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綺羅星のアストライアー  作者: 紀之貫
第2章 彼女たちの戦争
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第46話 記者会見③

 戦略面に関してはまた後日、国際社会との連携面も絡めて詳細に行うということで、とりあえずこの場での話は以上となった。

 そこで、会見は質疑応答へと移行。すると、待ちかねたとばかりに、手がいくつも挙がった。

 この場に来ている記者たちは、軍事系の報道社の者もいるが、多くは政治経済関係の記者だ。そうした構成比を反映するように、経済界がらみの質問が投げかけられる場となった。

――つまり、日本を代表する大財閥の守屋家ご令嬢が、救星軍でテストパイロットなんてやっているということについてだ。


「守屋財閥と救星軍の関係について、すでに周知の事実となったところですが、守屋家ご令嬢でいらっしゃる精華さんが今回テストパイロットを務められたことについて、関係各所から何か特殊な思惑は?」


 1球目から、中々突っ込んだ質問が投げかけられた。それに対し、精華は気後れする様子なく、真正面から答えていく。


「まず、私が救星軍へ参加したことについて、それは私自身の自由意志に基づくものです。また、こうしたパイロットの座に就いているのは、組織として公正な試験を通過してのことです」

「では、救星軍としても適切な人選として、精華さんが抜擢されたと」

「話題性を狙ったという意図はあるかもしれません。ですが、私がテストパイロットとして申し分ない人間だという自負はあります。パイロットになるための訓練環境作りに、守屋という生まれを使った側面はありますが……今後の実戦において、技量を証明できればと思います」

「ありがとうございます」


 質問の主は、精華の言を疑う様子を見せず、すんなり受け入れたようだ。他の記者も概ね同じような反応を示しており、質問1発目は無難に終わった。

 しかし、1球目で上がったトスから、さらなるキラーパスが叩き込まれる。


「大変不躾な質問かと思いますが……お父上の守屋孝介氏は、若い頃に傭兵経験があったと聞きます。それが、ご自身の判断にも影響を?」

「それは、否定できません。ただ、父の過去について、心情等を詳しく聞かされたことはありません。私なりに考えて解釈したものが、私の意思決定にいくらか影響しているという程度です」

「ご回答、ありがとうございました」


 今度も臆することなく応じた精華だが、同基地内で会見を観覧するだけの関係者側にしてみれば、大変に気を揉む展開であった。やり取りが落ち着くや否や、真希たちの周囲で、緊張した空気が緩んでいく。

 そんな中、真希は春樹に耳打ちした。


「少し、遠慮なさすぎるんじゃない?」

「いや、実は『遠慮するな』って、ご本人から」

「へ?」


 思わぬ解答に、真希は戸惑った。少し間をおいて、春樹が再び小声で話しかけてくる。


「君みたいに、自分や周りのこと、きちんと知ってもらいたいんじゃないかな。それに、あれだけ立場がある方だと、つまらない詮索もされかねないし。だから、勘ぐられる前に、堂々と打ち明けていってるんだよ」


 そう言われて、真希はスクリーンをじっと見つめた。映像の中の精華が、実際よりも大きく見えるような気がした。


 関係者たちにとって幸いなことに、精華自身や守屋家に関わる質問は、これで打ち止めだ。続いて、自国と支部に関する疑問が投げかけられる。


「先程のご説明では、降下した敵に対し、大洋を区分けした8支部で対応するとのことでした。では、こちらの日本支部の立ち位置は、どのようなものに?」

「基本的には、研究開発に注力することとなります。また、有事の際には、他の支部へと出向いて共同作戦を取ることになるかと」

「それは、アストライアーも、ですか?」

「はい。まず、日本支部の保有戦力は、ヴァリアント試験機が1機。それに、アストライアーが協力者ということでさらに1機。以上、計2機です」


 ここまでの救星軍といえば、日本支部の存在感が圧倒的だった。しかし、蓋を開けてみればごく小規模の戦力ということで、予想外の事実に記者席から困惑の声が小さく漏れ出る。


「おそらく、アストライアーの存在を抜きにしても、日本支部が研究開発を担う立ち位置だったことと思われますが、それは守屋財閥とも関係が?」

「はい。様々な面において、守屋からの援助を受けていますので。もちろん、他国の各種研究機関からのご助力もいただき、我々の現在があります」


 戸惑いを見せていた記者たちも、精華の落ち着きぶりに影響されたのか、すぐに平静を取り戻していった。解消された困惑の代わりか、質疑の手が挙がっていく。


「配備される機体に、性能差などは?」

「強いて申し上げるなら、私が任された試験機は、他とは少し異なります」

「具体的にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「試験機と申しましたが、試験が必要なのは機体のみではありません。新規の兵装についても、実地試験が求められます。特に、日本支部は研究開発の拠点ですから、そういった機会が多くあることと思われます。そうした新兵装の試験用という面も考慮し、試作機は出力やフレーム強度において、安全マージンの高い設計となっています」


 と、そこまでは滑らかな口調で答えた精華だが、言葉を切った彼女の顔には微妙な変化があった。わずかに視線を動かし、言い淀むような、あるいは考え込むような。質問者は、そうした変化を逃さなかった。


「他にも、何か?」

「そうですね……試験機には、戦闘補助等を目的にAIが備わっていますが」

「何か特徴的な性格でも?」

「ええ、まぁ……」


 会見の全般にわたり、スパスパと小気味良ささえ感じさせる答弁を繰り返した精華だが、今回は珍しく歯切れの悪い返答に。こうした口ぶりが、なおさら記者陣の興味を掻き立てたようだ。話題が重くならなさそうというのも一因だろう。質問者は、控えめな態度を保ちつつも、食い下がった。


「差し支えなければ、どのような方か、お話しいただけませんか?」

「……中々ユニークな性格で、趣味が……」

「趣味が?」


「職員相手の麻雀だそうです」



 同日16時半ごろ。真希は自室で級友たちと歓談していた。話題はというと、救星軍が開いた会見である。ただ、堅苦しい話はさほど眼中にないようで、高校生たちの興味は一点に注がれている。


『精華さんって、カッコよくない?』

「ま、まーね、うん」


 精華の堂々とした態度に、真希も感じ入るものが十分にあったが、部外者にはそれ以上の感銘を与えたようだ。遠くにあるからこそ、一層輝いて見えるのかもしれない。それこそ、月やアイドルのように。


『サインもらえない?』

「あのねえ……」


 有名人の知り合いみたいなポジションに立たされたようで、真希は思わず呆れ気味の苦笑いを浮かべた。もっとも、暗い話題で湿気るのに比べれば、ずっと好ましくはあるが。


 そうして取り留めのない話題を続けて数分経ったところで、部屋のチャイムが鳴った。級友たちに一言断り、離席する真希。

 果たして、インターホンに映る人物は、話題の人物その人であった。噂をすれば影といった現れように驚きつつ、真希はドアを開けた。

 真希の部屋を訪れた精華は、私服らしきコンサバな装いをしている。安っぽくはないのだが、生まれ育ちを踏まえれば、意外なほどに庶民的というべきか。あまりオシャレしても……という環境ではあるが。


「守屋さん……もしかして、外まで聞こえてました?」


 そこまで大声を出していたつもりはないのだが、急に心配になって真希は尋ねた。一方、精華の方はと言うと、一瞬だけ虚を突かれたような真顔でいたが、すぐに事情を察したようだ。


「もしかして、お友だちとお話を?」

「はい。ちょうど、守屋さんの話をしていたところで……」

「そうですか。もしよければ、少しお茶でもと思ってましたが……」

「……せっかくですし、ご一緒しません? 私の友だちは、結構うるさいかもですけど」


 部屋の中を指さしての、この申し出は、ある程度予想できたことだろうが……精華は少し遠慮がちにためらう様子を見せた。

 だが、朗らかな笑みを浮かべつつ、人懐っこくもわざとらしく訴えかけるような目の輝きに、精華は折れた。「会見よりもむしろ、緊張しますね」と、どこまで本気かわからないつぶやきに、真希は小さく吹き出しつつも、精華の手を軽く引いて中へといざなう。


 やがて、二人並んで端末の前に姿を現すと、画面の向こうは騒然となった。しばしの間、ろくに会話ができない状況になる。真希が横の精華に目を向けてみると、彼女は高校生の騒ぎように少し気圧されつつも、満更ではなさそうな様子であった。

 しかし――精華が来たのはいいものの、投げかけるべき質問が向こうから中々出てこない。会見の場と違い、若いなりに自制心を働かせて遠慮しているようである。

 そんな中、一人の女子生徒が、おずおずと尋ねた。


『守屋さんは、救星軍に就職? していらっしゃるんですか?』

「いえ、就職ではなく、あくまで在籍している形ですね。本職は別にあります」

『本職ですか? 守屋グループに?』

「実は……大学2年生です」


 これは真希も初耳である。すでに社会人とばかり思っていただけに、実際はもっと若い――真希とそんなに変わらない世代と判明し、驚いた。

(っていうか、香織先生よりも若いじゃん……)

 思わずそんなことを考えてしまい、後で香織になんとなく申し訳なくなさを覚えた真希である。

 彼女の級友たちも、想像以上の若さには驚きを隠せないでいる。たかだか3歳程度しか変わらない人間が、世界に向けて堂々とその姿を示したのである。真希も真希で大概ではあるのだが……


 さて、画面の向こうの高校生たちだが、大学名まで尋ねることはしなかった。なぜなら、彼らはあの高原真希と同級生でありながら、様々な配慮で守られている身だからだ。真希の件を通じ、彼らなりに色々と考えることもあるのだろう。

 真希や精華ほどではないにしても、彼らもまた、実年齢よりは少し大人になっているというわけだ。


 ただ、あまり沈黙が続いたのではもったいない。そこで、趣味やお気に入りのシャンプー等、他愛もないやり取りが続いた。話題自体は些末だが、精華の素顔を知れるようで、真希には嬉しくあった。

 聞かれる側の精華も、会見のときとは違ってリラックスした様子で歓談しており、それも真希にとっては何よりであった。

 しかし、そこで精華に着信が。心底申し訳なさそうに断りを入れ、確認する彼女。


「ごめんなさい、呼び出しを受けまして……」

『いえ、とても楽しかったです。できれば、またお会いできたらって……』

「そうですね。近いうちに、そちらへ伺おうかと考えています」


 精華の言に、真希を含む高校生一同が目を白黒させる。そんな彼女らに、精華は言った。


「今回の実地試験と会談に向け、まとまった時間が取れませんでしたが……一度ご挨拶に伺おうとは、前から考えていました。組織の一員としての話もありますし。ご要望有りということで、ちょうど良いですね」


 柔らかな口調で話す彼女に、ぽかんとしていた高校生たちも、少しずつ理解が追い付いていった。そんな一同に頭を下げ、精華は呼び出しのためにと席を立った。

 通路まで見送った真希が再び席に着くと、さっそく質問が。


『マッキーもさぁ、お姉様と一緒に戦う感じだよね?』

「お姉様ってさぁ……いや、まー、そーだけど」

『どれに対して言ってんの?』


 横から入ったツッコミで、にわかに場が賑やかになる。その後、質問の主が、問いかけの本意について口にした。


『動画では例のロボットが飛んでたけどさ、マッキーと香織さんも飛ぶの?』

「うん、飛べるようにするって話」

『……免許は?』

「あるわけないじゃん」

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