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現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!【コミカライズ8巻 10月8日発売!】  作者: しば犬部隊
竜祭りの前に

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84話 アリス・イン・デート その3

 



 所狭しと並ぶ数々の露店。



 ヒトの熱量がむわりと溜まり、しかしそれが弾け続けて入れ替わり続ける、そんな空気。




「はいはいはい! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 商人ギルド公認の宝飾品が多数揃ってるよ! 数は少ないが、なんと今貴族様の中で人気沸騰中! 宝石の眼を持つ大蛇、ティタノスメヤの蛇皮のサイフも用意してるよ! ……うお」




「注目! 竜祭りまであと少し! ここで一つ振り返り、竜様の物語を聞いていきませんか! うちの吟遊詩人の歌に感動したならば、この赤々と熟したアポルの実を買っていってくださーい! ……あ」




 青空の下、帝国有数の経済規模を誇る冒険都市アガトラの市場は今日も隆盛。




「王国から家具をたくさん仕入れたよ! なんでも輸送商人の話ではこれから少し海運の関係で値上がりするそうだ! お得に買うなら今がチャンス! ……わあ」





 喧騒。




 その街の新陳代謝の象徴、所狭しと並ぶ蚤の市。




 黒髪の剣呑な目つきの男と麗しい金髪を輝かせ宝飾品のような美しい顔をした10代後半ほどの少女が並んで歩く。




 威勢よく客を呼び込む商人たち、彼らの啖呵はしかし金髪の少女がその店の前を通るたびに、萎んでゆく。




 みな、目を、耳を、口を、金髪の少女、姿を変えて市井に紛れる竜の美に奪われてーー




「そこゆくお兄さん、少し寄っていかないか!? 冒険者ギルドから仕入れたばかりのエッグアントの蜜から作った霊薬が今ならなんと銀貨3枚であなたのもの! 一滴飲むだけで化け物の群れにも突っ込める勇敢さが君のも、……の」




「あー、間に合ってまあす」




 目つきの悪い黒髪の男、遠山鳴人が呼び込みを軽くいなす。バベル街の歓楽街のキャッチをかわすのと同じように頷き会釈しつつ通り過ぎる。




「そこのお嬢さん!! まあ! なんて綺麗な金色の髪なの!! きっと、天使様の祝福ね! そんな貴女にこのブレスレットはいかが? 貴女の金の髪ととてもよくお似合いですよ!」





 ふくよかな女商人が差し出した金のブレスレット。やかましいほどに光るのは強い日差しのせいだろうか。



 青空市場を訪れ、初めて竜が、ドラ子が足を止める




「ふむ、……贋金か。真鍮を上手く塗っておるではないか。なるほど、市井の者の知恵というわけか」





 だが、それも一瞬。手に取ることすらせず、竜の瞳は容易に品の真贋を見極める。





「えっ、なんで」




「売り子よ。構わぬ、許すさ。貴様はこれを本当の金とは一言も言うておらなんだからの、励めよ」





 ぽかんと口を開けて固まる女商人に、ニヤリと笑う竜。その荒々しさを内包する魅力に、ぺたんと腰砕けになる女商人。





 それを振り返ることもせず、2人は進む。





「へえ、意外だな。ドラ子、お前ああいうの嫌いかと思ってたけど」




「ふん、オレの挙動を見て何かあれば止めようとしていたくせに良く言うな、ナルヒト。ああいうのをあしらうのも、この市場の楽しみ方ぞ。いちいち商人どもの言葉全てにめくじらを立てるほどオレは狭量ではない」




 並んで歩く竜と遠山。



 拳5つ分離れた肩の距離はたまに近づいたら、遠ざかったりしながらその距離に落ち着いた。





「へーへー、心優しいドラゴンで良かったよ」





「ああ、オレは慈悲深いのだ。ふふん」




「慈悲深い奴は冒険奴隷を殺し合わさせたりしないんよ」




「む。それを言われると痛いな。許せ、ナルヒト。暇を持て余した竜の遊びだ」




「うわ、ナチュラルに邪悪」




「まて、本気にするなよ? 竜ジョークのつもりだぞ? オレ、きちんと反省してるのだぞ」




 少し焦った様子でドラ子が口を尖らせる。





「えー、そうか? なんか目がドラゴンみ強くてマジそうだったぞ」



 遠山は自分でも気づかないほどに、小さく笑った。




「む、イジワルだ、ナルヒトは」




「バカ言うな、俺ほど優しい人間はいねーよ。あ、そろそろだ。うちの商会がやってる露店、この近くの筈なんだけど」




 気付けば、噴水のある広場にまでたどり着く。



 ニコに追い出された遠山とアリス、2人の目的地はもう近い。




「ふむ、ナルヒトの商売の取引相手か。どれ、どの程度のものか。このオレが評してやろう、ぞ」






  ラザールベーカリーの親会社、ドロモラ商会との顔合わせの為に、遠山とドラ子は青空市場を突っ切ってきたのだ。




 青い天幕の下、木のラックに所狭しと並べられた装飾品や、民芸品を飾る雑貨屋台。



 天幕の外にも客が溢れて、




「……ん? すまない、ここは任せた。……友よ! 数日ぶりだな。確か宿屋から新しい住居への引っ越しは今日だったな。もう済んだのか? ああ、そこのテラス席にかけてくれ。うちのだ」





 接客をしていた顎髭のしぶめの中年が接客を若い店員に任せてこちらへ歩いてくる。





 促されるまま、パラソルのついた木のテラスに座る遠山とドラ子。




 対面に、ドロモラが腰掛ける。きいっと、木の椅子が鳴いた。




「よーう、ドロモラ。まあ、そんなとこ。家の連中に追い出されちまってな。近くに寄ったから、顔を見せに来た」




「ははは、一味の仲が良さそうで何よりだ。あの天使教会の騎士と君たちが私の露店の前で殺し合いを始めたのが夢かなにかだったような気さえするよ」




 顔を綻ばせてドロモラが口走る。




 天使教会の騎士との揉め事は、つい最近の出来事だがあれから随分経ったような気もする。




「悪かったよ、あの時は。今じゃストルもうちの優秀な警備員だ。もうあんなことはないさ」




「そう願っているよ。ん? そちらのお美しいお嬢様は? トオヤマナルヒト、君もすみに置けないものだな、ぜひとも紹介に預かりたいものだが……」




 ドロモラが僅かに声色を優しくして遠山の側に座る竜へ視線を向ける。




 遠山が、ドロモラにドラ子を紹介しようと。






「指輪」




「うん?」




 それよりも先に、竜が唇を開いた。




 頬杖をついた竜、その蒼い瞳はドロモラを、いや正確には彼の指に嵌められているソレを見つめていて。






「晩年に数年だけ活動していた宝飾職人"石灯りのエレーナの13作品"の一つ、"指繋ぎの指輪"か。7等級の至宝品だ。ふむ、なかなかに珍しいものよ。オレはてっきりエレーナの作品は王国の王家が全て所有しているものと思っていたが」




「え?」





 ドロモラが、その言葉に目を丸くする。




「素材は、ふむ。"エレーナの13作品"の基礎、純銀か。ふむふむ、王国の東部、カメオ山地の古いゴーレムから削り出したものだな。大戦期からある格式高い銀だが、その分加工が難しい。ふふん、エレーナめ。やはり良い仕事をする。銀職人の中でもあやつほど銀を慈しむ職人はいないな」




 ドラ子の言葉はどこか、そう、何かを称賛するような。確かな敬意が込められた声色で。



 細やかな意匠の施された指輪。



「………驚いた、トオヤマナルヒト、本当に次は誰を連れてきたんだ?」




 ドロモラの額にはぷつりと汗が浮かんでいた。




「ドラゴン」




「………なんだって?」




 呑気に言い放たれた遠山の言葉に、ドロモラがわかりやすく戸惑う。





「良い、ナルヒト。審美眼を持つヒトにオレは寛容ぞ。良きものを選んだな、店主よ。名を名乗ることを許す、ぞ」




「……おい、トオヤマナルヒト、ドラゴンだと? ま、まて、君がドラゴンと呼び、この指輪の目利きを行える金髪の女性…… い、いや、だが、数年前に見た時と見た目がーー」




 うろたえるドロモラ、だいたいその金髪の少女が誰なのか、勘づいているらしい。



 勘づいているからこそ、焦り出す。




「ほう? オレを一度見たことがあるのか? ふむ、小さき者よ。その審美眼ならば、見た目に惑わされず本質を見抜くことも出来ないはずではないが?」




 パラソルが日差しを遮り、彼らに影を落とす。



 喧騒の合間の僅かな涼しさの中、蒼い瞳が細められて。






「そ、その眼、まさか……… ーー大変失礼を。帝国におわせられるは、金色の御方、貴女様とは夢にも……」




 ドロモラが席を立ち、片膝をついて一礼。



 竜へ、首を垂れる。




「店主、貴様、王国の出身か?」




「はい、故あって貴女の庇護するこの国で商売を行わせていただいております。蒐集竜様の怪物狩りの詩は、祖国の吟遊詩人もよく奏でておりました」




 竜の言葉におじけることなく、淡々とドロモラは返事する。




「昔の話だ。店主、貴様オレを一度見かけたことがあると言ったな。どこで出会った?」




「……エレーナ。彼女の葬儀に、貴方様がフェンネルの花を手向けて下さったあのお姿…… 忘れることはありませんとも」




「……あの時か。なるほど、エレーナの知己か。ならば奴の指輪をつけているのも納得だ。……良い職人だった。惜しいよ、良き腕の持ち主は、すぐに天使が連れていってしまう」




 ドロモラは見下ろしながら、その竜の顔に浮かんだ表情はとても、穏やかなものだ。




 何かを懐かしみ、思う。



 偲ぶ、そんな顔。




「それでも彼女はきっと、満足して逝きましたのでしょう。芸術と美の護り竜。貴女様の蒐集品に選ばれた時のエレーナの喜びようというと」




「ふかか。良い、店主。立ち上がり、名を名乗れ」




 その商人はすんなりと、竜に名乗りを許された。



 それは中々に珍しいことで。



「ドロモラ・バギンズにございます。良きものの護り竜、選別を嗜む尊き竜よ。貴女様にお目通り叶うばかりか、名を名乗れる光栄、噛み締めます」




「ふかか、ナルヒト。そなたやはり、鼻が効くな。この男ならば、そなたの商売の助けになるだろう」




 満足そうに頷くドラ子が遠山に声を向ける。



 わかりやすく機嫌が良い。





「おお、まさかの高評価。ドロモラすげえ」




 遠山は思ったことをそのまま口にした。




「は、はは。トオヤマナルヒト、お連れがまさか竜様とは思わなかった。キミは全くいつもいつも、この老骨を驚かせてくれるものだ」




「悪気はねえよ。んで、ドロモラ。最後のピースが揃った。ドラ子にはうちのパン屋のCMやってもらうからよ」




「……ん?」



 ドロモラが、笑顔のままにピシリと固まる。



「計画はシンプル。ドラ子ほど素材がいい広告塔ならもうせせこましいことはいらねえ。竜がCMをやるパン屋、これは勝てる!」




「トオヤマナルヒト、少しいいかな?」




 力説する遠山へドロモラが静かに声を向ける。がしりと遠山の肩を掴み、それから愛想笑いを竜へ向けて。





「蒐集竜さま、ほんのしばしよろしいでしょうか?」




「ふかか、悪巧みか? 良い、許す。我が友と貴様ならば、竜祭りは存外退屈せずにすみそうだな」




 ドラ子の快諾を受けて、ドロモラに半ば引きずられるように露店の奥へ促される遠山。




 また竜に対しての態度、不敬だとかめちゃくちゃだとか言われるのだろうかーー





「よくやった! トオヤマナルヒト!!」





「うお」




 分厚い興奮したおっさんの声を浴びて、遠山は少しのけぞる。





「うは、うはははは!! 大いなるマーヤジーアの根にかけて! まさかあの蒐集の竜を商売に引き込んだか! 友よ、君ほど罰当たりで大胆な商売人はいないぞ、こいつめ!」




「おお、アンタがその反応ってことは、割とドラ子を巻き込んだのは正解だったみたいだな」




 ドロモラに肩をゆさぶられるのを耐えつつ、遠山が答える。




 これまでの周囲の反応と違い、竜への大胆な策をドロモラはかなり好意的に評価している。



 商売人とはこのくらい図太くないとやっていられないのだろう。




「正解どころかワイルドカードさ! 竜殺しにしか切れない手札、これがスワンプのゲームならイカサマもいいところだ! 我らが商売と契約の眷属、コトシロですら君には一目置くに違いないぞ! おっと、ごほん……」




 髭をもひもひ揺らしながら、興奮しているダンディな中年はしかし、自分を取り戻したようだ。



 咳払いしつつ、表情を控えめにして言葉を綴る。



「まあ、正直なところを言うとだな、君たちのパン屋の計画。少し心配だったのが本音ではある」




「へえ」




「ラザールのパン職人の腕は本物だ。帝都でなうての職人、いや、宮廷パン職人にも引けを取ることはないだろう。それは認めるよ、だがそれだけではやはり、足りなかった」




「……リザドニアンってのはそこまで評判悪いのかよ」




 遠山がぼそりとつぶやく。




「気付いていたか。トオヤマナルヒト。君の予想は正しい。リザドニアンに対する帝国の偏見は根深い。これが単なる異種族への生理的嫌悪から来る差別ならまだいいのだが」




「それ以外に理由があるのか?」




 遠山の問いに、ドロモラは言葉を澱ませて、そして一言。





「恐怖さ、トオヤマナルヒト」



 商人の目、ただ、現実を脚色なく忌憚なく見つめて価値を測るものの目でドロモラがそれを語る。



 大戦期にその業の限りをやり尽くした恐るべき種族のことを。




「単純な話だ。"侵略種族、リザドニアン"。記録も記憶も曖昧なかの大戦期に、それでも彼らの恐ろしさだけは鮮明に残っている。多くの国を攻め滅ぼした最恐の種族。種族単位では上位種にすら匹敵する存在だ」




 ドロモラが露店の奥の椅子に腰掛け、帳簿に指を走らせながら言葉を紡ぐ。





「種族一人一人の死を、種の記憶として保持し、それを力に変える種族スキル、モンスターと遜色ない見た目に、身体の強さ。ヒュームよりもはっきりと生物的に上位の存在である彼らを帝国は恐れているんだよ」




 フィード(種族スキル)。



 その種にのみ許された種族単位での固有能力。



 竜に近いとされる彼らは、死の記憶を共有し、それを力に変えるとされる。



 ある者は、憧憬を。ある者は、郷愁を。ある者は、憎悪を。



 リザドニアンの誰かが迎えた最期は連綿と受け継がれ拡がり、そしてまた別のリザドニアンの力となるのだ。




 それの恐るべき変容を、遠山はあの騎士たちとの戦いで目にしている。




「帝国は、ってことは、別の国。アンタのいた"王国"では違うのか?」



 遠山はしかし、ドロモラの言葉から見つけた違和感を口にして。





「ふむ、その辺りの話をしようとすると古い歴史の話になるな。まあ、かいつまんで話せば王国には古いお伽話がいくつかあってね、その中にはヒトとリザドニアンが協力して戦う物語もある。追い詰められたヒュームの国が、リザドニアンの傭兵達と手を結び国を守る話が人気だな」



 少し、ドロモラの声色が明るくなる。




「そう、記録に残らぬ"ヒューム(人類種)の国"、国の名前も、王の名前も忘れられてしまった。わかるのは"勇者パーティ"を庇護し、やがて裏切った国。この帝国と王国の前身のはずの国さ。その国の話はいくつかおとぎ話として王国に残っていてね。興味があるなら本を貸すよ」





「そりゃどうも。また借りるさ。帝国と王国でリザドニアンへの認識が違うのは土壌の差もあるわけか、単純にリザドニアンを舐めてるとか嫌悪してるだけじゃない、ね」




「ああ、その恐怖の深刻さは階層が上がれば上がるほど顕著だ。先日のラザールのコッペパンを受け入れたのは市民の中でも比較的貧しい者たちだろう。そういう階層の者は、まあ、正直飢えを満たしてくれるのならば…… という面があったのも確かだ」




 ドロモラがちらりと遠山へ視線を向ける。


 その意味がわかるか? とでも言いたげに。




 遠山にはその言わんとすることが分かっている。答えは簡単。



 ティタノスメヤ。あの怪物の素材を、ドロモラ商会は貴族への商売の足掛かりとして使っていた事実から導かれる答えはーー






「竜祭りの制覇には、上流階級からの評価が必要だから、か」





 パチン。



 遠山の言葉に、ドロモラが指を鳴らして返事する。




「その通り。君が狙う竜祭りでの頂点を目指すのならば、確実に貴族や、それに倣う権力者、有力者、いわゆる階級の高いヒトの層の心を掴む必要があるわけだ。彼ら貴族が、リザドニアンのパン屋など、受け入れるわけがない、そう思っていたのが正直なところ、だ(・)っ(・)た(・)」





「だった、ね」



 遠山は露店の奥の在庫を眺めながら次を促す。



 木彫りの馬のおもちゃや、ペンダント。どれも細かい細工が丁寧に施されていた。



 王国から持ち込んでいたものだろうか。わりかし繁盛しているところから見るに、露店では雑貨商として、商会ではオークションの取引などでドロモラ商会は運営されているのだろう。




「ああ、だった、だ。再び言おう、トオヤマナルヒト。で(・)か(・)し(・)た(・)。竜を引き込んだのならば、かの竜が我々に力を貸してくれるのならば、全て解決だ。この国、いや、この世界で最も権威ある象徴が共にあるのならば、侵略種族への差別感情を考えても、お釣りが来るほどのプラス、く、ククククク、ウハハハ、面白い、これだから商売はやめられないな」




「悪い顔してるなー、ドロモラ」




「竜タラシの友よ、君だけには言われたくないものだ、ということで商売仲間として君にはなんとしてでも竜との良好な関係を維持してもらわなければならない。そこでだ、トオヤマナルヒト、竜様と散策を楽しむのなら中央区の大河に向かうといい。アガトラを貫く大きな河が流れている場所だ」




「こりゃ、地図か」



 ドロモラが差し出した紙を広げる。文字はラザールに手習で少しづつ覚えてきてはいるがまだ読めない。



 だが、その図面の様子からこの都市の地図というところまでは理解できる。




「ああ、赤い丸が付いてあるところだ。ビスエがそこで我が商会の新しい商売を初めている。友好を深めるにはもってこいの余興を用意している。それにあの辺りは街並みも美しく、景観も良い、散策にはぴったりだ」




 茶色の紙には、たしかに赤く丸付けされた箇所がある。



 現在地である青空市場から、あまり遠くはない、中央区の河川の付近だ。




「どうも、ドロモラ。じゃあ、まあ、竜様の接待は任せてくれ」




「くれぐれも頼むぞ、竜殺し殿。君に"商売と契約の眷属"、コトシロの押印がなされんことを」



 ひらひらと呑気に手を振るドロモラに、遠山は少し笑いながら頷いた。




「独特な言い回しだな。あ、そうだ、ドロモラ」




 露店から出ようとしたとき、ふと遠山は足を止めて振り返る。





「んん?」




「良い指輪だな、似合ってるよ、アンタに」




 ドラ子が良きものとして評したその小さな銀色の指輪、それはとてもドロモラ・バギンズという商人に似合っていた。




「ーーああ、ありがとう、トオヤマナルヒト」




 ちらりと、指輪に視線を落とすドロモラの目。商人のそれではない。



 優しい、ただ、ただ、優しい目で。




 ドロモラの言葉を背に受けて、遠山は露店の入り口へ戻る。



 するとすぐに、鼻唄を歌いながら露店を物色している竜を見つけた。




 遠山の視線に気づいた竜が、ふっと笑って街の喧騒へ視線を傾ける。




「悪巧みは終わったか? 小賢しいヒュームよ」



「ああ、おかげさまで。気難しいドラゴン」





 軽口を叩き合い、2人はまた街の喧騒の中へ。並び合うその肩の距離はほんの少しーー




 竜とのデートはまだ続く。






指繋ぎの指輪


王国に名高き宝飾職人、"石灯りのエレーナ"が生涯において13個だけ作ったと言われる作品のうちの一つ。


至宝品の7等級に数えられる逸品。


柔らかな純銀を独自の製法で編み込むように繋いだその意匠は指に着けて注意深く覗き込むと、たくさんの指が繋がり、大きな一つの指となり輪を為していることに気付けるだろう。



エレーナが宝飾職人として活動したのは病で亡くなる数年前、晩年のわずか3年という短い時間のみだった。



傍流ではあるが、その血統から王家の外戚の配偶者として選ばれた彼女はその宝飾職人としての才と業を振るうことを許されなかった。



血の薄い生意気な女に、才覚を許すのは王家の誇りが許さなかったのだ。



だがしかし、"幸運"にも、彼女の才を縛っていた家は、不慮の火事により焼け滅び、"幸運"なことにエレーナだけはその火を逃れた。



その指輪は石灯りのエレーナがある1人の男性に贈るために作ったものだ。




"幸運"にもそれは正しく、届けられた。



その指輪に込められた少女だった女性の小さな祈りとともに。




〜例え貴方がどこにいても、例え貴方と寄り添えなくても、忘れることはありません。花の香りのする季節、貴方と繋いだ指の感触、その暖かさを〜



今、その指輪は王国を出奔した野心あふれる元宮廷商人の指繋いでいる。



もう、2度と2人の指が離れることはないだろう。


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― 新着の感想 ―
幸運にもって自分に都合のいい幸運にもってことでしょ?
ドロモラさんの恋仲相手かぁと思ってたら最後の注釈で救われた
[一言] なんかいいことムーブしている幸運女さんが気に食わない(理不尽)
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