16話 サイドクエスト【路地裏のトカゲを追って】
「友人殿、お嬢様からはいつでも困ったことがあれば頼ってほしいとのご伝言をこれでもかと伝えられておりますので、お困りの際はいつでも、竜大使館へ」
御者台から降りた遠山へ、ベルナルのどこか優しい声がふりかかる。
目的地へ到着したのだ。
「いやいや、何から何まで助かりました。ドラ子、いや、蒐集竜殿にもよろしくお伝えください」
御者台へ向けて頭を下げる。
ついでに馬車を引いてくれたでかい馬にも礼を言いながら首を撫でた。手のひらに感じる馬の肉と皮、生命が伝わってくる。
「ブヒヒン」
満足そうに体を震わせる黒馬、まあ気にすんなよ、また運んでやるぜ、と言ってくれていたらいいな。
「ほほ、これはこれは。我が愛馬、ブエノスが初対面の人間にタテガミを触らせることは滅多にないのですが…… 友人殿、あなたであればあまり心配はいらないかとは思います、しかし、冒険都市はお広うございます。さまざまな種類の人間がいる故に、ゆめゆめご油断召されるな」
「ええ、わかりました。ベルナルさん。じゃあ行きます。また遊びにいくんでそのときはよろしくお願いします」
「ほほ、あなたさまに天使と我らが竜の加護が在らんことを」
御者台のベルナルがおでこに人差し指を当て頭を下げた。この世界の社交辞令だろうか。
「ええ、ベルナルさんにも、フォースの導きがあらんことを」
ならば俺もと、遠山が自分が知りうる中で最高にカッコいい社交辞令を決める。
May the Force be with you。
「ふおーす?」
「おっとすみません、なんかそのセリフ言われてこのローブ着てたら言わないといけない気がして。じゃあ、これで」
かぽかぽ、ブエノスのでかい蹄が石畳みを鳴らす。
馬車がゆっくりと、広場を進み始める。
「ええ、ご無事を祈っております、それでは」
遠山はしばらくその馬車を見送り、そして辺りを改めて見回した。
「すげえ、マジでファンタジーじゃん」
そこには、異世界の光景が、いや、遠山鳴人は確実に異世界ファンタジーの光景の中にいた。
「奥さん、おくさん! 今晩の夕飯にうちの野菜はどうだい? 都市近くの農場から朝、仕入れた新鮮なガイモとトメトだ!! おっと、アポルもあるよ、どうだいひとつ?」
「うーん、このアポル、いい色だけも銅貨7枚は高いわねー」
広場に広がる沢山の出店。
「そこゆく冒険者さん! 鉄の防具は要らんかね? 工房から特別におろしてもらった一品だよ」
「うお、本物か? 印章もついてんな……」
「はいはいはい、今ならこれが銀貨9枚で君のもんだよ? 今ならほら、平原のホーンボアの毛皮のポンチョもおまけしちまう! 買わねえんなら他の冒険者さんを当たるさ!」
「待て待て待て! くそ、銀貨9枚…… パーティの共有貯金使えば…… おっさん、少し相談してきたらダメか?!」
「道ゆくみなさん、寄ってらっしゃいみてらっしゃい! 今日皆さんに紹介するのは、沼オークの内臓から創り出したこの霊薬だ、これを怪我にひとぬりすれば魔術式やスキルも青ざめるほど1発完治!」
怪しい出店に、威勢のいい商人。武装した人間が店を冷やかしたり、主婦が買い物をしたり。
るつぼ。
さまざまな人間で賑わうその広場、この都市が帝国とやらの要所だというベリナルの言葉がはっきりと理解出来た。
「すげえ活気だな…… バベル島の祭りの時みたいだ。やべ、ワクワクしてきた。オープンワールドゲームのチュートリアルが終わった直後だな、1番たのしい奴やん」
オタク知識によるお約束で言えば、ここからは自由行動。
何をしてもいい。メインクエストを進めようが、金策に走ろうが、世界を片っ端から探索し回ろうが全て自由だ。
いや、もとより人生だって同じことだ。
仕事やら家族やら責任やらなんやらでつい忘れてしまうが、本来、人は自由だ。どこへだっていけるし、なんにだってなれる。
「……ま、前のとこでも俺は好き勝手やったしな。ここでもそのまま、欲望のままに、ってか」
雑踏を避け、数多の出店が並ぶその広場の中心に向かう。
泉だ。翼の生えた女神っぽい像を中心にわくでかこった人工の泉がある。
「さて、考えることは山ほどあるが、まずはシンプルに行くか」
泉のそばに置いてある木のベンチに腰掛け、静かにつぶやく。
この状況下において、遠山は改めてその情報量の多さにビビる。
異世界、竜、生死、国、言語、貨幣etc……
だがあえてそれらについて考えることを一旦やめた。
「まずはラザールだ。アイツを探す。クソ矢印、起きろ」
【サイドクエスト】
【路地裏のトカゲを追って】
【クエスト目標、冒険都市 スラム街にてラザールを探す】
言葉の通り、異世界の雑踏の中メッセージが世界に浮かび上がる。
矢印が、向かうべき道、広場の出入り口らしい場所を指し示して
「この矢印も信用ならねーが、まあ、手がかりはこれしかない、か」
さっきドラ子のところで踏み潰したから出てこないかと思ったが大丈夫らしい。遠山が立ち上がり、その矢印を追おうとして
「おっと」
「あ、ご、ごめんなさい……」
とすっ。
人にぶつかった。考え事をしていたせいか接近に気づかなかった。
よれたハンチング帽を被った少年だ。ぺこりと頭を下げて足早にその場を去ってゆく。
まあ、いちいち気にすることでもないか。奇しくも矢印の指し示す道と、その少年が去っていく方向が同じでーー
【サイドクエスト 更新」
【目標 スリを捕まえる】
「は? スリ?」
「っ!?」
遠山が突如流れたメッセージに間抜けな声をあげるのと、ぶつかったハンチング帽の少年がびくりとこちらを振り向くのは同時だった。
「……………」
遠山がふと、懐を確認する。あるはずのもの。即ち、ドラ子から貰ったおこづかいがなくなっていて
「……………っ!」
振り返った少年と目があい、少年が一気に駆け出した。
「あー、ほいほい、なるほどなるほど。海外旅行とか行ったら気をつけろって言うよなー……… ん待てィ!! クソガキ!!! 止まれコラ!!」
鬼の形相に切り替わる。チベットスナギツネのような凶相が、スリにあったパニックと怒りでそれはもう見るもおぞましい顔になる。
「くそ、気づかれた!」
駆ける。街並みの中、行き交う人々をすり抜けて。
「なああにが、気づかれただ、クソガキ!! 止まれ! ほら、今なら指の骨で許してやるから!」
距離は近い。
スピードは遠山の方が速いが、少年はすばしこい。
雑踏の中を泳ぐようにすいすいっと駆け抜けていく。
「チッ、冒険者、だったか。しくじったな」
まだだいぶ余裕がありそうなスリの少年が後ろを確認しながら吐き捨てる。
「てめえ!! さっきのオドオドしてたのは演技か?! 許さん!! 足の骨ペキペキにしてやる!」
遠山はもう頭が茹で上がっている。自分のモノを盗られるのはこの男にとって容易にキチガイスイッチが入るきっかけの1つだ。
少年が路地にすいっと、入り込む。
遠山も急停止、こけそうになりつつも石畳みを蹴り路地に入り込む。
「参ったな…… 思ったより、速いや、リダに怒られるけど、仕方ないな」
一直線。
置かれた荷車を少年がかろやかに、跳び箱でも飛ぶように飛び越える。
「おんどりゃあ!!」
遠山は勢いのままその荷車を蹴り飛ばし、少年を追う。
「うわ、捕まったらやばそうだ」
「ヒヒヒヒヒヒ、どしたあ!? クソガキ、ペースが落ちてんぞ!! 終盤の追い上げが課題であれば根性が足りないのかもしれませんねえ!!」
体力、速度。走ることが仕事なのは自衛軍だけではない。探索者も最後の最後にモノを言うのは基礎体力だ。
2流ではあるが、遠山も鍛えることには真摯に向き合ってきた自負がある。
路地。
さまざまな箱や、ゴミの山などの障害物を少年は軽業師のごとき身軽さて乗り越える、遠山はヤバい形相でそれを跳ね飛ばしたり、蹴り飛ばしたりして進んでいく。
「厄介だな…… まあいいや」
徐々に縮まるその距離。
驚異的な末脚で遠山が、ついに手が届く範囲まで距離を詰めた。
ギタギタにしてやるぞ、コソ泥が。
「おら、つかまえ、た!!」
少年の首ねっこに手をかけようとーー
「スキル・セット」
たしかに聞こえた。
アドレナリンと酔いが混じった高揚感の中、少年期特有の美しい、声変わりを迎える前の透き通った声だった。
「"アクロスピード"」
フッ、一瞬のことだった。
指先が少年のハンチング帽のとすりと触れたその瞬間。
「え、スキル? あり?」
少年が消えた。
遠山の手は空振る。
「悪いね、旅人さん、いや、冒険者さん。ちび達が腹すかしてんだ」
声がした方を見上げる、そう、上だ。上から声はふりおりてきた。
一瞬で、少年は路地の上、建物の屋根まで跳んだのだ。
8メートルはありそうな、屋根の上に。
そのまま少年は屋根の上を走り、跳び回り、あっという間に見えなくなってしまった。
「はあ?!! 屋根の上に?! クソ!! おまわりさん! ……はいねえんだった。あまり目立ちたくねえし、矢印!!」
ピコン。
予想通りだ。スリの姿は見えなくても矢印がきちんと屋根の向こう側に飛び跳ねている。
「ヒヒヒヒヒヒ、クソガキがあ。探索者のモンに手を出した生き物がどうなるか、思い知らせてやるぜえ」
遠山は気付かない。少年が逃げた先、そして当初向かおうとしていた場所、スラム街の方角が同じだったことに。
竜からもらったローブをはためかせ、探索ブーツに力を込めて遠山が異世界の街並みをゆく。
昼過ぎ、わずかに日が傾き始めるがまだ1日は始まったばかりだった。
…………
……
…
ふう、危なかった。
あの旅人、いや、冒険者かな。
かなり出来る奴だ。スキル抜きでも、スリをして追いつかれかけたのは久しぶりだ。
「結構、入ってるな…… クズ肉の串焼き、全員分買えそうだ」
俺は懐から仕事の成果を取り出して、その皮袋の重さを確かめる。
屋根を何個か駆け抜けて、たどり着いたそこは俺たちの場所だ。
スラム街。俺が生まれて、そして死んでいくだろう暗くて臭い場所。
まともな人間、少しでも常識ある帝国の人間ならば冒険都市のスラム街には近付かない。
まともに生きているやつが欲しがるモンなんか何もないくせに、まともに生きている奴から何かを奪おうとしてる連中しかいない場所だから。
親の顔は知らない。
多分、冒険者と、色街の女かなにかだと思う。リダやニコ、仲間たちや他のちびすけも同じだから俺もそうなのだろう。
「帽子、蒸れてやだな」
髪の毛の色がここでは珍しい色らしいから。
いつもスリをするときはこの格好だ。リダやニコとも違う。俺も茶葉や金色が良かったな……
スラムの広場の隅っこ、座り込んで帽子で顔を仰ぐ。
リダとの待ち合わせは夕方。それまでにもう一度くらい仕事してこようか。
「……いや、やめとくか。アイツ、スラムの外、まだ探し回ってるかも知れないし」
久しぶりに背筋に冷や汗をかいた。
捕まってたらどうなってんだろう。スリをするとき身体をぶつけてわかった。
まるで岩だ。まるで壁だ。
冒険者相手にもこれまで同じ手口で何度も仕事をしてきたけど、身体のツクリがまるで違う。
「いいモン、食べてるんだろうな……」
いいじゃないか。アイツは多分冒険者だ。戦える人間で自分で金を稼げる恵まれた奴だ。
なら、少しくらいそんな恵まれたやつから俺たちみたいなのがおこぼれをもらっても悪くない筈だ。
俺は誰に向けてか分からない言い訳を頭の中でぐるぐると。
「おお? なんだあ? リダのとこの黒髪ヤロウじゃねえか?」
「ほんとだ、リダはどーした? いっつもパクミーのフンみてえにくっついてるのによ、ついに見捨てられたか?」
「ぎゃはは、黒髪に茶色の瞳なんて気味わるいからなあ。リダの野郎も物好きだぜ、ほんと」
だから、そいつらが近づいたことに気づかなかった。想像以上にあの冒険者から逃げるのに神経使ってたみたいだ。
「別に、リダとは別行動なだけだ。あんた達に迷惑はかけないよ」
さりげなく、仕事の成果。たくさんの銅貨とピカピカした何かが入った革袋を懐にしまう。
たのむ、たのむ、いつもみたいに間抜けヅラの節穴のままいてくれ。
年上のグループだ。俺たちみたいなみなしごにはそれぞれグループがある。
奴らはその中でもタチの悪い奴ら。噂では"カラス"から仕事を貰ったりしてるって聞いたことも。
「んん? お前、今なんか隠したな? おい、見せて見ろよ」
くそ、最悪だ。コイツらは自分より弱いみなしごから平気で食べ物や、盗んだ金を奪うような奴らだ。
リダもいない、いつもみたいに誤魔化すことは出来ないだろう。
スキルもダメだ。アレを使えるのは俺には1日に1回が限界。広場を見回す、大人の浮浪者はニヤニヤしてるか、そっと目を逸らすかのどちらかしかいない。
「…….なんでもないって。オレ、忙しいから」
「まあまあまあま、待てよ、黒髪」
肩を掴まれる。あの冒険者から感じた力とは大違いだがそれでも俺より確実に強い。掴まれた肩がみしりと音を立てた。
「…….なんだよ」
「なあ、おい、お前ら、この場所ってよー、俺の場所だったよな?」
歯が抜けたマヌケヅラが、にいいと笑う。
「は?」
「おお、そうだな、ルー。ここはお前の貸し座り込み場所だな。昨日からだっけ?」
「そうそう、ここで座ったり、立ったり、誰かを待ったりとかよ、勝手にされちゃあ困るんだよ、商売だからさあ。なあ? 黒髪、お前も嫌だろ、仕事したのに金もなんも入ってこないってのはよ」
周りの同じろくでなし連中も同じように、ヘラヘラ笑い始める。アイツらは笑ってるだけなのに、俺は笑えない。
やばい。この感じ。
「なに、何が言いたいんだよ」
声は裏返ってなかっただろうか。
やばい、やばいやばい。コイツら、まさか
「あ? てめえ頭悪いなあ、オイ。リョーキンだよ、リョーキン、この場所でよ、てめえ座ってたよな? だからそのリョーキン払えよ」
周りの奴らが大笑いし始める。
クズが。冗談じゃない、コイツら見てやがった。おれが隠したのが金だって気付いたんだ。
「……金、持ってないんだ、知らなかったのは悪かった、謝っゔえ?!」
腹、殴られた。息が、出来ない。
「ブツブツうっせえんだよ、ガキ!! 胸元になんか隠してるんだろうが!? てめえが
思わずその場にうつ伏せに倒れる。腹を丸めてないと中身が全部出てしまいそうで。
「おー、ルーが切れた。黒髪、さっさっと出すモン出した方がいいと思うぞー」
「お、コイツ、なんだ? 女みてえな顔してやがるな。ひひひ、なあ、どうする?」
「やめとけ、お前の悪い趣味だ。俺は本物の女がいい」
「じゃあ、俺だけで楽しませてもらうかあ? おい、こっちこいよ、オラ!!」
「ひ、ヤダ! この、さわんな!」
俺があばれることに腹を立てたのだろう。
男の顔が一気に険しくなり
「こ、の、あばれんな!! オラ! 金と、てめえで楽しませてもらうぜ!」
「ぶえっ?! い、やだ。これは俺の稼ぎだ…… 仲間にメシを…… ぶげ」
蹴られた。顔、歯、痛い。
口の中が、じゃりじゃりする。
「けけけけ、なーにが稼ぎだ! 偉そうなこと言ってんじゃねー。おら、さっさと!、よ、こせ!!」
「ゲボッ!! ぐえ!?」
また腹。蹴られた。
何も食べてないから、胃液しか出ない。
痛みと怖いので頭がいっぱいになる、その場から這って離れようとしたけど、背中を踏みつけられて動けない。
「おっ、あった、あった。ずっしりしてんじゃねーか!! ヒュウ!! こりゃ今日はお楽しみだな!」
服を弄られる。盗られた。
俺の、金。
「臨時収入ゲーッツ、酒場で女も引っかけれるかもなあ」
「バーカ、スラムの女なんか怖くて手出せるかよ! 色街には少し足りねえが、酒なら充分飲めるなあ、おい! ……ん、こりゃ、なんだ? 銅貨以外のモンも入ってるな」
「お? なんだ、これ、ピカピカして…… 金色……? お、おい、ルー、これ、冒険者章じゃね?」
そいつらの1人が皮袋の中身を数えていた時、なにか、銅貨以外のものを取り出していた。
首、かざり?
「バーカ、お前なわけねえだろが。金色の冒険者章って言えば塔級冒険者の色だぜ? こんなチンケナ黒髪ヤローが塔級冒険者からスれるわけねーよ、大方偽物だろ、質屋にでも入れて酒の足しにしよーぜ」
「ま、て…… それは、ちび、たちの……」
笑いながら去っていことするそいつら、まて、ふざけるな。
その金がないと、メシが買えない。
ちびすけ達はそろそろ何も食べてなくて3日になる、それだけはダメだ。
「あ? まーだ意識あったのか? ……どーする、殺しとくか?」
「いや殺したらリダがめんどいぞ。もう何発か蹴って骨でも折っとこうぜ」
「あー、そうすっか、でも、その前に、やっぱコイツちょっと遊んできていいか?」
「手短にな。まあ、その心配はいらねーか」
「うるせーよ」
背筋が、ぞわり。
やばい、まじでやばい。
「ぐ、くそ、ちく、しょう」
「ったく、手間かけやがって。ま、これに懲りたら素直に金出せよな。頑張ってまたスリに精を出してくれ! またもらいにきてやっからな! な?」
「終わったあと折るのはどこがいい? 足にするか?」
「いや、足だと死ぬかもしれねーから腕でいいだろ、腕で」
「うーし、やっか」
「やめ、ろ、やめろ、やめ、くそ、返せ、返せよ! それは俺の、俺の金なのに!! やめろ、触んな! 触んなよ!」
叫ぶ。もう俺の頭からそれがスッた金であることなんて消えていて
「ぎゃはははは、バーカ、てめえがスッた金だろうが! まあ、今はもう俺のモンだ。よえーやつは強い奴に全てを奪われる、それがここのルールだ。授業料としてもらってくぜ」
「くそ、クソクソ! 俺の、俺の金!! ちびすけ達が、待ってんのに、俺の、金!!」
返せ、返せ、返してくれ。
なんで、俺たちばっかり、なんで。
「かねかねかね、うっせえなあ!! だ、か、ら! これはもう俺の金なんだよ!! おら、こっちこい! なあに、てめえもすぐたのしくなるからよ、もしよかったら、ひひひ、俺のペットにしてやってもいいぜえ?」
そいつらがまた、俺を蹴ろうと足を振り上げる。
1人は汚い唇をべろりと舌で舐め回していて。
痛みとそれ以外の恐怖に身体を反射的に丸めて
「ひっ?!」
不思議なことに、予想していた衝撃は来なかった。
恐る恐る、目を開ける。
3人の年上のみなしごども。
そいつらの後ろに、人が立っていた。
上等なローブを着込んだ、男。
にっこり。笑ってるのに、その顔が俺は怖くてたまらなかった。
「あ? なんだ、おまーー」
「いや、それ俺のお金」
「は? へぶら?!!」
人が吹っ飛んだ。
みなしごの1人、俺をめちゃくちゃ蹴っていた奴が顔面を凹ませて壁に激突する。
ずるり、そいつは壁からずり落ちて動かない。
「あ、え?」
「それ、俺のお金なんですがああああああ!!」
「げばら?!!」
いきなり気でも違ったかのようにローブの男が叫びながら、もう1人の奴の足下に潜り込み、ひょいっと麦袋でも抱えるように持ち上げて、そのままぶん投げた。
また壁に叩きつけられ、そいつも動かない。
人って、そんな簡単に、ぶっ飛ぶんだ。
蹴りまくられた身体の痛みをよそに、俺はそんなことをぼんやり思った。
ああ、これは、死んだな。ごめん、リダ、ニコ。
俺はそのまま、全てを諦めて目を瞑った。せめてあの男の怒りが俺の仲間達に向かわないようにと祈りながら。
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