138話 同類のよしみ
その生き物はあまりにも弱く。
その生き物はあまりにも儚く。
だがその生き物が住む世界はあまりにも過酷だった。
本来ならば滅びるはずだった。
もしも、惑星に設計者がいたとしても。
きっとその生き物は惑星の支配者になれると想像もしなかっただろう。
しかしその生き物はその星のどんな生き物よりもーー。
「ーーおいおいおいおい、嘘だろ! この世界の連中、チョコ食えねえのかよ! ラザールに次のパンはチョコチップスティックパン作ってもらおうかと思ってたのにさあ!」
遠山鳴人の声だけが、その空間には響く。
ヒュームの覇王の残した秘蹟、それによる停止の命令ーー
遠山鳴人には関係ない。
この生き物に、そんなオカルトは通用しない。
「ナルヒト……なん、で? カークオを、猛毒の実を……」
ドラ子。竜が目を丸くし固まる。彼女ですら知っている事実。
大量に食せば竜ですら死に至らしめる最悪の食物だ。
なのに、自分からそれを食べ始めている訳の分からない生き物を見て。
「カークオ……? ……カカオ!? ドラ子ちゃん! その木の実ってどんなの?」
「え、いや、粉になってるから、わからなくて……
「お嬢様が!! 魚の切り身を魚だと思ってしまうパターンの奴! ああ、違う違う、その前に、だ」
「これ、めちゃうめーな。ドラ子、すげーよ、お前」
「あ! よ、よせ!! ナルヒト! え、え?」
ばりばりばり。その世界の生き物からすれば猛毒のそれを文字通りスナック感覚で貪るチベスナにドラゴンが本気で慄く。
「ほろ苦い中にもきちんと甘さがあり、外の生地はさくさく、中はしっとり。ガトーショコラのようでもあり、チョコクッキーのようでもある……ニホンじゃ食べたことねえ食感だな」
「あ、……あああああ……!! ナルヒト、ナルヒト! 貴様! 大丈夫か!? 大丈夫なのか!? い、生きて。な、なんで……」
「食性が違うんだろ。そりゃそうだ、思い込んでたよ、異世界ファンタジーなんだ。見た目が似ててもコイツらはヒューム、で、俺は人間だもんなあ……」
遠山が、そして今自分が殴り飛ばしたヒュームの方へ視線を向けて。
「お、おい! おい、フォルトナ!! 大丈夫かァ!? お、お前が殴られるって、"幸運"はどうしたァ!? なんで発動してねェんだァ!?」
「…………わたくし、夢を、みてましたの、ウィス」
「あ……?」
「カークオが、お兄様を殺した時と同じように、アリスお姉様のお菓子の材料にカークオが混じるようにしたんです。全部上手くいったんです。帝国に入る商船団を幸運にも海賊が襲いました。幸運にも襲撃後、積荷が海に流れ、それを別の商船が回収、コーアの実として帝国に入り、幸運にも、幸運にも、ええ、王国産最高級嗜好品として、大使館へ届き、幸運にも、目利きのできるメイド長は倒れ、幸運にも、アリスお姉様の厨房に届き、そして、幸運にも、それはアリスお姉様の手で、竜殺しの元へと! 幸運にも! 竜は己が手で、竜を人へと堕とした大罪人を殺した!! その筈でした!!」
「「うお」」
遠山とウィスが同時に似たような反応をする。
地面に仰向けに倒れたまま、目を見開き、フォルトナの演説は続く。
「なのに!! あはは、ふふふ! 不フフフフフフフフフ!! 夢、夢を見ましたァ、死んでない! 死んでないんです!! カークオの、猛毒の生地で焼いたお菓子を! 上兄様があんなにももがき苦しんで死んだお菓子をを! 食べてえ、竜殺しが死んでない!!」
響く。
地下闘技場にフォルトナの声が響き渡る。
「そんな夢を見ましたァ!! そんなわけない、そんな訳ないのにねえ!! ヒュームなのに! カークオを食べても死んでないんです! ヒュームなのに上姉様の秘蹟が効かないんです!! ーー私と同じ下らないじょうみょうの存在なのに、竜を殺し! 竜と言葉を交わし、竜と並び!! あはははは!! 幸運すら、運命すら放り投げてた!」
「私が出来ないこと、出来なかったこと全部してたんですう!! そんな夢を見ましたァ!!」
ばっと、立ち上がり、フォルトナが天を仰ぐ。
生まれて初めて顔面をグーで殴られた衝撃は彼女に酩酊にもにた感覚を与える。
緑の髪を振り回して、星型の虹彩を歪め、喉を涸らし叫んだ声は、彼女自身も自覚していなかった自分を強く写していて。
「よお、幸運女。ドラ子に美味しいレシピ教えてくれてサンキューな」
「ウワアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!!」
チベスナが、最後のお菓子を目の前でゴクリ。
フォルトナが尻餅ついて後ずさる。
「ゆめ、ゆめ、ゆめ、な、なんで、なんでえええええ!?」
「人間の胃袋はどうやらアンタ達よりも頑丈らしい。この分だとお前らアボガドとか玉ねぎも怪しいなぁ」
「あ、あああ……ああああ、幸運、幸運、幸運!! 死ね! 幸運にも、幸運にも、幸運にも、なんでエエエエエエエ!? あの鬼人ですら、あの全知竜ですら、私の幸運は作用した、なのに! なんで!?」
「お、オイ! フォルトナ、落ち着けェ!! なんか、アイツ、ヤベェ!!」
フォルトナが立ち上がる、ウィスの制止を無視し、その権能とまで化した己の業を振るう。
ぴこん、ピコン、ピコンぴこぴひこぴひぴぴひひひひぴぴひこんぴひこびひこぴひこぴひこぴこここぴぴぴぴぴひぴぴぴ
ぴ「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
ピコン。
「あ……」
フォルトナと遠山にだけ見える運命の知らせ。
権能と化した幸運が、遠山鳴人に死の運命を指し示す。だが。
「邪魔」
じゅわ。
遠山から噴き出した白いキリ、もはや欠けたヤイバを介する事なく漏れ出すキリが、矢印を全て切り刻む。
「なんで、なんで、貴方、貴方ばっかり、そんな……」
フォルトナがへたり込む。ウィスが側に、だが力の英雄をもってして下手に手出しが出来ない。
今の遠山鳴人にはそんな言語化出来ない恐ろしさがある。
遠山が、一歩進む。
フォルトナがへたり込む。
「なんで、貴方ばかりが、私の欲しいものを!!」
ぴくり。
遠山の歩みが止まる。
無色透明で静かにフォルトナとウィスを一撃で殺す為に伸ばしていたキリも主人の歩みと同様に止まる。
「ずっと、お前に違和感を覚えてた」
この空間で唯一平静な男がぽつりと呟いた。
「お前の行動や言動、一貫性があるんだかないんだか分かんねえ。ただのカスかと思いきや、それにしてはあまりにも……らしくない」
「なにを……」
「お前、ドラ子の事は本気で好きなんだ」
「……貴方に、関係ない……私とアリスお姉様の事は貴女には」
「いや、あるね。なぜならこれから俺はお前達を殺すからだ。だが、人間を殺すってのは俺のような人権派からするとな、しんどいんだよ」
「何をいって」
「理由がずっと欲しかったんだ。いや、らしくねえことをしてたと思う。言い訳してたよ、ドラ子の懐に入られたからとか、王女様だからだ、とか。お前らの事は怪しんでたのに、理由をつけて速殺が出来なかった」
「……貴方」
「安心したんだ。お前が想像以上に胸糞悪い方法で俺を殺そうとしたことに。ああ、これで心置きなくぶっ殺せるって」
「……イカれてんなァ、コイツ」
「だが、あと一つだ。あと一つ、理由が欲しい。格だ、今のお前と俺じゃあ人殺しとしての格が違う。格下を殺すのは、目覚めが悪い」
呪われた魂。
もはや遠山鳴人は殺しすぎた。
慣れすぎた。現代からこの世界へやってきた瞬間から、たどり着く為に、叶える為に。
欲望のままに、殺しすぎた。
「貴方が、貴方が何を言ってるのか、意味がわからない!! わたくしは、私は、ただ!!」
「お前の理由はなんだ?」
「え」
「これから始まるのは人殺し同士のどうしようもない殺し合い。お前はこのままじゃあ、竜に狂わされたしょうもないガキのままだ。勿体ねえよ、こっちはお前らを殺す為に色んなものを用意してるんだ。だから、格、だよ」
遠山が、わずかに声を震わせて。
「冒険者の格付けをしよう」
「あ……」
「俺は必ずたどり着く。俺には辿り着きたい光景がある。だから、殺す。それを邪魔する奴はなんであろうとぶち殺す」
遠山が進む。
「冒険だ。これは俺の冒険なんだ。誰にも邪魔させない」
「そして最近知ったんだが、冒険は1人もいいが、大勢も悪くない。ドラ子は俺の友達で、俺の冒険の仲間なんだ。コイツを殺そうとするんなら、お前は俺の敵だ」
キリを、纏う。
すでに変質し、どうしようもなくたどり着いてしまった男の身体からキリが噴き出す。
人間にはない機能、しかし、それは遠山鳴人がある意味人間であることの何よりの証左。
その生き物は弱い。
故に手を変え、品を変え、試行錯誤してきた。あらゆる生き物から奪い、喰らい、殺し、ここまで進んできた。
道具だ。己以外の全てを道具として扱い、その最弱の生き物は、人間となった。
「だから、お前を殺す」
白き霧。神域に揺蕩うそれが、遠山の体にまとわりつき、その令を待っている。
ついにその業は神と呼ばれた超常の存在すらも、己が殺しの道具として。
「なに。それ……竜殺し、あなたは、あなたはいったい、なんなのですか」
「俺は遠山鳴人。お前達を殺す冒険者だ」
まっすぐ、細い目が獲物を見定める。
「んで。お前は? お前は、誰だ? なんのために、どんな理由で、どんなもののためにお前は俺の前に立つんだ」
遠山の問いに王女はこたえない、答えられない。
「それが言えないんなら、フォルトナ・ロイド・アームストロング。格付けはもう終わりだ」
「あ、あ……あ……」
「死ぬしかないな。フォルトナ・ロイド。アームストロング」
キリが、ぞわり。
怯える少女に向けて放たれる。
ぞーー。
その男にもちろん、ためらいはなく。
「ふ、んぬぐああああああああああああああああ!!」
「おっと」
赤い影が、少女の前へ。
力の英雄がその鉄腕を振るい、キリを振り払う。
「マジかよ、だいぶ重い霧のはずだが」
遠山の歩みがようやく止まった。遠山にとっては眷属へ足を踏み入れた異能より、むしろこっちのほうが厄介だ。
「我が王よ、前へ」
片腕になった英雄が、背中に王女をかばい、声を。
「ウィス……?」
「御身に降りかかるいかなる災厄も、御身を襲ういかなる苦難も我が力で振り払う、だから、前へ」
眼前、毒を貪り、舌を携え、霧を従わせ近づく化け物をまっすぐと見つめ。
「あ、腕……なんで、わたくしの幸運が、どうして」
遠山の攻撃に幸運の判定が作動しない。
フォルトナを支えてきた幸運の否定は彼女に大きなダメージを。
「前向け! バカ姫! 気合入れろやァ! そんな情けねえ姿見せてんじゃねェ!! 敵はお前と同じだ! すべてを踏みにじり、進んできた同格、いや、これまでで最強の敵だァ!」
英雄の怒号が地下闘技場にこだまする。
遠山のキリを片腕で振り払う膂力は見事、だが、代償に最後に残った腕もキリに刻まれて。
「こっからだろうがァ! 先に行くんだろうが! 俺様に下らねえもん全部壊させるんだろうがァ! 今更格上が現れた所でビビッてンじゃねえ! ぶっ殺すぞ!」
「わたくしは……」
同格の敵同士の優勢を決めるのは精神力だ。そして人の精神の源泉とは多くがその”信念”や夢といったものが大きく作用する。
遠山鳴人にあって、フォルトナにないものがまさにそれだ。
「わたくし、は、あれ……」
空っぽだ。この女には理由がない。
ただ見てみたい、ただむかついた、ただ、この世界の先に、自分が進めた運命の先にどのような光景があるのか。
それを見てみたい、それだけの理由。
その薄っぺらさがここにきて、遠山との格の違いにつながって。
「ちっ」
ウィスがその場を動けない。彼には確信がある、おそらく自分が本気を出せば目の前の男を殺すのは容易い。それほどまでに実力差はある、はずだ。
なのに。
「そこの赤髪男、王女様には勿体ねえな。フォルトナに過ぎたものなり、ってか」
動けない、頭のどこかでずっと何かが囁く、気を抜くな、隙を見せるな、殺されるぞ、と。
そのわずかなほころびで己が守るべき王の命はこの男に容易く刈り取られてしまうのではないか、と。
「っとに気味が悪イ……切り札、使っちまうかァ?」
かたかたかた、ウィスの腰に巻かれたバケツヘルムはその男を前にした時からずっと鳴動していた。
「ウィ、ス、わたくしは……」
「お前、冒険がしたいんだ」
「……は?」
フォルトナが自分を振り返ろうとした瞬間、無遠慮に残酷に無礼に遠山の舌が言葉をもてあそぶ。
遠山にヒントを聞く力はない。人の秘密や、攻略のヒントを聞く無法の力はない。
代わりに己の運命を見る力とそれをたぐる舌と頭がある。
本来なら、フォルトナが時間をかけて気づくべき自分自身を冒険者が容赦なく、なんの感慨もなく暴いて。
「お前は冒険がしたいだけだ。わくわくしてたんだろ? 竜とか俺とかどうやってぶっ殺そうとか考えるの楽しかったんだろ? なら、笑えよ」
「あ……」
キリが再び広がる。
「中途半端に人間、いや、ヒュームの振りしてんじゃねえ。お前は選んだんだ。竜と共にあるよりも、竜を相手にするスリルを。お前は最初から俺と同じだったんだよ」
「――あ」
フォルトナの顔から表情が抜け落ちた。星型の虹彩から光が消える、夜が終わり、朝になり星の輝きがふさぎ込むときと同じように。
その顔を見て、遠山が嗤った。
「だからさあ! もうやめようぜえ! フォルトナ・ロイド・アームストロング! お互いによお! 真人間、まともな奴、悲しい過去があってどうのこうのとか、そういうの全部もうやめよう!」
頭が茹る、いや、その男のそれはすでに最初からハッピーだ。
そうだ、最初からその男はこの状況を楽しんでいた。
死の予言、それすら最初から。
「銭ゲバとさあ! 予言の討論とかすんのも楽しかったよ! 敵はどんな奴でどんな手で来るのかとか考えんのも面白かった! パン屋の屋台してる時にお前が来たときは焦ったよ! でもドキドキした! この闘技場に呼ばれた時なんか最高だった! いつ殺しに来るのかとかわくわくしてたんだよ! 俺さあ!」
ラザール達、仲間が出来ていくのはうれしかった。
ドラ子や人知竜みたいなすごい奴らと話すのも楽しい。
ファンタジー世界の事を知っていったり、見聞きしたりするのもたのしい。
だが、遠山鳴人の本質は、こうだ。
「そうだ、冒険だ。俺もそうなんだよ、敵をどうやってぶっ殺そうかとか考えるの楽しいんだ! フォルトナ・ロイド・アームストロング! お前は悪くねえ! 悪くねえ敵だ! ゲームの対戦相手として理想的だ! そんなお前がこんな格下みたいな反応はやめてくれ!!」
「物足りなかったんだァ!! アガトラに来てから色んな奴がいた! 良い奴も、面白い奴も、変わった奴も、バカな奴も、んで! ぶっ殺すしかない奴も! でもよお! ぶっ殺すしかない奴がどうもチンピラやら格下ばっかりでよお!! 物足りなかったんだァ! 雑魚ばっかりだった! 弱いものいじめしてたみたいなもんだったんだよ! ……あ〜まあ、でも例外はいたか……うん」
ーー鳴人くん鳴人くん鳴人くん鳴人くん。
何かの幻聴を思い出し、一瞬チベスナが真顔に戻る。
「ようやく見つけた同類なんだ! お前は! 家族をぶっ殺したんだろ!? 恩義があり、そして自分自身も大好きな竜を貶めたんだろ! すげえよ! お前はァ! なんの理由もなく! なんの信念もなく、なんの未来もなく、そういうのができるのはさあ! お前には才能がある!! だから、笑ってくれ! 不敵に! 怪しく、むかつく奴のままでいてくれ! ごまかすなよ!」
「ふ、ふふ」
フォルトナの目には、もうその男しか映っていない。
これは、出会いだ。
もしも、この2人が別の時、別の場所、別の立場で出会っていたら。
例えばそれは、遠山がもし、ヘレルの塔から王国へ向かっていたら。
例えばそれは、遠山がもし、白蛇女と別の結末を迎えていたら。
例えばそれは、遠山とフォルトナがもし、現代で出会っていたら。
この2人は、友達になれたかも知れない。
「俺とお前は同じだ! 同類よ! こんにちは! はじめましてえ!! もう一度聞く! お前は誰だ!?」
でも、もう、そうはならない。
「フォルトナ・ロイド・アームストロング」
緑の髪が纏められる、幸運にも吹いた風が幸運にも彼女の髪をまとめ上げる。
星型の虹彩が輝く、その星のある夜空ではきっと月の光すら陰るだろう。
王国第3王女、フォルトナ・ロイド・アームストロングはこの日、自分が生まれた理由を見つけた。
運命の先にはこいつがいた。
王を貶め、老兵を死なせ、覇王を超え、月光を遮り、竜に挑んだ。
その冒険の果てに奴がいたのだ。
「はじめまして、竜殺……いいえ、冒険者。あなたのお名前は?」
そう、その惑星の生き物はどんなほかのどんな生き物よりも、貪欲で強欲だった。
己の殺す敵に時に、格すら求めるほどに。
あまりにも殺すという事に親しみ、向きすぎていた。
その生き物の名前は。
「遠山鳴人」
――人間。
「では遠山鳴人、殺し合いましょう、あなた、好き勝手言いすぎてむかつきますから。幸運にも、死んでくださらないかなあ」
「おー、ぎゃっはっはっは。礼だけ言うぜ、イカレ野郎。うちのバカ姫、ようやく目が覚めたようだァ」
王国をたった2人で落とした王女と英雄が、どう猛な笑みを浮かべて。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ!! いい! すごくいい! 冒険だ! 冒険者ども! 殺し合おっぶ――」
ぽかっ。
金色に髪の美女がノリノリのチベスナの頭をぽんっと。
「「え……」」
「ナルヒト、少し落ち着け、今のそなたは冷静ではない」
「お、ドラ子、精神ショックから回復したか」
「頭が痛いし、まだ理解もしていない。だが、ひとつ、そなたの言葉から聞かせよ。フォルは、そなたの敵か?」
「ああ、敵だあ。ぶっ殺し甲斐のある最高の敵だぜ」
「ふむ、ふむふむ、むむむむむむむ。――仕方ない、では殺そう」
竜が、すうっとその縦に裂いた瞳孔を細める。
この生き物は元からこうだ。爬虫類ってこういう所がある。
金色の太陽と鬱屈とした白い霧がともに並ぶ。
相対するは、冒険者、英雄と王女。
「……これも全部、いつもの幸運にも、かあ? バカ姫様よ」
「なわけないでしょう、ウィス。今、わたくしたちは、この世界で一番――」
「さあ! 冒険だ! ドラゴンと竜殺し対英雄と王女! 対戦カード的には退屈しねえよなああああああああ!!?」
頂点捕食者が竜と轡を並べて叫ぶ。
王女が、恐れと、興奮の交じった笑顔、生まれて初めて浮かべるタフな笑みを浮かべて。
「わたくしたちはこの世界で一番、不幸ですよ」
冒険が、始まる。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
今週25日に書籍版2巻が発売します。ストルが最高の表紙で登場してます。
本屋さんなど寄る機会あればぜひお迎えください。日々の気休めに異世界でスカッとしたい時におすすめです。あと犬派の人を刺す内容となります。




