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現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!【コミカライズ5巻 2025年2月25日発売】  作者: しば犬部隊
遠山鳴人のたのしい異世界オープンワールドライフ

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36話 VS正義 その2

 


 その場の当事者たる人間は、皆全て動ける人間だった。




 人生において、本当の危機を一度は体験し、それを生き延びてきた人間たちだった。



 故に、行動も早かった。




「っラザール!」



 遠山が、この世界に来た時より共にいる仲間へ呼びかける。



 1秒



「ああ!」



 ラザールがその身に、外れた世界より送られる寵愛を、悪事を隠す影の外套を広げようとする。



 1.2秒



「やべ、店長! こっちへ!」




「うぐお?!」




 冒険者たちよりワンテンポ遅れて、しかし戦闘に生きるものでないなら充分に早い速度で癖っ毛の青年、ビスエがドロモラの首根っこをつかみ、その場から退散しようとする。



 2.9秒



「むお?! ビスエ?! っ! ええい! ()()()()()()() それと盾は剥げるぞ! ()()()使()()!」




 首根っこを掴まれつつ、機を見、場を理解するのが生業のドロモラが、女騎士と冒険者の殺気を理解したドロモラが、自分に出来る最大の譲歩を叫ぶ。




 己の聡明な取引相手ならば、今の言葉だけで理解出来るだろうと確信していた。



 4.2秒ーー







 皆が、それぞれの最大最速最善の行動を取り始める。




 だが、悲しきかな。それよりも夙く、正義はそのスイッチを切り替える。己よりも信頼出来る"死"に愛された賢い同僚の言葉を信ずるが故に。



 0.6秒




「遅いディス」




「は、やーー」




 正義が、なんの容赦も躊躇いもなく襲いかかる。



 石畳を蹴り、野生の獣もかくやという速度で冒険者の懐へ踏み込んだ。




 振われたのは只の拳の一撃。少女の小さな握り拳はしかし同時に天使教会騎士の一撃でもある。





「う、げ」




 腹にまともに差し込まれた拳が、遠山の身体をくの字に曲げる。噴き出る脂汗、背中につけ抜ける衝撃、込み上げる吐き気。




 いいのを、まともにもらってしまった。




 だが、




「チッ、頑丈、ディスね」




 同時に食い込んだ細い腕は、遠山鳴人のこの世界の栄養基準では考えられないほどの筋肉密度を誇る両腕にがっしり抑えられた。




 抜けない、動けない。それを理解したストルが舌打ちをする。






「っ、ナルヒト!?」




「いい!! ラザール! 逃げろ! コイツはヤバすぎる! 2人がかりでも無理だ!」




 探索者は、只では転ばない。そして遠山鳴人はその中でも断然、悪あがきをしまくるタイプだ。




「だ、だが」




「判断しろ! お前はそれが出来るだろうが!」




 躊躇うラザールに遠山が檄を飛ばす。ラザールの善性は知っている、同時にその優秀さも理解している。




「っ、"影の導き"!!」




 遠山の期待通りに、ラザールが影を纏う。2人同時に共倒れする必要はない。






「これは、悪事のフローリアの影……! なるほど、そういうことですか。ストル、私はリザドニアンを追います。彼もまた死の香りが濃い存在。私の秘蹟と彼の力は相性が良い」




 影に消えたラザール、しかし細身の女騎士もまた"眷属"の寵愛を受ける存在の1人。




 悪事と死、関係の濃い眷属であるが故にその能力はある意味互いに干渉出来る近いものでもあった。





「わかりましたディス、第7騎士クレイデア、お気をつけて」




「ええ、あなたも、第一騎士ストル」




 教会騎士2人もまた歴戦。短い会話と早い判断、遠山の相手は第一の騎士、正義が。そしてラザールを第7の騎士、死が追う形となる。





「あ、てめ、待て! っげぶ!?」



 腹に突き刺さる膝蹴り、思わず手を離し、たたらを踏む遠山。




 膝をつきそうになるも、奥歯を噛み潰してそれに耐える。



「頑丈な身体、よく鍛えていますディスね。黒髪さん」




「……ひ、でえな。一緒に小さな冒険をした仲なのに」




「ええ、残念ディスよ、黒髪さん。あなた達のこと少し気に入ってましたが、それももう終わりディス」




「……丸腰相手に武装はどうよ」




「仕事が早く済んで助かるので問題ないディスよ」




「それは賢い」




「当然ディス」



会話の終わり、意識の狭間を狙った一撃。





「うえ?!」



悲鳴を上げながら遠山が転がりながらそれをかわす。石畳が痛い。





「また、かわした……」




ストルがハイライトの消えた目で遠山を見つめる、仕留められるのも時間の問題だ。




もう今の彼女はディスディス言ってた能天気な少女ではない。敵を仕留めるハンターだ。



「くっそ!! スイッチの切り替えの早いことで!」




 店台の裏側ーー



 焦りの中、脳が生き残る術を見つけた。想像以上に俊敏な店員に首根っこを掴まれこの場から退散したドロモラの言葉。






「っ、もしかして」





 言葉通り。店台の裏側に潜り込む。





「でも、終わりディス、丸腰の冒険者さん」




 ストルが笑う。低い知性は遠山がその場凌ぎにそこに隠れたとしか思えずーー





「ええい! 南無三!!」




 店台、引き出しを強引に引き出す。



 べき、ぃ。鈍い音、建て付けが悪い、いや、初めからめちゃくちゃに強く引っ張らなければ引き出せないようにできている。




「はっ?」




 ストルが、目を丸めた。



 店台の裏から飛出てきた遠山の手にそれが握られていたから。




「は、はは、ひ、ひひひ。なんだよ、良いもん揃えてるじゃん、やっぱ」




 黒鉄。白い模様がまだらに。



 片手で持てるサイズ長さ約80センチほどの鉄の棒、しかしそれは明確に凶器である。



 刃はない、しかし明確に命を奪う武器である。




 膨れた先端には黒鉄で象られ、菱形を成している。膨らんだそれは単なる棒ではない。






「お店の商品を勝手に使うのはいけませんディスよ」




 棍棒(メイス)。遠山のいた現代において生み出された騎士鎧を崩すことに使われた鈍器。




 騎士殺しとも呼ばれる凶器を、遠山鳴人が握りしめる。





「代金は払うさ」




 遠山はメイスの持ち手を強く握る。しっくり、馴染む。己の手の延長線上のようにメイスを意識する。




 鈍器は好きだ。凝り固まったうざいもの全てを叩き壊すことが出来る。




 高校時代、大企業の役員の豪邸に押し入った時も、半グレ集団の乗り回すバンの窓ガラスを割った時も。





 生まれて初めて、怪物を殺した時も。




 常に人生において必要な戦いの時間、己を脅かす危機の中、鈍器は遠山鳴人の手の中に握られていた。




「これで拳銃があれば、カナヅチの遠山の復活なんだが、まあ、無理か」



 前方、敵。それを見つめる。探索者時代からの癖、探索者が講習で習う始めの一歩。




 敵を、見よ。己を脅かそうとする敵を正しく認識せよ。



 己の身体の奥底、原始より備わる生物としての闘争機能を自覚せよ。




 それが、"酔い"の呼び水となる。




「そうディスか。聞きますが、投降するつもりはありますか?」




「ないな。俺は自分のやりたいようにやる。欲望のままに」




 "ダンジョン酔い"



 遠山のいた現代において、ダンジョン内で活動する人間に起きる酩酊に似た現象。



 これにより探索者は本来生き物として忌避するべき殺傷、そして恐るべき怪物への恐怖を誤魔化し、進んでいく。



 人は、ダンジョンに酔うのだ。そして遠山鳴人の脳はとっくにこの酔いにより破壊されている。






「それが殺人であっても?」




 ストルの問いに、遠山は笑った。なぜ殺したのか、そう問いかける少女の目から決して遠山は目を逸らさない。




 本質、その人間の本質を酔いが曝け出す。




 欲望のままに。遠山鳴人はそのシンプルなルールの下生きている。





「それが俺の欲望ならな。嫌いなんだよ、他人を傷付けてそれを笑う奴らが。ムカつくんだよ、クズが集団でヘラヘラしてんのが。許せねえんだよ、弱いモンを食い物にしてのうのうと生きてるクズどもが」





そんな真似しといて当たり前に、幸せに生きている奴らに虫唾が走るーー




遠山が犯した殺人理由なんてそんなものだ。



 今日一日で手をかけた連中の顔、もう思い出せないがその笑い声、ヘラヘラした想像力のない笑顔だけは残っている。




 その顔は奴らと似ている。



 その笑い声はいつも同じだ。



 集まって、嗤って、臭い。



 幼き日。もふもふの友を奪った連中と全てが同じで。




 奴らを始末したことになんの負い目もなかった。




「そうディスか」




「ああ、そうだよ」




 もう言葉はいらない。ストルは己の存在理由(正義)のため、遠山は遠山のまま生きる(欲望のままに)ため。






 前方、敵。




 天使教会第一騎士 ストル・プーラ。




「それがあなたの正義なら、私の正義とは相いれませんね。……"正義(ジャスティス)"」





「ああ、正義ってのはそういうもんだろ、知ってるよ」





 純然たる正義と、強欲が向かい合う。



 互いに、スイッチはもう入り切っていて。




 観衆の1人が、ごくりと唾を飲む。




 それが、合図となった。




「ハっ!!」




「オラ!」




 ストルの振るう細剣、その真っ直ぐに進む剣尖が遠山の胴体を狙う。



 遠山が身体を大きく逸らしかわす。同時に大振りでメイスを振り回す。遠心力のまま振り上げられたメイスがストルの小さな頭を狙う。




「遅い」



「だろうな」




 ひょいっとそれを後方に跳んでかわすストル、しかし遠山は焦らない。




 ストルとの距離を取った遠山がニヤリと笑い、





「これも、借りるぜ!」





 遠山は、露店の店棚に置いてある盾を剥ぎ取り左手に構える。




「チッ、わざとディスか」




「押し通る!」




 遠山が盾を構え、地面を蹴る。当然、ストルはそれの迎撃の準備を構えて





「は?」




 ストルが目を見開いた。メイスに軽盾、完全な近接ムーブから始まると予想していた格闘戦、しかし、遠山鳴人は




「バーカバーカ! こんなところで真面目に戦うかよ!」




 逃げた。




「おら、どけどけ! 巻きこまれても知らねえぞ!」




「う、わあ! こっちに来るぞ!」



「ふざけんな! 戦えよー!」







 突撃と見せかけて、急転回、ドロモラの露店から一気に離れ、何事かと集まっていた野次馬の中に紛れた。




 ぽつんと露店の前、腰に差した細剣の柄を握ったままのストルが遠山が紛れ込んだ群衆を見つめる。





「………私がバカディスか」




 俯き、つぶやく。




 騎士の誇りとは闘争の中にある。騎士の名誉とは命を賭けた信仰のための戦いの中にある。




 予感が、していたのに。



 黒髪の男、殺人者は確かに強者の香りがしていた、教会の正義、帝国の法を破った者、それも強者。




 互いに誇りを賭けた殺し合いが出来ると思っていた。法を侵した罪人を裁く名誉の戦い。己が生まれた理由を今日もまた証明出来る、役割を果たせる喜びに浸れる、そんな予感があった。




 そして、また良い生き方をしている人であると思っていた。出会い方が違えば友人になれるかも、そんなことも思った。




 化け物を狩り、相棒とそれを運び、商人と値段の交渉をして……




 ああ、なんてーー




 遠山鳴人はきっと、自分に生の実感を与えてくれる予感があった。




 しかしなのに、逃げた(騙した)




「……じゃない」



 かた、かた。震える小さな手のひら。同僚であるクレイデアは遠山への恐れからその身体を震わせた。





 では、ストルは?





「私は、バカじゃないディス!!!!!」






 怒りだ。少女の騎士はわかりやすい侮蔑と、期待を裏切られた怒りによりその小さな身体を震わせる。





「ひ」



「き、教会騎士がキレてる…… こ、ここ離れた方がいいんじゃ」




「ばか、店はどうするんだよ!」




 群衆がパニックに陥る。みな知っている、みな分かっている。世に広く拡がる天使教会。




 それの武力の象徴たる騎士たちの勇壮さ、そして苛烈さを。



 歴史と歌が証明している。教会騎士の怒りに触れることが何を意味するのかを。





「逃しません、あなたが戦わないのなら、今よりこれは法と正義の下における闘争ではない。狩りの時間ディス! どこへ逃げようとも、あなたの首を吊って飾ってやるディス!」





 ワァアアアアアア?!



 に、逃げろオオオオオ!



 ま、まて、置いていくな!




 青空市場が、恐慌の波に呑まれる。人が入り乱れ、群衆が蜘蛛の子を散らすように拡がる。





 遠山を探すためストルが進む。青空市場を進むたび、1人が走り出す、逃げ出す。




 人混みはストルを避けるように動いていたが、次第にそんな余裕はなくなる。



 恐怖とパニックは伝染する。何に怯えているのか、何から逃げないといけないのか、それを理解していない人間もどんどん増える。





 あっという間に、青空市場は混沌と化した。逃げ惑う人々、露店を閉める人々、その場にうずくまる人々。



 その混沌は、人混みを作り出したストルでさえ、飲み込む。





「チッ、これじゃあ探すのも一苦労ディスね」




 思わず舌打ち。しかし、いくら邪魔とはいえ無辜の民に手を出すわけには行かない。



 遠山の姿を探す、しかし背丈の低いストルの視界が人混みに邪魔され始めーー













「っ?!!?」




 それは理由のある反応ではない、脊髄反射にも似た動き。




 逃げ惑う人々の中に、どろり現れた明確な殺意を感じての行動。




 ストルが半歩、身を逸らす。



 鼻先をかすめて振り下ろされる鉄塊の一撃。



「おっと、すげえ反応、いやほとんど反射だな」





 ストルが避けれたのはその天性の才能ゆえに。





 人混み中、逃げ惑う人々に紛れながら振われたのは戦意ある一撃。




 ストルの頭を狙ったそれは空振り、勢いのまま石畳を強く叩いた。




 石畳に小さなヒビを入れる一撃は、その男から繰り出されたもの。




「あなた……っ」




「怪物とまともにやりあう趣味はねえ、追いかけてこいよ、騎士」




 遠山鳴人だ。



 ニヤリと笑い、一撃離脱。



 踵を振り返し、人混みの中に紛れ込む。




「こ、の、逃げるな! く、待ちなさいディス!!」




 反射的に、追う。



 ストルはしかし、思考できない。



 男の狙いを理解できないまま、追いかける。そこがより、人混みが濃く多い場所だという認識もしないまま。





「どけ! どきなさい!」



 ストルが声を荒げる、しかしそれは群衆のパニックを広げるだけ。





 また、人混みが混沌さを増して。





「ッア?!!」




「うお、今のも防ぐかよ。やばいな」




 また振われる一撃、群衆の中に紛れて真下から掬い上げられたメイスの一撃をなんとか剣で逸らす。




 遠山の体勢が大きく崩れる、ガラ空きの胴体、それを見逃す第一騎士ではない。





「ーーあ」



「ヒヒ」




 絶好のチャンス。細剣に手をやり、仕留めようとするストルはしかし、この段階でようやく気付き、声を漏らす。




 遠山は自らの策が成ったことに、笑みをこぼした。






「く、そ、卑怯な……」




 つぶやいた頃には遠山はまた人混みへ逃げ去る。




 剣を振るえなかった。



 シンプルだ、シンプルに遠山と自分の周りに人が多すぎた。細剣でもそれを抜き、振るえば遠山以外にあたってしまう()()()()()()、その可能性が騎士としての剣を鈍らせる。





「ヒヒヒヒ、よかったよ、お前が口だけの正義じゃなくて」




 遠山はまた人混みに紛れる。自分の立場と相手の立場、力量差と環境。




 戦闘思考がこれが最高効率だと導き出す。




 おそらく技量的に言えば、ストルは何の問題もなくこの人混みの中でも遠山だけを貫ける、しかし可能性だ。それでも他の人間を傷つける可能性がある。




 そのもしかしたらが、少女の剣先を鈍らせるのだ。






「く、そ……」




「おら、隙だらけだぜエエエエエ!!」



「く、!」




 逃げ惑う人々の隙間から、再び遠山が強襲する。




 対して遠山はなんの躊躇いもない。メイスを振り回すことはしないものの、気にせずに振りかぶり、思いっきり脳天目掛けて振り回す。





 鈍器と剣という獲物の違い。剣であれば触れるだけで大怪我させてしまうが、鈍器とあれば話は別。




 そのシンプルな構造と作りは明確に殺意を向けたものにのみ、死を届ける。




「よっ、と!」



「アッ!?」




 連打、連打、乱打。



 一度その事実、周囲の人間を傷つけてしまう可能性を自覚したストルの動きが一気に鈍くなる。





「ヒヒ」



 それを見逃す男ではない。



 ストルに向けて何度も何度も振り下ろすメイスの一撃。信じられない筋力と技量によりそれを防ぎ、捌き続けるストルだが





「どっしゃらあああ!!」




「きゃっ!?」




 気合一撃、大きく振りかぶった盾を薙ぐようにストルの剣を持つ右手めがけてぶつける。




 キン。金属と金属が響く、、



 遠山の盾が、ストルの手から細剣を弾いた。




「とった」




 殺す気はない。門番たちの時と状況は違う。今は始末していいタイミングではない。



 遠山はそのまま再び、手ぶらになり体制を崩したままの少女の脳天目掛けて盾を振り下ろす。




 ずがんと1発ぶち当てて、そのままトンズラ、ラザールを探して状況を打開するための一手を考える。




 戦闘思考が駆け巡る。遠山の動きにはなんのくもりもなかった。




 戦術と抜け目なさで、教会騎士をすら無力化してーー







「ーー勝ったと、思ったディスか?」





 確かに聞いた。盾を振り下ろす一瞬。




 確かに見た、天使教会第一騎士たる少女の顔に酷薄な笑みが浮かぶところを。







「"正義"は、勝つ、ディス」





 ピコン。



【DANGER 危険なクエストが開始されます。DANGER 頑張って生き残りましょう】





【DEAD クエスト"絞首刑" 発生



 クエスト目標 生き残る


 クエスト失敗の場合、死亡します】






「ーーは?」





 それは遠山の理解を遥かに超えた現象だ。




 本人が意識していない油断がそこにあった。竜を乗り越え、烏を縊り殺した、短時間に積み重ねた勝利がその本能を鈍らせていたのかもしれない。




「"副葬品(グッズ)





 遠山が弾いた細剣、細剣はどこに?




「ーー上」



 見上げる、くるくる回る細い剣。



 廻る思考が加速する。




 ーーわからない、だが一瞬、()()を向けたような




 ラザールの言葉、野盗の死に方。



 ーー"正義"の使用によりこの秘蹟の持ち主は、自身の考える、もしくは感じる正義にまつわる全ての行動に絶大な補正を得る。




 メッセージの文面、つまり、なんだ。こいつの行動、その全てが上手くいくということか?





 まさか、いや、待てこれ、なんだ、思考が早すぎて。




 遠山は気付かない、周りの時間が遅く感じるほどの思考の加速。



 それが、走馬灯であることを。




 "正義"の使用により、今、盤面は全てストルの都合の良いように進んでいた。





 遠山の弾いた、いや、弾かされた細い剣、首吊りの剣がくるくる回る。





 それの、剣先が、遠山に向いていた。






そのゆっくりな世界の中、正義が少女の笑みがゆっくり、つりあがる。




己の才を人にぶつける昏い歓びの微笑み。








「副葬品 執行 吊れ、"首吊りの剣(ハンギング)"」










「あ、」





 ストルの声が聞こえた次の瞬間には、もうーー



読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!



下にTwitterのアカウント貼っています、更新通知などしてるのでよければフォローしてやってください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一つ前の指摘は34話、35部分の事でした。
[気になる点] 35話では、クレイディアのことを彼、6騎士って記載してますよ。
[良い点] めちゃくちゃ読んでてぞくぞくします!最高です!
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