42話 キミを幸せにするキミだけのさいきょーに賢いドラゴンさ、ただし火と河童と鬼とバカだけは勘弁な
「よし! ひっ捕えよ! 抵抗は認めん! 薄汚い罪人め」
突如押し入る騎士たち、それを引き連れた筋肉ダルマが檄を飛ばす。
「ナルヒト」
瞬時にスイッチが切り替わるラザール。さっきまでのポワポワトカゲから一転、何考えるかわからない冷徹な捕食者、無表情の爬虫類顔に戻る。
「いや。まだだ、ラザール」
遠山がラザールを制する。その目は目の前で俯いている主教へ向けられてーー
「主教サーー!!」
聖女がハッと、目を見開きそれに呼びかける。しかし、その呼びかけが終わるよりも先に。
「大主教令、発令。1ヶ月使用、動くな、下郎」
冷たい声だ。少なくとも人に向ける声と目つきではなかった。
「あ?!」「が!?」「ぎ?!」「ぶえ?!」
がしゃん、がしゃん、がしゃん。
短い悲鳴とともに、騎士たちが倒れていく。
教会最高指導者にのみ、継がれるそのおぞましい令が不届き者に命令を遵守させる。
「な?! なんのつもりであるか! 主教! 我ら騎士団の栄誉ある剣に向けてその忌々しい令を使うとは!!」
まさかそんな事が起きるとは思わなかった、本気でそう思っていたような口ぶりで筋肉ダルマが吠える。
「チッ、やっぱ効かないか……… いえいえ、男爵殿、ごめんなさい、急に部屋に押し入り、私のお客人に乱暴なことなさるので、つい驚いてしまって。オホホホ……」
主教が張り付けた笑みで筋肉に応えた。10剣以上の存在には主教令に捧げる寿命は1ヶ月では足りないようだ。
「ええい、女狐めが! 何が客人だ! 彼奴らは我ら騎士派の門兵を殺し、あまつさえ10剣の裁きに逆らった教会の敵ぞ! 我輩の邪魔をするということはすなわち、教会の邪魔をすることにほかならぬ!」
「まあ、主語がお強いことで。男爵殿は少し騎士団に長く浸かりすぎでは? 1つの派閥での意思決定を教会全体の意思とすること、横暴ではありませんか?」
「な、なにを?! 賢しらなことを抜かしおって! 銭ゲバ狐めが! 少し竜の覚えがいいからといって気に合わぬ! 女なら女らしく身の程を知れ……! ッ……」
喚き続ける筋肉ダルマが、声を止めた。
遠山だ。
「汗くせーんだよ、筋肉タコ。結局何しに来たんだお前」
筋肉鎧の喉元に、添えられたのは欠けたヤイバ。
なんか急に無視され始めたので、試しにキリヤイバを身体から引き抜き、女主教に剣を抜いた筋肉の動きにカウンター気味に合わせる。
臭い汗が、ぽたり。垂れた。
「う、うぬ?! 罪人! 貴様、誰に何をしてるのかわかってるおるのか!?」
筋肉が喚く。声がでかい。遠山が顔を顰める。
「うわ、口も臭え。風呂上がりに最悪だ。……やめとけよ、筋肉タコ。みろ、そこの性悪女の隣に侍るニャンコさんと、ちびっ子シスターを。お前、殺されるぞ?」
「「…………………」」
顎で示した先、主教の両脇に控える2人は無表情で筋肉を見つめる。
「ふん、何を言い出すかと思えば。出自のわからぬ卑しい生まれの猫畜生に、女狐の愛人の穢れた聖女! 天使の光に愛されたこの我輩の敵ではないわ!」
喉元に刃が向けられているというのに、筋肉はそれを一切気にした様子もない。
喚き立て続けるのみ。
「うわ、まじの脳筋かよ。ポリコレに消されるぞ、お前」
「罪人! 我輩への侮辱、許さぬぞ! 竜殺しを騙る愚か者め! 貴様のような下賤なものが竜を殺せるわけなかろうが! どのようにあのお方へ取り合ったのだ!」
筋肉が喚く。しかしその声の響きには少しの湿度を伴って。
「……男爵、今の言葉は聞き捨てなりませんが。それは竜の巫女への侮辱にも繋がりますよ」
「黙れ女狐! 我輩は認めぬ! 貴様もそうだ! なぜ貴様のような下賤な生まれの平民上がりばかりが竜大使館へ呼ばれるのだ! 本来ならばそれは我ら騎士団の役割であろうが!」
明らかな嫉妬を含んだ声だ。
遠山は怖気を感じた。ドラ子、お前どんな奴に好かれてんのよ。
「……てめーらにその価値がねえから私が呼ばれてんだろうが」
筋肉の言葉に主教が額に手をやり唸る。知性に差があると会話が苦痛という話は本当らしい。
「ぬ?」
知性28と知性0には悲しいほどの差が存在していた。
「あら、失礼。独り言です。……どうでしょう、騎士団長、ここらで一度互いに刃を納めませんか? 貴方と言えど首を裂かれては死ぬでしょうに」
「ふん。女狐め。そんな脅しにこの我輩が屈するとでも!」
「脅しかどうか判断出来る頭ねえだろ、お前」
自分より頭1つでかい筋肉デブの首筋、薄皮1枚をキリヤイバの欠けた刃を当てる。
僅かな血が流れる、しかし、筋肉ダルマは嗤うだけ。
「貴様ら、正気であるか? 我輩を誰と心得る?! 栄えある天使教会騎士団、団長ーー」
「馬鹿の団長、だろ?」
筋肉の言葉が、少し止まりーー
「こ、こわっぱがああ!! よかろう! 試してみるがいい! 我が天使からの秘蹟、"戦車"の頑丈さをな!」
怒号。ビリビリと響く声量により、テーブルの上に置いてある水差しが絨毯に落ちた。
「……直を使うのは久しぶりだな」
遠山が、キリヤイバに力を込めーー
「む? ふっ、罪人、警告だ。その腕、下げたほうがいいぞ?」
「あ?」
フッと、筋肉ダルマが何かに気づいたかのように笑った。
「っ!? だめ! 竜殺しの人! 下がって!」
聖女、ちびっ子シスターが目を見開き叫んだ。強者の判断に、遠山は素直に従って
「にゃは、一手遅かったねー」
ずぶん。
「は?」
右手、肘から先の感覚が消えた。
唐突に右手が軽くなる、そのあとようやく気づく。
右肘から先が、ないーー
キリヤイバも、消えて。
「あっっ」
くる、くる。
ぱしり。
斬り飛ばされた肘から先をキャッチしたのは、薄い銀鎧に、仮面、ふざけた泣き顔の仮面をつけた騎士だ。
「へー、よく鍛えられてる右腕だあ。にゃはー、美味しそー」
仮面に腕を押し付けながら、悦に浸った声で仮面騎士がつぶやいた。くぐもっているが、女の声だ。
「ナルヒト?!!」
「ぐっ、う、!! ま、て、ラザール、動くな!」
バランスを崩した遠山があとずさる。
腕を、斬られた、でも痛みも、血も出ない。明らかな異常。
駆け寄るラザールを制して、仮面を睨んだ。
ラザールの動きに、仮面の騎士が意識を向けていたからだ。
「にゃは、気付いた? いい目もしてるねー。これは竜殺しも案外眉唾じゃないかもよー、団長さん?」
ふっと、殺気を緩ませる仮面女。
「ぐわはははははは! 抜かせ! いやしかし、よくやった! 我が第2の剣、"殺害"のブレナ! 素晴らしき剣技よ!」
高らかに嗤う筋肉ダルマが忌々しい。
「にゃはは、暑苦しー。副団長に乗せられて先走りすぎっすよ、団長」
仲良さげに仮面女が答える。
呼び名や言葉の交わし方から、理解した。
こいつも、あの正義女、ストルと同類の化け物騎士の1人だ、と。
「まあ、な!」
突如、振われた大きな拳、視界か拳一杯に広がって、
「っぶ!!」
殴り飛ばされたことに少し遅れて気づく。クラクラと世界が揺れる、まるで怪物種の突進をそのまま食らったような感覚。
馬鹿力め。
「ほう……? 咄嗟に頭突きしてきおったわ。生意気にも我が拳の威力がぶれた、か」
「ナルヒト?! 貴様っ?!ーー」
ラザールが今度こそ、動いた、しかし
「にゃは、すうーっ、んん、いい匂いだねえ、リザドニアン。血と怨嗟が程よくかぐわしい。ねえ、今まで何人殺してきたのぉ、教えてほしいなー」
滑らかに、すべらかに、そして巧みに。
仮面騎士がラザールの背後を取る。首に手をやり、羽交い締めにされた。
「く、くそ、その腕……」
「ああ、キミのご主人のだよ。いやあ、でも、見れば見るほどいい筋肉だね。レベル3の人間並みに良い肉付きだ。ううーん、高ぶるにゃー」
ラザールが背後を睨みつけるもどこ吹く風。
「こ、この野郎……」
「いい、ラザール、動くな。動くなよ」
「にゃは、いい顔だね、竜殺し。腕切られたっていうのにショックがあまりない、恐怖より先に怒りが勝るタイプかあ。いいじゃん、いいじゃん。やりがいがある。あ、安心してよ、血はまだ出ないからさ」
「野郎……」
「おっーと、いい目だねー。ゾクゾクしちゃうにゃー。……痛めつけたくなるじゃ、ん♪」
ぱちり。
仮面の女が指を鳴らす、
同時に
「ッッッッッッッが!??」
視界が歪む、激痛。
「にゃはははははは! どう? どうどう? "殺害"の眷属、"エニューの7つ道具"! キミに使ったのはこれ、糸切りの剣! 血とか、痛みとか出すタイミング、全部こっちで決められるんだ。どう? にゃはは? 意味わかるよね? 出血、させちゃうかにゃー」
「………絶対、殺す」
「にゃは」
「まだよせい、ブレナ。その罪人は天使裁判にかけたのちに処する。今はまだ、始末するには早い!」
「チェッ、はーい、団長さん」
遠山とラザールは瞬く間に制圧された。
部屋に剣呑な雰囲気が満ちてい崩した中、口を開いたのは彼女だ。
「騎士団長、これはどういうおつもりですか? 彼らは私の客人、そして竜の友人、ご自分が何をされてるかご理解しておいでで?」
事態を静観していた主教が静かに言葉を紡ぐ。
「ふん! 腰抜けの女狐よ! 貴様こそ正気か?! 客だと? 此奴らは我ら騎士に刃を向けた逆賊、帝国法においても騎士への反逆は重罪とされておるだろうが!」
「……………」
「どうした?! 何も言えんか? ぐわははははは!! 少々口が立つとはいえ、所詮行き遅れの小娘風情! 我輩の威光に怯えとると見えたぞ!」
「……それ以上の主教サマへの無礼、許さない」
「主殿、ご命令を。毛が逆立って我慢できません」
筋肉ダルマに殺気づく2人。
「にゃは、聖女に隠密猫。いいねえ、主教派の最大戦力揃い踏みじゃないのよ。……聖女の身体、バラしてみてえー」
それに触発される仮面女。
互いの殺気が膨らんで。
「ステイよ、2人とも」
しかし、主教の声はそれを制した。
「しかし!」
「主席聖女スヴィ、貴女まで私の言葉を聞かないというのか」
「ッ、行きすぎた真似を。処罰はいかようにも」
「控えてなさい。すぐに出番は来るわ。さて、騎士団長に、第2騎士、あと2回だけ言うわ。私の客人を離しなさい」
食いつく聖女を言葉のみで御す主教、その糸目が開かれ無礼な騎士へ向けられる。
「同じことを何度も!! 此奴らは罪人! 我ら騎士派の門兵を!」
筋肉ダルマが怒号を叫ぶ。
だがそれは真実だ。遠山たちが門兵を始末したのは事実。
体制側の人間を私情で殺したのは事実だ。
筋肉ダルマの言い分に間違いはなく、故に遠山を庇うのは主教にとっても矛盾していてーー
「8人」
告げられる人数。それは強欲冒険者が欲望のままに始末したあの門兵の数。
手に顎を乗せ、不遜な態度で主教、カノサが静かに告げた。
「む?」
筋肉ダルマはもちろん何が言いたいか理解できるわけはなく。
主教が、薄い唇を半月に歪めた。
「ええ、完璧な仕事だったわ。迅速に、容赦なく、冷徹に、そしてなるべく苦しめて殺してくれたわね」
「……なんだと?」
いよいよ、筋肉ダルマが目を見開いて。
「素晴らしい仕事でした。トオヤマ異端審問官、ラザール異端審問官補佐。私の指示通り、天使教会の法に逆らう愚か者に、見事な光の裁きを下してくれた」
覚悟は済ませていた。筋道も立てていた。
竜殺しとの交渉の切り札として用意していたカードを主教はここでオープンする。
即ち、それはトオヤマナルヒトとラザールを審問会のメンバーとして迎え入れる鬼札。
「何を、貴様、言っておる?」
「あら、ご理解できませんか? ではさらにわかりやすく。東門の門兵たちには教会法で禁じられている弱者からの搾取、および合意なき姦通の罪禍が認められておりました。天使の威光を世に知らしめる教会の一員としてあるまじき行為です」
それはまさしく毒を皿ごと平らげる行為、しかし仕方ないのだ。
テーブルを共に囲む竜がそれを望んでいる。
毒を喰らうか、火を浴びるか、どちらがいいか、と。
「ばかな! いや、まて! 仮にそうだとしても! この者らが、罪人…………… あ」
珍しく、筋肉ダルマが主教の言わんとすることに気づいた。わなわなと身体を震わせ、首を静かに振り始める。
「気づかれましたか? 罪? はて、何が、でございますか? 彼らは私、天使教会主教、カノサ・テイエル・フイルドの命に従い、裁きを下したまで。なにかおかしなことでも?」
筋道は通る。これで門兵殺しは教会内の粛正として処理することが可能となる。
「にゃは、流石にそれは苦しいよ、主教。そんなの出まかせだ。いくらアンタでもそんな契約はーー」
当たり前の反論。言うだけならいくらでも言える。
第2騎士がヘラヘラと身体を揺らして笑う。
「スヴィ、あれを」
「はい、主教サマ」
「「は?」」
聖女が懐から取り出した古い羊皮紙。
それを見て、今度こそ騎士2人は動きを止めた。
「あら、腐っても、いえ失礼。教会騎士ですものね、これにはお詳しいはず。"教会誓約書"、見えますか? 彼の名前が紙面に踊っていることを」
それはあのスラム街での出来事を経て、偶然繋がった点。
教会誓約書には、トオヤマナルヒトの名前が統一言語で記されている。
孤児たちを救うために結んだ不平等な契約はしかし、この場においては最強のハッタリの道具になる。
「ぷ、プリジ・スクロール。な、で、では、この者らは本当に……」
副葬品 教会誓約書。それの絶対命令遵守の効果は広く知られている。
筋肉ダルマさえ、それの意味することは理解しており。
「おっと、うっそーん。団長さん、これ、やばくね」
教会誓約書により、トオヤマナルヒトが審問会に加入することが記録されている。
完全にそう受け取った騎士たちが目に見えて、狼狽した。
この時点で、これは単なる罪人の取り締まりではなくなる。
主教派と騎士団。教会の派閥同士の潰し合いに変わるのだ。
「やばくね、じゃねえんだよ。快楽殺人者。私の部下の腕落としといて無事で帰れるとでも?」
主教が言葉を崩した。その目には明らかな侮蔑の色が宿る。
「主教サマ、指示を。……なまくらな剣の一本や二本、すぐに手折ってさしあげます」
それに反応するように、聖女が一歩踏み出る。
その圧に、部屋の空気が重たく、生ぬるく。
「あらららら、団長さーん、どうするー? 流石に私1人で"主席聖女"はきついよー」
「む、むう……」
「むう、じゃねーよ、クソダルマ。あなたのその小さじ一杯もない脳みそでも理解できますよね? これは騎士派による、主教派への攻撃。先に手を出したのはお前らだよ」
言い訳と大義を得た主教派。
全てお膳立てされたまま、予定通りにことは進んで。
「チッ、にゃ、にゃはは、でもさ、ほら、いいの? 私殺したらそこの人の腕も戻らないし、トカゲさんも死んじゃうかも」
「「…………お前が、死ね」」
遠山とラザールが同時に吐き捨てる。
第2騎士が仮面越しでも狼狽えたのがわかる。
あ、こいつら、脅しきかねー、それだけは理解出来たようだ。
「や、やべー。にゃはは…… 覚悟ガンギマリすぎじゃない?」
「……試してみればいい。トカゲさんを殺すのが先か、私が貴女の首をその仮面ごと引っこ抜くのが先か」
「に、にゃは」
「キメーんだよ、その笑い方。主教派は降りかかる火の粉を許しはしない。教会法に則り、相応しい報復を」
主教がひゅばり、指を向けた。
それは最後通告。主教の戦力行使の合図。
「ぬ、ぬう! "戦車"!!」
「エニューの7つ道具!」
騎士たちが迎え撃つ、主教派最強戦力、いや、教会最高戦力たる"主席聖女"を。
「……遅い」
癒しの力が牙を剥きーー
「いいや、どうやら間に合ったみたいだよ」
花が舞う、そんな香りが部屋に立ち込めた。
ふらり、まるで友人の部屋に現れた朋友のごとく、その女は当たり前に来賓室のドアを開けた。
「……………ッ」
聖女の動きが止まる。
「それ以上動かないでください、主席聖女殿。いくらあなたとて、我らから、主教様をお守り出来ますか?」
「残念ながら下位数字だけだけど。ああ、そこの殺人バカは除いてね」
「ワロス。クランの奴ここ3日か、2日で死にかけすぎじゃね」
同時に、部屋に現れる新たな騎士。
ブレナと同じく、奇妙な仮面でその顔を隠した10剣のメンバー、そのうちの3人が主教の背後を取っていた。
剣を、主教に全員向けて。
「チッ、10、8、5。ぞろぞろと連れてきたものですね」
恐るでもなく、傲岸に舌打ちをする主教。
「あはは、そんな顔しないでくださいよ、カノサ様。貴女のもとに向かうのです。お気に入りの剣は揃えていくのが礼儀でしょう」
その女は1人、場違いな格好をしていた。
儀礼用の服装はまるで現代のレディーススーツに似ている。
服と同じ色の髪の毛は黒曜石のように艶めき、女性にしては珍しいジャガーヘアにまとめられていて。
「それを簡単に突き付けるのはやめて欲しいものですね、副団長殿? 相変わらず顔だけはよろしいようで」
「人間性は顔に出るものですよ、カノサ様」
天使教会副団長、男装の麗人と言うべきいでたちの女が桜色の瞳を潤わせ、主教と向かい合う。
「そうですか、ならよほど面の皮の厚い人間性のようですね」
「あはは、相変わらずひどいなあ。……寝所ではあれほど素直だったのに」
麗人、副団長がいたずらげにクスリ、微笑む。
「あら、過去のことを今の自分の成果のように語るんですね。ふふ、今も素直かどうか試してみますか?」
主教もまた同じく、糸目をわずかに開き、その紫の瞳を覗かせていた。
「あは、よしておきますよ。今日はカノサ様に用があるわけではありませんから」
言って、ぷいとそっぽを向く副団長。
しなやかな脚をするりと伸ばして向かうのは筋肉ダルマ。
「む、むう、メッサ副団長……」
いたずらがバレた子ども、罰の悪そうに筋肉ダルマがたじろぐ。
「はあ、怒られる自覚あるのなら暴走はよしてくださいよ、団長。……嫌いになっちゃいますよ」
腰に手をやり、演技じみたため息を副団長がつく。
筋肉ダルマがその態度に明らかに狼狽した。
「な?! す、すまぬ!! 我輩、お主を困らせたいわけではないのだ。むしろ、騎士の栄光をなんたらか知る貴殿が喜ぶであろうとおもって……!」
異様な様子だ。
少なくとも2人の立場は逆に見えた。
「チッ、どっちが女狐だか…… へいへーい、副団長、少し来るの遅いんじゃないのー。てか、話違うんだけど、この罪人2人、罪人じゃなくて主教サマの部下らしいんだけど」
幾分低くなった仮面の女の声。
苛立ちを隠そうともせずに、その声を向ける。
「あは、ブレナ、君らしくないね。嫌に焦るじゃないか」
どこ吹く風、副団長がその声に宿る棘を笑ってかわす。
「聖女の本気の殺意ぶつけられて平気なのはうちのバカくらいだよっと。まあ、そのバカももう、只のバカになっちまったけどね」
少し寂しげな声を仮面の女がつぶやいて。
「……で、何をしにきたのですか? 副団長殿、貴女までそこの2人を罰しようとでも?」
主教がそのやりとりを止める。
くるりと、副団長が振り向いて、視線をふらふらと動かした。
「ああ、そうだった、ふふ、カノサ様と久しぶりに話せてつい高揚していたようだ。……ああ、彼が噂の竜殺しクンかい?」
桜色の瞳が、お目当ての人物で動きを止めた。
瞳孔がわずかに開き、虹彩に光が灯る。
その目は、遠山鳴人へ注がれて。
「…………誰だ?」
「天使教会騎士団 副団長、メッサ・スフォイア。はじめまして、我らの竜を殺しせしめた強き奴隷さん」
尻餅ついたままの遠山へ、副団長が腰を折って騎士礼を向ける。
「む! 副団長、そんな男に貴殿の名前な、ど……」
その態度にいきりたつ筋肉ダルマ、しかし
すぐにその声は止められた。
「やきもち妬かないの。少し、彼と話したいんだ。団長」
ぴとり。しなだれかかる麗人、妖しい美を持つ彼女が筋肉ダルマの唇にそっと、長い指を当てた。
「む、むむ、貴殿が、そういうのなら」
懐柔されている、明らかにそれがわかる2人の関係性。
「………悪女め」
仮面の女がそれを忌々しげに見つめていた。
「あはは、ブレナ。そう睨まないでよ。おっと、仮面越しだと睨まれてるかどうかわかんないか」
それをかわし、再び副団長が遠山へ視線を向けた。
「何をしに来たかはわかりませんが、副団長殿。そちらの2人は私の部下です。これ以上、騎士団が2人に危害を加えることは」
主教がその視線から遠山を庇うように言葉を向ける。
「主教派への攻撃とみなす、かい? あはは、カノサ様にしては大胆な策だね。いや、違うね、本来ならもっと根回しして、交渉のダメ押しとして使うべきカードだ。……おおかた団長とブレナを止めるために無理矢理に切らされた感じかい?」
だが、副団長もまた主教の言葉をさらりと受け止める。
微笑みは崩さず、会話に絡め取られず。
「さて、なんのことでしょう。そこのトオヤマ審問官とはプリジ・スクロールの契約も終わっておりますが」
「あはは、ぬけぬけとよく言うよ。プリジ・スクロールの契約内容は契約者同士でしか確認出来ないだろう? ……風の噂だけど、昨日、スラム街で聖女様が孤児を助けたそうだね。そこに居合わせたのはリザドニアンの男性と、黒髪の男性だとか? おや? 不思議だなあ。竜殺し達ととても似ている容姿だ」
平然。副団長はプリジ・スクロールを持ち出されてもなんら狼狽えることはない。
むしろ、真実に近い情報をさらりと舌に乗せて。
「…………偶然でしょう。憶測の話をここに持ち込まれても困りますわ」
主教の声に乱れはない。
だが、遠山だけはその声がわずかに硬くなっていることに気づいた。
「あは、やっぱ口では敵わないかー。まあ、別にいいんだけど。まあ、風の噂だからね、風、の」
意外なことにこれ以上の追求はなく。
場の空気をさらった女は言葉を濁した。
「………何が言いたいんですか?」
「まだ、私たちにもチャンスがあるってこと。団長、主教様のお言葉にはまだ嘘がある。彼ら竜殺しを抱き込むというのは本音だけど、まだそれは完了していないんだ、プリジ・スクロールの契約内容は本当に審問会への加入の誓いなのかな?」
「………………顔だけは良い女ね」
「あはは、好きでしょ、私の顔」
女の会話は冷たく、しかし小気味良く。
互いをよく知り、今は道を違う2人は一歩も引かず。
「む。む? つまり、彼奴等は審問会のメンバーではないということか? む、はははは! んならあば! よし! なんの問題もなく、裁きを」
筋肉が急に元気になりかける。
のっし、のっしと遠山へ歩みを進めようとしたところを
「違う、違うよ、団長。第一騎士が使いものにならなくなったんだ。補充要員は必要でしょ?」
「なぬ?」
また副団長に止められた。
そして、彼女はにこりと笑い、部屋の空気を一気に冷たくさせた。
「彼らを騎士団に迎え入れよう。呪われた魂はしかし、我ら騎士の誇りで清浄され、新たなる剣となってくれるはずだよ」
「「は?」」
呆気に取られた騎士2人。
「何を言うておる?! いくら貴殿といえど、このような下賤なもの達を騎士団に入れるなどーー」
筋肉ダルマが副団長につめよって。
「お、ね、が、い」
その言葉を、副団長、メッサが告げた。
「………ああ、そうだな。貴殿の言葉に……間違いはない、か」
それだけで、たったそれだけで騎士団の意向は固まった。
歪でおぞましい光景だ。
酷く美しいが、その中身は腐っている。
「……にゃは、副団長、頼むから、その眼を私には向けんなよ。……差し違えても抉り取ってやるから」
「あはは、大丈夫だよ。同性には効きづらいんだ。おっと、今のは内緒にしてくれ。スキルも秘蹟も私は持っていないんだからね、まだ君に殺されたくはないし」
「副団長、貴女自分が何を言ってるか理解しているのかしら?」
主教が硬い声を。
「あはは、もちろん。でも、カノサ様、これでさ、よくわかるよ。プリジ・スクロールの契約内容が本当に審問会関係の内容なのか、それともカノサ様のハッタリなのか」
「やめなさい、副団長。知ってるはずよ、プリジ・スクロールの契約を破れば」
「契約者は契約を守るためだけに生きる人形に変わる、でしょ? あはは、カノサ様、面白いこと言うね」
「なにを」
「それ、なにか問題あるの?」
変わらず、美しく、ただ綺麗に女は笑う。
「……クズ女」
「顔のいい、を忘れてるよ、カノサ様」
クスリ、喉を鳴らして猫のように微笑む女、副団長がしなやかな脚を運び、するりとラザールの元へ。
「アンタ、その眼……」
「ああ、君は確か、ラザールくんだね。ふふ、じゃあまずは君から始めよう。ほら、眼、見てよ」
「っ、だめ! ラザール様、彼女の眼をみてはーー」
主教が声を張り上げた。
「悪いね、リザドニアン、よっと」
目を背けようとしたラザールをブレナが無理やり押さえ込む。
ああ、桜色の瞳が、縦に裂けた瞳孔に映り込んでしまって、それが始まった。
「ぐ、っ、む……… あ……………」
ラザールの動きが、止まる。
手は震え、しかし、縫い付けられたようにメッサの目をじっと見つめて動かない。
「綺麗な眼だね、ラザールくん。寂しさと静かな暗い沈むような怒りをともした眼だ。ほら、もっと、眼を見て……」
「あ……… あ」
「おい、ラザール?」
遠山の呼びかけにもラザールは答えない。
「さあ、聞かせてよ。ねえ、ラザールくん。君が欲しいな。私の……おっと、間違えた。天使教会騎士団に入らない? 君の力が必要なんだ」
「てめ、何言ってやがる」
遠山が声を荒げた。
いやな、嫌な予感がしていた。
「ああ……」
そしてそれはいつも当たるのだ。
あり得ない問いかけに、あり得ない返答をラザールが返した。
「は? おい、ラザール?!」
「ふふ、ありがとう。嬉しいな、かの強き歯の子らの血を騎士団に取り込めるのは。光栄だよ」
「……お前、ラザールに何した」
既に遠山は目の前の女を始末する算段をつけ始める。
腕の痛みも、慣れたのか、それとも怒りのせいか、気にならなくなっていて。
「あはは、やだな、そんな怖い顔しないでよ、竜殺しクン。そんな顔されたら、君とも、仲良くなりたくなるじゃないか」
「トオヤマ様っ!!」
「おっと、カノサ様はそこでストップ。状況は理解できるよね? 聖女、隠密、2人で私の剣4本と、団長を抑えるかな? 聖女ちゃんと猫ちゃんといえども、君を守り切れることができるかな?」
「……脅しですか?」
「まさか、カノサ様に手を出すわけないじゃないですか。ああ、でも、うん? ラザールくんが騎士団への加入に頷いた、そして廃人化していないということは? おやおや? プリジ・スクロールの絶対遵守が発動していないということですね、カノサ様」
「…………っ」
「つまり、プリジ・スクロールによる契約内容は少なくとも、竜殺しくんとラザールくんを審問会に入れる内容じゃなかったってことですね。あらら、あはは、いや、別に私はどうでもいいんです、私は、ね」
「む、むむむむむむむう?! 女主教!!! 貴様ァ! であるならばあ、我輩を騙したというのか?! ゆ、許せん! 許せんぞ! これだから女が権力を握るとロクなことが起きんのだ! その張りついた狐のごとき笑顔、2度と出来ぬように砕いてくれる!!」
「………動かないで、もし、主教サマに指一本触れてみろ。………騎士団は今日滅びる」
「ん何ウォウ?!! 小娘、いや、小童が! 少しばかり天使からの祝福を色濃く受けている程度で調子に乗るなァイ!! 我輩の"戦車"はたとえ聖女とて引き潰す!」
「こらこら、団長、もうすぐに怒らないの、ね」
「……む、そうだったな。すまぬ、つい」
「あはは、いいよ、私はあなたのそういうところが好きなんだからね」
「副団長……」
「ふふ、まだ日が高いよ。言うこと聞けたご褒美は、後で2人きりで、ね」
筋肉ダルマにしなだれかかる麗人。長い脚を鎧の下肢に絡める。
蜘蛛が獲物を捕らえる光景に似ていた。
「わ、わかった」
それだけで筋肉ダルマはまた大人しくなる。
「いい子」
微笑む副団長。
「チッ」
「筋肉が」
「私の副団長……」
「くそ……」
騎士団長、そして副団長にそれぞれ向けられる舌打ちと怨嗟の声。
なんだこいつら、関係性気持ち悪っ。
遠山は目の前の連中の歪さに吐き気を催す。
「はいはい、ほら、みんなもやきもち妬かないの。ブレナ、そんなに睨まれたら怖いなあ」
「……にゃは、なんのことだか」
「ふふ、目が笑ってないよ。さて、カノサ様、こういうことさ。かの女主教に煮湯を飲まされてきた教会の古株は貴女が、プリジ・スクロールを偽ったことを許さない。団長でこれなんだ。あの次席聖女、原理主義派がこれを知れば、あはは、どうなるかな?」
「下手な脅しですね、貴女らしく無い、どこの誰が背後にいるのです?」
「……うん?」
「言い方が悪かったですか? ならもっと、シンプルに。……この状況はてめー程度の脳みそで描ける絵じゃねーだろ。どこの誰に指示された? 何考えてやがる、色情魔」
「あは、やっぱりカノサ様、そっちの雰囲気の方がいいよ、ゾクゾクしちゃう。……誰もいませんよ、いるわけないです。私が、ただ、竜殺しが欲しいだけ」
「正気? 竜の巫女、"蒐集竜"は彼にこだわっている。その彼に下手に触れれば」
「竜の怒りを買いかねない、あはは、いいじゃないですか、それ」
「は?」
「大戦が終わって200年。人の世界は縮小し、しかしなお繁栄する我らが帝国。天使様は人を選んだ。私達こそがこの世界において最も強く大きく広く拡がることをお許しになられた」
芝居がかった仕草だ。
しかし、その容姿がそれを行えばそれはそれだけで絵になってしまう。
「竜とは、柱であるとともに楔なのです。我ら人の成長を抑える楔。あはは、それに挑戦するのもまた人としての宿命と思いませんか?」
「思わない。らしい言葉で飾るな、自殺ならばお前1人でやれ。少なくとも、今の人では竜には及ばない」
「いやあ、どうでしょうか? 竜も完璧ではない、竜もまた殺せば死ぬ生き物である。他ならぬ彼、竜殺しがそれを証明してくれましたし、ね」
「……愚かね。歴史は愚か、経験からも学べない、いえ、学ぼうともしない愚者は害悪以外の何者でもないわ」
それに惑わされない知性。主教が淡々と言葉を返す。
「歴史は常に、その愚者が進めてきたのですよ、カノサ様」
しかし副団長もまた言葉を止めることはなく。
「馬鹿ね、そしてその愚者がもたらすものはえてしてロクなものじゃなかったじゃないの」
「あはは、やっぱ口では敵わないなあ。まあ、いいや。……そこで見ててくださいよ。カノサ様」
「…………」
封じ込められた主教が忌々しげに自らに向けられた剣を睨みつけ、押し黙った。
じっ、と。機会を待つように、静かに息を殺して。
「さて、待たせたね、竜殺しくん。私は今日、どうしても君と会って話がしたかった。ごめんよ、腕、痛むだろう?」
ニコニコと、桜色の瞳を笑顔に歪めて副団長が遠山の元へ。
「……ラザールになにした?」
「何も。ただ私は彼にお願いをした。私の事が好きになった彼は私の仲間になることに頷いた。全て彼の自由意思で決めたことだ。だから私は何も、してないよ」
「…………ラザール、聞こえるか」
副団長の言葉を無視し、ぼーっと立つままの相棒へ声を向けた。
「………………ナルヒト? どうしたんだい」
寝ぼけたような声、焦点の合ってない目。
明らかに様子がおかしい。
「お前、ここでいいのか。それで、いいんだな」
「ここ…… それ……?」
呼びかけも無意味。
はあ、ほんとこういうのに弱いなこいつ。
遠山は頭を無事な方の左手で掻きながらため息をつく。
「はあ、純粋トカゲめ。わかった、なんとかしてやる。そこで大人しくポケーっとしてろ」
「あはは、意外。もっと怒るのかと思ったんだけど。俺の友達になにしやがったーって」
「人には得意不得意があるからな。こーゆー絡め手に俺の相棒は弱い、甘い飲み物と温泉だけでポワポワにされちまう程度にはな。こーゆーのは逆に俺の得意分野だ」
「こーゆーのって?」
「お前みたいなクソの始末だ」
見上げて睨む。
考えろ、どうやって仕留める。
じっと、遠山が女を観察する。
その視線をうけて、しかし女は臆することはなかった。
むしろその長くしなやかなで、肉感的な身体を抱いて、微笑んだ。
「あは、あはははは、欲しい、欲しいな、君が。痛いだろう? その右腕。痛いに決まってる。殺害の眷属の力で断ち切られたんだ。なのに、君は今私を殺すことしか考えていない。ご覧よ、ブレナ! 彼の眼、とてもいいとは思わないかい?」
「……にゃは、知らねーよ。てか、クソおーー 副団長、やるならさっさとして。なんか、私気分悪くなってきた」
仮面の女の声は少し、弱々しく。
「おや、どうしたんだい?」
「……これ、返す。なんか、見てたら気分悪くなってきた……」
どちゃり。
ゴミを放り投げるように捨てられたのは、斬り取られた右腕だ。
「おいこら、仮面女。それが人にもの返す態度か? せめて手渡ししなさい。どちゃりじゃねーんだよ」
遠山が尖った声を向ける。
「……君、ほんとに面白いね。普通自分の腕を目の前に放られてそんな態度になる?」
「どんな態度なら満足なんだよ。普通はそもそも自分の腕を目の前に放られたりしねーよ」
「ふ、あはは。いい、とてもいい。平常な心、日常の心。君はそのままで、人を殺せる。今も私をどう殺すか、その平然とした顔のままで考えてるんだね」
「逆に俺がお前を生かしたままでいると思うか? ……ラザールに手を出したんだ。その時点でお前は敵だ」
「あはは、敵かどうかは私が決めるよ、竜殺し」
副団長、メッサ・スウォイアの瞳が、遠山を写す。
桜色の虹彩が妖しく揺れている。
唐突に、それは始まった。
あまりにも自然に始められて、対抗も何も出来ず。
「………え」
力が、抜けた。左腕がぺたりと絨毯に倒れ、身体が弛緩していく。
「あは、かわいい」
それは、げに恐ろしき"魅了の魔眼"
空席であるはずの"美と女"の眷属の権能。席から降り、人界に生まれた眷属は、美しい女に身を窶し、その権能を世界に刻む。
「私の眼を、見てよ」
「あ、が」
男、である以上、その権能から逃れられない。遺伝子にまで作用するその力が人間の男の人格を操作する。
同じ女であるものには効きにくいその力はしかし、スキルや秘蹟にも当てはまらない、メッサ本人に元々備わる力。
人が誰に教えられずともまばたき出来るように、メッサもまたその眼の力の使い方を生まれた瞬間から知っていた。
「きみがほしい、竜殺し。竜を殺すその異才、竜と並び立てるその精神性、きみは私にとって必要な人だ」
「おれ、がひつ、よう?」
なんのことはない。遠山鳴人もまた、人間の男。例外なく"美と女"にひれ伏すのみ。
蕩ける。
「はい、私はかよわく、何も足りない。もとにもどるためにはもっと、もっとつよくおおきくうつくしくならないとならない。人は変化できるんだ。みずからよりもうつくしいそんざいをたべてかわることが出来る。……私に君の力を貸しておくれよ」
「おれの、ちから」
「ああ、強い君が好きなんだ。ねえ、お願い。私と一緒に来て」
その力は自我を侵す。男である以上その力からは逃れることは出来ない。
おおよその愛と呼ばれるコミュニケーションは欠損を補完するために人類が生み出したものだ。
「私には君が足りない。きみに足りないものはなに? 私が埋めてあげる。私が君の空っぽを埋めよう」
人に必ずある欠損。1人では満たされない生物としての在り方。女の力はそれを歪に満たしていく。
女の力が遠山鳴人の自我に染み渡る。
女の声が、とろけた遠山の脳に染み込んでいく。
「あ……」
満たされていく。自分が求めていたもの、辿り着きたい場面、それが遠く。
「ああ、綺麗な光景。君はとても欲望に素直な人だ。いいよ、全部、これからは私がそれを満たしてあげる。私が君の欲望になろう、だから、ね」
女が覗き見るのは遠山の夢の光景。そこにはただ穏やかな光景のみがある。女の能力ではそこまでしか見えない。それは女にとっては幸運なことであった。
「おれ、は」
「君はもう1人じゃ無い、私がいるよ…… んっ」
ほうけた遠山の半開きの口に、メッサの桜色の唇が触れた。
ゼロ距離、互いの息がかかる距離でメッサの瞳が茶色の瞳を捉えて離さない。
美と女が強欲を貪る。メッサの白い頬が興奮で紅潮していた。
遠山は花の香りと、口内をめちゃくちゃに掻き回すぬるぬるして暖かい何かの感覚に酔いしれるだけ。
その場にいたもので、動くのは女だけだ。遠山にしなだれかかる細い腰が揺れた。
主教も騎士団もみんなが固まり、吐息混じりの捕食にも似たその行為を固まって見ているのみ。
「あ、は、おい、し…… もっと、みて、私を」
「………あ、あ」
遠山の茶色の眼から光が消えていく。なすすべもなくだだ、美と女の眷属に存在を穢されていく。
「ぷは、…… あは。それにもう一つ。君の欲しいものをあげるよ。……ストルだ」
「すと、る?」
「彼女への怒りもわかるよ。いいところでカノサ様に邪魔されたのだろう。……あれはもういらない。正義も機能していないみたいだしね。彼女への復讐の機会も与えよう。どんな目に合わしても構わないよ」
「あいつ……」
ラザールを殺しかけた正義女。首の痛みはまだ覚えている。
桜色の瞳が、その欲望の萌芽をにこやかに見つめていた。
「ね、私は君に全てをあげる。だから、君も私にちょうだい。キミが、好きだほら、口、開けて」
「…………あ、す、き……」
「うん、すきだよ、あーん」
哀れな男はもう、それに抗うことすら出来ない。ただ間抜けに口を開いてそれを受け入れるだけ。
欲望を、美と女に満たされてここで終わり。女が闇底のような深い笑みを浮かべてそのしなやかな身体を男に預ける。
女が笑う、嗤う。これで必要なものが手に入った、竜殺しといえど男である以上自分の思い通りにならないはずがない。
甘い吐息を、吐きかけて。
「…………す、き?」
ピコン
女は知らない。女は想像もしていない。
現代。ニホン。遠山鳴人が冒険者になる前の探索の日々を、出会いを知らない。
自分の悪性を遥かに超える、真の女のドス黒さもまた、知ることはなく。
上級探索者、遠山鳴人は既に出会ってしまっていたのだ、はるかにヤバいそれに。
"女運:hopeless"
それは決して"竜"の助けではない。女から救ってくれるのは、やはりまた、"女"だった。
がり
「ッッッッイッ!?!!」
メッサが眼をぐるぐる回し、飛びのいた。
抑えた口元からは、赤い血がぽたり。
「……テキ」
プッ。遠山が虚ろな瞳のまま、ぶつぶつと呟き続ける。絨毯に吐き捨てた唾には、赤い血が混じり。
「は? わ、私の舌を、噛んだ……?」
信じられない、と言うばかりに初めてこの日、副団長が怯えたような声を出す。
言葉の通り、遠山鳴人は、がりっと、いった。
「テキが、俺に、触んな」
「は?」
ーーテキだよ。鳴人くん
遠山鳴人の頭はハッピーだ。残念ながら普通の人間の脳みそとは変わってしまっている。
それはダンジョン酔いによる影響、それは組合に施された記憶洗浄や自白剤の過剰投与が原因ーー
いや、それだけではなかった。
「テキ、そう、だよな。日下部」
遠山鳴人本人も知らない真実がある。それは彼の絶望的な女運の悪さが引き寄せたある人物の仕業。
「は? 何、言って……」
ーーあなたに言いよる綺麗な女の人はみーんなテキ。鳴人くんにキスしたり愛を囁いたりする女はみんなテキ、全員、キミを騙そうとしてるから、キミから奪おうとしてるから
頭に響く催眠誘導によって植えられた声。
それは冒険者ゆえの抵抗ではない。身に宿した遺物の力でもなく、遠山自身の力でもない。
ーーねんねんころり、鳴人くん。私の声があなたのずっとずっと深い所へいきますように
「日下部…… テキ」
「ば、かな、完全に堕としたはず、なのに」
男の脳を破壊する美と女の権能は、遠山鳴人の脳には届かない。
簡単な理由だ、すでに
ーー鳴人くんは私のことを忘れない。あなたは、ずっと、そのままで。強くて冷たくてずっと何かを追いかける。あなたに女は必要ないよ
既に遠山鳴人の脳みそは破壊されていた。元チームメンバー、日下部瀬奈の催眠誘導によって。
「俺は、モテない。俺は好かれない、だから、俺を好きという女はみんな嘘だ、テキだ」
遠山鳴人が夜な夜な受けていた、日下部からの施術。
本人からは心理カウンセラーがどうたらこうたらと説明されていたが、その実は記憶洗浄にてダメージを受けていた脳への更なる催眠誘導にほかならない。
自分はモテない、=自分に言い寄る女は全て怪しい存在である。そんな呪われた童貞一直線の思考になるように、脳が、壊されていた。
「……………は?」
類稀な女運の悪さは、この異世界にたどり着く前に遠山へやばい女を引き寄せたのだ。
「あー、だんだん頭がはっきりしてきたぞ。くそ、組合の記憶洗浄受けてた時みてえだ。タコ女、てめえなんか厄介な技術持ってんな」
'"日下部 瀬奈"。
上級探索者、遠山鳴人所属、ファイアチームの紅一点。
元、遠山鳴人の仲間にして、遠山鳴人へエロ漫画の催眠アプリみたいな真似を本気でかました"本物"
ヤベェ女の情念と歪んだ独占欲が、ヤベえ女の権能から遠山を救った。
「ばか、な。私の眼が、効かない? うそでしょ……、あなた不能なの?」
ぽかん、ほんとに呆気にとられた様子で女がつぶやく。そしてそれは当然、遠山の琴線に触れた!
逆でもなんでもなく。
「はい、戦争決定。ラザール、おい、いつまで惚けてやがる」
「……ああ」
色仕掛けに弱いトカゲめ。遠山がぽかんと立ったままのラザールの顎をぺしぺしと叩いて。
「こういう女はやめとけ。絶対早起きとかしないからパン屋業の邪魔になんぞ」
一言、伝えた。
「パン屋…… そうだ、俺は、女がほしいわけじゃない…… 誰かに、誰かの空腹を、ああ、そうだ……!」
それだけで、ラザールの目に光が戻り始める。
「は? ッイ、タ!? 眼、が…… お、あああああああアアアアアアアア!?」
メッサが急に眼を抑えて、膝をつく。かと思えばドロドロとその眼から黒い涙、いや、"黒い影"が漏れ始めて。
「ぬお?! 副団長?!!」
「「「メッサ様!!」」」
騎士サーのオタ達が、姫の様子に浮き足立つ。
それはカノサやスヴィの動きを牽制している10剣達も例外ではない。
そしてその隙を見逃す主教と、主席聖女でもなかった。
「スヴィ」
「……隙あり」
「「「あ」」」
剣よりも鋭く、主教最強の道具が機能を果たす。
騎士の剣を叩き落とし、3人を瞬く間に蹴飛ばして壁にめり込ませた。
「あーあ、お気に入りの来賓室が…… てめーらの今期の予算から修理代は貰うわ」
冷たく、脚を組み替えながら主教が嗤う。
両脇に、隠密と聖女を侍らし微笑む有様はまさに教会の支配者。
場の均衡が崩れた。抑えられていた主教は聖女と隠密が場を固め、騎士のほとんどは戦闘不能。
そして、女は未だ眼から影を流し、這いつくばり続ける。
「あ、ははは、"悪事のフローリア"!! 陰気女め! そんなに、このリザドニアンに手を出されたのが気に入らないわけか!? あ、はは、いい、欲しい!」
ふらつき、眼から影を垂れ流しつつも副団長が立つ。
ぎらついた桜色の瞳、澱みを孕むそれが遠山とラザールを舐め回すように見つめる。
「私の眼に抗う竜殺し、"悪事"にこれほどまで愛される亜竜の末! とても、とてもほしいいいい」
「うわ、ラザール、呼ばれてるぞ。いいなモテモテだ」
「いや遠慮しておこう。俺は貞淑なのがタイプでね。お前こそ呼ばれてるぞ」
「悪い、オタサーの姫みたいなのはいいや」
「ぬううう!? 貴様ら! よくわからぬが罪人の分際で我が副団長を侮辱したな!?」
「あ、騎士サーのリーダーがキレた。やめとけよ、筋肉おっさん。そーゆー女はよ、サークラかました上で結局、他の飲みサーの男と付き合うことになるぞ」
「サーとはなんぞや?! ええい! もうまどろっこしいわ! ブレナ! それに壁にめり込んどる貴様ら! 剣としての使命を果たせい!
「にゃは、団長、あんたはそれでいいんだよ。おい、クソ女。もう私達のやり方でやるよ。あんたは失敗したんだし」
「あはは、ブレナ。可愛いわね、団長を取られたヤキモチ……?」
「……にゃはは、いつか殺すから」
「いてえ…… くび、とれた? 取れてない?」
「いや、ギリとれてないっしょー、聖女やばいわ」
「あーくそ、やられた、油断してた」
仲良くスヴィに壁の飾りにされていた騎士たちもまた、ずぼりと壁から自分で復帰し、ふらふらと筋肉ダルマの元へ集まる。
「………あり、これ結構人数差あるな?」
「ふむ、だな。……主教殿、申し訳ない。俺の相棒が好戦的なせいでもう一悶着ありそうだ」
「あ、てめー、ラザール。人のせいにすんなよ、チクリヤローが」
遠山とラザールは無意識に、先程まで対面していた主教達の側に移動していた。
主教の前に立ちはだかり、軽口を交わす。
「ああ、頭が痛い…… こんなのを取り込まないといけないのよね。でも、もう毒を皿半分まで飲み込んじゃってる……」
完全に自分の目論見とは2光年くらい離れた展開になってしまったカノサが忌々しさを隠そうともせずに頭を抱えた。
「おいおい、ボス。毒はねーでしょ、毒は」
「そうだぞ、ボス。俺たちは貴女の異端審問官なのだろう?」
「……主教サマ、この人たち、図々しい?」
「その通りよ、スヴィ、貴女、こんな大人になっちゃダメよ」
「主殿、本当にこの方たちを審問会へ?」
「わかってる、わかってるわ、トッスル、貴女が言いたいことはわかるわ。でも、もうこれしかないの。ほんと、ほんっと業腹だけど、苦渋しかないのだけど」
スヴィとトッスルの心配げな声に、主教がソファに座ったままうずくまる。
「ラザール、お前なんか嫌われてんじゃね、ボーナスとか低いぜきっと」
「ナルヒトだろ。いつもすぐに誰かと揉めるしな。経費落ちればいいが」
呑気な2人がこそこそと。
「両方出るわけねえでしょうが、バカ共」
主教がぴしゃり。言葉を放った。
「あはは、欲しい。みんな、私の元へあの2人を連れてきて」
「メッサ、貴殿が言うのならば我輩はそれを叶えようぞ」
「「「「副団長の御心のままに」」」
「にゃは、クソ女に従うのはやだけど、団長と一緒に戦えるんならなんでもいっかー」
桜色の瞳。美と女に支配されていた天使の剣達がその鋒を遠山たち、異端審問会へ向ける。
「はあ、最低限の言い訳はできたか…… 筋書きはこうよ。審問会メンバーによる粛清についていちゃもんつけてきた騎士団の主要メンバー。逆上して襲いかかってきたため、やむなくこれを実力で排除、ってとこね」
「あはは、主教派は竜の圧に屈し、詭弁にて罪人を庇った。騎士団はこれを法の執行のもとに裁く。主教派を実力で処断、罪人2人の身柄は騎士団の預かりに、ってどこかな」
女2人が嗤う。歪んだ糸目が桜色の瞳を笑いつけ、桜色の瞳は爛々と輝き、影を漏らし続ける。
「審問会に次ぐ。教会の敵を滅ぼしなさい」
「騎士団、抜剣。天使の法を剣にて示せ」
広い来賓室で始まるのは殺し合い。
結局、人が優劣を、善悪を、正義を決めるのはこれしかなく。
互いに人の領域にいるがゆえ、争いの連鎖は免れない。
争いとは、実力の同じもの同士でしか発生しないのだから。
ああ、ならばーー
「にゃは、盛り上がってるとこ悪いけど、結局そっちの要って竜殺しだよね? なにか、忘れてない?」
騎士団にて、2番目に、正義の次に優れた剣が肉食の獣の笑顔を浮かべた。
その笑顔は、絨毯のうえにぽつんと置かれたそれ。
遠山鳴人の斬り飛ばされた腕に向けられていて。
「あ、忘れてーー」
「"エニューの7つ道具" 」
「あ」
どばり、どばばばばばは。ぼと、どどど。
遠山鳴人の傷口が解放された。今度は先ほどと違い、痛みだけでなく、出血も解放されて
「っ、そ……!」
「ナルヒト?!」
尋常じゃない痛みと、笑えない出血量。殺害の眷属の力がついに遠山の生命へ王手をかけた。
「スヴィ!!」
「はい!」
誰よりも早く動いたのは聖女、その与えられた秘蹟、癒しの力を竜殺しへと施すべくーー
「我輩が今度は高らかに叫ぼう! 隙ありだ! 聖女!!」
それを見逃す騎士団長ではない。愚かなこの男がなぜ、天使教会騎士の頂点につけたのか。
答えは簡単。
「秘蹟 爆進!! "戦車"!!」
正義すら押し潰す戦車、膨れ上がる筋肉、それに裏付けされたスピード。シンプルに竜とすら噛み合えるその膂力が、聖女の小さな身体を弾き飛ばす。
「は?」
主教が眼を剥く。
「この」
一手で崩された。聖女の小さな体がゴム毬のように跳ね飛んだ。
「ぬ?!」
しかし、聖女もただではやられぬ。殴られたと同時にその恐るべき癒しを戦車に施す。
過剰な癒しが、戦車の身体を侵しその動きを止めた。
殺し合い、泥沼の殺し合いだ。
殺害の目が大きく見開かれ、熱を持つ。竜殺しは虫の息、次は聖女。この場にて最も厄介だと本能で感じた相手から順に無力化していく。
騎士団、教会の剣。戦うための存在。
急増の、汚れ仕事専門の審問会は瞬く間に追い詰められ。
その中で、桜色の瞳だけがそれを愉快げに見つめていた。
「くそ、これ、やばーー」
めまいがする、力が抜ける。キリヤイバを出す余裕もない。
ただ、なくなった右腕の先から流れる血がどばり、どばり。
絨毯に垂れ続けて
「すぷぷ」
ごくり。こぽり、ごくり、べろ、じゅぷる。
ごくり。
ソレは、突然現れた。誰も、何も気付かない。
人域にて、最高峰の実力者が揃うこの場で、誰一人それが紛れ込んでいたことに気づかなかった。
いつのまにか、絨毯に仰向けに寝そべり、上から垂れているそれ、遠山の血を口を開いて受け止めていた。
「………………え」
眼と目が合う。
見下ろす遠山、仰向けのまま真顔で見上げるソレの真っ黒な光を写さぬ瞳。
「は」
誰もが、動きを止めた。
今まさに、聖女へとどめを刺そうとしていた団長と、第2騎士が大汗を流し、ピクリとも動かない。
強者から順に石になったかのように自ら動きを止めたのだ。
ある種類の虫が、外敵に遭遇した途端に死んだふりをするときに似ていた。
それは人間に備わる防衛機構。
せめて、せめて、その目に映らぬように、せめて、それの興味を引かないように。
上位生物への人間としての当然の反応ーー
「ん、んんん、健康的だねい、すぷぷ。AB型、RH+ ううーん、アルブミン、タンパクも基準値通り、相変わらず素晴らしい健康管理だよぉ、惚れ惚れしちゅうなあ、すぷぷぷ」
ごくり、ごくり。
遠山から垂れてる血は、絨毯を汚さない。
遠山の足元、仰向けに寝そべる黒い宇宙のような女がそれを垂れる血を全部飲み干すからだ。
「………まじかよ」
真っ白な肌、赤い舌がそう言う生き物のように、血を嚥下しつづけた。
「すぷぷ、やあ、トオヤマくん。久しぶり、助けに来たよぅ。ごくり、ああ、美味しい。吸血鬼がいたら、キミを捕らえて離さないだろうねえぃ」
とくり、とくり。
女の細い喉が、動き続ける。遠山の血をそれが取り込み続ける。
くろづくめの女だ。
身に纏うドレスローブは決して光を映さない。
宇宙の奥の更なる奥。星の光すら届かない闇色の眼、夜の帷よりも、夜の海底よりも暗い髪の毛が絨毯に広がって。
「…………だ、れ?」
それしか、言えない。
にこり。
ほんとうに、ほんとうに嬉しそうに女がその暗い眼を細めた。
「ボクの名前は人知竜」
それは、上位の生物。この星の概念を司る柱。
人に近い柱、人の概念たる"知"を司る貪欲な竜。
「キミを幸せにするキミだけのさいきょーに賢いドラゴンさ、ただし火と河童と鬼とバカだけは勘弁な」
ぐっと、寝転んだままサムズアップする女。
とくり、また喉が上下して。
「今度こそ一緒にハッピーエンドに向かおうじゃあないかい」
にこりと微笑んだ。口の周りを赤く染めながら。
TIPS€ たのしい人物紹介
"日下部 日菜"
遠山鳴人と新人時代からチームを組んでいた女性探索者。
ポワポワした雰囲気や小動物じみたかわいらしい外見とは裏腹に探索においては所持許可者の少ない銃器を用いて数多の怪物種に風穴を開ける。
また銃所持許可者の中でもさらに珍しいライフル銃使用免許も所持しているので遠距離からの狙撃もお手のもの。
チームの紅一点として遠山や鳩村の仲をとりもったり、そのお日様のような雰囲気でチームを和ませてくれるムードメーカー。
同じチームメイトの鳩村 翔とは恋人関係であり近々結婚する予定。
…………というのは全て表の顔。遠山鳴人に見せていた設定された人物像に過ぎない。
本名、日下部 日菜、改め"名瀬 瀬奈"
ニホン国公安組織構成員で、幼少期の異常殺人事件への関与の疑いにより公安の監視対象となっていた遠山鳴人の監視任務のためチームに組み込まれた国側の人員。また鳩村との恋人関係にあるというのも設定であり、本当は同じ施設出身の幼馴染に過ぎない。
本来の性格は冷静沈着、無感情かつ厭世的な態度が度々組織活動には向いていないと評価されてきていた。
高校生の時より、遠山鳴人の監視任務に従事、その際の名前は、藤堂 未来。こちらは名瀬本来の性格寄りの人物像だった。
高校時代、遠山鳴人と奇妙な関係にあった人物を真似し、卒業後、探索者となって再び遠山と出会った時の人物像、日下部日菜は、彼女の憧れた少女を彼女なりに解釈し、模倣して作られた人物である。
彼女は遠山鳴人に魅せられている。
その歪な在り方を愛し、神格化しているのだ。
故に彼女は決して遠山鳴人が変わることを許さないだろう。
女運:hopeless、遠山の受難はここから本格化していくのだ。