィ殿のする甘っちょろいいびりの方が好きでござるよ、と言われたら嬉しいキュアリィのノマールいびり。
前回の夕食から隙の生じぬ二段いびりとなりました。
どうぞお楽しみください。
学園が終わる夕方。
キュアリィはヴィリアンヌの部屋を訪れました。
「失礼いたしますヴィリアンヌ様」
「キュアリィ。今日はどんな風にあの平民をいびったのか、報告なさい」
「はいっ」
ヴィリアンヌの言葉に、キュアリィは元気よく答えます。
「今日と言うよりは一昨日の事ですが、夕食会の後、そのまま我が家に泊まっていただきました」
「えっ、泊ま、えっ……?」
ヴィリアンヌは意外な発言に戸惑いましたが、すぐにその裏にある恐ろしい計略に驚愕しました。
(わかりましたわ! 夕食会で恥をかかせた挙句、家に帰させず側にいさせる事で、心の回復さえも許さなかったのね……。何て容赦のない……!)
「そこで将来の事について、色々お話しさせていただきましたわ」
「……何ですって」
(更に貴族と平民の描く未来の違いを殊更に見せつけるなんて……! にこにこ笑いながら何と残酷な事を……!)
「よ、よくやりました。これからもその調子でどんどんいびりなさい」
「かしこまりました」
キュアリィは一礼をして、部屋を出て行きました。
時は遡って一昨日の夜。
客用の部屋で、キュアリィ、ノマール、ウォミー、ソフィティアは、寝巻きに着替えて話に花を咲かせていました。
「ではウォミーさんの理想の結婚とは、どんなものですの?」
「私はたくさんの子どもに囲まれて賑やかに暮らしたいですわ」
「素晴らしいですわ! ソフィティアさんはいかがかしら?」
「私は共に各地の名所を旅して回りたいですわ。素敵な風景や歴史ある建物を共有して深まる愛……。憧れですわ」
「素敵ですわねぇ! ノマールさんはいかがかしら?」
「私は……」
キュアリィに水を向けられて、ノマールは口籠もります。
「……私は学園で学んだ事を生かして働いて、家族に少しでも楽な生活をさせる事しか考えていなかったので、結婚なんてそんな……」
「あら! いけませんわ! ご自分の幸せを諦めては! とても裕福で優しい貴族の方が、ノマールさんを見染めるかもしれませんのに!」
「でも平民の私が、そんな夢みたいな……」
「そんな事はありませんわ! 平民出身の準男爵の令嬢が、侯爵家令息に見染められて婚約した、なんて話もありますのよ!」
キュアリィの勢いと話の内容に、ノマールは目を丸くしました。
「へ、平民でも、貴族の方と……?」
「えぇ。実に仲睦まじいご関係との事ですわ。身分などより心が通じ合うかどうかなのです」
「はぁ……」
溜息を吐くノマールを見て、畳み込むべきは今、とキュアリィはウォミーとソフィティアに話を振ります。
「逆にお相手が王子様でも、子どもが嫌いな方でしたり、旅の苦手な方でしたら、お二人はお嫌でしょう?」
「えぇ、残念ですけど謹んでお断りしますわ」
「私もです。お相手の身分と結婚する訳ではないのですから」
「そうなのですね……」
ウォミーとソフィティアの言葉に、ノマールの顔に希望の輝きが宿ります。
「……でしたら私、私の家族ごと愛してくれるような、暖かい方と、結婚したいです……」
「素敵ですわ!」
「ノマールさんならきっと幸せになれますわ!」
「はい! ありがとうございます!」
笑顔で頷くノマールに、キュアリィは決意を新たにします。
(ご家族を想うあまり、ご自分すら犠牲にしようとする優しいノマールさん……。これからもいびる事で支えて差し上げなければ……!)
読了ありがとうございます。
瞬時にキュアリィの意図を汲み取るウォミーとソフィティア。
この三人に死角なし。
次話もよろしくお願いいたします。




