第一話 平民いびりの始まり
新連載です。よろしくお願いいたします。
悪役令嬢ものですが、おそらくご期待のものとは違うと思います。
それでもよろしければ、どうぞお楽しみください。
「こんにちはヴィリアンヌ様。お呼びとの事で参りましたキュアリィでございます」
「お入りになって」
「失礼いたします」
キュアリィが入ったヴィリアンヌの部屋は、流石公爵令嬢といった様子の豪華な部屋でした。
キュアリィは伯爵家令嬢に相応しい、丁寧な礼をヴィリアンヌにしました。
「本日はどのような御用でしょうか?」
「貴女、ノマールはご存知かしら?」
「はい、同じクラスです」
「そう……。ならばあの娘が平民という事も知っていますわね?」
「はい。成績がとても優秀なので、本来貴族しか入れないこの学園に、特別に入学を許されたと聞きました」
「……貴女はそれをどう思っているのかしら?」
「大変な事だと思います」
「その通り!」
ヴィリアンヌの声が突然跳ね上がります。
「この由緒正しい学園に、平民が入るというのは大変な事なのです! なのに先生方は成績だけを見て何も手を打とうとしない!」
「は、はい」
「そこで貴女にお願いがありますの」
ヴィリアンヌは意地悪くにたりと微笑いました。
「ノマールをいびってやってほしいのよ」
毒々しい悪意。
しかしキュアリィは、ぽかんとした顔で聞き返します。
「……ヴィリアンヌ様。いびる、とは何ですか?」
「へ?」
そんな事を聞かれると思っていなかったヴィリアンヌは、同じようにぽかんと目を開きました。
しかし気を取り直して、悪い笑みを再び顔に上らせます。
「いびるというのはですね……」
そこでヴィリアンヌは、言葉を止めました。
平民ノマールを追い出すための嫌がらせをしろ、と指示するのは簡単です。
しかしそれが明るみに出て、キュアリィがヴィリアンヌの指示だと言えば、いかに公爵家令嬢とはいえ、立場が悪くなる事は避けられません。
そこでヴィリアンヌは悪知恵を働かせて、言い訳できる逃げ道を残す事にしました。
「ノマールは平民なので、貴族や学園のしきたりに疎い事でしょう」
「そうですね。時々困っています」
「それを指摘して、改善するように言うのです。どんな些細な事でも、丁寧に、じっくり、ねっとり、教えてあげるのです」
「わかりました!」
キュアリィは大きく頷きました。
それを見てヴィリアンヌは満足げに頷き返します。
(くくく、これであの平民は学園から消え、学園はあるべき姿を取り戻すのですわ! そしてこのぽやんとした娘に全ての責任を押し付けてやれば……! あぁ! 私は天才ね!)
(ヴィリアンヌ様、嬉しそうですわ……)
悪い笑顔のヴィリアンヌを見て、キュアリィも嬉しそうに微笑みます。
「では早速取り掛かって頂戴」
「かしこまりました」
こうしてキュアリィは悪役令嬢としての一歩を踏み出したのでした……。
読了ありがとうございます。
第一話にして、既に不穏な雰囲気が漂っております。
『いびる』という単語そのものを知らないキュアリィがどんな行動を見せるのか。
続けて第二話も投稿しますので、よろしければ次話もよろしくお願いいたします。