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21話 害鳥駆除

 



「い、ぎゃああああああ?!!」



 汚い悲鳴がそこかしこ。



 命がキリに飲まれて斬り刻まれ消えていく。




 そこに彼らのような嘲りも、笑い声も、罵倒もない。




 ただ、殺す。殺し尽くす。それだけの現象。真の捕食者の狩りとはそういうものだ。





「おれ、の、身体……あ」



 優男、最後に息があった男が、血の石畳を這う。つい1分前まで強者の余裕は影も形もなく。




 部下の恐怖に歪んだ死相をかきわけ、優男が地べたを這い続ける、逃げる、逃げる、逃げ



 ぺちゃ。



 足音。





「あ……」



「おっと、生き残りか。ふーん、数が多いと威力が減るのか? 人間相手に使ったことはあんまねえからな。ま、これから調整していくか」




「な、なんだ、おばーー」



 べちゃり。優男が血だまりに沈む。



 足音の主が、ぱちりと指を鳴らした瞬間、優男の身体の中に染み込んだヤイバがその肉と魂を刻んだ。




 容赦も、嘲りも、躊躇いもなく、捕食者が仕事を終わらせた。






 ………

 …




「いやー、絶好のシチュエーション。いっつもこんな使いやすい状態だといーんだけどなあ」



 濃い死の匂いの中、遠山鳴人が己の胸の中に欠けたヤイバを収納する。死と血に馴染むキリがみるみる間に晴れていく。



「にしても、ひでえ臭いだ…… ひえー、南無阿弥陀南無阿弥陀」



 元の世界で同じことをすれば情状酌量の余地なく死刑判決だろう。今、殺した数は20は下らない。キリヤイバ、遠山鳴人のその兵器は遺憾無く性能を発揮していた。




「ラザールはうまく仕事をしたな。うーむ、1人くらい生かしておけば良かった。身元やら俺やラザールを追う理由を知りてえ」




 ヤクザの厄介さはよく知っている。奴らはメンツが趣味の悪いスーツを着て歩いているようなものだ。目をつけられた時点で美味くない。




「最低でも、この件に関わってる人数は把握しておきてえ。遺恨は残さねえ、やる時は徹底的だ」




 過去の経験から、遠山は悪い奴らをぶちのめす時はその件に関わってる連中全てを黙らせるしかないと理解していた。



 組織まるごとは無理でも最低限、遠山やラザールを追っていたこいつらと関わる人間の口を塞がなければ面倒なことになる。




「さて、さて、なんか持ってねえか?」



 手当たり次第に、死骸を漁り始める遠山。常人であれば忌避するその行動もしかし、頭の茹った探索者にとっては朝飯前だ。



「こいつ、コイツが1番身なりがいいな。周りの奴らの比べて装備が豪華だ。革鎧、外套…… ふむ」




 ひとは死と血を目の前にすれば、慄くものだ。しかし探索者は違う、死と血に酔うのだ。遠山はまともに健全に、酔っていた。



「年齢は、俺より少し若いくらいか? どうでもいいがこの世界、顔がいい奴多いな」




「獲物は、ナイフか…… チッ、血がついてやがる。このつき方は、誰かを刺したか? リダ、ルカ、死んでねえよな」




「革鎧の良し悪しはわかんねえが、装飾が多い。ふむ、防具というより、見栄えのためでもある、のか?」




 最後にトドメを刺した長身の男を漁る。外套を剥ぎ、内ポケットを探っていると、すぐにそれを見つけた。




「お、これは、いかにもって感じだなあ、オイ」




 封印がつけられた羊皮紙、のようなもの。しっとりしたその素材は遠山のよく知るパルプ紙ではないようだ。





「いかん、よめん」



 すぐに問題が発生した。開いても、そこに書かれてるのは遠山にとっては呪文のような文字だった。外国人が書いた手書きの手紙よりも読めない。




「あっれー、マジか。言葉が通じるから文字もいけるって思ってんだが…… 何語だこれ。しゃーねー、ラザールに読んでもらうか」



 羊皮紙を丸めてローブの内ポケットに入れようとしてーー





 チャキ。



 背後で響く音に遠山は動きを止めた。





「……ふーん。妙だな、確実に周りの奴は皆殺しにしたはずだけど」




「あははのは。はーい、ゆっーくり、手を挙げてー。両手ね。そうそう上手いじゃん。はい振り向いてー、ゆっくりね。とりあえずさあ、その手紙、こっちに渡してくんない?」




 背後に誰かいた。



 遠山がしゃがんだまま、言われた通り両手を挙げてゆっくり振り返る。



「おまえ……」



 目を剥いた。足元の血溜まりに沈んだ死骸の顔と、目の前でニタニタ笑う顔があまりにも似ていて。



 いや、同じ顔だ。




「あらら、どしたの、驚いた顔してさ。まるで殺した獲物が生きてるのを見たような顔じゃんさ」




 遠山の背後に立っている男。片手で扱えるサイズの小さなボウガン、それをこちらに構えてニタニタ笑うその顔、見覚えがある。




 足元で血に沈んでいる死骸と全く同じ顔で。




「双子、ってわけじゃねえよな」



「はは、さあ、どうだろね。さあ、さっさと渡せよ」



 手品のタネをペラペラしゃべるほどバカではないらしい。遠山にとっても重要なのはどうやって、ではなくこれからどうするか、なのでそれ以上の追求はしない。



「よしよし、いい子だ。中身みたかい?」




「字、読めねえんだよ」



「ふうん、ボスからは確か冒険奴隷とか聞いてたけど…… まあ、なら仕方ないか。さて、どうしてくれようか、この状況」




「……死人が蘇るのがここらじゃ当たり前なのか?」



「あー、ダメダメ。会話で仕掛けを読み解こうとしてもダメだよ。この人数を皆殺しにする異能、ノータイムで死体から情報さらおうとする頭、アンタ完全に、こっち側の人間じゃん。あーあ、厄介な件にクビ突っ込んだなー」




「は、ならさっさと引き金を引けよ。この距離だ、外す心配もないだろ?」




「いやね、そーなんだけどさ。なかなか殺さないようにするの難しいわけよ。今からアンタを生かしたまま拷問にかける。トカゲの話を聞きたいんだ。ボスからトカゲはなるべく生かして連れてこいって言われてるし」




「……ボス、ねえ」




「あ、口滑らしちった。ねえアンタ、不思議だね。それほどの力、それほどの適性、間違いなく俺と同類なのに、なんであんなガキどもに肩入れするわけ?」



「偉い余裕だな、早く俺の口を塞いだ方がいいんじゃねえの?」




「あひ、いやー、いいねえ。ちょろい仕事だと思ってたけど中々どうして。久しぶりにやりがいのある仕事だよ。この状況で、出てくる言葉が命乞いじゃないのかよ。アンタ完全にこっち側の人間だね。で、質問に答えてくれる? なんでガキを助けた?」




「そうしたいって思えたから、思わせてくれたからだ。アイツらは俺の欲望を叶えるために必要なんでな」




「はは、あんなゴミムシどもが? 変わりもんだね」



「は、部下をこんだけ簡単に死なせる無能より使えるだろうよ」




「はい?」



 優男の笑顔が固まった。



 お? コイツ、案外チョロいな。


 遠山の思考が回り始める。余裕ぶった態度はおそらく薄っぺらい仮面に過ぎなかったのだろう。




 予想より簡単そうだ。




「だってそうだろうが。てめーなんかの組織の人間だろ? エラソーな態度はある程度人を率いる立場にあると見た。ヒヒヒヒヒヒ、笑えるな、部下こんだけ死なせといて、よくそんな態度でいられるよ。羨ましいな、想像力の足りないバカはよ」




 遠山は優男の反応を探るように言葉を手繰る。



 みるみる間に優男の雰囲気が変わる。



 なるほど、コイツ、簡単だ。馬鹿にされ慣れていない。




「……俺のことをさ、舐めた奴はみんなもうこの世にいないよ」



「ヒヒヒ、セリフが安いなあ、おい。なら俺も始末すりゃあいいんじゃねえの? この距離だ、おまえみたいな無能でも外しゃしねえだろ?」




 獲物は弩。もちろんまともに撃たれれば躱せるわけがない。



 だが、遠距離から撃てばいいものを、コイツはかなり近づいてきている。3メートルも、ない。



 チャンスは一瞬。賭けだが、不可能ではない。



【技能 戦闘思考】



 コイツの殺し方はもう出来上がった。あとは実行するだけ。



 遠山はその瞬間を待つ、優男の顔が強ばり、そして表情が冷たくなって




「ボスの指令は、トカゲは生かして連れてこい、だ。ローブの男についてはなんも言ってなかったな、そういえば」




 人殺し同士、向かい合う。



 互いが互いに殺しに躊躇いはない。呪われた魂の持ち主が相対する。



 優位は、優男。



 手を挙げて、丸腰の遠山に向ける弩の狙いは冷たく、正確だ。



 ちゃき。小さな弩の先端が遠山に向く。膝を軽く、地面を確認ーー




「よっーー」



 躊躇いなく、優男が弩の引き金を引いた。勝利を確信した顔ーー





「ッ!!」



 膝抜き。古武術における予備動作なしで動くための技術。遠山鳴人は探索者時代に培った身体の動きを使う。




 右に倒れ込む。スパン。かわしきれず、左腕に鏃のボルトが突き刺さる。皮を、肉を、ボルトが抉った。




 だが




「ヒヒッ」



「なっ?!」




 優男のボルトは、遠山の命は奪えなかった。



 それが決着の瞬間だった。




 プジっ。



「あ、……げほ、え?」




 優男が目を見開く。己の胸に生えた異物。ああ、何故か、その胸に剣が突き刺さっていた。




「オラァ!!!」



 左腕を貫かれながらも、遠山が地面を這うように駆ける。優男が懐に隠していたもう一つの弩を構える、だが遅い、遅すぎる。




 胸に突き刺さった刃が、その動きをどうしようもなく鈍重にしていて。




「ゲぶっ!?」



 地面スレスレから振り上げられた遠山の拳、優男の顎を下から真上に打ち抜く。



「返してもらうぜ」



 ぶじ。胸に突き刺さっていた剣、遠山が無造作にそれを引き抜き血が噴き出る。




 刃は湾曲し、傷み、そして欠けていた。




「な、んで」



「さっき思いついたんだよ」




 遠山鳴人の身体に収納されている遺物、キリヤイバ。なんのことはない。遠山は弩を躱した瞬間、それを()()()()()()()()()()()




 やれると思ったからやった。うまくいって、何よりだ。



 遠山の目が歪む。チベスナによく似た細い瞳、にやりと半月のように細まり




「ヒッ?!」



「おっと、寝てろ」



 足を引っ掛け、首を抑えで地面に優男を叩きつける。死んだら、死んだで構わない。そんな勢いだ。




「げほっ?! あ、げあ…… な、にを、どうやって……」



 うつ伏せに倒れた優男の背中に膝を押し付け、左手で頭を床にこすりつける。



 驚くほどに、力が弱い。身長の割に筋力をまるで感じなかった。




「お、重……… な、んだ、こいつ……?!」



 優男が遠山を跳ね除けようと抵抗するがピクリとも動かなかった。



 左腕に突き刺さったボルトを抜く。血が出るが、戦闘の興奮で溢れるアドレナリンと、酔いがそれを無視させる。




「この仕事を指示した奴の名前は?」




「は?」



 優男が遠山の質問を聞き返しーー




 ザクっ。



 食材に包丁を入れるくらいの気軽さで、片方の手で握っていたキリヤイバで優男の右手の人差し指を切り分けた。




「ーーっああああああああああ?!! おれ、俺の、ゆびいいいいい?!!」




「質問に答えない、嘘を言う。俺が嘘と思うその時点で、指を落としていく。次は親指と小指をもらう、その次は中指も薬指、その次は残った手の指全部、素直に答えれば解放する。()()()()()()




「ーーひ、ひ、ひ」



 優男が、息を漏らす。もうそれは声になっていない。胸の傷、指、新たなる血が汚い街の石畳に染み込んでいく。





「この仕事を指示したやつの名前は?」




「し、知らねえ!! ぼ、ボスの名前は誰も知らっーー ひぎ?! あ、あああ、また、ゆびいいい」




 欠けた刃、キリヤイバの湾曲した刃が優男の指を2本、切り分ける。




「なん、なんで、なんでええ、嘘じゃないのにいいい……」




「この仕事に関係している奴の人数は? お前の仕事に関連している人間の数は? どこにいる?」



「ひ、や、やめて、もう、切らないで! いねえ! 俺以外にいねえよ!! ひ、独り占めしようとしてたんだ! トカゲヤローを追ってるのは組織全体だけど、スラム街に当たりつけて探してたのは俺だけだ! あ、アンタのことも誰にも喋ってない! ほ、ほんとだ!」




 じょおおお。石畳に血以外の排泄物が染み込み始める。優男の股間からそれは漏れ出していた。



 遠山はピクリとも動かず、夜の山奥の闇を移した瞳で獲物を見下ろし続ける。




「……お前は殺した筈だ、何で生きている?」



「は、は、……ひ、ひい、も、もうやめ、ああああアアアアついいい、指イイイイイ、やべて」




 すぱり、すばり。



 質問に答えなかったから優男の右手、残った指である中指と薬指を切り分けた。右手はもうドラえもんだ。







「お前は殺した筈だ、なんで生きている?」




 再度同じ質問を淡々と。優男は荒い息をひっ、ひ、と漏らしながら喉を震わせた。





「ス、スキルだ!! 俺のスキル!! 双子たちのチャンス(ツインズ・チャンス)!!」




「……簡潔にそのスキルの概要を話せ」 



「ぶ、分身だ!! 自分の近くに()()()()自分の分身を作ることが出来る! 本体が死んだら、片方の分身に意識を移すことが出来るんだ! も、もう今日は使えねえ! た、たのむ、今殺されたらこれで終わっちまう! な、なあ、話したら、話したら助けてくれるんだよな?」



 反応から嘘ではないと判断する。



 淡々と遠山が次の質問を投げかける。



「……なんでラザールを探していた?」




「ひ、し、知らねえ、ボスからの指令には理由なんか書いてねえ! ほ、本当だ! カラスのボスの名前も顔も誰も知らねえ、"三羽"の幹部連中しかボスの居場所すらわからねえんだ!」



 頭の中にメモをする。後でラザールと相談しよう。



「お前の組織での立ち位置を教えろ」




「あ、ああ、答える! "三羽"の1人、"嘴のミルダ"の下部組織の一員だ! し、仕事はスラム街の管理、住人の間引きに、アガリの徴収、ち、チンケな仕事なんだ、俺なんか殺しても、意味ねえよ!」




 聞きたいことは全て聞いた。コイツの対応も決まった。



 遠山は静かに、なるべく口調を柔らかくして問いかける。




「そうか…… それ以外、何か俺に役に立ちそうな話をしろ」



「は、は? な、なんだ、そりゃーー いたあああい!? 痛い、痛いやめてえええ、あ、ああ…… ゆび、ぜんぶうう」




 遠山が優男の両手をドラえもんに変えた。顔色1つ変わらない。





「何か俺に役立つ話をしろ」



 同じ言葉、繰り返す。



「ひ、あ、ああ、金、金か? こ、こうしないか? と、あ、アンタがなんでリザドニアンなんぞに手を貸すかは知らねえ! あ、アンタには才能がある! こっち側の才能だ! 俺、俺が組織にアンタを推薦するよ! 金だ! 使いきれねえほどの金が手に入る、女もだ! アンタが望めばどんな女だって手に入るよ! り、リザドニアンの肩持つなんてもったいねえって! な? 仲間に、仲間にならないか?」




「仲間、ねえ…… 稼げるのか? その仕事」



 初めて遠山が優男の言葉に興味を持った、そんなふうに聞こえたのだろう。



 優男が汗まみれの顔をにんまりと歪めて叫ぶ。



 命の危機にもう子供たちをいたぶっていた時の余裕などどこにもなかった。




「稼げるさ! 帝国中の金がカラスには集まる! バカどもから金を巻き上げて、奪い尽くそうぜ! ひ、人を殺して褒められんだ! あ、アンタにはぴったりだ! その目、アンタの目、幹部連中と同じ目だ! 才能があるんだよ! なあ! なあなあなあ、あ、相棒って呼ばせてくれよ! 一緒に成り上がろうぜ」




「……ふうん。ま、それも面白いかもな」




「だろ? だろだろ?! だから、なあ、離してくれよ、たのむから、さあ」




 懇願する優男。



 遠山がぽつりと、つぶやいた。



「………子供たちの名前を知ってるか」




「へ?」




 あまりにも予想外の問いだったのだろう。ポケっと、優男が言葉を返す。




「お前がボコってたガキの名前だ。知ってるか?」




「し、知らねえよ、あんなゴミムシどもの名前なんて興味ねえ! す、スラムのガキだぞ! 生まれてこなけりゃいいような連中だ!」



 こんな状況なのに、優男は言葉を、子どもたちへの差別を隠そうともしない。



 遠山は予想した。



 つまり、これがこの世界のスラム街の住人への認識なのだ。恐らく世界全体の倫理観は、現代と比べて非常に低いのだろう。





「ふうん。そうか。じゃあ、トカゲだ。トカゲヤローの名前。探せと言われてるんだ、それくらい知ってるだろ?」




 それを気にする風でもなく、遠山が更に言葉を続ける。




「し、知らねえ! リザドニアンだぞ! 呪われた種族だ! 知りたくもねえよ! あんな薄汚い連中! あ、ち、違う、アンタは違うんだぞ! アンタは特別な人間だ、悪の才能があるよ、俺にはわかるんだ、アンタはあんな連中とは違う! あんな路傍を這うイモムシ以下のクズどもとは違う人間なんだぞ! な、だ、だから、たのむ、頼むよ」




 子どもたちへの言葉と同じような返答。




 この辺でいいか。



 本格的に、もう、コイツから得られる情報はなさそうだ。




「……ラザールだ」



「は? な、なに?」



「リザドニアンとやらの名前はラザール。パン作りが上手い。子どもたちの名前は短髪の刈り上げがリダ、生意気そうな帽子がルカ、赤毛の女の子がニコ、金髪の癖っ毛がペロ、その背に負ぶわれているのがシロ」




「な、なに、なんだ、なんで、そんな名前なんか」




「わかるよ、お前の気持ち。自分にとって心底どうでもいい、死のうが生きようがどうでもいい奴らの名前なんか知る必要も、知りたくもないよな。すごく、わかるよ」




「へ、へへ、だ、だろ、気が合うな……」



「だが俺にとって、アイツらは名前を知りたくなるような存在なんだ。俺の周り、俺の世界、俺の人生を構成する一員だ。だから、名前を知ってるんだ」





「え、へ、な、何の話……だ?」




「俺は、お前の名前は、()()()()()()()、知りたくも、知る必要も、ない」




 遠山の言葉。



 少しの時間を置いて、何が言いたいかを、優男を理解したようだ。



 自分の末路をーー




「あーー…… ?! よ、よせ!! や、やめろ! クソ!!! クソ! お、俺に手を出してみろ!! か、カラスが黙っちゃいねえ! てめえら追われるぞ!! 追われるんだぞ! 一生安眠なんかできねえ!」




「……もう遅いだろ、こんなことしたらよ。はあ、考えること増やしやがって」




 覚悟の上だ。そのリスクよりも遠山は自分の欲望を優先した。ただ、それだけの話だ。




「あ、ア、嘘つき! 嘘つき! そうだ! 約束だ! 約束したじゃないか! 話せば解放するって、約束してーー」「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」






 優男の懇願の言葉を、遠山の震えるような嗤い声がかき消して。




「お前、本当に悪人か? 他人信じすぎだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 キリヤイバを振り上げる。




「あ、あくまーー」




「いや、遠山鳴人だ」




 じくり。



 うつ伏せになっている首の真後ろ、延髄を欠けた刃が斬り砕いた。




「あぺ.ぺぺぺぺぺーー」



 陸に上げられた魚のように、優男の身体、四肢がびたんびたんと痙攣。



 遠山はやはり顔色を変えず、ぐりぐりとキリヤイバをさらに深く優男の首に押し込む。



 コリ。何かを完全に破壊した。




 すぐに、ぱちゃり。




 他の死骸と2回目のチャンスを不意にした優男は同じく、血溜まりに沈んだ。





「あばよ、ゴミ野郎」




 ずるり、両手で引き抜いたキリヤイバ。



 遠山が血しぶきを払う、その動作に合わせて霧に姿を変える遺物は静かに、主人の身体の中に戻っていった。




カラスの羽、その刺青をつけた者はみな、探索者に駆除された。




「探索完了」




 濃い死の臭いが満ちるその場に、遠山の低い声が静かに。







 ピコン



【"汝、その強欲を抱いて率いよ"】



【クエスト完了】



【オプション目標、"目撃者、全員殺害"達成】



【冒険都市の勢力情報に"カラス"が追加されました】



【目撃者を全員殺害した為、すぐには勢力評価は変わりません、しかしいずれ"カラス"は貴方の脅威に気づくことでしょう。早めに冒険都市でどこかの勢力の庇護下に入るか、冒険都市内での地位確立を目指すのをおすすめします】



<苦しいです、評価してください> デモンズ感



ありがとうございました!

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[良い点] 全て! [一言] こんなファンタジーが読みたかったんです!ありがとうございます!
[良い点] 今のところ良い点しかない不具合が発生してます [気になる点] 消えてしまったルートの行末 [一言] 全ルート対応のゲームを世に出してくれ!お頼みもうす!!
[良い点] 遠山の決めたらやりきる所 良くも悪くもこうと決めたら面倒くさくても何でも容赦も呵責もなく潰しきるところ好きです [一言] お前の名前は知りたくもない めちゃくちゃかっこいい殺し文句(文字通…
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